石巻市出身の五十嵐夫妻、妹の美和子さん「仮設住宅の応援が少なくなって、うれしい」ツール・ド・東北を毎年走る地元出身夫妻が感じた変化

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 「応援してたら応援されてた」の言葉通り、宮城の被災地を走って、体感して応援する、ツール・ド・東北には、6年目の今年も50kmから210kmまで6つのコースに分かれて3649人が復興サイクリングを満喫した。全国から応援に来るサイクリストも多いが、地元から出場を続けるサイクリストはどのような思いで走り、どんなことを感じているのだろうか。石巻出身で、仙台市在住の五十嵐弘一さん、由香里さん夫妻、妹の阿部美和子さんに同行し女川・雄勝フォンド(65km)を走った。

快晴の雄勝湾をバックに記念写真に納まる、左から五十嵐さん、由香里さん、由香里さんの妹の阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO

第1回大会から同じコースを走り続ける理由

 ツール・ド・東北では様々なコースを走ることができる。楽しみ方は人それぞれで、全コース制覇を目指す人もいれば、新しく追加されるコースを楽しみにしている人もいる。第1回の2013年は4コースだったが、2016年からグループライドを新設し、2日間開催に拡大。昨年には奥松島グループライド、今年は仙台市発の「仙台グループライド&クルージング」など、魅力は増えている。その一方で毎年同じコースを走り続けるサイクリストもいる。地元石巻出身の五十嵐さんは「女川・雄勝フォンドが一番良い。このコースだけを走り続けます」と言い切る。「分かりやすい一周コースだし走って、翌日に疲れも残らないから。歳だからね」と言うが、実際は「故郷の石巻、大好きな雄勝周辺を走り続けたい」という理由もあった。

午前8時半過ぎ、女川・雄勝フォンドに向けスタートする五十嵐さん夫妻と妹の阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO

 9月16日午前8時半過ぎ、五十嵐さん夫妻、義妹の阿部さんは揃って快晴の石巻専修大をスタート。朝日を浴びながら黄金色に輝く稲穂の間の道を、一列になってサイクリングした。スタート後約8km、例年、仮設住宅に住む方々が大勢並んで声援を送ってくれる稲井付近で五十嵐さん夫妻はわずかな変化を感じていた。まさに「応援してたら応援されてた」を参加者が体感してきたエリア。由香里さんが「昨年より応援してくれる人たちが少なくなったかもね。前は大漁旗も出ていたりしていたもんね」と振り返ると、五十嵐さんは「毎年変わってきているよね。去年とも一昨年とも違う」とうなずいた。さらに由香里さんは「すこしさみしい気分がするけれど、それは仮設住宅から人がいなくなって良いことなんだよね」と笑顔で続けた。

今年の稲井付近の応援の様子 Photo: Kenta SAWANO 
2017年、稲井付近での地元の方の応援の様子 Photo: Kenta SAWANO

山間や海沿いに新興住宅地

 実際に雄勝フォンドを走ると、空き家の仮設住宅が増え、山間にできた新築の住宅地がどんどん増えてきていることに気付く。「毎年、復興住宅が増えて景色が変わってきたね」と五十嵐さんも話す。石巻出身で、同じコースを走り続ける五十嵐さんだからこそわかる違いかもしれない。

2013年、第1回大会に五十嵐さんがMTBで出場した時の写真(五十嵐さん提供)

 石巻出身の五十嵐さんは。小学生の頃から長距離サイクリングが好きで、中学生になると、雄勝まで片道約30kmを往復で走るようになっていたという。以来大人になって自転車と離れていたというが、大震災が起き、ツール・ド・東北が始まったことがきっかけで、スポーツ自転車の世界に戻ってきたという。2013年は「まず手元にあった」26インチのマウンテンバイクで出場。それを見た由香里さんもまずは、ボランティアとして参加、そこからロードバイクに興味がわき、夫妻で出場するようになったという。五十嵐さんはこの3年、1日目に走行管理ライダーとして、全国から来るサイクリストに地元を紹介しながらライドを引率。2日目に自ら走ってツール・ド・東北を楽しんでいる。

万石浦の海沿いを軽快に進む Photo: Kenta SAWANO 

 雄勝・女川フォンド、最初のヒルクライムを終え、内海の「万石浦」に出る。国道398号線沿いに走り、女川エイドステーションに到着した。サンマのつみれを使った「女川汁」で栄養補給すると、アップダウンの多い後半に向けて出発。女川湾に別れを告げ、国道沿いにしばらく森の間の上り坂を進む。その間には、造成中の宅地や、山間にできたばかりの住宅地が見える。木々の間から下を見下ろすとリアス式の海岸や、その間にできた新しい住宅が見えるような場所もあり、新しい人々の営みが感じられた。

