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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<266>マイヨロホ争いの有資格者を絞ったブエルタ序盤戦 形勢が見え始めたレースの見方を探る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 8月25日に開幕したシーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャ。スペインをめぐる壮大な戦いのタイトルをかけて走る選手たち。大会はまだまだ序盤戦、これからどんな走りを見せるのか楽しみが膨らむ。そこで、開幕からの数ステージで見る、今後のマイヨロホ争いのポイントや、早々に“マイペース調整”の趣きを見せ始めたビッグネームの動向など、これからのブエルタの見方を考えていきたい。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第4ステージまでを終えてマイヨロホをキープするミカル・クウィアトコウスキー。写真は第3ステージ Photo: Yuzuru SUNADA

「マイヨロホ争いの有資格者」を決めた序盤4ステージ

 本記執筆時点で、ブエルタは第4ステージまでを終了。そのうちの2ステージで頂上フィニッシュが設定された。

大会序盤戦からマイヨロホ争いの人数が絞られてきた。写真は第2ステージ Photo: Unipublic / Luis Ángel Gómez

 集団内での選手、さらにはチーム間の駆け引きもさることながら、最終的には総合成績を目指す選手たちの個の力が試される頂上フィニッシュは、序盤戦から「マイヨロホ争いの有資格者」を絞っていくには効果的であった。

 第4ステージまでを終えて、マイヨロホに袖を通すミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)に対して、1分5秒以内に19人がひしめいている。後続は総合タイム差で2分以上の開きとなるため、上位陣のコンディションを考えていくと一気の挽回は難しそうだ。上位19人の中には、個人総合優勝候補の多くが順当に含まれている。

第4ステージの山岳で強さを見せたサイモン・イェーツ Photo: Yuzuru SUNADA

 第4ステージで、メイン集団から飛び出すアタックを見せたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)は、この状態を維持できるだろうか。クウィアトコウスキーから総合タイム差10秒で3位につけるが、調子のピークが早く来ていたり、メンタル的な入れ込みがなければ、ライバルにとって脅威の存在となる。25秒差の5位に位置するウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム サンウェブ)は、山岳とタイムトライアルともに上位入りが期待できる。けが明けとあり7月上旬以来のレースだが、フレッシュな状態である点は魅力。

ダークホース的存在となりつつあるジョージ・ベネット(中央)。コンディションの良さを示している Photo: Yuzuru SUNADA

 要所でプロトンの主導権を握るロットNL・ユンボ勢、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)とジョージ・ベネット(ニュージーランド)のコンビも、流れをつかめば本命となり得る存在。それぞれ37秒差の9位、45秒差の13位。

 経験豊富なナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)やティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)は、頂上フィニッシュだった第4ステージ終盤の走りを見るに、状態はよさそうだ。それぞれ、クウィアトコウスキーから総合タイム差33秒で8位、43秒差の12位につける。特にキンタナは、この先のステージではアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)をアシストとする大きな武器を持つ。尻上がりに強さを発揮するタイプのミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)は、46秒差の14位と好位置につける。

第4ステージのレース後にクーリングダウンを行うミカル・クウィアトコウスキー。マイヨロホ争いに本気になるか Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、何よりもクウィアトコウスキーがどこまでマイヨロホ争いに色気を出すかも見ものだ。クラシックレースや1週間程度のステージレースでの走りは誰もが認めるところだが、かつてはグランツールレーサーとしても見込まれていた。6月以降連戦となっているあたりが不安視されるが、好調をどこまでキープできるか。

 第1週では、大会最初の超級山岳が設定された第9ステージでマイヨロホ争いに動きがあると見られる。第2、第4ステージではライバルに遅れをとらないことを重視した選手たちも、第9ステージでは攻めに転じるか。選手によっては、この日にマイヨロホを手にして、残りのステージをチーム力をバックにジャージキープに努めたいと考える選手がいても不思議ではない。

 戦いはまだまだ始まったばかり。この先さらなる急峻な山岳が待ち、大会3週目の第16ステージには、32kmの個人タイムトライアルが控える。このところのグランツールでは、30~40km程度の個人タイムトライアルステージの比重が高く、総合上位陣の順位決定や大きなシャッフルなど、1つの快走またはブレーキが大きく作用する傾向にある。ここまでのステージで見えてきた「マイヨロホ争いの有資格者」たちは、先々を見通しながらも、1ステージ1ステージをトラブルなく走ることが、上位進出の条件となる。

 シーズン後半戦に行われる3週間の戦いとあり、出場する選手たちの境遇はさまざま。総合成績を目指すグランツールレーサーを例に挙げれば、5月のジロ・デ・イタリアの後に夏場の休養や調整を経て臨んでいる選手、7月にツールを走り連戦で臨む選手、種々の事情でブエルタだけにかける選手などなど。それぞれに、置かれた状況で戦う姿が見られるのもブエルタだからこそ。ここから誰が真価を発揮するのかは興味深いところだ。

ブエルタはマイヨアルカンシエルへの道となるか

 出場する選手たちの境遇について前述したが、「ブエルタならでは」の参戦スタンスを示しているビッグネームの姿も目立っている。

 ここでいう「ブエルタならでは」とは、この大会の閉幕後に控える、UCIロード世界選手権へ向けた調整の意味合いでの参戦のことである。

UCIロード世界選手権に向けて、ヴィンチェンツォ・ニバリはブエルタ・ア・エスパーニャを調整の場としている Photo: Yuzuru SUNADA

 例年、8月下旬から9月中旬にかけて行われるブエルタは、9月下旬に開催されることが慣例のロード世界選手権への流れを作るのに最適との見方が根強い。実際、ブエルタを走り終わった後にロード世界選手権を制した事例も数多い。

