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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<279>サガンはクラシックフル参戦へ ボーラ・ハンスグローエ 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 名実ともに、今日のプロトンの中心に存在するペテル・サガン(スロバキア)。2017年まで3年連続で世界王者に君臨し、今年こそその座を明け渡したとはいえ、ツール・ド・フランスのマイヨヴェール(ポイント賞)を奪還、春には念願のパリ~ルーベを制覇。より戦略的で、選手たちのフィジカルが向上していくなかで、群雄割拠のサイクルロードレース界を牽引し続ける。押しも押されもせぬスーパースターの彼は、2019年へ向けて新たな挑戦に意欲を示している。それに続くように、チームメートも若手から中堅クラスまで順調な成長を見せる。陣容が固まり、見通しが明るくなったボーラ・ハンスグローエの来シーズンを展望していこう。

12月10日に行われたプレスカンファレンスに出席したペテル・サガン。2019年シーズンの春のクラシックフル参戦を表明した © BORA - hansgrohe / VeloImages

クラシックシーズンフル参戦の意向を示すサガン

 このチームを語るうえで、サガン抜きに話を進めることはできないだろう。

 今シーズンは、2年連続となるサントス・ツアー・ダウンアンダーでのシーズンイン。オープニングクリテリウムの「ピープルズ・チョイス・クラシック」(UCI非公認)で優勝し幸先のよいスタートを切ると、第4ステージでも勝利。リーダージャージを1日着用し、最終的にポイント賞を獲得。

悲願のパリ〜ルーベ優勝。2019年シーズンもタイトル獲得に意欲を燃やす =2018年4月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 優勝候補筆頭といわれたミラノ~サンレモは苦杯となったが、北のクラシックシーズンに入って、ヘント~ウェヴェルヘムでスプリンター同士の争いを制覇。ツール・デ・フランドルこそ不発に終わったが、圧巻だったのはパリ~ルーベ。フィニッシュまで50km以上残したタイミングでメイン集団から飛び出すと、逃げていた選手たちを次々とパス。最後はシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)の粘りにあうも、しっかりと勝ちきって念願のタイトル獲得となった。

 彼にとって、クラシックとならぶテーマだったのが、“ツールでの復権”。昨年はスプリントでの妨害行為により失格の裁定が下ったが、それをバネに今年はステージ3勝。1日だけながら、マイヨジョーヌにも袖を通した。最終的にポイント賞のマイヨヴェールを獲得。この大会終盤での落車負傷が尾を引き、その後の勝利はなかったものの、ブエルタ・ア・エスパーニャでもポイント賞ランク2位とまとめてみせた。

マヨルカ島でトレーニングキャンプに臨んでいるペテル・サガン © BORA - hansgrohe / VeloImages

 ピュアスプリンターにも対抗できるフィニッシュ前でのスピードはもとより、タフなレースになればなるほど光る勝負強さ。クラシックレースでは、展開次第で独走に持ち込むこともでき、レース運びの巧みさにも磨きがかかっている。そんな走りを支える圧倒的なパワーと、レース中でも回復を図ることができるといわれるフィジカル的特徴も大きな武器。オフロードで鍛えたバイクコントロールは、石畳での走りや混戦のスプリントで効力となる。

 このほど、来シーズンのレースプログラムを明らかにし、クラシックシーズンのフル参戦を表明。マストである北のクラシックのみならず、その後のアルデンヌクラシックへも臨む意向を示している。

 具体的には、1月のサントス・ツアー・ダウンアンダーでシーズンイン後、アルゼンチンでのブエルタ・ア・サンフアンへ。2月は高地トレーニングを行い、3月のティレーノ~アドリアティコ(イタリア)に参戦。以降は、ミラノ~サンレモを経て北のクラシック、アルデンヌへ、という流れとなる。

アムステル・ゴールド・レースでは4位。2019年も参戦の可能性が高い =2018年4月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2016年のフランドル、今年のルーベに続くビッグタイトル獲得が主たる目的となるクラシックフル参戦。過去2回2位を経験しているミラノ~サンレモは、厳しいマークが敷かれる中でいかにして勝負どころを見定めるか。スプリント、アタックどちらも勝機は十分だが、選手層の厚いライバルチームを崩すことができるかがポイント。

 がぜん注目度が増すアルデンヌは、短い距離の上りへの高い適性を生かして戦いたい。3レースのうち、出場の意思を明確にしているのはリエージュ~バストーニュ~リエージュ。「将来的な優勝争いを見据えた参戦」と位置づけ、経験することに念頭を置く。アムステル・ゴールド・レースとラ・フレーシュ・ワロンヌについては流動的になりそうだが、今年のアムステルでは4位に入るなど、2017年に変更されたコースを経験済み。小集団スプリントで勝負が決まる可能性も高く、出場するとなれば上位戦線に身を置くことは必至。ラ・フレーシュ・ワロンヌについても、12位で終えた2013年以来の出場に期待が膨らむ。

