男女の詳細コースも掲載東京五輪ロードレースのコースを詳解 男子は一般サイクリストが完走不能レベルの超級難易度
東京オリンピック・自転車競技ロードレースが2020年7月に開催される。男子は7月25日(土)午前11時スタートの約234km、女子は7月26日(日)午後1時スタートの約137kmで争われる(男女ともパレード区間10kmを除いた数値)。距離もさることながら、男子の獲得標高は約4865m、女子は2692mと、超ド級の難易度コースとして呼び声が高いが、実際はどうなのか。Cyclist編集部では9月下旬に女子のコースを実走、10月中旬に男子コースを車で回った。ここでは一般サイクリスト目線から所感を述べるとともに、詳細コースについても紹介する。
男子コースを一日でこなすのは不可能
出だしから恐縮だが、男子コースを「車で回った? だと…」などと思ってほしくはない。男子コースの取材を開始したのは、10月11日の朝5時50分。フルコースを回り、終了したのが日の入り直前の午後4時50分。撮影を含むものの、ほぼ休みなく動いて、ようやく終わるタイムスケジュールだった。
断言しておきたいのは、一日でこなすのはほぼ不可能ということ。超人的な体力を持つ猛者でなければ、男子コースの実走は日をまたいでも難しいだろう(以下、ルートラボ作成マップを公開。男子はツール上の制限によりリアルスタートからゴールまで。女子はパレード区間も表示)。
もちろん、コースの厳しさも体感した。実走したのは9月下旬。スタートとなる武蔵野の森公園に降り立ち、一人で女子コースを忠実に走破した。ゴールとなる富士スピードウェイには入れなかったものの、こちらも終了したのは、日の入り直前。一人で走ったのもあるが、体に悪いと感じるほどのキツさだった。
コースの下見を行ったのは暑さの和らいだ時期。ここに灼熱の暑さが加わることを考えると、「何人完走できるのか?」に関心が向く。一般サイクリスト目線からは、サバイバルレースになることを確信する。こうした所感を体感してほしいのが本稿の狙いでもある。以下、男子コースを4分割してコースを紹介する。4分割の1区間だけでも走りごたえ十分であり、実走してみるといいだろう。
是政橋(リアルスタート)~道志道入口
ロードレースのスタート地点は、東京都調布市の武蔵野の森公園となる。近くには東京ヴェルディ1969のホームスタジアムとなる味の素スタジアムがある。ここを起点にして、府中市街を抜け10kmパレードランをこなした後で、リアルスタート地点(0km)の是政橋にたどり着く。
是政橋からは、東京都内のサイクリストのメッカ、尾根幹を通る。登坂距離は短いものの、スタート直後から10%近い坂が登場する。尾根幹利用者の間で有名なバーミヤン坂ももちろんコースに組み込まれている。
ただし、五輪では、サイクリストに愛用されている尾根幹ルートをすんなりとは通らない。所々で住宅街に入り込む。住民もまさか自宅前が五輪のロードレースコースになっているとは想像がつかないのではないか。なぜ、このルートになったのか、疑問しか浮かんでこない。9月下旬の休日に実走したが、走っていたのは自分一人だけだった。
尾根幹区間はアップダウンの連続だ。そこを過ぎると、京王多摩センター駅方面に向かい、多摩ニュータウン通りに抜けていく。正直なところ、サイクリングには不向きな往来の多い道路であり、ようやく走れるのは、相模川が登場する33km地点あたり(以下、距離と標高は一部を除きルートラボ表示数値)。
休日であれば、このあたりから、道志みちに向かう仲間と思わしきサイクリストの姿を見かけることができる。あまり指摘されないようだが、この辺りから、距離は短いものの、登坂区間の出現回数が増えていき、結構キツイ。初級サイクリストならば、リアルスタートから41km地点、道志みちの入口となる国道413号の青山交差点でお腹いっぱい、というのが筆者の所感だ。リアルスタートから青山交差点までで獲得標高は630m。並みのサイクリストならば、お腹いっぱいになって当然だろう。
道志~山中湖湖畔
道志みちに辿りつくと、さらにきつくなる。惰性ではとてもこなせないアップダウンが続く。集団内にいても脚を使わざるを得なくなる場面が増えるはずだ。
青野原(約46km地点)まで進むと、盆地のなかの平坦路を走ることになり、開けた景色が広がる。以降も道志みちには、景色のよい場所がところどころに出現する。道路沿いにはキャンプ場が多々出現し、道の駅道志では、周辺に川遊びができる場所もあり、単に走ってみるだけではない楽しみがある。
道志から山中湖に抜けるまでの難関が山伏峠(80.3km地点)だ。標高1121メートル、9月下旬にこの場所を走って思ったのは、勾配のきつさよりも、気温と湿度ではないかと思えた。それほど標高は高くなく、気温が20℃台前半よりも高いとなると、汗だくになること必至。体力の消耗も半端ではなさそう。2018年のような猛暑を想定すると、頂上付近でも25℃以上、場合によっては30℃近い気温も想定される。
山中湖~最高標高地点~富士スピードウェイ
山伏峠を抜けて下りをこなすと、山中湖(約85km地点)に到着。通過する山中湖北側のマリモ通りでは、ようやく富士山の姿を拝める。五輪コースは、富士山近くを巡るが、一番眺めがよいのは、山中湖ではなかろうかと思う。山中湖も北側は多少の登坂区間がある。
山中湖の次は籠坂峠(約96km地点)だ。それほどキツイ場所ではなく、登坂区間も長くはない。印象的なのは、その先の下り道だ。ここは2車線あって、道幅が広く、かつ直線的な個所も多い。出そうと思えば、かなりスピードが出てしまう。
籠坂峠を下ると、女子は富士スピードウェイ方面に向かい、富士スピードウェイ周回と近隣の周回コースをこなしてフィニッシュとなるが、男子はまだまだ続く。男子コースは、富士スピードウェイには向かわず、御殿場市を抜け、裾野市まで南下する。約96km地点の籠坂峠(標高1107m)から124.3km地点の裾野市須山(標高589m)までは基本、下りと平坦基調をこなす。裾野市須山手前の国道469号線の眺めも抜群。五輪コースで3本の指に入る美しい景色が拝める。

