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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<268>大熱戦のブエルタは運命の第3週へ マイヨロホ争いの決定打となる要素は?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2018年シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャは第2週までが終了。3週間にわたる戦いは、中盤戦までを終えたことになる。大会最高の栄誉であるマイヨロホをかけた戦いは、泣いても笑っても残すところ6ステージ。情熱の赤に染まるリーダージャージにもっともふさわしいライダーは誰なのかが、これからの1週間で明らかになる。そこで、いま一度第2週の戦いを振り返ってみたい。そして、覇権争いの中心に立つ選手たちの動向と、勝利へのポイントを占っていく。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第15ステージ、ラゴス・デ・コバドンガを上るサイモン・イェーツ(右)とナイロ・キンタナ。運命の第3週に個人総合優勝をかける Photo: Yuzuru SUNADA

互角を印象付けた総合上位陣の激坂での走り

 第10ステージから始まった、大会第2週。個人総合では、首位から2分以内に14選手がひしめく混戦だったが、それらに変化が生まれると予想されたのが、週後半に設定されたアストゥリアスでの激坂3連戦(第13~15ステージ)だった。

アストゥリアス激坂3連戦初日、第13ステージで競り合うナイロ・キンタナ(左)とサイモン・イェーツ Photo: Yuzuru SUNADA

 ふたを開けてみると、確かに総合上位陣に変化が見られたのだが、混戦の中から一歩抜け出す選手は現れなかった。結果的に、明確になったのは「上位に踏みとどまる選手たちが誰なのか」。前回、前々回とこのコーナーで触れてきた、「マイヨロホ争いの有資格者」が数人に絞られた格好だ。

 レースを振り返ってみたい。3連戦初日の第13ステージは、逃げを容認した総合系ライダーが後方で「もう1つのレース」を展開。総合上位陣の中ではナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)がライバルに秒差をつけて先着。翌日の第14ステージは、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)がステージ優勝し、3日ぶりにマイヨロホを奪還。こちらもライバルから得たリードは数秒だったが、10秒のボーナスタイムもライバルに対するアドバンテージとした。

コバドンガを上った第15ステージはミゲルアンヘル・ロペスがライバルにタイム差をつけて2位に入った Photo: Yuzuru SUNADA

 3連戦の最後、第15ステージ。名峰コバドンガでの勝負は、総合で遅れていたティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)にステージ優勝を譲り、上位陣はその後ろでにらみ合い。結局、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)がステージ2位とし、2秒差で続いたイェーツがジャージを守った。

 結果的に、ライバルに大差を奪う選手は現れず、マイヨロホを着用するイェーツから総合タイム差26秒でアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、キンタナは33秒、ロペスが43秒と、射程圏内に位置。山岳ステージでは安定して上位進出するステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNL・ユンボ)が1分29秒差、エンリク・マス(スペイン、クイックステップフロアーズ)が1分55秒差で追う状況だ。

総合上位陣が互角の走りだった第2週。サイモン・イェーツは第14ステージ優勝で得たボーナスタイム10秒が奏功するか Photo: Yuzuru SUNADA

 各ステージともフィニッシュ時に選手間で数秒単位のタイム差が発生しているものの、それはいずれも山頂に設けられたフィニッシュラインに向かって上りスプリントを試みた結果によるものだ。もちろん、レース中に起きたアタック合戦や、その日のコンディションによる消耗具合が選手によって異なり、それらが最終局面での走りに影響している可能性もある。だが、いずれにしても第2週を終えるところまでは、イェーツを筆頭とする総合上位陣は互角の走りだったと捉えてよいだろう。

 最終週のマイヨロホ争いは、より攻撃的な走りを総合上位陣に期待したいところだが、山岳での走りがほぼ互角であることを前提に今後の戦いを見ていくと、ライバルに差をつけるチャンスは限られてくる。第17、第19、第20ステージが頂上フィニッシュとなっているが、そのうち第17ステージは、最大勾配が23.83%の1級山岳アルト・デル・バルコン・デ・ビスカヤが最後に待ち受けるが、登坂距離が7.3kmと短く、各選手の登坂力からして大差をつけるのは難しいと思われる。第19ステージは、1級山岳コル・デ・ラ・ラバッサを上るが、上り口の13.75%以降は5%前後の勾配と、百戦錬磨のクライマーにとっては問題なくクリアできるレベル。

