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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<276>若手とベテランの融合でグランツールにフォーカス ミッチェルトン・スコット 2019年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 強国オーストラリアが誇るロードのトップチーム、ミッチェルトン・スコット。2012年に「グリーンエッジ サイクリング」として発足して以来、着々とチーム力を高め、2018年シーズンはグランツールを制するまでに成長。いまやプロトンきっての充実した戦力を有するチームとなった。今年のブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツと、双子の兄弟のアダム(イギリス)を中心とした布陣で、来季もグランツールをメインに戦う姿勢を見せる。このほど陣容が固まったチームの2019年シーズンを展望する。

2018年はブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツ。来季もグランツールをメインにチームは戦っていく(写真は第20ステージ) =2018年9月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

育成能力の高さが証明された2018年の戦い

 チームが2018年シーズンに挙げた勝利は39。お膝元のオーストラリアは世界のトップを切って1月に国内選手権が開催されるが、そこでアレクサンダー・エドモンドソンがロードを制すると、本格的なシーズンイン以降も多くの選手が勝ち星を挙げた。

 そのなかでも、このチームの今シーズンの戦いを振り返るにあたり欠かせないのは、グランツールでの戦いぶりだろう。

ジロ・デ・イタリア2018でステージ3勝を挙げたサイモン・イェーツ。個人総合優勝は逃したが、その後の活躍につなげてみせた(写真は第15ステージ) =2018年5月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 5月のジロ・デ・イタリアでは、第6ステージをエステバン・チャベス(コロンビア)とサイモン・イェーツがワンツーフィニッシュ。ここでリーダージャージ「マリアローザ」を獲得したサイモンは、勢いのままに山岳ステージで3勝。結果的に第19ステージで大ブレーキとなり、長く守ったマリアローザを手放すことになったが、それまでの走りは観る者に近くグランツール王者となることを確信させるものだった。

 サイモンに対するその見方が正しかったことは、すぐに証明される。十分な調整を行って臨んだブエルタでグランツール初制覇。第9ステージでリーダージャージのマイヨロホに袖を通すと、「戦術的理由」でいったん手放したが、大会後半の重要ポイントでしっかり取り戻してその座を守り切ってみせた。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018では個人TTステージをまずまずの走りを個人総合優勝に結びつけた(第16ステージ) =2018年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 個人総合優勝を果たしたブエルタ、その前に頂点に大きく近づいたジロと共通しているのが、山岳での決定的なアタックやレースを読む鋭い勘、さらには決して得意とは言えない個人タイムトライアル(TT)をまずまずの走りでまとめている点。ブエルタでは32kmの個人TT(第16ステージ)でトップから1分28秒差の13位とし、それまでに得ていた貯金を大量に吐き出すことなく、マイヨロホを守って残りのステージにつなげている。得意とする山岳での走りに偏るのではなく、3週間を通してバランスよく戦うことができるあたりに、26歳とは思えない巧みさが見られる。狙ったレースに調子を合わせられるピーキングの上手さも、今シーズンの戦いぶりで実証された。

 サイモンのブエルタ制覇は、チームにとっても発足以来長期的視野で進めてきた取り組みの大きな成果だった。いまに至るまで、オーストラリア人選手を中心にアンダー年代(23歳未満)やトラック競技で実績を残してきたスピードマンなどを加入させ、ロードのトップシーンで戦えるよう育成を行うスタンスは変わっていない。イェーツ兄弟はイギリス人ではあるものの、2014年のプロデビュー以来一貫して現チームで走り続けており、チーム方針のもと順調な成長曲線を示してきた。その集大成となったのが、今年のブエルタだった。若い選手たちの可能性を引き出し、活躍につなげるチームの育成能力の高さが証明されたシーズンを経て、選手・チームともに次のステップへと踏み出していくことになる。

3人の絶対エースを中心にグランツールの頂を目指す

 2019年シーズンも今年同様、グランツールにフォーカスしていく構えだ。

ジロ・デ・イタリア2018第6ステージを制したエステバン・チャベス(左)。その後体調を崩し、2019年シーズンに向けて立て直しが求められる =2018年5月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今季はサイモン、アダムのイェーツ兄弟にチャベスを加えた3人を総合エースに、3つのグランツールを棲み分けする方針だった。実際にそのプランが進んでいたが、チャベスがジロの中盤ステージ以降調子を落とし、後日それが伝染性単核球症によるものだったことが判明。出場予定だったツールの回避はおろか、シーズン中の戦線復帰さえかなわなかった。

