引退レースで劇的なプロ初勝利NIPPOのマランゴーニが最後独走で優勝 ツール・ド・おきなわ男子チャンピオンレース
日本最大級のロードレースイベントである「ツール・ド・おきなわ2018」。UCI(国際自転車競技連合)公認の男子チャンピオンレースが11月11日に行われ、約40km地点で形成された先頭グループがそのまま逃げ切り。最後はアラン・マランゴーニ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ)が独走に持ち込み、単独でフィニッシュを駆け抜けた。今シーズン限りでの引退を表明していたベテランが、有終の美を飾る鮮やかな勝利を挙げた。
国内屈指の長丁場210kmに85選手が挑んだ
プロライダーからホビーレーサー、さらにはキッズまで参加できる幅広いカテゴライズが魅力のツール・ド・おきなわ。そのなかでも、メインレースに位置付けられる男子チャンピオンレースは、UCIアジアツアー1.2クラスに設定される。同ツアーはすでに2019年度のレースカレンダーが始まっており、このチャンピオンレースも2019年度のポイント対象レースとして行われた。

レースの特徴は、210kmと国内のレースでは屈指の長丁場であること。11月の開催はシーズン最終盤とあり、百戦錬磨の選手といえど過酷な戦いとなる。コースは、名護市を出発したのち、名護湾と東シナ海に面した本部半島を時計回りに進み、海岸線を北上。沖縄半島最北端の国頭村に入って反時計回りに向きを変え、レース後半は太平洋沿いを南下して名護市へと戻ってくる設定。沖縄半島北部をおおむね8の字に進むルートは、中盤に2カ所の山岳ポイントが待つほか、後半にかけても細かなアップダウンが控えている。
18チームから85選手がスタートラインにつき、午前6時45分の号砲とともに出発。パレード区間は設けられておらず、すぐにリアルスタートが切られた。
10人の逃げグループが最大で約9分のリード
スタートからしばらくはアタックと吸収が続き、逃げグループ形成とまでは至らない。一時的に数人が抜け出す場面があったものの、その状態は持続せず、出入りが繰り返された。
ようやく逃げが決まったのは、40km地点に差し掛かろうかというタイミング。10選手が先行を開始すると、レース全体が一気に落ち着いた。
逃げ10人
デルク・アベル・ベッカーリン(オランダ、WTC de アムステル)
畑中勇介(チームUKYO)
新城雄大(キナンサイクリングチーム)
下島将輝(那須ブラーゼン)
中田拓也(シマノレーシングチーム)
ルイス・レイナウ(ドイツ、チーム サワーランド)
小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
アラン・マランゴーニ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ)
フレディ・オヴェット(オーストラリア、オーストラリアン・サイクリング・アカデミー・ライド・サンシャイン・コースト)
フェン・チュンカイ(台湾、チャイニーズタイペイナショナルチーム)

