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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<19>旅サイクリストが選ぶ「もう一度走りたい国」アメリカ 自転車で地球を感じる旅

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 出発前、僕は北米大陸にあまり興味を惹かれなかった。ただスタート地点としては良さそうだし、とりあえずの足慣らしとして先進国であるアメリカをサクッと走り、エキゾチックな旅の香りがするメキシコに入った時から本当の旅が始まる、程度に思っていた。しかし世界一周を走り終えた今、もう一度走るならどこの国を走ると聞かれたら、「アメリカ」と答える。

ホワイトサンズ国定公園。雪ではなく全て砂。非常に締まっているので、自転車でも走行できる。こんな世界があるなんて考えもしなかった Photo: Gaku HIRUMA

「地球」という星を感じる国立公園

 アメリカをしっかりと回っているバックパッカーは意外なほど少なく、サイクリストでさえ敬遠する人がいるくらいだった。これは国土があまりにも広大で、公共交通機関で移動して宿に泊まると出費がかなりかさむという理由と、見所が主に行きづらい国立公園だったりするからだった。それと、「旅は先進国よりも途上国の方が魅力がある」といった先入観があると思う。かくいう僕も走る前はアメリカで行ってみたい観光地はグランドキャニオンくらいしか知らず、あまり興味が無いというのが正直な所だった。

真っ直ぐ広い高速道路とは違う地形に沿ったワインディングロードは、往年の「ルート66」の古き良き時代を彷彿とさせる Photo: Gaku HIRUMA

 しかし、実際に訪れてみるとアメリカは実に魅力的だった。先進国ならではの便利さや、路肩の広い道路、早くて安いファストフードも自転車旅の行動食としてはピッタリだった。さらにヨーロッパのように一日に何度も大都市を抜けなければならないこともないし、自転車旅などのチャレンジ精神を高く評価してくれる国民性は、旅のスタート地点として最適だった。

 そして何よりも国立公園が本当に素晴らしく、スタートしたての僕をすっかり自転車旅の世界の虜にさせてしまった。ひとつひとつの国立公園が距離的にそれほど離れていないにもかかわらず、どの国立公園も「地球」という星の個性の塊のような場所で、それぞれが全く違い、これだけ変化に富んだ国立公園がひとつの国に集中していることは驚くべきことだった。

国立公園が集中している西部がおすすめ

 アメリカを観光で滞在できる期間は一般に90日。広大なアメリカをくまなく回ろうと思ったら、とてもじゃないけど時間が足りない。だが、アラスカからスタートして南下すると、位置的に大体アメリカの西部を走ることになる。この西部に国立公園が集中しているので、南下しながら90日でも充分楽しめる。

 僕はイエローストーン、アーチーズ、モニュメントバレー、グランドキャニオン、ホワイトサンズという国立公園を繋いで走った。自転車でこれだけの国立公園を一気に楽しめる国はアメリカ以外にないと思う。アートのような景観の中を自転車で走っていると、まるで違う惑星にでも迷い込んだかのようだった。

イエローストーン国立公園では火山やマグマの力を思い知る Photo: Gaku HIRUMA

 さらに素晴らしいのは、大体の国立公園にはキャンプサイトがあり、公園内に泊まれること。ダイナミックな風景に浸りながら陽が沈むのを眺めるのは至福の時間だ。そしてルート上にはペトリファイド・フォレスト化石の森国立公園。国立公園ではないが、「バリンジャー・クレーター」と呼ばれる「アリゾナ隕石孔」などなど、自転車で巡れる見所が本当に多い。

圧倒的に“こわい”野生動物

アラスカのキャンプ場にあったクマよけのフードロッカー。クマ対策は非常に気を使った Photo: Gaku HIRUMA

 自然もダイナミックなら人間も大柄だが、野生動物も例にもれず大きく、路上で遭遇するとその迫力にたじろぐ。北米でもっとも気を付けるべきは、いわずと知れた灰色熊グリズリーだ。アフリカで人がライオンに襲われたという話はあまり聞かないが、グリズリーに襲われたという話はよく聞く。

 キャンプサイトには厳重な「フードロッカー」(クマ対策食料保管庫)があり、食べ物はもちろん、匂いの出る歯磨き粉や石鹸さえもテントの中には絶対入れずにフードロッカーに入れていた。野宿の際、匂いの出る物はテントから数十m以上離して置いていた。クマにかじられることはなかったが、よくリスなどの小動物に食い荒らされていたので、それにも注意が必要だ。

 グリズリーを路肩で見た時は本当に恐ろしかった。幸いグリズリーを観るために数台の車が止まっていたので、しばらく並走してもらい難を逃れたが、今でも動物園でグリズリーを観るとトラウマのような恐怖が込み上げてくる。

トラックのようなアメリカンバイソンの視線を横切るのは毎回緊張する Photo: Gaku HIRUMA

 グリズリーのほかには、巨大な角を携えたムースや、アメリカンバイソンが群れでじっとこちらの様子をうかがっていると、写真を撮るどころではなく、襲われないように願いながらスムーズに通り過ぎるしかなかった。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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