 それにより、ツールは単独エースで臨んだアダムも波に乗り切れぬまま3週間を終えてしまった。その後のブエルタで意地を見せ、大会終盤にはサイモンのアシストとして貢献したが、やはり総合争いに残ってこその選手である。

 チャベスとアダムに関しては立て直しが求められるが、サイモンを含めた3人がグランツールの総合エースに据える態勢は来季も同様だろう。

ツール・ド・フランス2018では振るわなかったアダム・イェーツ。来季はリベンジのシーズン(写真は第17ステージ) =2018年7月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 この3人がどのレースをターゲットにするのかは、いまのところ明確にはなっていない。棲み分けの大きな要素となるのはTTステージの比重にあると見られる。サイモンは今年のジロ、ブエルタともにまずまずの走りを見せたが、実情としては3人ともTTが決して得意とは言えない。よい時と悪い時の波が大きいことも挙げられ、TTステージの結果が最終成績に影響する可能性は高い。

 鬼門となりうるTTだが、一方で3選手とも山岳ではライバルを圧倒するだけのパンチ力を備える。要所で見せる力強いアタックは、ステージ優勝だけでなく、総合での上位進出にもつなげてきた。3人それぞれの魅力が生きる場をいかにセッティングするか。このあたりの判断は、スポーツディレクターのマット・ホワイト氏の手腕にかかってくる。

 ホワイト氏は、3つのグランツールすべてで頂点に立ちたいと意気込む。そのためのポイントとして、各大会ごとのグループ編成の重要性を掲げている。できるだけ同一シーズンで複数のグランツールを走る選手を出さないよう心掛けているといい、選手たちにとっても目指すべきレースを絞り、ピーキングしやすい環境が整備されている。

 実際、2018年シーズンは3つのグランツール合わせて19選手が出場。過度の消耗を防ぐ意味でも効果的であると同時に、戦力として計算できる選手たちがそろっていることも意味しているといえよう。

2018年シーズンは3つのグランツール合わせて19選手が出場。充実した戦力がチームとしての強さに直結している =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第21ステージ、2018年9月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

若手とベテランの“化学反応”で選手層に厚み

 チームは15日に25選手による2019年陣容が確定したことを発表。オーストラリア人ライダー10人、その他11カ国から15人が所属する。なお、2019年1月のサントス・ツアー・ダウンアンダーをもって引退を表明しているマシュー・ヘイマン(オーストラリア)を含めると、26選手でシーズンインすることになる。

 来季の編成は、30歳代のベテランから20歳代前半の若手まで、幅広くメンバーがそろった印象だ。40歳のヘイマンに続く年長者、37歳のミヒャエル・アルバジーニ(スイス)は、クラシックからグランツールのアシストまでこなすユーティリティーさが光る。

ジャパンカップで8位に入り新人賞を獲得したロバート・スタナード =2018年10月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 かたや、最年少の20歳、ロバート・スタナード(オーストラリア)は「未来のグランツール覇者」といわれる大器。“アンダー版ジロ”ことジロ・チクリスティコ・デ・イタリアでは個人総合3位。ツール・ド・ラヴニールでも活躍し、“アンダー版ロンバルディア”ピッコロ・ジロ・ディ・ロンバルディアで優勝。ジャパンカップでの8位が記憶に新しい。

 現有戦力では、ブエルタでの山岳アシストが印象的だったジャック・ヘイグ(オーストラリア)が、移籍により退団するロマン・クロイツィゲル(チェコ)に代わってアルデンヌクラシックでのエースを任される可能性が高い。来シーズンは1週間程度のステージレースでも上位進出が期待される。

ヨーロッパ王者のマッテオ・トレンティンは北のクラシックでの活躍に期待がかかる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第17ステージ、2018年9月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 “ポスト・ヘイマン”の登場が待たれる北のクラシックは、今年のヨーロッパ王者マッテオ・トレンティン(イタリア)とルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)が中心になると見られる。ここに経験豊富なジャック・バウアー(ニュージーランド)や、TTスペシャリストでもあるマイケル・ヘップバーン(オーストラリア)らが加わって底上げを図る。

 カレブ・ユアン(オーストラリア)の退団により、次期エーススプリンターの擁立が急務となるあたりは、ここ数年リードアウトマンとして貢献してきたルカ・メズゲッツ(スロベニア)やエドモンドソンの本領発揮に期待。状況次第では、トレンティンもそのスピードを生かすことになりそうだ。

 ジロ第20ステージを制するなど、クライマーとしてアシストだけでなく自らも勝負できるミケル・ニエベ(スペイン)、フィニッシュ前やTTでのスピードが魅力のダリル・インピー(南アフリカ)といった、いぶし銀の働きを見せる職人の存在も忘れてはならない。プロトン牽引に定評のあるクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)も、引き続き主力メンバーとして控える。