 世界王者の証であるマイヨアルカンシエルを手放し、2019年はスロバキアチャンピオンジャージに身を包んでシーズンを送る。9月には2021年までの契約延長に合意し、走りに集中できる環境も整った。まずは1月、オーストラリアでお手並み拝見といきたい。

スピードマンの充実でクラシック、スプリント路線が“王国化”

 ビッグレースで魅せるサガンの勝ちっぷりに目と心が奪われがちだが、それを陰で支える選手たちの存在も忘れてはならない。

アシストとしてチームを盛り立てるマークス・ブルグハート © BORA - hansgrohe / VeloImages

 今シーズンの北のクラシックでは、サガンの兄であるユライに加え、ベテランのマークス・ブルグハート(ドイツ)、さらにはサガンのプロデビュー時代からの盟友であるダニエル・オス(イタリア)らが機能。ヘント~ウェヴェルヘム、ルーベでの優勝に大きく貢献した。彼らはステージレースなどでは、そのままスプリントのリードアウト役を担う。スピード、テクニックを兼ね備えた走りは集団前方での位置取りを強固なものにする。

 さらに盤石の態勢にしようと、BMCレーシングチームからジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク)と、アスタナ プロチームからオスカル・ガット(イタリア)が加入する。ドリュケールは今年までグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)などのアシストを務めてきたほか、スプリンターとしても実績が豊富。プロ生活13年目を迎えるガットは、ドワーズ・ドアー・フラーンデレンがUCIワールドツアーに昇格する前の2013年に優勝経験を持つ。順当にいけば、北のクラシックのメンバー入りはもちろん、シーズンを通してスプリントトレインの一角を担うことになるはず。それぞれ来年は33歳と34歳を迎えるベテランは、豊富な経験をチームに落とし込む。

 そんな彼らが脇を固めることになるスプリント路線も、いまや“王国化”。絶対的リーダーのサガンに加え、サム・ベネット(アイルランド)とパスカル・アッカーマン(ドイツ)にチームの勝利量産を託すことになる。

ボーラ・ハンスグローエが誇るエーススプリンターの1人、サム・ベネット =ジロ・デ・イタリア2018第12ステージ、2018年5月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ベネットは今年、ジロでグランツール初勝利を含むステージ3勝。ローマでの最終ステージも制して、エーススプリンターの役割をまっとうした。シーズン終盤にはツアー・オブ・ターキーで大爆発。ポイント賞を獲得して2018年の走りを締めた。加速時にトップスピードに乗せるのが早く、リードアウトマンとの連携がはまればまず負けることはない、といった印象だ。

12月11日に行われたプレスカンファレンスに臨んだパスカル・アッカーマン © BORA - hansgrohe / VeloImages

 かたや、勝負強さをアピールしたのが24歳のアッカーマン。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第2ステージでプロ初勝利を挙げると、ドイツ選手権で並み居るスプリンターたちを撃破。プルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシック優勝、ツール・ド・ポローニュでステージ2勝などもあり、6月以降だけで8つの勝ち星を挙げた。

 アッカーマンもこのほど、2021年までの契約延長にサイン。これまではチーム方針でレース数を絞っていたが、来シーズンはグランツールデビューが予定されている。ジロでのメンバー入りの可能性が高いとされているが、ベネットもイタリアでの3週間に意欲を見せており、両者の棲み分けにも注目される。トップスプリンターに成長した2人に適したレースプログラムの設定も、チームのテーマになる。

グランツールでの総合上位進出が現実的な目標に

 オールラウンドに力を発揮できる選手たちが成長し、グランツールやステージレースでの総合狙いにもメドが立った。

復調が待たれるラファル・マイカ。グランツールの上位争いに戻ることができるか © BORA - hansgrohe / VeloImages

 実績ではチーム随一のラファル・マイカ(ポーランド)は、グランツールの総合上位復帰をかけるシーズンになる。今年はツール個人総合19位、ブエルタは同13位。かつてはツールで2度の山岳賞獲得、2015年にはブエルタ個人総合3位と躍進したが、このところは苦戦続き。ライバルを一瞬にして置き去りにする山岳での力強いアタックが再び見られるか。

ジロ・デ・イタリア個人総合7位のパトリック・コンラッド =2018年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ジロ個人総合7位と健闘したのが、パトリック・コンラッド(オーストリア)。ビッグリザルトこそないものの、安定感を武器に山岳ステージで確実に上位を押さえる走り。ラ・フレーシュ・ワロンヌでも10位に入って急坂への強さを示したほか、シーズン後半にはグランプリ・シクリスト・ド・ケベック5位、グランプリ・シクリスト・ド・モントリオール9位と、ワンデーレースへの適性も証明している。

