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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<269>サバイバルと誤算が勝敗を分ける UCIロード世界選エリート男子総括

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 初出場から足掛け15年、12回目の出場。7個目のメダル獲得が悲願の金色に輝いたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)。プロトン古参の38歳は、長年スペイン代表のエースとしてふさわしい走りを見せてきたが、これまでの苦労がついに成就した。9月30日までオーストリア・インスブルックで行われたUCIロード世界選手権。大会最終種目のエリート男子ロードレースは、近年では類を見ない獲得標高4600mの山岳コース。今年の世界一を決める戦いは、最終局面まで生き残る脚とレース運び、そして各国の生まれた大小あらゆる誤算によって勝敗が分かれたのだった。

UCIロード世界選手権エリート男子ロードレースを制したアレハンドロ・バルベルデ。初挑戦から15年、悲願の世界制覇となった Photo: Yuzuru SUNADA

恵まれたチーム力と勝ちパターンに持ち込んだバルベルデの巧みさ

 252.9kmで争われたエリート男子ロードレース。UCIワールドツアーを主戦場とする選手たちを中心に、ロード最高峰の戦いが演じられた。

山岳地帯をゆくプロトン。獲得標高は4600mに上った Photo: Yuzuru SUNADA

 コースが発表された段階から、ここ数年の世界選手権とは比較にならないほど厳しいものと評され、早くから「クライマー有利」が大方の予想だった。

 ふたを開けてみると、周回コースに入ってから7回越えたイグルス(登坂距離7.9km、平均勾配5.7km)の上りが選手たちをふるいにかけ、周回を経るごとにプロトンは小さくなっていった。特に今シーズンのレースプログラムなど、シーズンインからここまでをどう送ってきたかの差が顕著に表れた印象で、先のブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)といった、今年フル回転してきた選手たちが集団の揺さぶりが始まるとともに、勝負から姿を消していったのだった。

 そんな中で、今回優勝したバルベルデは、力のあるクライマーをそろえ戦略的に走ることができたチーム力と、最終局面までしっかりと生き残って少人数でのスプリントにかけたところに勝因がありそうだ。

スペイン代表のアシストを務めたオマール・フライレ(左)とエンリク・マス。役割を果たした後はバイクを降りた2人だったが、バルベルデの勝利を知り感激の抱擁 Photo: Yuzuru SUNADA

 集団のコントロールにはヨナタン・カストロビエホ(チーム スカイ)が入り、レース後半から散発したアタックにはオマール・フライレ(アスタナ プロチーム)らを送り込み、終盤のグラマルトボーデン(登坂距離2.8km、平均勾配11.5%、最大勾配28%)が優勝争いに直結すると見るや満を持してバルベルデが前方へ。その後ろではヨン・イサギレ(バーレーン・メリダ)、ミケル・ニエベ(ミッチェルトン・スコット)といった、これまた実力者が追撃ムードを鎮火させる役割を担い、「バルベルデ勝負」を盤石なものとした。

 もっとも、最後の登坂から一度下って、フィニッシュを目指すコースセッティングは、バルベルデの得意とするところ。次々やってくる上りに対応し、絞り込まれた数人で下りを加速させ、最後は小集団スプリントで勝負。極端な言い方になるが、「フィニッシュを待てばよいだけ」のバルベルデにとっては、勝ちパターンに持ち込んだことが今回の決め手になったといえそうだ。

 38歳と、現在のプロトンでは最年長であることを感じさせない力と勝負強さ、そして世界王者への執念がもたらした今回の劇的な勝利。過去の薬物問題への関与によって、2010年から2シーズン資格停止となったこともあり、この結果に対する懐疑的な見方も一部ではあるようだが、「バルベルデ向きのコースだった」との関係者の声や、「今大会の勝者にふさわしい選手」とグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)が賞賛するなど、勝つべくして勝ったと見てよいだろう。

優勝を決めて大喜びのアレハンドロ・バルベルデ。得意の展開に持ち込んで大願を成就させた Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなバルベルデは、10月1日に帰国し、チームのメインスポンサー「モビスター」を運営するテレフォニカ社で優勝を報告。大きな拍手を浴びた。晴れてマイヨアルカンシエルに袖を通した大ベテランは、次戦について言及していないが、過去のレーススケジュールに照らし合わせると、10月13日のイル・ロンバルディアへの出場が期待される。世界選手権をシーズン最終戦に据える王者も多くみられるが、登坂力・スピード・勝負強さが求められるロンバルディアは、いわばバルベルデの専門レース。意外にも彼のタイトルリストには入っていない大会とあり、“落ち葉のクラシック”とも称されるシーズン終盤のビッグイベントが、アルカンシエルお披露目のレースとなる公算が高い。

誤算生じた有力国

 期待に違わない好勝負だったレースの中にも、さまざまなドラマが存在する。特に今大会は、有力国の誤算が最終的な結果に大きく影響した側面も見られる。

フランスはロマン・バルデが2位。遅れを喫したジュリアン・アラフィリップに代わって勝負を託された Photo: Yuzuru SUNADA / Pool

 ロマン・バルデ(アージェードゥーゼール ラモンディアール)を2位に送り込んだフランスは、勝者バルベルデとならんで優勝候補の最右翼に挙げられていたジュリアン・アラフィリップ(クイックステップフロアーズ)がグラマルトボーデンで失速。ティボー・ピノ、ルディ・モラール(ともにグルパマ・エフデジ)が終盤のお膳立てを担い、残り約10kmまではプラン通りに展開していたように思われた。しかし、最大勾配28%の激坂でアラフィリップが遅れ、バルデに勝負をスイッチを余儀なくされた。アラフィリップとしてはレース最後のこの難所を前方でクリアできていれば、フランス勢が最終局面を有利に展開していた可能性があっただけに、チームとして悔しい結果となった。