雄勝付近の海の近くに新しくできた住宅地 Photo: Kenta SAWANO
海沿いに造成中の土地 Photo: Kenta SAWANO

 雄勝湾に近づいてきたころ、道路が広くなり、舗装がきれいになった。視界も開け、大勢の人が止まって遠くに雄勝半島が見える絶景スポットがあった。3人そろって記念撮影と、休憩を撮りながら「ここはこんな道路があったっけ?新しくできた道路かな」と以前との変化を感じていた。

地元の応援に励まされ走る阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO

エイドのメニューにも敏感

 造成中の道路を見ながら最後の上りを終えると、雄勝エイドステーションに到着。雄勝のエイドでは、メニューの変化にも敏感だった。名物にもなって、多くの人が楽しみにしている「焼きホタテ」に加え、今年はドーナツ、「銀鮭むすび、塩むすび」も加わった。由香里さんは、「量が増えてうれしいですね。特におむすびは、お米もおいしいし、このワカメの茎がおいしく、子供の頃、よく食べていた味を思い出します。私はこの近くの大須出身なので」と感激していた。すると、地元ボランティアの「お母さん」が、「このワカメの茎は大須でとれたものだよ」と教えてくれ、エイドステーションには楽しい会話が続いた。

雄勝湾をバックに海岸線を上る五十嵐由香里さん(左)と阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO
雄勝エイドステーションでは今年新メニュー「銀鮭むすび・塩むすび」が追加され、好評だった Photo: Kenta SAWANO
雄勝エイドステーションで、地元のおかあさんたちと談笑する五十嵐由香里さん(右端) Photo: Kenta SAWANO
    雄勝・女川フォンド一番のヒルクライムに挑む五十嵐由香里さん Photo: Kenta SAWANO 

     雄勝のエイドステーションを過ぎ、すぐに約2kmの一番きついヒルクライムを終えると、あとは北上川沿いに平坦な広い道を進むだけだ。といってもこの日はずっと向かい風。体重の軽い由香里さんと美和子さんの女性2人は五十嵐さんにだいぶ遅れを取りながらも2人で先頭交代しながら、最後のエイドに向かった。

    最後の河北ASで大好きな「平椀」で栄養補給  Photo: Kenta SAWANO
    石巻地方の精進料理「平椀」 Photo: Kenta SAWANO
    ゴール前、石巻市の収穫期を迎えた稲穂をバックに走る五十嵐由香里さん(左)と阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO 

     河北エイドステーションでは3人が故郷の味として楽しみにしている「平椀」(クルミ豆腐に、甘めの味付けの筍と椎茸の餡がかかっているもの)で最後の栄養補給を済ませると、再び、収穫期を迎え夕日に輝く稲穂の間を進みゴールに向かった。午後3時半、石巻専修大が近づくと、「もうすぐ終わってしまいますね」と由香里さんは少し寂しそうにしながら3人で並んで、無事にゴールした。

    笑顔でゴールする(左から)五十嵐さん、由香里さん、阿部美和子さん Photo: Kenta SAWANO

     「景色も道も年々復興して良くなったきたけれど、どんどん道路が高いところに通って、海からは遠くなっている場所もありますね」と五十嵐さんは話した。さらに「景色がいい場所、全国に見てほしい場所が石巻、雄勝にはたくさんあります、全国から来る人のために、もっとフォトスポットを紹介してあげてもいいですよね」と提案を付け加えた。

     姉の由香里さんを見てロードバイクに乗るようになったという阿部さんは「私が住んでいる石巻では、メタボ率が震災後上がっていると聞いています。こんなに素敵なコースがあるので、もっともっと多くの人が石巻でもロードバイクに乗れる環境になって、地元からの参加も増えて盛り上がるといいですね」と期待した。

    完走状を手に笑顔を見せる(左から)、阿部美和子さん、五十嵐さん、妻の由香里さん Photo: Kenta SAWANO 

     地元出身だからわかる変化。それを感じながら毎年走り続け、それを全国から来た人たちに伝える、五十嵐さんたち。ツール・ド・東北は全国からの参加者、変化を知る地元参加者が一緒になって、未来につながっていく。

    ※取材費用の一部をヤフー株式会社が負担しています。

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