 ブエルタでチーム最上位の12位で終えたエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)は来シーズン、ツールのメンバー入りが“内定”。急坂への適応力が試されるイツリア・バスクカントリー(バスク一周)での個人総合4位は、今季のハイライト。ドーフィネ同6位、ツール・ド・ポローニュ同7位と、総合力の高さをアピールした。

体幹トレーニングを行うダヴィデ・フォルモロ © BORA - hansgrohe / VeloImages

 ジロ個人総合10位のダヴィデ・フォルモロ(イタリア)や、シーズン最終戦のツアー・オブ・広西で個人総合2位に入ったフェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)も控えており、誰が総合エースを担っても不思議ではない充実度。度重なる膝の故障で戦列を離れているレオポルド・ケニッグ(チェコ)も、過去にグランツールすべてでトップ10フィニッシュを経験しており、復帰が待たれる。これだけの選手たちの持ち味を生かすべく、複数エース体制を敷いて上位進出を狙っていくことも考えられる。

 サガンやアッカーマンなどのように、主力選手には複数年契約を提示して、より集中しやすい環境づくりに努めるのがこのチームの傾向といえる。それが関係してか、選手の入れ替わりは退団、加入それぞれ3選手ずつと少なめ。

 2019年は27人で戦うことになるが、ワンデーからステージレースまでそつなくこなすピーター・ケニャック(イギリス)や、1月のカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースを制したジェイ・マッカーシー(オーストラリア)、昨年のジロ第1ステージで衝撃的な逃げ切り勝利を挙げたルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)らは引き続き所属。クイックステップフロアーズから移籍のマキシミリアン・シャフマン(ドイツ)は、ラ・フレーシュ・ワロンヌであわや逃げ切りかという見せ場を作った選手。新チームではまず、アルデンヌクラシックでの結果を求めていくことになる。

プレスカンファレンスに出席した(左から)ペテル・サガン、マキシミリアン・シャフマン、チーム代表のラルフ・デンク氏、エマヌエル・ブッフマン、パスカル・アッカーマン © BORA - hansgrohe / VeloImages

ボーラ・ハンスグローエ 2018-2019 選手動向

【残留】
パスカル・アッカーマン(ドイツ)
エリック・バシュカ(スロバキア)
チェザーレ・ベネデッティ(イタリア)
サム・ベネット(アイルランド)
マチェイ・ボドナル(ポーランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
マークス・ブルグハート(ドイツ)
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア)
フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)
ピーター・ケニャック(イギリス)
レオポルド・ケニッグ(チェコ)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
ラファル・マイカ(ポーランド)
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア)
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)
ダニエル・オス(イタリア)
クリストフ・フィングステン(ドイツ)
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
ユライ・サガン(スロバキア)
ペテル・サガン(スロバキア)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)

【加入】
ジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク) ←BMCレーシングチーム
オスカル・ガット(イタリア) ←アスタナ プロチーム
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ) ←クイックステップフロアーズ

【退団】
ミカル・コラー(スロバキア) →引退
マッテーオ・ペルッキ(イタリア) →アンドローニジョカットリ・シデルメク
アレクセイ・サラモティンス(ラトビア) →未定

※12月11日時点

今週の爆走ライダー−エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 堅実な走りで結果を残すボーラ・ハンスグローエの選手たちの中にあって、ひときわグランツールレーサーとしての可能性を嘱望される26歳。このほど、来年のツール出場が約束されたことを明らかにした。

ブエルタ・ア・エスパーニャでチーム最上位の個人総合12位。シーズンを通して好走したエマヌエル・ブッフマンにチームからの期待が高まっている =2018年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームが彼に対する信頼の高さは、それだけの裏付けがあるからこそ。1週間程度のステージレースでは、今年出場した5大会すべてでトップ10入り。調子の波がなく、確実に好成績を収めてきたことが高く評価された。

 グランツールでは、今年のブエルタ個人総合12位がベストリザルト。来年のツールは、トップ10入りが現実的な目標になる。山岳の比重が高まり、急峻な山々をどう攻略するかがカギを握る。だからこそ、「来シーズンはツールに集中する」。今年とは違ったスタンスでレースに向き合うつもりだ。

 2014年にドイツ国内ランキングで1位になり、翌年プロデビュー。その年のドイツ選手権で逃げ切り勝ちして、一躍その名が知れ渡った。当時はまぐれだとの見方もあったが、それを払拭するだけの力強い走り。スプリンター優勢だった近年のドイツ自転車界に新たな風を吹き込むことができるだろうか。ジャーマンオールラウンダーとしての真価は、7月のフランスで試されることになる。

2019年シーズンはツール・ド・フランスのメンバー入りが内定。プレスカンファレンスで「ツールに集中する」と意気込みを語った © BORA - hansgrohe / VeloImages
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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