E-spo主催の「静岡県東部地域におけるMTB普及計画」発表MTBの聖地と五輪レガシー創生へ注力する静岡県東部、その本気度を伝えるライドと会議に潜入

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 静岡県東部地域スポーツ産業振興協議会(E-spo「イースポ」)主催の「静岡県東部地域(伊豆)におけるMTB普及計画」発表と体験会が10月24日、静岡県東部の富士市と伊豆の国市をメインに開催された。午前中には富士市の富士山麓でe-MTBの体験ツアー、午後には静岡県の担当者、マウンテンバイク(MTB)で現在実際に事業を行っている関係者からの実例が発表され、東京五輪自転車競技、そしてその後の「レガシー」として「MTB」を活用する盛り上がりをアピールした。

誠信会を基点に富士山麓の林道を話しながら走る Photo: Kenta SAWANO

CSCにはMTBコースが新設

 静岡県は東京五輪の自転車トラック競技会場、マウンテンバイク会場、ロードレース競技のゴールなど、自転車界にとっても注目されている場所だ。おなじみ日本サイクルスポーツセンター(CSC)ではこれから五輪のMTBコースが造成。伊豆半島はアップダウンや林道も充実し、富士山のほうに近づいても多くのオフロードを走ることができる。

 静岡県文化・観光部スポーツ局長の山本東さんは「ロードバイクやオンロードでは『しまなみ』が有名ですが、静岡県は『MTBの聖地』にしていきたい。MTBとサイクルスポーツセンターを拠点に東部地域の取り組みを県全体に広げていきたい」と午前のライドイベント前に話した。静岡県は、e-MTBを始めとするスポーツ用自転車を利用し、東京2020オリンピック・パラリンピック大会後のレガシーとして、静岡県東部にてMTBを中心としたスポーツ産業を定着させる動きを始めている。

今回の拠点「誠信会」ではミヤタサイクルのe-MTB「リッジランナー」がレンタルできる Photo: Kenta SAWANO

富士市の福祉施設「誠信会」が始めたツアー

 午前のe-MTBのガイドツアーは富士山の南麓、富士市の社会福祉法人「誠信会」の施設のある敷地をベースにグループライドを開始。誠信会はこれまで介護施設、障害者支援施設、児童支援施設など運営してきたが、富士山麓の自然・文化・歴史をバックグラウンドに「福祉×健康×地域振興」を目指し、その活動のひとつとしてe-MTBによるガイドビジネスの参入を開始した。
 

蛇口から出てくる富士山の地下水をボトルにくむ Photo: Kenta SAWANO

 今年9月から始まったガイドツアーではミヤタサイクルのe-MTB「リッジランナー」を5台準備、職員が3つのレベルに合わせて、施設発着で林道や、国道を使って森の中をガイドしてくれる。静岡県内に341カ所(10月29日現在)あるBICYCLE PIT(バイシクル・ピット)のうちの一つで、バイクラック、空気入れのほか、蛇口からおいしい富士山の地下水が出てくる。その水をボトルいっぱいに入れ、スタートした。

誠信会もそのスポットとなる「バイシクル・ピット」は、この旗が目印 Photo: Kenta SAWANO
誠信会ではヘルメットもレンタル可能だ Photo: Kenta SAWANO

 コースは家族やカップル向けに楽しめる約20kmのもので、森の間から秋の日光が差す気持ちの良いグラベルが続いた。きつい上り坂は少ないと思いながら、参加者は周りの人と息も切らさず、上っていく。始めたばかりという誠信会の女性担当者も「e-MTB」がなかったらこのように走れなかったと思います、とその力を感謝している。

休憩ポイントでの会話も弾む Photo: Kenta SAWANO

 E-spoの事務局長を務めるライターの中村浩一郎さんも「面白いでしょ。e-MTBのおかげでみんな笑顔で会話しながら森を走れるよね」とその言葉通りに筆者も談笑しながら緩い坂道を上る。通常なら悪路に気を付けるばかりで、周りに目を配る余裕がなくなりがちなところを、e-MTBだと、周囲の景色や回りとの会話をいつも以上に感じることができる。初心者の方やパワーのない方なら、なおさら、と感じた。