先頭10人と逃げグループとの差はみるみる間に広がり、最大で9分近くにまで達する。メイン集団では、前方に選手を送り込んでいないチーム ブリヂストンサイクリングや愛三工業レーシングチーム、鹿屋体育大学などが先頭グループとのタイム差をコントロールしようと試みる。1回目の山岳ポイントを経て、沖縄本島北部へと進む間、先頭とメイン集団とのタイム差に大きな変化は見られなかったものの、集団では徐々に有力チームの選手たちが顔を見せ始め、次なる展開に向け状況を整え始めた。
2回目の山岳ポイントをめがけて上りが始まると、先頭の10人に変化がみられる。頂上を前に、下島と新城が遅れ、先頭は8選手に。メイン集団でもトマ・ルバ(フランス、キナンサイクリングチーム)が牽引を開始すると一気にペースが上がり、人数が絞られていく。これをきっかけに、追撃ムードが高まるかと思われた。
追走は思惑が交錯、逃げ切りが濃厚に
メイン集団のペースアップによって、先頭との差は4分台にまで縮まったが、それ以降大きな変化が見られなくなる。細かいアップダウンが続く太平洋側へ出ると、各チームの思惑が交錯してか、なかなかペースが上がらない。
その状況を打開しようと、岡篤志(宇都宮ブリッツェン)が飛び出すと、チームメートの増田成幸と鈴木龍が追随。さらに現日本チャンピオンの山本元喜(キナンサイクリングチーム)と、ロビー・ハッカー(オーストラリア、チームUKYO)も加わり、追走グループが形成される。
しかし先頭は依然8人と、5人の追走に対して数的優位が続く。先頭も好ペースで進んでいたこともあり、後方とのタイム差が急激に変化することなく、レースは終盤へと突入した。
フィニッシュまで残り20kmを切ったところから、先頭ではアタックが散発するようになった。それまで協調してきた8人だったが、勝負を意識した動きが活性化。さらに、上りでベッカーリン、マランゴーニ、オヴェット、フェンが抜け出すと、それまで粘っていた畑中や小野寺ら日本人選手たちが差を広げられてしまう。追走を図る後続選手たちとの差はいまだ十分にあり、先行する選手たちの中から優勝者が出るのは濃厚な情勢となった。
カウンターアタック一発で勝負を決める
勝負どころと見られた急坂区間をクリアした先頭4人は、再合流にかけて追う日本人選手たちを引き離すことに成功。そのまま残り10kmを切る。

残り7kmを切って、フェンがアタック。独走を狙うが、これは決まらない。そして、決定的な瞬間は残り5kmで訪れた。再度のフェンのアタックをきっかけに、マランゴーニがカウンターでアタック。これには、すでに数秒遅れていたベッカーリンのみならず、フェンもオヴェットもチェックができない。
単独先頭に立ったマランゴーニは、スピードを維持して逃げ続ける。オヴェットとフェンは約10秒前後の差で追うが、その差は縮まらない。

一発の仕掛けで勝負を決めたマランゴーニ。最後まで力強いペダリングでフィニッシュへとやってきた。何度も後方を確認し、勝利を確信すると両腕を広げて歓喜のポーズ。先頭グループ形成から約170km、長い逃げの末にものにしたタイトルとなった。
グランツール出場7回のベテランが実力を発揮
フィニッシュライン通過と同時に嗚咽を漏らして感涙したマランゴーニ。感情をあらわにするのも無理はない。選手キャリア最後のレースとして臨んだのが、このツール・ド・おきなわだったのだ。
2009年にCSFグループ・ナヴィガーレ(現バルディアーニ・CSF)でプロデビュー。その後はキャノンデール・ドラパック(現EFエディケーションファースト・ドラパック)に2016年まで所属。2013年のツール・ド・フランスなど、7度のグランツール出場を誇る34歳のベテランは、今シーズン限りでの引退を表明して、このおきなわに乗り込んでいた。
過去には個人タイムトライアルでイタリア選手権3位となるなど、独走力には定評があったが、得意のパターンに持ち込み、プロキャリアにおける最初で最後の勝利を鮮やかに飾ってみせた。
ツール・ド・おきなわ 男子チャンピオンレース(210km)結果
1 アラン・マランゴーニ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ) 5時間5分4秒
2 フレディ・オヴェット(オーストラリア、オーストラリアン サイクリングアカデミー・ライド サンシャインコースト) +19秒
3 フェン・チュンカイ(台湾、チャイニーズタイペイナショナルチーム)
4 デルク・アベル・ベッカーリン(オランダ、WTC de アムステル) +50秒
5 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) +1分29秒
6 畑中勇介(チームUKYO) +1分31秒
7 中田拓也(シマノレーシングチーム) +2分50秒
8 増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
9 ルイス・レイナウ(ドイツ、チーム サワーランド)
10 岡篤志(宇都宮ブリッツェン)