3日間の「旅+観光サイクリング」“魔の山”モン・ヴァントゥを上り尽くす アマチュアレース「オートルート・ヴァントゥ」リポート

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 ツール・ド・フランスなどの山岳コースを舞台に繰り広げられるアマチュアステージレース「HAUTE ROUTE」(オートルート)。今回は「プロヴァンスの巨人」(Géant de Provence)の別名を持つ「モン・ヴァントゥ」(Mont Ventoux)で開催されたレースに、同イベントの日本人アンバサダーである対馬伸也さんが挑戦しました。ツール・ド・フランスで歴史に残る数々のドラマを生み出してきた“魔の山”モン・ヴァントゥ。10月5〜7日の3日間をかけ、さまざまな側面から魅力に迫るレースの様子をリポートしてくれました。

頂上にある“シンボル”、天文観測塔をモン・ヴァントゥ東側ルートから望む  ©Haute Route

数々の激闘の舞台

 モン・ヴァントゥはフランス南東部、ヴォクリューズ県の北部に位置する。標高は1912m。古くから造船のために木々が切り出されたため、山頂付近の山肌には草木が生えることは無く、名前にもなっている通り「強い風」(Vent)が特徴だ。むき出しの石灰岩がごろごろところがり白く無機質な、どことなく寂しい雰囲気が広がる山だ。

荒寥とした雰囲気に包まれる。草木はほぼ存在しない ©Haute Route

 ベースとなる麓の村、ベドアン(Bedoin)から頂上までの上りは21.8km。その勾配は当初数キロこそ5〜6%だがそれ以降、ほぼ10%前後の勾配がひたすら続く。さらに木々が姿を消す後半は強風という手強い敵も現れ、山頂付近の天候が目まぐるしく変化する。麓で晴れていても風が吹いてきたら要注意。頂上付近はかなりの強風、地中海まで吹き降ろすミストラルが吹き荒れている可能性が高い。霧がかかることも多く、寒暖差もあり、軽装備で上るのはとても危険な山だ。「死の山」「魔の山」とも形容され、その荒寥とした景観も相まり「不気味な山」のイメージをさらに増幅させる。

この山で数々のドラマが繰り広げられた Photo: Shinya TSUSHIMA

 1951年にツール・ド・フランスではじめてルートに採用されたこの山岳は幾多のドラマを生み出してきた。1967年に英国のトム・シンプソンが熱射病の為に命を落とし、2000年のマルコ・パンターニとランス・アームストロングの激闘ではゴール後にパンターニがレースをリタイア。2016年にはクリストファー・フルーム(チーム スカイ)が観衆に囲まれスタックしたバイクに追突して落車、ランニングで駆け上がった姿も記憶に新しい。

 山頂へ通じるルートは3つある。先述したベドアン(Bedoin)から上る南側の定番ルートに加え、東側のソー(Sault)から上るルート、そして西側マロセーヌ(Malaucène)から上るルート。今回の「オートルート・ヴァントゥ」はこの3つのルートを含むモン・ヴァントゥ周辺の起伏に富んだコースを3日間かけて走破する。

“世界一タフ”なアマチュアサイクリングレース

 オートルートについて説明しておくと、フランス語で「高い(Haute)道(Route)」を意味する同イベントは、ツール・ド・フランスなどのコースでおなじみの山岳地帯を走破する“世界一タフ”なアマチュアサイクリングレースイベントとして2011年8月にスタート。アルプスを舞台に第1回大会が開催された。

スイスのジュネーブからフランスのニースへ。記念すべきオートルートアルプス第1回大会  ©Haute Route

 スイスはジュネーブのレマン湖からスタートし、イゾアール峠やマドレーヌ峠などの有名な12の峠、国境を越えてフランスのニースまでの総走行距離720km、総獲得標高は1万7000mというプロファイルだった。F1ワールドチャンピオンのアラン・プロストや、アルペンスキーの世界王者であり、パリ・ダカールラリーで総合2位に食い込んだリュック・アルファン、ツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリア総合優勝のステファン・ロッシュも参戦していた。

