ハムスタースピン福田昌弘さんも参加フィッティングでパフォーマンスは向上するのか 小橋勇利さんが早稲田大学川上研究室と検証

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 ロードバイクに乗るうえで欠かせないのがポジションだ。数mm単位の調整で、身体の使い方が変わっていく。今回は元プロロードレーサーでフィッターの小橋勇利さんが唱える理論の検証に密着。早稲田大学とハムスタースピン代表の福田昌弘さんを交え、選手、医学、バイオメカニクスの観点からポジショニングを考察した。

選手、医学、バイオメカニクスの観点からポジショニングを考察 Photo: Shusaku MATSUO

“選手の感覚”を客観的なデータへ

 「僕はペダリングを見ると、バイクのどの部分をどれだけ動かせば体の動きが改善されるか分かります。選手時代に自分を含めて効率の良いフォームを実践し、見てきたからです。しかし、体の動きは数値化できるものではないので、なぜその動きが『良い動きなのか』を僕は説明できません」と語るのは小橋さん。これまでに多くのサイクリストのポジションを改善してきたが、良い動きと悪い動きの違いを明確に示すことが難しかったという。

今回の被験者であり、バイオメカニクスの研究に励んでいる岩田宗也さん Photo: Shusaku MATSUO

 そこで小橋さんが客観的な視点を求めたのが早稲田大学スポーツ科学部の川上泰雄研究室だ。ここでは、身体の動きや働きに関するバイオメカニクスを研究。サイクリストを対象とした研究では、生理学的・工学的アプローチで、いかにしてアスリートのパフォーマンスを上げていくかを、早稲田大学理工学術院の上杉繁研究室とともに、さまざまな機器を用いて研究している。

 小橋さんと手を組んだのは川上研究室の岩田宗也さん。自転車競技のパフォーマンス向上を目的とした研究を、同大学内のヒューマンパフォーマンス研究所でも行っている。

 また、フィッティングスタジオ「ハムスタースピン」代表で、フランスで開催された学会「サイエンス&サイクリング」でバイオメカニクスの論文を発表している福田さんも協力。なぜ、どうやってポジションを改善するのかをテーマに、実証実験が始まった。

体の変化を計測する筋電図センサーを体へと装着する Photo: Shusaku MATSUO
モニタリングする項目を設定していく Photo: Shusaku MATSUO

 被験者となったのは同大学の自転車競技部にも属していた岩田さん。体には筋電図センサーを取り付けて、リアルタイムで筋肉の動きをモニタリングした。装着場所は上半身のみとしたのは「体幹の動きが、僕が考える理想的なフォームの軸になると考えます」という小橋さんの見解によるものだ。

ペダリングをチェックしながら調整を繰り返していく Photo: Shusaku MATSUO
筋電図の動きを都度確認する Photo: Shusaku MATSUO
モニター上でリアルタイムで表示される筋電図 Photo: Shusaku MATSUO
力が入る感覚と、筋電図がリンクする Photo: Shusaku MATSUO

 小橋さんが考えるポジショニング理論とは、骨盤の回旋でペダルへの加重移動ができるようになることが最大の目的。体格や、それまでのポジショニングによってアプローチを変えるそうだが、シッティング、ダンシング問わずに体幹を用いることが重要になるという。「モーションセンサーもあった方がよいかも」という福田さんのアドバイスもあったが、この日はまず筋肉の働きについてモニタリングした。

確かな変化をグラフが示す

 岩田さんがローラー台に乗り、その動きをじっくりと観察する小橋さん。筋電図センサーの値は各部位で局所的な動きを示し、ぎくしゃくとした筋肉の使い方になっていることが分かった。しばらくすると、小橋さんにはポジションの方向性が見えたようで、ステム、ハンドル、シートポストの調整に加えて、サドルの交換やクリートの角度などのセッティングが変更されていく。幾度か調整を繰り返しくうちに、筋電図センサーの値は安定し、広範囲で力が入っていることが明らかになった。

フィッティング前、筋電図は局所的な動きがみられる Photo: Shusaku MATSUO
フィッティング後、唐突な動きは収まり、広範囲で活発に筋肉が働いている Photo: Shusaku MATSUO

 腰回りの筋肉に偏っていた活動が、上半身の筋群にも分散されていることをグラフが表している。外腹斜筋では変化はなかったが、腹直筋、広背筋などの値が常に反応。また、傾いていた体の軸が正しい位置に矯正され、サドルに対してまっすぐに乗車できるようになった。フィッターによるポジショニングが体への変化をもたらした証だ。

 岩田さんは「ハンドル周りを変えてから上半身を意識できるようになり、筋電図が変わっていきました」とモニターを見ながら変化を確認していた。

実験機器の製作をしている創造理工学研究科上杉研修士2年の徳安陽一さん Photo: Shusaku MATSUO
ペダリング中の角度を計測する機器を取り付けたペダルも作成 Photo: Shusaku MATSUO
実験に参加したハムスタースピン代表の福田昌弘さん Photo: Shusaku MATSUO

 福田さんはポジションのフィッティングにこう話す。「フィッティングには正解はなく、受ければ必ず良くなるというものでは決してありません。速さを求めるもの、痛さを開放するもの、解決したい問題ごとにアプローチは異なります。重要なのは可動範囲内に収めてあげる、しかるべきポジションに導くこと。小橋さんの方向性は多くの方にマッチするのではないでしょうか」。

元プロロード選手で、現在はフィッターとして活動する小橋勇利さん Photo: Shusaku MATSUO

 また岩田さんは「結果として、フィッティング後にデータに変化が見られましたが、すでにミリ単位でポジションを変更したからといって、パフォーマンスの向上はみられないといった論文が発表されています。どういった違いがあるのでしょうか」と提起。また、ペダリングの機械的効率を高めようとすると、身体の生理学的効率が低下してしまうケースもあるとも説明した。対して、福田さんは「それは数式で計算した結果であり、人間ごとの差異、固有の動きや筋力などの変数が考慮されてないはず」という意見が示され、盛んに議論が交わされた。「生理学とバイオメカニクスのミックスが不十分なので、今後は3次元動作解析室でモーションキャプチャを用いた実証を行ってみては」というアドバイスも施された。

3者の目線で議論が交わされ、精度の高いフィッティングが行われた Photo: Shusaku MATSUO

 今回のフィッティングでは、小橋さんが理想とするペダリングへと近づき、”上半身の筋肉がバランスよく使われるようになった”ことを示すデータが得られ、フィッティングの有効性が検証された。3人の共通した意見として“研究者と競技経験者の多角的な観点の相乗効果がパフォーマンスの向上には欠かせない”という結論に至った。

 小橋さんはそれぞれの観点を積極的に採用していき、今後のフィッティングの精度を高めていきたいと実験を締めくくった。

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