旅せよ!『Cyclist』<4>リカバー勝負のステージレース「オートルート ノルウェー」 長期戦を乗り切るエネルギー戦略とは

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 ノルウェーのフィヨルドエリアを走る3日間のアマチュアステージレース「HAUTE ROUTE」(オートルート)。第2ステージも前日に引き続き雨のヒルクライムから幕が開けた。スタートラインでは選手たちが挨拶のように「リカバーできた?」と互いの調子をたずねる。前日のダメージが翌日に大きく影響するステージレースではリカバー力も総合的な強さに含まれるからだ。リカバーにはレース後のマッサージやレストはもちろん大切だが、より重要なのはパフォーマンス前・中・後のケアだ。今回は第2ステージの様子とともに、筆者が実践していたエネルギー補給の様子をお伝えする。

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荒々しく、美しいフィヨルドの世界 ©HAUTEROUTE

“いきなりヒルクライム”の第2ステージ

2日目もスタート地点まで船で移動。今回は選手と自転車は別々の船で搬送された ©HAUTEROUTE

 第2ステージはノルウェーでも名高い「リーセフィヨルド」という、切り立った花崗岩が深く続くフィヨルドが舞台となる。この日もスタート地点へはフェリーで移動。前日よりさらに遠く、約90分かけてフィヨルドの奥へと向かう。氷河によって深くえぐられたU字谷。雄大な景色の中を進んでいるが、巨大な崖の上部は雲に覆われ、全貌が見えない。

フィヨルドを進むフェリー。悪天候でも選手たちはいつも明るい ©HAUTEROUTE

 おそらく見どころであろうスポットを通過する際、船内アナウンスが申し訳なさそうにそれを告げる。視線の先のホワイトアウトぶりに、選手たちから「見事な雲だ!」と笑いが起きた。雨のヒルクライムに向かう気持ちも、少し軽くなった。

 距離125km、獲得標高2350mというコースプロファイルは初日よりも軽減された印象だが、スタート直後にわずか10kmで900m上る平均斜度9%の“壁”が立ちはだかる。

 オートルートへの挑戦が決まって以来、心に重くのしかかっていた壁。とにかくここを乗り切るために、練習では2日間続けて走れる脚作りと、ダメージを翌日に残さないためのケアを考えていた。

距離125km、獲得2350mから成る第2ステージのコース。スタート直後からいきなり900mの壁が立ちはだかる ©HAUTEROUTE

こまめな補給で負担を最小限に

 ケアの方法として取り入れたのがアミノ酸による補給戦略だ。1つは「BCAA」(必須アミノ酸)の補給によるエネルギーの“売り切れ”対策。スポーツなどで体に高強度の負荷をかけ続けると、筋肉などのタンパク質からアミノ酸が分解され、エネルギー源として使われてしまう。それを防ぐために定期的なBCAA補給を心掛けた。

1レースで使用する「アミノバイタル」(左から筆者が使用した順番)。写真上部がエネルギー補給用の「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」シリーズ。ショットタイプが登場し、より使いやすくなった。下部がBCAA補給用の「アミノバイタル GOLD」と「アミノショット」など Photo: Kyoko GOTO

 そしてもう一つがアミノ酸を活用したエネルギー補給。消化力がそれほど強くない自分にとって、長距離戦でかかる胃腸の負担はじわじわと応えてくる。そのための対策として、糖質に加えて摂取したエネルギーを長持ちさせるアミノ酸「アラニン」「プロリン」が含まれた補給系ジェル「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」をチョイスした。

「アミノバイタル アミノショット」に加え、エネルギー補給用の「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」にもショットタイプが登場。片手と口を使って簡単に開封できる上に、開封部が本体から離れてゴミにならないよう配慮した設計になっている Photo: Kyoko GOTO

 「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」には従来のサイズに加えてショットタイプが登場。ジャージのバックポケットに入れてもまったくかさばらず、開封・摂取も片手で容易にできるサイズになった。