富士山が時折顔を見せる中、ライドは進んだ Photo: Kenta SAWANO
大河ドラマ「直虎」の撮影地ではしっかり解説してもらえた Photo: Kenta SAWANO
この地固有の「フジアザミ」も道端で見ることができた Photo: Kenta SAWANO

 森の切れ目から時折顔をのぞかせる富士山を見ながら参加者は進んだ。ドラマ「直虎」のロケ地や、富士山の溶岩が露出した場所など、ガイドとして走る誠信会の黒崎昭彦さんは地元の人だから知っている、おいしいポイントや歴史を教えてくれた。富士山こどもの国で小休止し、舗装路の国道に出て、雲に隠れた富士山を横目に、アップダウンを繰り返した。カーボンのロードバイクでもきついような上りだが、さすがにe-MTBの力を借りているだけあり全く疲れず、最後の下りまでノーストレスでグループライドを楽しむことができた。

道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」にあるspokecafeには、MERIDAブランドの自転車や、最新e-BIKEがレンタルできる施設「MERIDAエクスペリエンスセンター」も併設 Photo: Kenta SAWANO
道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」にあるspokecafeではe-BIKEに充電もできる Photo: Kenta SAWANO Photo: Kenta SAWANO

 e-MTBをより広域で楽しむための充電ポイントの整備も進む。「伊豆E-BIKE充電ネットワーク拠点」も伊豆半島に17カ所設置され、充電器が完備されている。その拠点とも言える道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」にある「SPOKE CAFE」も視察。「MERIDA エクスペリエンスセンター」も併設し、ミヤタサイクルのe-MTB「RIDGE-RUNNER」や電動クロスバイクの「CRUISE」やロードバイクを借りられるほか、マップなどの配布も充実している。11月3日には「E-BIKE FESTIVAL」が開催予定で普及にも積極的だ。

◇         ◇

 静岡県東部を中心に進める「静岡県東部地域(伊豆)におけるMTB普及計画」のカンファレンスでは、自治体、トレイルビルダー、ガイドツアー、メーカー側と様々な担当者から現状の報告と、静岡の可能性、今後の課題が発表され、会場の席を埋めた約40人の参加者は熱心に耳を傾けた。以下、各登壇者の発表内容の概略をお伝えする。

林道を走れるルール作りを

静岡県文化・観光部 スポーツ局スポーツ振興課の大石哲也さん:静岡県では東京五輪自転車競技トラックとMTBの開催が決定。国内外のサイクリストの憧れの聖地にしようと、28年に「静岡県サイクルスポーツ協議会」を立ち上げた。サイクリング情報を一元化したウェブページ「SHIZUOKA CYCLING」を開設。東部伊豆地方を中心にバイシシクルピットを設置。30年に4月、発展させるため「静岡県サイクルスポーツの聖地創造会議」を県知事をトップにした官民一体に県全体で盛り上げていく体制を作った。静岡はベロドロームから、自然豊かなサイクリングコースまで、トップから裾野のサイクリストまで楽しめるところで、静岡を打ち出していきたい。サイクルツーリズムとしてはe-BIKEに力を入れていく。

静岡県文化・観光部 スポーツ局の大石哲也さん Photo: Kenta SAWANO
静岡県のMTBの可能性の発表 Photo: Kenta SAWANO

 今後「五輪をやったよ」と言える場所をどれだけ残せるかが大事で「自転車競技レガシー検討委員会」も設立。2020年以降もロードの大会を招致していく。静岡県のMTBの可能性。特に東部伊豆は温暖な気候、変化にとんだ美しい自然環境や温泉、海山に恵まれ、通年でMTBで走れる、無数の未舗装の林道が縦横無尽に張り巡らされている。さらに五輪MTBコースができる。YAMABUSHI TRAILがあるほか、御殿場のFUTAGO MTB PARKも完成予定。誠心会のMTBツアーも開催し、民間も入ってMTBの動きが活発化している。