オートルートステルヴィオ、ボルミオのスタートシーン ©Haute Route

 世界各国の剛脚自慢なサイクリスト達を魅了する一方、「Ride like a pro」というコンセプトのもとに、メカニックやマッサー、マーシャルやサポートビークル、宿泊手配、荷物の運搬などプロのレースと同等のサポートを受けられる市民レースとして毎年進化を続ける。ここ数年で規模が拡大し、北米エリア、ラルプ・デュエズやステルヴィオ峠、そして今回筆者が出場するモン・ヴァントゥなど有名どころの山岳を味わい尽くす3日間シリーズも開催され、様々な国のサイクリストの人気を博している。

世界のサイクリストたちとの出会い

 さて、本題に戻る。オートルート・ヴァントゥ出場にあたり、最寄りのマルセイユ空港からオートルートが手配したシャトルバスを利用した。大きい荷物を運びながらの旅程は負担が大きいので、空港と開催地までの往復シャトルはとても便利だ。レースの拠点として、今回はモン・ヴァントゥ麓の村ベドアン(Bedoin)に宿を構えた。

 宿の手配でおすすめなのはレース申込時に選択可能なオートルート公式の宿、かつ6~10人程度の大部屋に宿泊することだ。各国から集まる選手たちは同じレースに出る者同士すぐに仲良くなれる。レース前日のレジストレーションの夜に開催されるパスタパーティーやレース中でもそれなりに交流できるが、同じ宿に宿泊し「同じ釜の飯を食う」ことでより強い絆が生まれる。

オートルート常連のツアー会社社長と再会を喜ぶ ©Haute Route

 「アジア地域から海を越えてやってきた日本人サイクリスト」となると、いわゆる“レアキャラ”。彼らにとって大きく興味を惹く対象となる。このアドバンテージを活用しない手はない。英語に自信がなくても心配無用。言葉の壁はすぐに越えられる。積極的に話しかけ、国際交流を楽しむことを強くおすすめする。

 筆者は様々なご縁で2015年よりオートルートに出場するようになった。毎年出場しているとレース、パーティー会場ではスタッフや選手同士で同窓会の様相を呈する。再び会うことができた幸運に感謝し、また一緒に走れる喜びを感じ、固く握手を交わしながら「元気でいられるように努力し、来年もまた再会しよう」と強く感じる。

頂上の天文観測塔に興奮!

 オートルート・ヴァントゥ初日は快晴に恵まれた。ステージ1は東側のソー(Sault)から上るルート。走行距離113km、累積標高差は2700m。峠はトロワテルム峠(Col des Toris Termes)、ラガルド峠(Col de Lagarde) 、そしてステージのラストに東側ルートのモン・ヴァントゥクライムが待ち構える。今年からオルタナティブ(ショートコース)が新設され、サイクリング初中級者にもその門戸を広げた。それでも90km、2050m。ショートとはいえ走りがいのある設定だ。

ベドアンのスタート地点からモン・ヴァントゥを見上げる。やはり大きく、高い。山肌が露出した白いエリアの頂上にぽつんと天文観測塔が見える。標高1912m。これから3日間上り続けるのかと思うと興奮を抑えきれない ©Haute Route
スタート地点からモン・ヴァントゥを撮影する人々 ©Haute Route
ステージ1スタート直前。ほどよい緊張感に包まれる ©Haute Route

 初日は南仏の美しい景色にテンションが上がり、トレイン先頭で頑張りすぎて明らかにオーバーペースで走ってしまい、コース後半はバテてかなり脚の痙攣に悩まされた。リフレッシュメントポイント(エイドステーション)で新鮮なフルーツやハム、チーズやクラッカー、エナジージェルなどを補給できる。痙攣を抑えるためハムに塩コショウを振り、水分とともに多めに補給した。

補給ができるリフレッシュメントポイント Photo: Shinya TSUSHIMA

 モン・ヴァントゥの東側ルートは距離25.6km、獲得標高は1216m。平均勾配こそ4.5%とそれほどでもない印象を受けるが、最大12.9%区間もあるなど、後半は頂上に近づくにつれ勾配がキツくなっていく。標高が上がるにつれて石灰岩の白い山肌が目立ち始め、徐々に独特の寂寥感が増していく。

