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つれづれイタリア~ノ<122>自転車の哲学者、マヌエーレ・モーリ 若者よ、先輩から学べ!先輩は若者から学べ!

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 今回は1人のサイクリストを紹介したいと思います。2007年に宇都宮で行われたジャパンカップに優勝し、現在はUCIワールドチームのUAEチーム・エミレーツに所属する大ベテラン、マヌエーレ・モーリ選手(イタリア)です。有名なチャンピオンの影にいつも隠れがちの選手ですが、なぜここまでワールドチームの世界に向き合い続け、そして多くのファンに愛されているかがインタビューを通して明らかになりました。

自転車の哲学者としてインタビューに応じたマヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチーム・エミレーツ) Photo: Marco FAVARO
2018年はUAEチーム・エミレーツに所属 ©UAE Team Emirates

 ご存知ない方のために紹介します。モーリ家は自転車一家で有名で、父のプリーモ(74歳)は、1970年代にイタリアの強豪チームの一つ、チーム サルヴァラーニで活躍し、兄のマッシミリアーノ(44歳)はまた歴史に残るチーム、メルカトーネ・ウーノやサエコ、ランプレにも所属し、2009年に引退。彼もジャパンカップに出場した経験があります。

 今回、弟のマヌエーレ・モーリはUAEチーム・エミレーツとしての参加ではなく、クリテリウム・スペシャル・ライダーズ チームの1人としてジャパンカップクリテリウムに参戦。その際、自転車競技の世界について様々なことを話してくれました。しばらくの間、マヌエーレ・モーリが持っている哲学にお付き合いください。

「イタリアは日本から学ぶべき」

――今回、どんな経緯で来日しましたか。

 ジャパンカップは私にとって付き合いが古いレースです。2005年に初めて来日しましたが、前から日本に興味がありました。実は私の兄もプロとして日本で走った経験があり、彼から日本のことをよく聞かされていました。2004年に来る予定でしたが、パリ・ツールで怪我を負ってしまい実現できませんでした。2005年の初参加で5位だったような気がします。そして2007年に念願の初優勝。私にとっては特別な大会になりました。

ジャパンカップ クリテリウムのスタートを待つモーリ選手。特別に編成されたチームですが、胸にUAEチームエミレーツのロゴはしっかり入っています Photo: Marco FAVARO

 毎年、チームがジャパンカップに出ると聞くと、私から参加させてくださいと頼んでいました。今回もチームは中国に出ていたため、ジャパンカップに出られなかったですが、ファンの熱いエールと、長い付き合いのある秀光の佐久間悠太社長が、オーガナイザーとうまく調整していただいてクリテリウムに参戦が実現できました。

――秀光との関係は古いと言いますと?

 秀光との関係はチーム ランプレの時代からです。秀光はランプレの商品(鉄板)を日本に輸入し、加工する会社です。羽田空港のカウンターなどはそうみたいです。そして人柄も素晴らしい。私にとって佐久間一家はまるでイタリアの家族のようです。毎回、いつも驚かれます。かつて、ジャパンカップの会場に特設ステージも作ってくれたし、今年は私の名前入りのステムスペーサーも作成しました。アイデアはいつも斬新です。私にとって名誉であり、本当に感謝します。

――ジャパンカップとヨーロッパの他のワンデーレースとは違いがありますか。

 あります。まずレース自体よくできています。コースもそうですし、組織も完璧です。そして観客が多いです。レースも楽しめますし、会場のマーケットも楽しい。今回、クリテリウムだけでしたので、日曜日に初めて会場を見て回りました。イタリアではプロのレースになると、このような楽しい雰囲気はありません。レースが中心で会場はあまり重視されません。イタリアも会場の準備を日本から学んだほうがいいと言っても過言ではないでしょう。レース以外のエンターテインメントはとても重要だと強く感じました。

クリテリウムは得意ではないとするモーリ選手。先頭にしっかりついてきています Photo: Marco FAVARO
積極的にレースを展開するマヌエーレ・モーリ Photo: Marco FAVARO

――話はこれに関連しますが、近年のレース、特にグランツールは「動きがない!単調でつまらない!最後の10kmを見ればいい」と多くの自転車ファンの声が聞こえてきます。モーリ選手はジロ・ディタリアを始め、クラシックレースやトップクラスレースに多く参加した選手としてどう捉えますか。

 そうですね。確かにレースの仕方は変わってきました。スタートからすぐトップスピードに入るため、エースを含めどの選手も最後に力があまり残らないです。終盤になるとアタックをしかける必要があるため、エネルギーが足りなくなるのをみんな恐れています。エースが最後までプロトン(集団)の中で姿を隠す理由はそこにあります。スピードが最初から速すぎて、最後までエネルギーがほとんど残らないのです。

レベルが上がった日本人選手

――その原因はどこにありますか。

 テレビ放映が大きく関係していると思います。現在、レースはスタートから放映されることが少なくないです。スポンサーやチームは最初から自分の姿を見せたいことから、すぐにレースが活性化します。一方、以前スタートはもっとゆっくりでした。長いパレード走行のようなものでした。沿道で応援してくれる人たちも嬉しかったわけです。放映時間は2~3時間前後でしたので、その時のためにエネルギーを温存していました。放映がないと、逃げ集団を作るメリットもないし、無理なアタックもなかったです。