 近年では、2012年大会で優勝したフィリップ・ジルベール(ベルギー、現クイックステップフロアーズ)は、直前のブエルタで第9、第19ステージで勝利し、その勢いのままマイヨアルカンシエル獲得につなげた。現・世界王者のペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)も、世界選手権初制覇を果たした2015年にブエルタ参戦。このときは第9ステージでモーターバイクに接触され落車。その影響で大会を去ったが、世界選手権本番までに立て直して頂点へと駆け上がっている。

リッチー・ポートは第2ステージで大きく遅れてフィニッシュ。第3週でステージ優勝争いに加わりたいと話す Photo: Yuzuru SUNADA

 今年の世界選手権の開催地は、オーストリア・インスブルック。コースは獲得標高が4000mに到達し、クライマー有利とのもっぱらの評判である。そして、優勝候補に挙げられる選手たちの多くがブエルタを走っている。

 イタリアのエースを担うことが濃厚なヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)、同じくオーストラリアのリーダーとなるリッチー・ポート(BMCレーシングチーム)は、第2ステージで早くも総合争いからは“脱落”。ともにツールでの落車負傷からの回復途上にあり、その視野はすでにインスブルックへと向けられている。スペインでの3週間は、いかにコンディションを上げられるかをテーマとしており、ポートは「第3週でステージ優勝を狙っていきたい」と述べる。

 ポートのチームメートであるローハン・デニス(オーストラリア)は、第1ステージの個人タイムトライアルで快勝したが、続く第2ステージではポートとともに後方でのフィニッシュ。こちらも織り込み済みで、狙うは個人タイムトライアルでのマイヨアルカンシエル。最大のライバルになるであろう、トム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)の打倒に向けて、このブエルタでは第1、第16ステージに設けられた個人タイムトライアルでの勝利を目標にする。

ローハン・デニスは個人タイムトライアルでのマイヨアルカンシアルを目指し、ブエルタは第1、第16ステージで力を発揮する姿勢だ Photo: Yuzuru SUNADA

 イギリス代表入りが濃厚なアダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)は、総合エースを務める双子の兄弟・サイモンの山岳アシストを務めながら、コンディションを高めていく公算。不本意な成績に終わったツールから、この大会でいかに調子を上げていけるかがポイント。それは、サイモンの総合成績にもかかわってくる。

 そして、動向が最も注目されるのが、現役世界王者のサガンだ。第3ステージでは優勝争いに絡んで、3位入線。ツールでの落車負傷もあり、一時は大きく調子を落としたが、徐々に復調していることが印象付けている。このステージでは、フィニッシュ前でのスピードこそいまひとつだったが、要所でのポジショニングでは持ち味を発揮。今後はスプリントでのステージ優勝だけでなく、山岳への適応も高めていくことになる。

 レースを走りながら調整を図る彼らだが、かたや今大会には、世界選手権を自国のエースとして臨むであろうバルベルデやキンタナ、ピノといった好調な選手たちも参戦中。特にバルベルデは第2ステージを制するなど、地元グランツールで勢いを増している。ブエルタに限らず、各地のレースを経て世界選手権へ乗り込む選手も多数。こうした選手たちに「調整組」が果たして、追いつき、追い越すことができるのか。

 総合争いやステージ優勝争いにとどまらず、あらゆる観点からブエルタを見ていくと、その先のレースへも結びつきが生まれ、よりこのスポーツを楽しめる要素となるはず。当面は、マイヨアルカンシエルの行方についても思いを馳せながら、日々のレースを満喫してほしい。

今週の爆走ライダー−ハイス・ヴァンフック(ベルギー、ロットNL・ユンボ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ブエルタに限らず、シーズン後半のビッグレースが着々と進行している状況だが、来年に向けた各チームの動きも活発になっている。BMCレーシングチームの実質的な後継となるCCCは、チームの顔となるグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)と中心として、少しずつ外郭を固めつつある。

BMCレーシングチームの後継となるCCCへ移籍が決まったハイス・ヴァンフック。トレーニングパートナーのグレッグ・ヴァンアーヴェルマートの直々の指名を受けた Photo: Yuzuru SUNADA

 ハイス・ヴァンフックはプロ7年目の26歳。今までロードでは大きなタイトル獲得がなく、無名に近い存在である。そんな彼に、CCCから白羽の矢が立った。ヴァンアーヴェルマートのアシスト役としてである。

 もっとも、彼はヴァンアーヴェルマートのトレーニングパートナー。その走りはヴァンアーヴェルマートに高く評価され、パヴェでは重要な戦力になると認められてのスカウティングとなった。

 バックボーンであるトラック競技では、2012年のロンドン五輪でオムニアムに出場。前年に世界選手権銅メダルを獲得している。そこで培ったスピードは、ロードでのスプリント力にも反映されている。まだそれを発揮するところまで至っていないが、新チームではチャンスがやってくるかもしれない。

 このほど決まった移籍について、「本当は環境の変化は考えていなかった」という。ただ、大親友のヴァンアーヴェルマートに声をかけられたなら話は別。自身のキャリアにおいてもステップアップするチャンスととらえている。

 ロンドン五輪出場時には、無断飲酒によって選手村を追われるなど、ヤンチャなところもあったというが、プロとしての経験を積んでいる今日は腰を据えて走ること集中する。数年の下積みを経て、トップシーンを駆ける姿は要注目。体制が生まれ変わるチームにまた1人、新たな風を吹き込む存在が加わった。

新チームでは北のクラシックやスプリント力に期待が高まっているハイス・ヴァンフック。キャリアのステップアップを志す Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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