 このポテンシャルを引き出すために、世界的なMTBの聖地、カナダ・ウィスラーのように、上級者から初心者までが満足するようなMTBのフィールドに発展させていきたい。課題は無数のフィールドやシングルトラックを立ち入るためのルールをが確立されていない。ESPOを中心にハイカーの団体などと調整を進めていきたい。オープンにできないグレーな場所を、クリアーにして拡大していきたい。小学生などの若年層から楽しめるようにパンプトラックなども作っていきたい。サイクルスポーツセンターを中心に、様々な林道を走れるルール作りを進めていきたい。

地元にお金が落ちる観光としてのMTBツアー

YAMABUSHI TRAIL・平間啓太郎さん:西伊豆松崎をメインにマウンテンバイクのガイドツアーを行っている。再生した古道、車社会になる前、馬が物資を運んでいる時代にできた生活道の古道がまだ、山の中に眠っている。そのほかにコースに面する森林の整備、人が入らなくなり荒れ果てた山を再生している。昔、そりに物資を乗せて馬で引きずっていてできた道。代表の松本潤一郎は、10年前に西伊豆に移住し、地元のお年寄りから聞いた古道の雰囲気、その歴史に関心がわき、「西伊豆古道再生プロジェクト」が5年前に始まった。農家、トレッキング好きを中心に広く活動をしている。

YAMABUSHI TRAILの平間啓太郎さん Photo: Kenta SAWANO
YAMABUSHI TRAILの紹介 Photo: Kenta SAWANO

 古道を管理している町にしっかり話を持っていき、許可をもらっている。そこでポイントなのが「マウンテンバイク」という言葉ばかり使わないこと。お年寄りにMTBと言ってもわからないことが多く、まずは森林整備をすることを伝える、その代わりに直した山を使って観光を地元にもっていきたいと話す。伊豆は海に観光客が来るばかりで山にそのうまみはなかったが、山に観光客が来ることをお話を進め、今も良好な関係ができている。

YAMABUSHI TRAILの平間啓太郎さんの話を熱心に聞く参加者 Photo: Kenta SAWANO

 私たちが成功している要因として、マウンテンバイクとのコースを作ることが目的でなく、観光の手段としてMTBを扱っていることが考えられる。サイクリストだけでなく、いろいろな人に来て楽しんでもらいたい。トレイルは6、7割で、残りは地元の古い町並みや、伊豆の自然が楽しめるツアーのコースづくりを心掛けている。去年よりも2018年のほうがビギナーの割合が増えてきており、取り組みは間違っていないと実感している。

eバイクを通じて新しい福祉を

誠信会・長谷川康徳さん:児童、高齢者、高齢者のために昭和38年から福祉施設を始めた。従来の福祉サービスではだめ。e-BIKEにより、人が二の丸ビレッジに人が集まり、交流していく。富士山登山ルートに隣接しており、外国人客も含め、人が増えている。しいたけの原木なども楽しめ、「フジアザミ」などこの地特有の植物が楽しめる、蕨などの山菜や、山芋もとれる。吉原登山道という古道もあり、復活させたい。MTB初心者をターゲット。eバイクを通しガイドビジネス。ガイドできる人材を養成していき、さらなる付加価値を見出していきたい。

長谷川康徳さん(右)ら誠信会の発表 Photo: Kenta SAWANO
誠信会が作った散走MAP Photo: Kenta SAWANO 

誠信会・三枝裕美さん:マウンテンバイクが初めてという人に来てもらいたいと思っている。私もe-MTBに出会わなければこんな良いコースを知ることができなかった。親子父娘で滞在。子育て世代、お父さんだけ言ってお母さんは我慢していたが、これからは家族もママチャリから脱出してちょっとアクティブに乗ってほしい。昔すごく乗っていたという人にも楽しんでほしい。誠信会では、「散走マップ」を作製。3つのコースを提案。地元の人との交流が楽しんでほしい。

公共MTBパークを行政の手で

TRAIL LAB・浦島悠太さん(MTBトレイルビルダー):アメリカ、オーストラリアで有名トレイルの造成に参画。各国の施設の作り方、流れを実例で紹介。何回も来たくなるコースを作ることが大事、そういった意味ではプロのトレイルビルダーに任せることが大事。建設費は規模、地形、日程で変わる。静岡県東部の可能性として、通年利用できる、東京からのアクセスの良さ、観光施設もあるので、お客さんの受け入れ態勢も整っている。