選手たちにとって、問題はこの先だ。裾野市須山以降は、10%を超えるかなり厳しい上りが続く。男子コース最高標高はこの先の有料道路となる南富士エバーグリーンラインを越えたあたりの139.2km地点の1451m(公式発表数値)となるが、そこまで15km近い、険しい登坂区間をこなさねばならない。
ただし、残念なことに、南富士エバーグリーンラインは自転車の通行が不可。仮に五輪コースを忠実にこなしたい場合には、30kmほど回り道をしなければならない。五輪コースがサイクリストのメッカになることが簡単に予測されるにもかかわらず、なぜこの道を選んだのか不可解だ。もったいないと思う。


最高標高地点を抜けると、富士山スカイラインを下っていく。籠坂峠でも触れたが、男子コースで特徴的なのは、下り道で半端なく速度が出ること。富士山スカイラインも2車線あり、かつ直線的な区間が長く、下り勾配もそこそこあるので、時速100km近いスピードが出てもおかしくはない。
この後、選手たちはいったん、富士スピードウェイに到着(約165km)、場内を1周回する。そのあとで富士スピードウェイの周辺周回をこなして、もう一度富士スピードウェイに入って周回した後で、再び一般道へ抜けていく(約192km)。ここまででも十分勝負は成立しそうだが、男子コースがサバイバルと言われるのは、この先のクライマックスの三国峠をこなさねばならないことだ。
三国峠~籠坂峠~富士スピードウェイ
三国峠(201km地点、標高1171m)のキツさは半端ない。スマートフォンアプリ「ストラバ」によれば、峠入口から頂上まで6.7km、平均勾配は10.1%だが、激坂と称すべき区間が多々として出現、距離は短いが20%超の区間も存在する。
すでに190km以上走り続けて、この峠をこなすのは、無謀とも思われるほど。今大会がサバイバルレースであり、冒頭に述べたように「完走できる選手はいるのか?」という感想をより一層強める。
大会当日の天候は読めないが、気温の落ち着いた時期でさえ、そう思わせるのだから、猛暑ともなれば、想像を絶するキツさになることは間違いない。そして、ここまでで先頭が何人かに絞られるならば、ここが金メダル争奪戦の主戦場となることは間違いないように感じる。

三国峠に到達したところでスタートから約201km。残り34km。峠を越えると、再び山中湖が姿を見せる。山中湖まで下り、湖の南半分を通過して、再び籠坂峠を抜ける。富士スピードウェイにたどり着いて、ゴールと思いきや、そこをもう一度抜けて、いじわると思わせる周辺周回をこなさなければならない。
この周辺周回も曲者でしかない。一度かなり下ることになる。下った分だけ上らなければならない。女子と男子では周辺周回のコースが多少異なるが、女子コースを回った筆者の気持ちとしては「勘弁しれくれ」という以外の何物でもなかった。最後の10kmについても指摘されることはないだろうが、勾配は緩いが、だらだらと上るような坂道が続き、満身創痍の状態でも踏みごたえのある区間であることに違いはない。そこをこなしてようやく富士スピードウェイのゴールにたどり着き、王者が誕生する。


五輪コースを巡って思ったのは、本当に何人ゴールラインを無事に迎えることができるかだ。一般サイクリストレベルでは、コースを走破することは不可能に思える。そこに猛暑が加わると、ワールドツアーレベルの選手でも、果たしてどれだけ完走できるのか。険しい一部分でも実走してもらえれば、筆者のいわんとすることが実感できるはずだ。