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猪野学の“坂バカ”奮闘記<30>世界一過酷なヒルクライム「台湾KOMチャレンジ」 レースより過酷?な『チャリダー★』現地ロケ

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 今年もあと一月あまりとなった。世間では「1年なんてあっという間だ!」などという会話が飛び交う。しかし私は違う。ロシアで開催されたFIFAワールドカップは3年前、平昌オリンピックはもはや5年も前に感じるほど時間の感覚が壊れてしまった。それは坂を105km、5時間近く上り続けるという“化け物レース”に出場したからだ。勘の良い方はお分かりだろう…。世界にそんなレースは1つしかない。その名は「台湾KOMチャレンジ2018」、世界一過酷なヒルクライムだ! しかし過酷なのはレースだけではなかった。台湾という異国は、我々に様々な試練を与えたのだ。その命懸けのロケの裏話を数回に分けて書かせていただく。

坂バカ俳優・猪野学、台湾到着!

命がけの現地移動

 今回はレースだけでなく台湾での“坂バカ事情”も撮影するため、レース6日前に台北に入った。食事も美味しく、日本語も少し通じるので最初は順調に撮影が進んでいた。しかし台北での撮影を終えて、いざ台湾KOMが開催される花蓮(カレン)に移動しようという時、様子がおかしくなってきた。

 海外での撮影の場合、ロケを円滑に行うために通訳や食事の手配を行うコーディネーターの存在が欠かせない。今回、そのコーディネーターが選んだドライバー達がすごかった。

不思議な装飾が施された移動車。猛烈なスピードが出る

 車両はなぜか、いわゆる“ヤン車”のような装飾。昼でもキラキラ点滅するし、ホーンはダンプカーのような爆音が出るように改造してある。そして運転席では、なぜかリスを飼育している。このドライバー達が「マリオカート」のようなドライビングテクニックを持っているのだ! たまにリスがマリオカート中にヒマワリの種を催促する。ドライバーは片手で器用に餌をやるわけだが、この間、我々は生きた心地がしない。

 そして太魯閣(タロコ)峡谷までの海岸線沿いの道は見事な断崖絶壁! そこもひるむ事なくマリオカートで攻めるヤン車集団。前に遅い車がいたら容赦なく追い抜く! もし対抗車が来れば断崖絶壁へまっしぐら。そうなったら我々は過酷なレースを前に過酷な結末を迎える事になる。

花蓮へと向かう断崖絶壁の道。ここを猛烈なスピードで攻める

 しかし、彼らはプロ中のプロ。少しスリリングな思いをしたが、無事にタロコ大橋を渡り、ホテルに到着した。

通訳しない通訳

 さすが国際レース、受付会場のホテルも豪華で華やかだ。海外から有名選手がたくさん来ている。サンウェブのローレンス・テンダム選手といった、ツール・ド・フランスでステージ優勝している選手もいる。驚いたのはその体格だ。とにかく手足が細いのだ、私の半分くらいしかない。それに反して体幹は異常に発達している。極限まで絞り込んでいる証拠だ。そんな彼らを突撃インタビューし、その速さの秘密に迫ることになった。

レセプション会場。豪華選手が顔を並べる

 ありがたいことに可愛いらしい女性の英語の通訳がいるとのこと。そしてどうやら彼女もサイクリストらしい。一気にテンションがあがる初老。

 早速ローレンス選手に突撃インタビューする。「あなたのように速くなるためには何をすればよいですか?」─私が質問するとリンダが流暢な英語で通訳する。素晴らしいコンビネーションだ!

 ローレンスは快く答えてくれている。一体何ていっているのか期待感が高まる。ローレンス選手が答え終わる。しかし通訳の彼女はキョトンとしている。現場に流れる妙な沈黙…。ローレンス選手も「どうした?」といった表情。皆の頭に「?」マークが浮かんだ。その理由がわかった。何と彼女は英語はできるが日本語が少ししか話せないらしい。何という事だ! これでは通訳にならない! 一瞬でパニックになる現場、ローレンス選手も苦笑い。

 ちゃんと英語が話せるスタッフが通訳し、何とかインタビューできた。これも海外ロケならではのハプニングだ。

赤っ恥!人まちがいインタビュー

 その時、私の目にオスカル・プジョル選手の姿が飛び込んで来た! プジョル選手といえば、私が愛する「ふじあざみライン」を38分で上った化け物の中の化け物だ。どうしてそんな走りが出来たのか、是非とも聞いてみたい!人混みをかきわけプジョル氏目掛けて「インタビューOK?」と話し掛けた。

 するとプジョル氏は何やら困惑している…なぜだ? やはりトップ選手だから代理人を通さないとダメなのか?…と、そこで私は違和感を覚えた。「この人…プジョルじゃない!」─。髪型はそっくりだが、トレード・マークの髭がつり上がってないではないか! ダメだ、完全に浮足立っている。「Sorry!」と謝り、脱兎の如く会場から逃げ出した。恐らくこれらのインタビューが放送されることはないだろう。海外のロケというのは、ここまで大変なのか…。

レースの映像には間違いなくプジョル選手の姿(画像右端)が写り込んでいるのだが……

 撮影を終えて気を取り直し、明日の朝食を買いにコンビニへ行く事にした。日本とあまり品揃えが変わらない、コンビニは世界共通なのだとホッとする。105kmも上るのだから、朝食に何を食べるかということから勝負は始まる。ということでパスタを2つ購入した。これで完璧だ!

 レースに備え、早めに就寝。「大丈夫!明日はきっと全てが上手く行く!」─そう自分い言い聞かせて眠りについた。日本と違い、パスタにお箸もフォークも付いてないとは知らずに…。

<次回へ続く>

※今回の台湾KOMの模様はNHKBS1『チャリダー★』で12月8日(土)、12月15日(土)と2週に渡ってご覧頂けます

(写真提供:NHK、猪野学)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00〜18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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