 しかし横に目を向けると南仏、地中海方面を一望できる素晴らしい景色が待っている。その美しさに息をのむ。

見晴らしがよく、レースの途中でも足をとめて撮影してしまうほどの絶景 ©Haute Route

 ラストの上り500mは特に勾配がきつい。観光客も声援を送ってくれる。最後の力を振り絞って上る。ゴール地点ではカメラマンが待ち構え、先にゴールした選手たちが祝福してくれた。

足の痙攣に悩まされながらステージ1クリア ©Haute Route

 ゴール後はレースビレッジに戻り、温かいシャワーと食事、疲労回復のためのマッサージを受けることができる。そのあとは自由時間だ。ビレッジで過ごすもよし、町に繰り出すのも良い。

 夜はブリーフィングで再び集合し、翌日のコース解説や危険個所、天候の推移見込みなどの説明を受ける。ステージ毎に成績上位者への表彰式も行われる。今年から2人ペアのタイム合計で競われるDUOカテゴリーが新設された。2人のうち遅い方のタイムで順位が決まる。まだ全体的にエントリーが少ないカテゴリーなので、表彰台狙いで挑戦するのも良いだろう。

 そしてユニークなのは「Sock Porn」賞。毎ステージ、一番目立つソックスを履いていた選手が優勝し、記念品がもらえる賞だ。速い選手だけではなく、参加者みんなに楽しんでもらいたいという主催者側のホスピタリティを感じる。

初日の優勝者はスーパーマンのマント付きソックス。これに勝てる一品はそうそう無いだろう ©Haute Route

130kmで標高3000m超の2日目

 ステージ2はモン・ヴァントゥを西側からの「マロセーヌルート」で上る。距離21.1kmで平均勾配7.5%、最大12.7%。スペック的にはステージ1の東側ルートよりタフな上りだ。ロム・モール峠(Col de l’Homme Mort) 、ゼール(Col des Aires)を越えてモン・ヴァントゥにアプローチする。マロセーヌは、かつて教皇庁のあった城塞都市アビニョンの北東約40km、ベドアンの北西に約13kmほどの位置にある。村の中央部にあるサン・ミッシェル教会は中世時代に周囲の丘陵地帯に城壁を築き、今でもその面影を残す。

マロセーヌ中心部を抜けモン・ヴァントゥへ向かう ©Haute Route

 このマロセーヌ中心部を抜けモン・ヴァントゥへ向かう。走行距離133km、累積標高は3300mというコースプロファイルで、予想どおりのキツい上り。2日目ともなると、選手同士交流が深まっており、選手同士で会話しつつ励まし合いながら上る。マヴィックサポートも応援しながら走行してくれた。

エナジージェルを分け合い、声をかけあう ©Haute Route
日本でもおなじみマヴィックのサポート。トラブル時は迅速に対応してくれる ©Haute Route

プロさながらの雰囲気が味わえるTT

 ステージ3は個人タイムトライアル(ITT)だ。7日間仕様のアルプス、ピレネーなどでは3日目または4日目にこのITTが休息日として設けられるが、3日間シリーズのオートルートでは“結びの一番”だ。コースはスタート地点のベドアンから直接モン・ヴァントゥに向かう南側ルートで上り、途中標高1400mほどの地点にあるスキーステーション付近で初日の東側ルートと合流する。ツール・ド・フランスでもおなじみのルートで距離21km、累積標高は1600m。平均勾配7.5%、最大12.9%。コース中盤の激坂とラスト6kmにきつい上りが待ち構える、タフなタイムトライアルだ。

スタート地点でスタッフに荷物を預ける。下山後のシャワー用グッズや着替えも入れておく ©Haute Route
モン・ヴァントゥ頂上でカテゴリーごとにバックパックを整理してくれていたスタッフ  ©Haute Route

