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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<275>バルベルデ、キンタナ、ランダの棲み分けで目標を明確化 モビスター2018年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を筆頭に、ナイロ・キンタナ(コロンビア)、ミケル・ランダ(スペイン)の3人のエースを擁するモビスター チーム。2018年シーズンはバルベルデのマイヨアルカンシエル獲得に沸いた一方で、この3人を配したグランツールでいまひとつ波に乗り切れなかった印象だ。来季へ向けて、チームは3人の棲み分けを示唆し、各選手の目標を明確にしようと試みているという。そして、世界王者としてシーズンを戦うバルベルデは次なる野望に意欲的。王国・スペインが誇る実力派チームの2019年を展望する。

世界王者の証「マイヨアルカンシエル」で2019年シーズンを戦うアレハンドロ・バルベルデ =イル・ロンバルディア2018、2018年10月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

東京五輪へ弾みのシーズンとしたいバルベルデ

 今シーズン、チームが挙げた勝利は27。2017年の31勝には届かなかったが、要所ではインパクトのある勝ち星を挙げ、強さをアピールした。

 27勝のうち、14の勝利を挙げたバルベルデがチーム最多勝。アップダウンに富んだコースや、少人数での終盤勝負に長けているとはいえ、スプリンターではない選手が挙げる勝利数としては驚異的と言えるだろう。2017年のツール・ド・フランス第1ステージで落車し大けがを負ったが、そこから華麗にカムバックしたシーズンとなった。

プロキャリア16年目にして悲願の世界王者になったアレハンドロ・バルベルデ =UCIロード世界選手権、2018年9月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

 シーズン序盤から勝利を重ねたバルベルデだが、やはり9月30日のUCIロード世界選手権での優勝に今年のすべてが集約されているといえるだろう。16年ものプロ生活で、毎年のように近づきながらつかむことのできなかった世界王者の証「マイヨアルカンシエル」を、ついに獲得したのだ。

 シーズン最終盤の3レースでマイヨアルカンシエルを披露したとはいえ、世界王者として走るのは実質これから。そして、アルカンシエルにふさわしい走りが求められることになる。

 当面の目標は、タイトル奪還にかけるアルデンヌクラシック。今年は、アムステル・ゴールド・レース5位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ13位と、一回り年下の選手たちに敗れ悔しさをあらわにした。アムステルに関しては優勝経験がなく、本人も「脚質的に不向き」と分析するが、激坂フィニッシュのフレーシュ・ワロンヌと、サバイバル化するのが常のリエージュには並々ならぬ意欲を燃やす。

2019年のサプライヤー「ルコックスポルティフ」のウェアを着るアレハンドロ・バルベルデ Photo: Movistar Team

 また、2019年は北のクラシックへの参戦を視野に、レースプログラムを編成する見通し。現状ではツール・デ・フランドル出場の可能性が高いとしているが、今年走ったドワーズ・ドール・フラーンデレンでは11位、ツール第9ステージではメイン集団でフィニッシュするなど、パヴェでもしっかりまとめられるところを見せている。石畳だけでなく、いくつもの急坂が待ち受け、プロトンの絞り込みが激しいフランドルは、案外バルベルデの走りに合っているかもしれない。

 グランツールへの動向も注目されるところだが、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャをセレクトすることになりそうだ。「グランツールの頂点を狙うのは(年齢的に)難しくなっている」としながらも、「新たな野望」としてジロの上位進出をうかがう。険しい山々と、上り基調の個人タイムトライアルをいかにバランスよくこなせるかがポイント。なお、ツールはキンタナやランダらに席を譲る意向を示している。

 長期目標を2020年の東京五輪に定めるが、このほど「モチベーションが高ければ五輪後も走り続ける」と宣言するなど、38歳となった今でもトップシーンで戦う気持ちに満ちる。東京五輪への期待と、その先のキャリアを占うシーズンとなるのが、この2019年と見ることができそうだ。

“クライマーズ・ツール”を見据えるキンタナとランダ

 モビスター チームの魅力は、スーパーエースの存在と選手層の厚さ。ステージレースでは山岳でその力を見せつけ、総合成績につなげていく。

 ただ、今年はバルベルデ、キンタナ、ランダの3人がそろったツールでは、ランダの個人総合7位が最高。ランダ抜きで挑んだブエルタでは、総合エースと見られていたキンタナが失速気味となり、途中でバルベルデの総合とポイント賞にチームの狙いをシフト。上位戦線に姿を見せていたとはいえ、期待通りの結果だったとは言い難いものとなった。

 そこで、2019年は各選手の目標をより明確にするため、3人の棲み分けを行うことに。バルベルデについては前述の通りだが、ツールの総合はキンタナとランダに託すことになるようだ。