下部組織から唯一の昇格選手となるカラム・スコットソン =UCIロード世界選手権男子アンダー23個人タイムトライアル、2018年9月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 なお、このストーブリーグでの入れ替わりは6人ずつ。ベテランオールラウンダーのブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシングチーム)や、クライマーのスガブ・グルマイ(エチオピア、トレック・セガフレード)は、グランツール路線に厚みを加える。22歳のカラム・スコットソン(オーストラリア)は、下部組織であるミッチェルトン・バイクエクスチェンジから唯一の昇格選手。トラック競技・チームパシュート(団体追抜)で2016年リオ五輪銀メダルなど、数々の実績を引っ提げてトップチーム入りする。

 このほか、UCIウィメンズツアーを戦う女子チームも所属選手が確定。個人TTで世界女王に輝くなど、今年数々のタイトルを獲得したアンネミーク・ファンフルーテン(オランダ)ら10選手が2019年シーズンを戦うことになる。

ミッチェルトン・スコット 2018-2019 選手動向

【残留】
ミヒャエル・アルバジーニ(スイス)
ジャック・バウアー(ニュージーランド)
サム・ビューリー(ニュージーランド)
エステバン・チャベス(コロンビア)
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)
アレクサンダー・エドモンドソン(オーストラリア)
ジャック・ヘイグ(オーストラリア)
ルーカス・ハミルトン(オーストラリア)
マシュー・ヘイマン(オーストラリア) ※2019年1月20日引退
マイケル・ヘップバーン(オーストラリア)
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア)
ダリル・インピー(南アフリカ)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
キャメロン・マイヤー(オーストラリア)
ルカ・メズゲッツ(スロベニア)
ミケル・ニエベ(スペイン)
ロバート・スタナード(オーストラリア)
マッテオ・トレンティン(イタリア)
アダム・イェーツ(イギリス)
サイモン・イェーツ(イギリス)

【加入】
エドアルド・アッフィーニ(イタリア) ←SEGレーシングアカデミー
ブレント・ブックウォルター(アメリカ) ←BMCレーシングチーム
スガブ・グルマイ(エチオピア) ←トレック・セガフレード
ニック・シュルツ(オーストラリア) ←カハルラル・セグロスRGA
カラム・スコットソン(オーストラリア) ←ミッチェルトン・バイクエクスチェンジ
ディオン・スミス(ニュージーランド) ←ワンティ・グループゴベール

【退団】
カレブ・ユアン(オーストラリア) →ロット・スーダル
ロジャー・クルーゲ(ドイツ) →ロット・スーダル
ロマン・クロイツィゲル(チェコ) →ディメンションデータ
ロブ・パワー(オーストラリア) →チーム サンウェブ
スヴェイン・タフト(カナダ) →ラリーサイクリング
カルロス・ベローナ(スペイン) →モビスター チーム

※11月20日時点

今週の爆走ライダー−ルーカス・ハミルトン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 希望に満ちたプロ1年目のシーズンを無事に終えた。ルーキーイヤーはステージレースをメインに走り、経験を積むことを重視した。

クライマーとしての才能を高く買われるルーカス・ハミルトン。来シーズンに期待が膨らむ =ツアー・ダウンアンダー2017チームプレゼンテーション、2017年1月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 22歳の若きクライマーは、アンダーカテゴリーで戦ったステージレースの多くでトップを占めた。現チームとの3年契約を勝ち取ったのも、総合系ライダーとしての将来性に光るものがあったからだ。

 もちろん、本人はプロ入りだけに満足はしていない。「UCIワールドツアーを走ることは長い間夢見ていたが、それだけで終わるつもりはない」ときっぱり。「選手として向上していくためには、成功と経験を有するベテランたちから学ばなければいけない」との言葉は、自らを客観視できている証拠だ。

 尊敬するのは、チームの先輩でもあるヘイグとパワー。若くしてチームの主力に成長した2人に共通するのが、プロ2年目から3年目にかけてトップシーンに躍り出たこと。ある意味、ハミルトンにとっても来シーズンが勝負の1年となる可能性が高い。身近な2人の存在は、キャリアの方向性を決めるうえでの指標となっている。

 チームを率いるホワイト氏にして「すさまじい人材」とまで言わせるほど、その才能は高く評価される。年々選手層が厚くなるチームにあって、自らの価値を証明できれば、おのずとトップシーンに欠かせない人物になるはずだ。

 正念場となるシーズン。山岳を中心に、きっと彼の姿を目にすることができるだろう。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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