 45gと飲み切りやすい容量。エネルギーは109kcalと従来サイズの半分なので、出走前やエイドなど脚を止められる場所では従来サイズを使用し、ショットタイプは摂りたいタイミングにいつでも摂取できるようにバックポケットに入れるという作戦をとった。

ジャージのバックポケットには必要なときに飲めるよう常時各2セットずつ入れた Photo: Kyoko GOTO
それ以外はエイドで飲んだり、バックポケットに補充する Photo: Kyoko GOTO

息をつかせぬコース展開

 午前9時、メインスポンサーであるマセラティの誘導車に引かれてスタート。タイム計測のセンサーが設置された峠の入口から、選手たちは放たれたようにトルクを上げて一斉に上り始めた。

マセラティの誘導車に引かれてタイム計測ラインまで走る選手たち ©HAUTEROUTE

 日本人は小柄で軽量に見えるのか、「ここは得意なセクションでしょ?」と声をかけられる。「そんなことない」と苦笑いで返しつつ、昨晩のリカバーが成功したのか、ペダルの運びが快調だったのが意外だった。

 スタートした直後、細く暗いトンネルに集団で突入。斜度は緩むどころか強度を増し、やがて10%を超える傾斜に。トンネル内を照らすのは弱々しいオレンジの光とバイクのライトのみ。リアライトを照らしていなければ前後感覚がわからず、ペースを落とすと周囲の選手と接触してしまいそうで力を緩められない。息を止めるような緊迫した状態が1.2kmほど続き、トンネル通過前後で標高は110mほど上昇。こんな集団走行は日本ではありえない経験だった。

ヒルクライムがスタート。一斉に上り始める Photo: Kyoko GOTO
長く暗いトンネルで、しかもきつい斜度!接触を避けるためには必死に上るしかない ©HAUTEROUTE

 トンネルを出たところで、次に現れたのは見事な「つづら折り」。息をつかせぬ賑やかなコースは、さすが地元サイクリストが考案したルートだ。脚を温める間もなく、朝イチ寝起きで無我夢中で上っている選手たち。高度が上昇するにつれて下がる気温。やがて下から見上げていた低い雲の中へと突入し、リアライトが光っていなければ10m先の選手が見えないほどの霧に包まれた。

10kmで一気に900mを上昇する平均斜度9%の九十九折れ ©HAUTEROUTE
辺り一面、霧に包まれた Photo: Kyoko GOTO

 標高932m地点にある計測終了ポイントに到達(オートルートでは事故を防ぐために急斜面でのダウンヒルは計測対象外となる)。最初にしてステージ最難関の壁を越えたことに安堵しつつ、設けられたエイドステーションで1回目の補給をとった。朝食をとってから早くも3時間以上が経過していた。

最初の難関をクリアして安堵の表情 Photo: Kyoko GOTO
パン、スナック、果物にコーラと、エイドの補給食は世界共通のよう Photo: Kyoko GOTO

 エイドステーションに置かれていたフードはパン、スナック、フルーツ、そして飲み物にはコーラとスポーツドリンク。「補給食は世界共通なんだな」と眺めつつ、食べられる分の量を口にする。さらに通常サイズの「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」も補給。これ自体にも180kcalのエネルギーがあるが、摂取した総エネルギーをより長く効率よく使うためのプラスαとして使用した。

「氷河の道」を走る絶景コース

 ここからは50km地点までしばらく下り基調が続く。霧が晴れ、雲の隙間からこぼれる陽の光に周囲の様子が次第に明らかになった。森林限界を超えた、一面荒涼とした景色。氷河によって削り取られた花崗岩や堆積した土砂、フィヨルドエリア独特の地形が広がっていた。

上りきった先に広がった荒涼とした景色。かつて氷河エリアだったことを思わせる独特な地形 Photo: Kyoko GOTO
雄大な自然の中に、きれいに整備された舗装路がうれしい Photo: Kyoko GOTO