ツール・ド・フランス2018第17ステージを制したナイロ・キンタナ。その後のステージで落車負傷し総合では不本意な成績に終わった =2018年7月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 「2018年はなにひとつ目標を達成できなかった」と語るキンタナ。今年のツールではステージ1勝を挙げたものの、大会終盤のクラッシュで負傷。その後のブエルタでも立て直すことができないまま、シーズンを終える格好となった。

 今シーズンの“敗因”として、キンタナは「オーバートレーニング」と分析。レースに向けたアプローチを変えていく必要性を掲げている。そこで、チームは今年で実質解体となるBMCレーシングチームから、元選手のマキシミリアン・シャンドリ氏をスポーツディレクター(レース監督)として招くことを決定。主にキンタナを担当し、トレーニングメニューの組み直しを図っていくことになった。

 これまでは「3週目の男」として、グランツール終盤での猛攻が見ものだったが、一方でタイムトライアルステージでの遅れが影響することも多く、2017年のジロでは最終日に逆転を許したケースもある。山岳とTTとのバランスが頂点へのカギと見られているが、2019年のツールは山岳の比重が高い点で多くの選手・関係者が「キンタナ向き」と指摘する。本人もルート設定を歓迎しているといい、自国のコロンビアで調整を行いながら、本番を迎えることを理想だと述べる。

2019年はツール・ド・フランスに臨む見通しのミケル・ランダ。クライマー向けの3週間をいかにして戦うか =ツール・ド・フランス2018第19ステージ、2018年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのキンタナとツールで共闘することになるのがランダ。目標をグランツールに絞って臨んだ今シーズンだったが、ツール後のクラシカ・サン・セバスティアンで落車負傷。出場を予定していたブエルタの回避を余儀なくされた。レース復帰は9月中旬に果たしたものの、いずれも未完走。不本意な1年になってしまった。

 それでも、チームを率いるエウセビオ・ウンスエ氏はランダの復調に手ごたえを感じている様子。「来年はまったく違うミケルをお見せできると思う」とコメントし、グランツールでのリーダージャージ争いに加わるだけの力があるとアピールする。キンタナ同様、山岳に重きが置かれる来年のツールへの適性があると見ており、ダブルエース体制の一角として走る可能性が高いとした。

 あくまでもツールをメインとしながらも、キンタナはブエルタ、ランダがジロに臨むこともおおむね決まったよう。2019年シーズンを順調に送ることができれば、という条件付きではあるが、チームとしてより多くの上位進出のチャンスをうかがっていく姿勢だ。

 キンタナ、ランダともに移籍の噂が挙がったほか、欧米のサイクルメディアでは両者それぞれがチームと緊張状態にあるとの報道もなされたが、チームを含めた三者そろってそれらを否定。2019年が契約最終年にあたるキンタナに関しては、シーズン半ばまでには契約延長に合意したいとしており、この先も現チームで走り続ける意思を見せている。

“4番目の男”候補が続々成長

 スーパーエース3人の存在が大きかったチームだが、「4番目の男」となり得る若手が着実に成長している点は明るい材料。彼らが次のシーズンをどんな立場で戦うのかは、各選手、そしてチームの方向性にもかかわってくることだろう。

ジロ・デ・イタリア2018で個人総合4位などブレイクしたリチャル・カラパス。2019年のレースプログラムに注目が集まる =ジロ・デ・イタリア2018第8ステージ、2018年5月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年、その筆頭格となったのがリチャル・カラパス(エクアドル)。ジロ直前のブエルタ・ア・アストゥリアス(UCIヨーロッパツアー2.1)を制すると、その勢いでジロ本番でも快進撃。第8ステージを制し、その後も上位戦線をにぎわせた。大会終盤での快走も光り、最終的に個人総合4位。バルベルデらを欠きながらも、十分すぎるほどの穴埋めをしてみせた。来年のレースプログラムが待たれるところだが、もちろんグランツールに調子を合わせてくることだろう。

パリ〜ニース2018を制したマルク・ソレル。1週間のステージレースで力を発揮する =2018年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 次世代のエース候補と言われてきたマルク・ソレル(スペイン)は、パリ~ニースを制するなど、シーズン序盤に鮮烈な印象を残した。今年はツールにも出場したが、現時点では1週間程度のステージレースに適性があると見られる。タイムトライアルでもスペイン人ライダーの中では比較的得意としており、オールラウンダーとして飛躍が期待される。

 エースクラスを支える山岳アシストとしては、過去にジロでトップ10入り2回のアンドレイ・アマドール(コスタリカ)や、ウィネル・アナコナ、カルロス・ベタンクール(ともにコロンビア)といった名が挙がる。