ジャパンカップの翌日に行われたファンライドと交流会の様子。主催は矢野口駅にある人気のサイクリストカフェ「CROSS COFFEE」 Photo: Marco FAVARO

 マルコ・パンターニの凄いアタックの背景には、十分なエネルギーが残っていたのでできたのだと思います。パワーがあると、エースたちは火花を放ちます。パワーが限界に近づくと、誰も前へ行きたがらない。やられるとわかっていますから。10月に行われたクラシックレース、イル・ロンバルディアの平均的な時速を見ると、獲得標高4000mで40km/hを超えています。決してエースたちが前に出ない理由として怠けいるとか、やる気がないわけではありません。みんなはギリギリです。

 その原因は、この数年で選手のレベルは全体的に上がっているからです。かつて、自転車競技といえば、イタリア、フランス、スペイン、ベルギー、オランダの5カ国が中心の世界でした。現在、グローバル化の中でイギリスを始め、オーストラリア、南アフリカなどの新興国の選手が加わり、エースだけでなくアシストも強くなりました。アシストが強くないとチームに入れない時代です。この点で日本人の選手もずいぶん変わりました。

――どの点ですか。

 別府史之選手や新城幸也選手はワールドツアーで通用する強い選手ですが、今年のジャパンカップでは先頭を引いていたのが日本のチームでした。以前は考えられない光景でした。だいたい逃げ集団に日本人選手がいて、メイン集団はヨーロッパのチームがコントロールするものでした。今回は逆でした。これが自転車競技のグローバル化の現れです。日本人選手のレベルも上がっているわけです。

――パワーメーターの使用も影響していますか。

マヌエーレ・モーリの練習の質を分析するアプリ。データがチームのトレーナーに送られ、次のトレーニングメニューが決められます Photo: Marco FAVARO

 どうでしょう。少し影響があると思います。個人的にスポーツは進化していますので、禁止にすることにあまり意味がないと思います。パワーメーターは自分の限界を教えてくれる非常に便利な機械です。消費するエネルギーをモニタリングすることで、無意味な行為は減りました。勘でやっていたトレーニングは科学的になり、近年の選手たちのレベルアップの要因になっています。トレーニング方法もずいぶん変わりましたね。

――トレーニング方法はそんなに変わったのですか。

 そうですね。かつてのトレーニングでは質より量が重視されていました。現在、トレーナーが目標にあった無駄のないトレーニングメニューを準備してくれるし、イタリア人が大好きな集団練習をしても途中で各自がそれぞれのメニューをこなします。このトレーニング方法の変化をもたらしたのが、何を隠そう、チームスカイの登場でした。このチームの登場で自転車業界は一変しました。

――こうすると、強くなるには良いトレーニングプログラムが必要ですね。

 そうですね。トレーナーやチームドクターと一緒に組んだ質のいいトレーニングが欠かせません。でも結局、最終的に必要なものは、苦しみに耐えられる強靭な精神です。現在のトレーニング方法だとほぼどの選手も強くなれますので、チャンピオンとそうでない人を分けるのは精神力です。「勝ちたい!」と思うその欲望、ハングリー精神は体に潜んでいる2~3%の可能性を引き出してくれます。それが優勝へと導いていきます。

ジロ・ディタリアで話題となった血管です。シーズンがオフになろうとしているにも関わらず脚の筋肉はバキバキと現役です Photo: Marco FAVARO

 もう一つの重要な要素があります。それが父からよく聞かされた言葉です。「若い時は先輩から学び、自分が先輩になったら若い人から学ぶ」という言葉です。若い人からなかなか学べない人が大勢いると思いますが、ベテランになった私ですが、その必要性を肌で感じています。積んできた経験は確かに重要ですが、若者たちにもそれぞれの良さがあり、スポーツ選手になったからには学ぶべき事がたくさんあります。一生勉強ですね。これが人生を豊かにしてくれます。

――先ほど気になったことがあります。プロと話す時にいつも驚かせることがあります。何年、どのレースに参加し、成績も覚えてしまう。みなさんはすごい記憶力の持ち主のようです。どのようにしてこの記憶力は生まれますか。

CROSS COFEEでサインに応じるマヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチーム・エミレーツ) Photo: Marco FAVARO

 そうですね。指摘されるまでは考えたことがなかったです。おそらくプロ選手であるうえの宿命ですね。我々の仕事には同じ失敗を繰り返さないように強い記憶力が求められます。特にレースになると、コースの熟知が死活問題です。どこでアタックすればいいか、どこで注意すればいいか、上りはどこから始まるか、道がどこで狭くなるか、全ての情報を頭に叩き込みます。

 そうすることで、住宅や木、落車ポイント、ファンでさえ、目印となるすべて役に立ちます。今まで参加したベルギーで行われるクラシックレースのコースのほとんど丸暗記しました。試走はとても大事です。試走できない場合、レース中にスポンジのようにあらゆるディテールを頭の中に叩き込みます。些細なディテールが優勝に導いていきます。次のレースに生かすためにみんな一生懸命に覚えています。参加した全てのジャパンカップのアタックポイント、落車地点、失速した場所などを全部覚えています。

――モーリさん、ありがとうございました。来年はどんなシーズンになりそうですか。

 契約が更新されましたので、しっかり頑張ります。チームは新しいメンバーで補強されていますので、楽しみにしています。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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