 初日、2日目同様レースバッグはスタート地点付近で預け、モン・ヴァントゥ頂上で受け取ることが出来る。くどいようだが頂上付近の天候は変わりやすい。「下界に戻る」には距離20km以上のダウンヒルが待ち構えている。冬装備は必須。雨天ならなおさらだ。

スタートの説明と合図を出してくれるスタッフ。通常15秒間隔だが雨の影響からか20秒間隔に ©Haute Route

 タイムトライアルは20秒おきに選手たちが順次スタートしていく。スタート台に立つと目に入るカウントダウンの電光掲示板が刻々と変わる。緊張とワクワク感の入り交じる、なんともいえない高揚感に包まれる。

電光掲示板が気分を盛り上げてくれる ©Haute Route

 スタート後、ほどなくモン・ヴァントゥの上り区間に差し掛かり、視界は徐々に雨と霧に包まれていく。聞こえてくるのは自身の息遣いとペダリングの音。車の往来も少ない。前を走る選手の背中がぼんやりと見えてくる。幻想的なモン・ヴァントゥをゆっくりと味わいながら上った。

静寂に包まれる中をひたすら、上る ©Haute Route

 勾配が少し緩やかになり呼吸を整えながら上っていると、遠くからカウベルのような音が微かに聞こえ、霧の向うから何か白いものがたくさんこちらに向かってくる。目を凝らすと羊たちと羊飼い、牧羊犬たちだった。ほどなく彼らに囲まれてしまい走行不能に。脚をついて停まり、やり過ごすことにした。

タイムトライアルだが足をとめて写真をとる選手も多かった。走り続ける選手はぶつからないよう注意 ©Haute Route

 フランス南部、プロヴァンス地方ではいまだに移牧の文化が残る。初夏の頃、世界最古の職業とも言われる羊飼いは羊や山羊を引き連れ、新鮮な牧草を求めて高地に登る。そして雪が降る前のこの時期、村まで下山してくるのだ。こんな嬉しいハプニングは大歓迎。ヨーロッパサイクリングの醍醐味ともいるだろう。他の選手たちも一様に驚くが、写真を撮ったりとても楽しそうだ。貴重な体験だった。

ラストスパートをかける選手 ©Haute Route
オルタナティブコースの選手。ガッツポーズ ©Haute Route

 笑っても泣いてもこれが3日間最後のモン・ヴァントゥ。最後の500mを全力でかけ上り、ゴール後は検討を称えあった。

全力で上りきり力尽きた選手をフォローする光景が多くみられた ©Haute Route
ゴールを称えあう選手達 ©Haute Route

 名残惜しいが頂上は天候が荒れに荒れ、その場にとどまるには危険な状態が近づいてきていた。後続の選手に声援を送りながら下山を開始した。「次はどの国の峠を攻めようか」、そんなことを考えながら─。

海外サイクリングのきっかけに

 2011年にオートルート・アルプスとしてスタートしたこのイベントは、2012年よりピレネー、2014年よりドロミテを舞台に繰り広げられ、米国ではグラベル系のオートルート・ロッキーなどの7日間イベントが誕生した。今回のように「旅+観光サイクリング」のカラーが強い3日間のコンパクトなレースも行われている。ステルヴィオ峠を上り尽くすオートルート・ステルヴィオ、憧れのラルプデュエズを走るオートルート・ラルプデュエズ、美しい海岸線とフィヨルドの激しいアップダウンを堪能するオートルート・ノルウェーの他、北米のユタ、サンフランシスコ、アシュビルも人気だ。

 2019年は新規のオートルート・メキシコ、初の中東開催オートルート・オマーンも予定されている。「The world’s most prestigious multi-day events for amateur riders」というコンセプトを掲げ、アマチュアサイクリストにとって最も栄誉のあるイベントとして進化を遂げいている。すでに2019年のイベントエントリーページはオープンしている。海外のレースイベントや最初の海外サイクリングのきっかけとして、ぜひオートルートにチャレンジしてほしいと思う。

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オートルート オートルート・モン・ヴァントゥ2018

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