ブエルタ・ア・エスパーニャ2018直前コラム<3>クライマーがポイント賞ジャージを獲得? ブエルタは独特の「ゆるさ」も魅力

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 グランツール最終戦であるブエルタ・ア・エスパーニャが8月25日に開幕する。接戦と逆転が多く、若手選手が活躍するブエルタは、イタリアやフランスのレースに比べて独特の「ゆるさ」も目立つ。今回は、ブエルタのゆるさにまつわるエピソードについて特集したいと思う。

2016年に総合優勝を飾ったナイロ・キンタナは複合賞ジャージを獲得、2017年に総合優勝を飾ったクリストファー・フルームはポイント賞ジャージを獲得した。これがある意味ブエルタを象徴しているともいえよう Photo: Yuzuru SUNADA

スペインの文化や気風の影響か

 スペインといえば「シエスタ」の文化が有名だろう。日本では「シエスタ=昼寝」のイメージが強いが、スペインでは長めの昼休憩(午後1時から5時くらいの間の3時間が一般的)をとり、職場から一旦帰宅して家族とゆっくり食事をしたり、休息の時間にあてたりしているようだ。

 現在ではシエスタにより、仕事が終わる時間が遅くなる、シエスタの時間にお店が開いてなくて不便、夜更かしする人が増えているなど、プラスの側面ばかりではなくなっており、シエスタを廃止する動きも盛んになっているようだ。

 とはいえ、スペインと聞くとどことなく「マイペースでゆるい国」というイメージを受けるのではないと思う。

 そういったスペインの文化や気風による影響なのか、ブエルタの運営や中継にも「ゆるさ」が表れてくる。1分1秒を争う選手たちと、ブエルタ全体の「ゆるさ」の対比が面白く、他のグランツールではなかなか味わえない魅力をかもしだす要素となっている。

 ブエルタの「ゆるさ」を表す事例をいくつか紹介していきたい。

オフィシャルな事前情報が当てにならない

 2017年の第5ステージは3級山岳エルミタ・デ・サンタルチアへフィニッシュするステージだった。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第5ステージコースプロフィール。フィニッシュ地点の標高は340mとなっている ©ASO

 3級山岳の登坂距離3.4km・平均勾配4.2%との公式アナウンスがあったものの、コースプロフィールを見る限り、ほぼ標高0m地点からフィニッシュ地点は340m地点まで上っていることがわかる。勾配は標高差÷距離によって求められるので、計算上は10%近い勾配がないと辻褄があわない。

アルベルト・コンタドールのアタックに食らいつく、マイヨロホのクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

 実際は平均勾配9%オーバー、最大勾配に至っては20%に達する個所もある非常に難易度の高い上りだった。この日は逃げ切りが決まり、アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナプロチーム)が独走勝利を飾ったものの、ステージ13位の選手まで同じタイムでフィニッシュした選手がいなかった。

 総合争いではマイヨロホを着るクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)から最終的に総合2位となるヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)が26秒もの遅れを喫する、まるで1級山岳クラスの山頂フィニッシュのような結果となった。

 続いて今年の第19ステージのコースプロフィールをご覧いただきたい。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 第19ステージのコースプロフィール ©ASO

 フィニッシュ地点のアンドラ・ナトゥールランディアは1級山岳となっており、登坂距離17km・平均勾配6.6%の難関コースだ。

 にもかかわらず、ブエルタのオフィシャルは本ステージを平坦ステージに分類している。ジロやツールでは、最後にガツンと上るようなコースは山岳ステージに分類されているが、ブエルタでは全体的に平らかそうでないかでステージを分類しているものと思われる。

 他には2016年の最終ステージでは、マドリードの周回コースを9周回する予定だったが、コース変更の影響もあり1周回増やすことになったこともあった。このような変更措置がレーススタート前にアナウンスされれば普通のことかもしれないが、ブエルタではレース中にアナウンスされるのだ。

画面表示がめちゃくちゃ

 レース中継では、画面上に逃げ集団とメイン集団のタイム差や、フィニッシュ地点までの残り距離が表示されている。残り10kmで逃げ集団とのタイム差が30秒だから、逃げを捕まえて集団スプリントになるかな?など、展開を予測するためにもこれらの情報は重要になってくる。

 ところが、ブエルタのレース中継では画面に表示された情報があまり当てにならないことが多い。逃げ集団とのタイム差が2分と表示されていたのに、突然30秒になって、気がつけば集団に吸収されていた、なんてこともザラにある。

 本当に正確なタイムが知りたいときは、なにか画面上に映るランドマーク的な地点を目安に、手元のストップウォッチなどを使って自分で計測した方が確実だ。

 さらに画面表示に関してはたびたびバグのようなことが発生する。ある時はタイム差が「2時間30分」と、ある時は残り距離は「700km」などとありえない数字が表示されることもたまにある。