 それでも、グランツールレーサーのバルデがしっかりと役割を果たし、今年4月のリエージュ~バストーニュ~リエージュ(3位)に続くワンデーレースへの強さを見せたあたりはさすが。トップ10にアラフィリップ、ピノも続き、チーム力は出場国中随一だったといえる。

イタリアはジャンニ・モズコンが粘って5位。エースを務める予定だったヴィンチェンツォ・ニバリは振るわなかった Photo: Yuzuru SUNADA

 イタリアはジャンニ・モズコン(チーム スカイ)が5位。こちらもグラマルトボーデンで遅れたが、その後も粘りを見せて、上位でまとめた。イタリア勢は当初はヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)が絶対エースとなるはずだったが、ツール・ド・フランスでの落車による椎骨骨折のダメージがいまだ癒えず、プラン変更を強いられた。コースレイアウト問わず力を発揮できる24歳のモズコンが将来につながる走りができた点は収穫だ。

 イェーツ兄弟の活躍が有力視されたイギリスは、その両者が遅れ、終盤にアタックで見せ場を作ったピーター・ケニャック(ボーラ・ハンスグローエ)の16位が最高。ツールを沸かせたゲラント・トーマスやクリストファー・フルーム(ともにチーム スカイ)らを欠くメンバー編成で、勝負できる駒数が限られてしまったあたりは否めない。

3人出走のカナダはマイケル・ウッズが殊勲の3位。春のクラシックに続く活躍を見せた Photo: Yuzuru SUNADA

 その点ではオーストラリアも同様。エースとなる見通しだったリッチー・ポート(BMCレーシングチーム)が代表入りを取りやめたことに起因し、チーム力が落ちてしまった。25歳のジャック・ヘイグ(ミッチェルトン・スコット)が奮起し19位になったところが、将来へのポジティブな点か。

 こうした伝統国が苦戦をしていた中で、3人で出走しレース後半はほぼ単騎の状態ながら3位に食い込んだマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)や、終盤の下りで驚異的な追い上げを見せた4位のトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)などは、優勝こそならずも高い評価に値する走りだった。タイプ的にステージレース、ワンデーレースともに対応できるあたりが、今回の走りにも生きていた感じだ。

2019年大会はイギリス・ヨークシャー地方で開催

 UCIロード世界選手権2019年大会は、イギリス・ヨークシャー地方の開催が決定している。エリート男子ロードレースは、同国中部のリーズをスタートし、その北のハロゲイトにフィニッシュする284.5kmとなる予定だ。

2019年のUCIロード世界選手権はイギリス・ヨークシャー地方で開催される(写真はイメージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 また、今大会の会期中に2020年以降の開催地も決定。2020年はスイスのフランス語圏にあたるヴォー州とヴァレー州で行われる。UCI本部が置かれるスイスでの開催は11回目となるが、フランス語圏で行われるのは初。

 2021年は、ベルギー・フランドル地域で開催。ベルギーメディアの報道では、北部のアントウェルペンをスタートし、中部のルーヴェンでのフィニッシュが予定されているとのこと。

 また、2024年にはパラサイクリング世界選手権との併催で、スイス・ドイツ語圏が開催地となることもあわせて発表された。

今週の爆走ライダー−アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 「今すぐ引退してもよいくらい」、史上2番目となる年長者での世界王座。その言葉は、38歳のバルベルデの偽らざる気持ちであることは、レースを追ってきた方々であれば誰もが理解できるだろう。

世界王者となり喜びに浸るアレハンドロ・バルベルデ Photo: Yuzuru SUNADA

 マイヨアルカンシエルへのチャレンジは2003年に始まった。当時プロ2年目だった彼は、才能を開花させ勝利を量産。世界を制する可能性も高いと見られたが、このときは代表のチームメートだったイゴール・アスタルロアにその座を譲った。

 そこからが長かった。代表の常連となるが、2位1回、3位となること4回。いつしか「ブロンズメダルコレクター」とまで言われるようになった。その間、2シーズンの資格停止期間があったり、チーム内での連携がちぐはぐとなり波紋を広げた2013年大会など、さまざまな出来事があった。

 7個目の世界選手権メダルは、ついに最高の輝きとなった。数々のクラシックレースを制し、グランツールでは2009年にブエルタで総合優勝。そして世界の頂に立ち、「サイクリストとしてのキャリアで達成したいことはすべて果たした」と言い切った。

 ただ、引退する気はまったくないという。今後のキャリアは「自分への贈り物」として、走ることになる。次なる大きな目標は40歳で臨む2020年東京五輪。長い競技人生の集大成は日本で迎えることになりそうだ。

 帰国早々、スペインのスポーツ省で表彰されるなど、母国でも賞賛を浴びる。これからおおよそ1年間、ビッグレースで大暴れするマイヨアルカンシエルが見られるだろう。やっとの思いで到達したマイヨアルカンシエルだが、これからはその領域を超越するチャレンジが始まる。

4人によるスプリントを制したアレハンドロ・バルベルデ(中央)。「キャリアで達成したいことはすべて果たした」というこれからは、2020年の東京五輪を目指して走っていくことになる Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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