北のクラシックで実績を残してきたユルゲン・ルーランズがBMCレーシングチームから移籍する =パリ〜ルーベ2018、2018年4月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 山岳はもとより、2019年は平地系レースにも注目したい。2013年フランドル3位のユルゲン・ルーランズ(ベルギー)がBMCレーシングから移籍したことにより、北のクラシックの戦いに見通しがついた。ここにフランドル参戦を表明しているバルベルデ、タイムトライアルも得意とするネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)やヤシャ・ズッタリン(ドイツ)らが加わっていくことになる。

 新加入組は、いずれも即戦力を採用。ルーランズのほか、ブエルタでは山岳逃げで魅せたルイスギレルモ・マス(スペイン、カハルラル・セグロスRGA)、過去にマトリックスパワータグに所属して日本のレースを走ったエドゥアルド・プラデス(スペイン、エウスカディバスクカントリー・ムリアス)、カルロス・ベロナ(スペイン、ミッチェルトン・スコット)が加入。実績のある選手たちがそろい、チーム内競争が激化することが予想される。

 現時点では、2019年シーズンのロースターとして25選手が確定。また、今年から発足した女子チームは9選手で次のシーズンを迎えることが決まっている。男女とも12月18日に、メインスポンサーのモビスターを運営するテレフォニカ・本社にてプレゼンテーションを行い、体制を明らかにする。

モビスター チーム 2018-2019 選手動向

【残留】
アンドレイ・アマドール(コスタリカ)
ウィネル・アナコナ(コロンビア)
ホルヘ・アルカス(スペイン)
カルロス・バルベロ(スペイン)
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)
カルロス・ベタンクール(コロンビア)
リチャル・カラパス(エクアドル)
エクトル・カレテロ(スペイン)
ハイメ・カストリーリョ(スペイン)
イマノル・エルビティ(スペイン)
ルーベン・フェルナンデス(スペイン)
ミケル・ランダ(スペイン)
ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
アントニオ・ペドレロ(スペイン)
ナイロ・キンタナ(コロンビア)
ホセ・ロハス(スペイン)
エデュアルド・セプルベダ(アルゼンチン)
マルク・ソレル(スペイン)
ヤシャ・ズッタリン(ドイツ)
ラファエル・バルス(スペイン)
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)

【加入】
ルイスギレルモ・マス(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
エドゥアルド・プラデス(スペイン) ←エウスカディバスクカントリー・ムリアス
ユルゲン・ルーランズ(ベルギー) ←BMCレーシングチーム
カルロス・ベロナ(スペイン) ←ミッチェルトン・スコット

【退団】
ヌーノ・マトス(ポルトガル) →ブルゴス・BH
ビクトル・デラパルテ(スペイン) →CCCチーム

【未発表】
ダイエル・キンタナ(コロンビア)
ハイメ・ロソン(スペイン) ※バイオロジカルパスポートデータの異常値により暫定資格停止中

※11月13日時点

今週の爆走ライダー−カルロス・バルベロ(スペイン、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 山岳で活躍するイメージが強いモビスター チームだが、スプリンターもきっちりと配している。数少ないスプリンターとして奮闘しているのが、カルロス・バルベロである。

モビスター チームで数少ないスプリンターであるカルロス・バルベロ。スピードは高く評価される =サントス・ツアー・ダウンアンダー2018チームプレゼンテーション、2018年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2012年に地元バスクのオルベア・コンチネンタルでデビューして以来、スペインのチームでキャリアを歩み続ける。なかでも相性抜群のレースは、スペイン選手権。例年、終盤まで激しい駆け引きが続く展開で生き残り、フィニッシュ目前でのスプリント勝負で上位を押さえてきた。2014年の3位、翌年には2位となり、ステップアップのきっかけとしてきた。

 現チームで2年目の今シーズンは3勝。チームの勝利量産に貢献した。4月に出場したブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオン(UCIヨーロッパツアー2.1)では、リーダージャージを着用するなど、27歳となった今でも進化を続ける。

 脚質ゆえ、なかなかグランツールへの招集はかなわないが、与えられたチャンスをものにするのがプロ。今季を終えると、たちまち「2019年も止まることはないよ」と宣言。来シーズンも、スプリンターとしてチームを代表して戦う意思を固めた。

 2016年には世界選手権のスペイン代表になるなど、そのスピードは誰もが認める。平地系ライダーが強化される来シーズンは、先鋒となる彼の姿を何度も目にすることになるかもしれない。カルロス・バルベロの名前を覚えておいて損はないだろう。

2018年シーズンは3勝のカルロス・バルベロ。グランツールへの出場機会はなかったがチームの勝利量産に貢献した =ブエルタ・ア・ブルゴス第4ステージ、2018年8月10日 Photo: Movistar Team
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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