 タイム差・残り距離以外の部分では、選手名やチーム名の表記が間違っていることが多い。最近ではサイモンとアダムのイェーツ兄弟が出場していた2017年第7ステージ終了後の総合成績を表示する画面で、本来であれば総合9位のアダム・イェーツは「A.Yates」と表示されているはずが、「V.Yates」と表示されていたのだ。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017に参戦したイェーツ兄弟。2人ともミドルネームが「V」から始まるわけでもない Photo: Yuzuru SUNADA

 さらに総合11位のサイモン・イェーツも「V.Yates」と表示される始末。サイモンとアダムは瓜二つで見分けが難しいとはいえ、表記まで同じにされるといよいよ見分けることが完全に不可能になってしまう。

 プロコンチネンタルチームのアクアブルースポーツ(Aqua Blue Sport)が「Aqua Blue Sport”s”」と表示されたり、マイヨロホを着用する選手の名前の横に赤いジャージのアイコンが表示されるのだが、総合6位の選手にも表示されるなど、不思議な誤表示が目立つ。

 ちなみにブエルタとツールは同じ主催者が運営しており、普通に考えたら同じシステムを使って運用しているはずと思われるのだが、なぜかブエルタの方がおかしな表示になるケースが多い。(ツールはツールで、選手の顔写真が別選手のものだったり、タイムトライアルの時計が勝手に止まるなど、ミスが全くないわけではない)

ポイント賞と複合賞がおかしい

 ポイント賞といえば、中間スプリントポイントや集団スプリントを制して稼いだポイントを争うスプリンター向けの賞であるのが一般的である。そこで、ブエルタの過去10大会のポイント賞獲得者をご覧いただきたい。

 2017年:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)
2016年:ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
2015年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)
2014年:ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ジャイアント・シマノ)
2013年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)
2012年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)
2011年:バウケ・モレマ(オランダ、ラボバンク)
2010年:マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)
2009年:アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
2008年:グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、サイレンス・ロット)

マイヨプントスと呼ばれるポイント賞ジャージは緑色。昨年のマッテオ・トレンティンはわずか2ポイント差でポイント賞を逃した Photo: Yuzuru SUNADA

 2017年はマッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ)がステージ4勝を飾ったが、ポイント賞では2位だった。2012年のデゲンコルプはステージ5勝をあげたにもかかわらず、ポイント賞では4位だった。このように、山岳ステージの比重が大きいブエルタではクライマー系の選手でもポイント賞を獲得することがある。

 1位は25ポイントを獲得できるのだが、平坦ステージでも、山岳ステージでも獲得ポイントに差はない。また中間スプリントで1位通過すると4ポイントしか獲得できない上に、スプリンターが生き残ることがまず不可能に思われる険しい山岳を越えた先に設定されることもあって、なかなか逃げに乗って中間ポイントを稼ぐことも難しい。そのため、総合争いをしている選手もかなり多くのポイントを獲得することができるのだ。

 極めつけが複合賞と呼ばれる白いジャージの存在だ。総合成績の順位、山岳賞の順位、ポイント賞の順位の合計値が最も”少ない”選手が獲得できる賞、という説明を聞くと、登坂力・スプリント力にバランス良く、総合力の高い選手が獲得するジャージという位置付けなのだろうが、過去10年の受賞者は次のようになっている。

 2017年:クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)→総合優勝
2016年:ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスターチーム)→総合優勝
2015年:ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)→総合2位
2014年:アルベルト・コンタドール(スペイン、)→総合優勝
2013年:クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)→総合優勝
2012年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスターチーム)→総合2位
2011年:ファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)→総合優勝
2010年:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)→総合優勝
2009年:アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)→総合優勝
2008年:アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)→総合優勝

マイヨコンビナダとも呼ばれる複合賞ジャージは白色。いまは総合を争う選手のためのジャージとなっている Photo: Yuzuru SUNADA

 もはや総合優勝者がついで獲得するようなジャージとなっているのだ。ポイント賞を稼げるスプリンターは、総合成績では絶望的な順位となるだろうし、山岳賞を狙える逃げ屋も総合順位は低いことが多い。となると、必然的にスプリントポイントも山岳ポイントも狙える総合系の選手の手に渡ることになる。

 複合賞は昔はジロやツールでも採用されていたが、いまは新人賞に置き換わっており、ブエルタ以外の主要なステージレースでは全く見かけることのない賞である。今では総合1位か2位の選手しか着用できないジャージになっているにもかかわらず、ブエルタでは頑なに採用され続けている。

 スペインらしいマイペースさを象徴するという意味では、もっともブエルタらしいジャージなのかもしれないが。

◇         ◇

 ブエルタは接戦と逆転が多いのでドキドキハラハラする展開になりやすく、番狂わせやニューヒーローの誕生の瞬間を目撃できたり、ゆるい出来事に思わず笑ってしまったりと、非常にエンターテイメント性の高いレースとなっている。

 だからブエルタはおもしろい、と多くの人々が評価するのではないだろうか。

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