サイモン・イェーツ(左)で必勝態勢を整えつつあるミッチェルトン・スコット。双子の兄弟であるアダム(右)が調子を上げてきたことがチームにとってプラスに働くか Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、第20ステージは6つのカテゴリー山岳を越える超ハードなコース設定。前半から中盤にかけて越える3つの1級山岳を経て、最後は超級山岳コル・デ・ラ・ガリナの頂上で勝負が決まる。この超級山岳そのものの登坂距離は3.5kmと短いものの、スタート直後から立て続けにやってくる山岳や、97.3kmというショートステージであることなどが、選手たちの心身にどう影響を及ぼすか。アシスト陣を含めたノーガードの展開になる可能性もある。

 キンタナとバルベルデを擁するモビスター チーム、ロペスを盛り立てるアスタナ プロチームともに、山岳アシストは豊富。また、イェーツの必勝態勢を整えつつあるミッチェルトン・スコットは、自身も個人総合15位につけるジャック・ヘイグ(オーストラリア)が機能。そして、いよいよアダム・イェーツ(イギリス)が調子を上げてきた。第15ステージでは終盤まで粘って13位フィニッシュ。こちらも地盤が固まりつつある。

 そしてもう1つ、ライバルからリードを奪うチャンスとして忘れてはならないステージが控えている。それは第16ステージ。第3週の初日に設けられた、個人タイムトライアルである。ここでの出来が、今大会のすべてを決定づけることだって考えられるのだ。

32kmの個人TTで総合争いをリードする選手が現れるか

 注目の第16ステージは、32kmの個人タイムトライアル。高低の大きな変化はなく、スペシャリスト向きのコースレイアウトと言える。なお、各ステージの詳細は、筆者解説の「第3週コースプレビュー」を参照されたい。

 前述したように、山岳以上にこのステージの結果が最終的な総合成績を左右する可能性は高い。それだけに、マイヨロホに手が届く位置を走る選手たちは、これまでにないモチベーションで臨むことだろう。

タイムトライアルの向上に手ごたえをつかんでいるサイモン・イェーツ。第16ステージでの走りに自信を見せる。ブエルタ2018の第1ステージは30位だった Photo: Yuzuru SUNADA

 今回の上位陣には、7月のツール・ド・フランスで覇権争いを演じたゲラント・トーマスとクリストファー・フルーム(ともにイギリス、チーム スカイ)、トム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)といった、タイムトライアルスペシャリストは存在しない。裏を返せば、上手くはまる可能性もあれば、大ブレーキに陥る可能性もある、と言えるだろう。前者となれば、決定的なリードを得られるかもしれない。かたや、後者であれば、それは総合争いからの脱落を意味する。

 マイヨロホのイェーツは、第16ステージに自信を見せる。「私にはライバルを圧倒できるほどの総合力はない」と認めつつも、「タイムトライアルの走りは徐々に向上している」と述べる。実際、今年のジロ・デ・イタリアでは、その時点での総合首位で第16ステージで34.2kmの個人タイムトライアルを迎えたが、ライバルからは約1分差にとどめ、ジャージをキープ。その時は2位以下に2分を超えるアドバンテージを持っていたこともあり、今回と状況は大きく異なるが、臆せず「TT決戦」に臨む構えだ。

第2週を終えて個人総合2位と3位につけるアレハンドロ・バルベルデ(左)とナイロ・キンタナ。第16ステージの結果次第でチームオーダーが変わるかもしれない Photo: Yuzuru SUNADA

 バルベルデもTTでは大崩れは少ない。グランツールのタイムトライアルステージでは、コンスタントに20位以内で終えている。今大会の上位争いのメンバーの中では、高い走力を持つ。チームメートのキンタナは、平坦系TTはさほど得意としていない。このステージを終えた時点での総合順位によっては、チームリーダーの一本化ということも考えられる。

 ロペスは今年、タイムトライアルステージでの結果が芳しくない。今年のジロ第16ステージで大きく遅れ、総合順位を落としている。今回は何とか踏みとどまりたい。クライスヴァイクやマスも、このステージでの好走から再び上位戦線をにぎわせる存在となれるか。

今シーズンのタイムトライアルステージでの結果が芳しくないミゲルアンヘル・ロペス。今回は上位で踏みとどまることができるか Photo: Yuzuru SUNADA

 このステージで快走し、マイヨロホ争いで一歩でも二歩でもリードできるようだと、その後に控える山岳ステージではジャージのキープに集中できるメリットが生まれる。もちろん、ジャージを守る走りは簡単ではないが、ライバルの動きを見定めながらの「守りの走り」に徹することができるようになる。逆に、ステージを終えた段階で僅差が続くことになれば、いよいよ山岳での「頂上決戦」が現実味を帯びてくる。

