世界最大規模の施設を巡る謎メリダブランドの一大拠点「MERIDA X BASE」が伊豆にできた理由

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 バイクブランド「MERIDA」(メリダ)の展示・レンタル施設「MERIDA X BASE」(メリダ・エックス・ベース)が9月1日にオープンした。メリダブランドのなかで世界最大規模の大きさを持つ施設だが、都心近くではなく静岡県伊豆の国市にある。集客を考えると都心近くのほうが都合がよさそうだが、なぜ、伊豆に施設を作ったのか。メリダの国内独占販売権を持ち、施設を運営するミヤタサイクルの高谷信一郎社長ら、関係者の話を聞くと、伊豆を選んだ理由が見えてくる。

メリダ・エックス・ベース内。施設の広さは約3000平方メートル。展示台数は約200台だという Photo: Masahiro OSAWA

一大拠点を巡る素朴な疑問

 メリダ・エックス・ベースは、国内で販売されるメリダブランド約200車種の自転車を一堂に集めた施設だ。最新のロードバイクやe-BIKEなどをレンタルしてサイクリングを楽しめるほか、ロードレース、MTB、シクロクロスなどの講習会なども企画する。ロッカールームも用意され、温泉も利用できる環境にあり、サイクリングを楽しむための施設と言える。

メリダ・エックス・ベース入口にもメリダバイクが並ぶ Photo: Masahiro OSAWA
様々な車種をレンタルして乗り比べすることも可能 Photo: Masahiro OSAWA

 施設の目標についてプレスリリースには「最高の環境でメリダの楽しさを体験してもらい、スポーツバイク市場を盛り上げ、伊豆半島全体をサイクリングで活性化する拠点を目指す」などとある。ここを起点に、最新モデルのスポーツバイクでサイクリングを体験してもらおうというわけだ。

 狙いはわかるが、何だかしっくりこない。観光地には昔からレンタサイクルが存在する。最新のロードバイク乗れるというだけで多くの人を呼べるのか、施設の規模を考えても、東京近郊のほうがベターなのではないか、そうした疑問が浮かんでくるからだ。しかし、ミヤタサイクルらの高谷信一郎社長ら、関係者に話を聞くに従って、この先に向けて大きな期待に変わっていった。

伊豆が最適だったわけ

ミヤタサイクルの高谷信一郎社長 Photo: Masahiro OSAWA

 この場所に一大拠点を設けた理由はいくつかある。高谷社長がまず指摘したのは、2020年の東京五輪の自転車競技のメッカになることだ。ロードレースのゴールとなる富士スピードウェイが静岡県小山市にあり、トラックとMTBが静岡県伊豆市で開催される。ビッグイベントで注目が一気に高まっていることが後押しとなる。

 加えて、初心者から上級者までの多様なサイクリングルートが作れることや温暖な気候も魅力だという。メリダ・エックス・ベースを起点にして、世界遺産の韮山反射炉を巡ったり、南伊豆へ行ったりと様々なコースが作成できる。

 高谷社長は「伊豆の縦貫だと170km、獲得標高が4400mくらいのプロレース並のコースも作れる。初心者から上級者まで楽しめるコース設定できるのが大きな魅力」と話す。降雪も少なく季節を問わずにサイクリングができ、「競技志向の高い人は合宿を組んでもらうことも可能」「将来的には、地域密着型のチームを作る勢いで、そのくらいの決意を持ってここに進出した」などとも語ってくれた。

遠くに見据える富士山が伊豆に来たことを実感させる Photo: Masahiro OSAWA
見晴らしのよい景色の中をライド。メリダ・エックス・ベースオープニングライドにて Photo: Masahiro OSAWA
メリダ・エックス・ベースのオープニングライドで訪れた道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」にあるメリダエクスペリエンスセンター Photo: Masahiro OSAWA