TRAIL LABの浦島悠太さん Photo: Kenta SAWANO
TRAIL LABの浦島悠太さんによる公共パークの目的 Photo: Kenta SAWANO
TRAIL LABの浦島悠太さんによる「静岡県東部の可能性」 Photo: Kenta SAWANO
TRAIL LABの浦島悠太さんの発表 Photo: Kenta SAWANO Photo: Kenta SAWANO

 アジアではインドネシアにあるバリ島、タイ・チェンマイの2カ所に代表的なパークがある。伊豆でも同様のものができるポテンシャルがある。最後にお伝えしたいことは、マウンテンバイクをライフスタイル(ジョギングするような)は営利目的のパークだけではだめで、行政が公共パークに力を入れる必要がある。生半可な投資では成立しない。それなりの先行投資が必要。運営するのであれば、実際に海外にMTB文化や事例に触れることが大事。

「楽しむためには林道にもルールを」

雑誌編集者の立場から離した鏑木裕さん Photo: Koichiro NAKAMURA

MTB雑誌編集者・鏑木裕さん:大学時代から伊豆半島の林道を走りつくしてきた。オンロードは、極端な話、ストリートビューを見ればわかる時代。その中でオフロードはどんな景色が待ち受けているか、毎回わくわくする、季節によっても違うし、去年と今年でも違う。峠から海が眼下に見える環境ですばらしい林道が多いが、楽しい場所をSNSアップできないのが現状。諸事情があるのは理解しているが「宝の持ち腐れ」というのが率直な感想。今は各ユーザーがマスコミのような状態なので、行政がPRしなくても、それぞれのユーザーが「あそこはグレーでなく、白いらしい(合法に走れる)」ということになれば、どんどん盛り上がっていくと思う。

自転車教室や山の整備で地元貢献

MTBショップ・古群今日史さん:マウンテンバイクは色々な考え方、楽しみ方がある。ダウンヒル競技のようにさっそうと走り爽快感を楽しむこともあれば、家族や仲間と自然をゆっくり楽しみ「非日常」を体験することも楽しい。地元だからできることと言えば、地元の小学校での自転車教室や山の整備。また、山で人がいなくなった時に、みんなで探したが、MTBに乗っていた人がまっさきに探し当てることができた。

ローカルの視点でスピーチする古群今日史さん Photo: Koichiro NAKAMURA<br />

「楽しむためには林道にもルールを」

ミヤタサイクル・福田三朗さん:(自転車協会のMTB市場活性化委員としてフィールド助成金制度を紹介)。マウンテンバイクをどこで楽しむのか。少しでも乗れるところを増やしたい。自転車を販売製造するだけでなくフィールドを広げていきたい。伊豆半島はそもそも観光交流客数が4525万人いる。そこを自転車で楽しむ拠点が「MERIDA X BASE」。全国350万人のサイクリストの中からでなく、伊豆に来る4525万人の観光客の中から自転車に乗ってもらうことを狙っている。

ミヤタサイクル・福田三朗さん Photo: Kenta SAWANO
サイクリストと伊豆半島サイクリングの親和性の発表 Photo: Kenta SAWANO
X BASEではe-MTBのレンタルも可能 Photo: Kenta SAWANO

 そういった観光客にはマウンテンバイク、特に上りも楽なe-MTBを勧めたい。X BASEを拠点に、アップダウンの少ない狩野川沿いや、海岸線まで30分 様々なコースを提案していきたい。SUP(スタンドアップパドルボード)、クライミング、ダイビングと並んで、新しいアクティビティーとしてe-MTBを提案していきたい。またメリダの契約するプロ選手と一緒にe-MTBで一緒に楽しむライドも楽しめそう。東京五輪のあとのレガシーを目指し、地域のみなさん、観光施設との協業でツアーを行い、伊豆半島を自転車で活性化させたい。

◇         ◇

 日本各地から集まったMTBレジェンドも加わったカンファレンス後の懇親会では、さらに深い議論が交わされたという。静岡が新たに火をつけつつあるMTBの盛り上がりに注目し、また第2回のカンファレンスに期待したい。

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