 ちなみにステージ優勝争いは、第1ステージで上位を占めたローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)や、ミカル・クフィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)、ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・スーダル)らが、再び主役候補として名が挙がる。

各賞ジャージ争いの見どころ

 マイヨロホ争い以外の各賞も、タイトルを賭けた選手たちの動きが活発になっている。

 まず、ポイント賞の「プントス」は、バルベルデが115点で2位のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)に32点のリード。さらに12点差でロペスが続く。

 ステージ優勝で25点付与される同賞。ステージリザルト次第では、今後浮上してくる選手が出る可能性もゼロではないが、頂上フィニッシュがこの先も控えていることを考えると、山岳ステージでコンスタントに上位入りを続けるバルベルデが優位な情勢だ。

山岳賞争いで2位に浮上したトマス・デヘント。再三の山岳逃げでポイントを加算している Photo: Yuzuru SUNADA

 プントス以上に混沌としてきたのが、山岳賞の「モンターニャ」。大会序盤からルイスアンヘル・マテ(スペイン、コフィディス ソリュシオンクレディ)が首位に立つが、第2週に入り体調を崩したこともあり、得点を伸ばすことができていない。ここへきて猛追しているのが、トマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)とベンジャミン・キング(アメリカ、ディメンションデータ)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)の3人。いずれも山岳ステージで逃げを繰り返す選手たちだ。

 マテの64点に対し、デヘントが57点、キングが56点、モレマが50点。第3週も、ステージ優勝と山岳ポイント獲得を目指して、彼らがレース序盤から激しいアタックを繰り返すことだろう。第17、第20ステージは得点を稼ぐチャンスだ。

 ブエルタならではの賞である複合賞「コンビナダ」もバルベルデがトップ。個人総合、ポイント賞、山岳賞の順位合算によってポイント化されるため、各賞の順位変動がこの賞に変化をもたらす。第2週終了時点では、ロペスが同点で2位につける。個人総合順位で上位のバルベルデが規定により複合賞で1位となっているが、首位の選手が着用するホワイトジャージの行方は最後の最後まで目が離せない。

今週の爆走ライダー−ニコラス・シュルツ(オーストラリア、カハルラル・セグロスエレヘアー)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 キャリア2回目のグランツールであるブエルタを走る、23歳のオーストラリア人ライダー。今大会はあまり目立ったところを見せていないが、8月下旬にミッチェルトン・スコットへの移籍が発表され、その将来性に注目が集まったところだ。

3月31日のGPミゲル・インドゥラインで3位に入ったニコラス・シュルツ(左)。そうそうたるメンバーがそろったレースで好走し注目された Photo: YSP

 今年は3月下旬のGPミゲル・インドゥライン(スペイン、UCI1.1)で3位入賞。名立たる選手たちを差し置いての表彰台獲得は、スペインでの選手活動が自らにとって間違っていなかったことを実感したレースになったという。

 「若手の登竜門」と言われるステージレース、ツール・ド・ラヴニールでステージ優勝を挙げたのが2016年。トレーニーとしてオリカ・バイクエクスチェンジ(現ミッチェルトン・スコット)に加わったものの、正式契約には至らず。その時にチームから告げられたのが、「今後の成長を見守る」とのことだったのだとか。そして、武者修行先として選んだのが現チームだった。

 真面目で勉強熱心との周囲の評。それを裏付けるかのように、現チームを選んだのも「レース出場機会の獲得」と「スペインの文化と言葉を学ぶこと」が目的だった。だからこそ、GPミゲル・インドゥラインで結果を残せたことは、選手としてだけでなく、一人の人間として実りある瞬間だった。

 来季加入するミッチェルトン・スコットを率いるマット・ホワイト氏いわく、「クライマーとしての才能に長けている」。新チームではまず、アルデンヌクラシックでのレギュラー入りを目指すことになっている。

 いま臨むブエルタには、チームメートになるイェーツ兄弟や、友人だというヘイグといった良きお手本が上位戦線を走る。将来的には彼らをアシストし、さらには超える存在となることを目標としていく。現チームへの感謝と、新天地への足掛かりとなる3週間は終盤戦。高く評価される山岳での走りを、さらには自身の存在をひとつアピールしておいてもよさそうだ。

2019年シーズンからミッチェルトン・スコット入りが決まっているニコラス・シュルツ。クライマーとして将来を嘱望されている。写真はブエルタ・ア・エスパーニャ2018第13ステージ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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