 伊豆を選んだ理由はまだある。官民ともに、熱心に自転車を活用した観光誘致を進めているからだ。静岡県、静岡経済同友会ほか、民間企業も取り組みを進める。多数のホテルを抱える時之栖、建設業ながら道の駅やカフェの運営をはじめに、多様な街づくりに取り組む加和太建設などが自転車を積極的に事業に取り入れている。時之栖はMTBコースの造成を行っていたり、加和太建設は、道の駅「ゲートウェイ函南」のメリダエクスペリエンスセンターの運営にも関わったりしている。

 このように事業環境が整っていたことで、開設まで話はトントン拍子に進んだ。物件所有者であり、テナントを募集する時之栖は、伊豆が東京五輪の自転車競技のメッカになることから、自転車関連企業への貸し出しを望み複数企業に声をかけた。ミヤタサイクルの高谷社長も時之栖から声がかかる以前から、オランダにあるメリダの施設を参考にした大規模拠点を構想しており、両社のニーズがピタリと合った。両社が対面したのが今年1月、それからわずか9カ月で正式オープンにこぎつけた。

メリダ・エックス・ベースがある道の駅「伊豆のへそ」。かつてはフラダンスを観賞する「みんなのハワイアンズ」が入居 Photo: Masahiro OSAWA
熱帯植物が敷地内にあるのも「みんなのハワイアンズ」があったかつての名残 Photo: Masahiro OSAWA

4525万人をターゲットにしたビジネス

 伊豆を選んだのは、魅力的な事業環境があったからだ。しかし、それでもなお、人を呼ぶことを考えたときに不利な場所だと考えられる。その点はどう考えるべきか。

 疑問が解けたのは、ミヤタサイクルの福田三朗営業企画部 マネージング・ディレクターの話だった。福田氏は「全国350万人のサイクリストに遊びに来てもらうというより、伊豆を訪れる年間4525万人を相手に、自転車を楽しんでみませんか? という提案をしていく」と話す。ターゲットはサイクリストというよりも観光客がメイン。そして人のいない場所に人を呼び込むのではなく、すでに人がたくさん訪れるエリアで呼び込もうというのだ。

 自転車が趣味でない人に興味を持ってもらうのは非常に難しいことだが、こうした観光客を相手にするときの武器がe-BIKEとなる。e-BIKEなら、サイクリストでなくとも伊豆の急峻な坂を上り、高い場所から絶景を拝める。海の幸と結びつけてのグルメライドも可能だろう。e-BIKEがトレンドワードになりつつあるが、その魅力を実感してもらい、最終的にはメリダ製品の購入につなげたい考えだ。

メリダ初となるe-MTB「eBIG.SEVEN 600」が観光客を引き寄せる鍵になるかもしれない Photo: Masahiro OSAWA

 もうひとつ触れておきたいのが平日についてだ。観光客相手なら週末はよさそうだが、平日が厳しそうだ。その点についても当たりはつけている。

 ひとつはインバウンド需要の取り込み、もうひとつが県内事業者が行うレンタサイクルのメンテナンスを請け負うBtoBビジネスだ。前者については言うまでもないが、後者について、伊豆半島には自転車のプロショップが少なく、メンテナンス業務が考えられるのだという。そこに加えて、5人いる常駐スタッフは既存の仕事を並行しながら運営にあたるため、手持無沙汰になる時間はなさそうである。

ミヤタサイクルが背負った新たなミッション

 ざっくり言えば、ミヤタサイクルは、新たなミッションを負ったことになる。既存の自転車販売に加えて、観光業に深く関わっていく。ゼロベースからでは時間がかかるため、事業者連携が必須になるだろう。伊豆半島のホテルや飲食店、観光施設をはじめ、行政とも結びつきを強めていくはずだ。

 現時点で観光客に利用してもらうための具体的なプランはまだ存在しないが、観光客を魅了するプランならば、自転車へ興味を持つ人が増えていくはず。ひいては自転車人口の拡大にも寄与する存在になるかもしれない。この過程においてe-BIKEの存在意義が試されていくことになるだろう。すべてがうまく回ればリターンが大きそうなこの事業。メリダ・エックス・ベースをどう生かしていくのか。ミヤタサイクルの取り組みが気になるところだ。

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