 似たような荒涼感は福島県の浄土平周辺にある火山荒原を思わせるが、圧倒的なスケール感は比べものにならない。ダウンヒルの視界に飛び込んでくる景色。爽快に下りたいところだが、フォトジェニックな景色が心をとらえて離さない。絶景コースでのレースは実に酷なものだ。

氷河が削った道筋をたどるように走る Photo: Kyoko GOTO

 氷河の通り道をたどるように引かれたコースを下り、再びタイム計測ゾーンに入る。しばらく平地が続くが谷合の道は向かい風が強く、選手たちは脚の合った者どうしトレインを形成して進んでいた。男性選手の中には平地が速くてもヒルクライムになるとスピードダウンし、抜きつ抜かれつを繰り返すうちに“ご近所さん”のような顔見知りになる人も出てきた。

向かい風が吹き付ける谷間は協力して風を避けながら進む ©HAUTEROUTE
自然と囲まれ、トレインの半ばに入れてもらった。女性は有利? Photo: Kyoko GOTO

 すると、風が強い平地区間では彼を取り巻く周辺の選手たちのトレインに入れてもらい、坂が始まると道を譲ってもらったりするようになった。サイクリスト同士、何もいわずとも発生する自然な助け合いやリスペクトがうれしい。

フィヨルドに面したルート。雨が集まり、ところどこれで小さな滝になっていた ©HAUTEROUTE

 調子の良いときやトレインの流れを維持して走り続けたいときなど、エネルギーの消耗を感じても「まだ大丈夫」と思い、つい補給をおろそかにしがちになるが、実はそれは戦略的にNGだ。

エネルギーの消耗を感じたタイミングで「アミノバイタル パーフェクトエネルギー」を摂取。甘すぎず、飲み応えがあるのでしっかり“満たされ感”を感じる Photo: Kyoko GOTO

 高めの強度で走っていると消耗を感じてからのエネルギーの落ち方が速く、気付いたら“ガス欠”状態になっていたという経験をした人も少なくないだろう。いったんそうなってしまうとしっかりとした補給が必要となり、リカバーにも時間がかかってしまう。なので脚を止めたくないときこそこまめに補給し、エネルギーをキープすることが重要なのだ。

後半の“売り切れ”対策

 後半は雨が止み、時折り晴れ間が見えるなど天候も回復の兆しが見えてきた。冷たい雨にさらされ続けてきた選手たちは、わずかな陽の光でも全身で吸収し、ラストスパートのエネルギーに変えているように見えた。

後半になってようやく晴れ間が見え始めた。フィヨルドの天気は変わりやすく、まだ気は抜けない ©HAUTEROUTE

 100km手前、残り約30kmほどとなったところで、最後の上り区間へと突入する。第1ステージのようにこまかいアップダウンが積もって約700m超となるコース。決して厳しいヒルクライムではないが、前日のステージの悪夢が頭をよぎる。

 「コースマップには見えない小さなアップダウンがたくさんあるんだろうな…」。残り30kmとはいえ、フィヨルドエリアが油断ならないのは学習済みだ。最後の“粘り”を引き出すため、峠ゾーンに入る手前で「アミノバイタル アミノショット」を摂った。

後半の峠ゾーンを前に、最後の“粘り”を Photo: Kyoko GOTO

 案の定、シビれる道のり。ゴールまで「あと10km」というサインが出ても坂、「あと5km」というサインのあとにも坂…。わずか数kmの間によくこんなに坂を詰め込むなぁと思いながら走っていると、背後から選手が追い上げてくる気配が。いまさら競争心に火が着くでもないが、ゴール直前で抜かれるのは悔しい。意地でペースを上げ、坂を駆け上った。

 ゴールタイムは6時間14分。制限時間の7時間以内に走り切り、翌日の最終ステージへと駒を進めることができた。順位はまたしても後ろから数えた方が早かったが、それでも前日から10人余りがDNFとなっていただけに、無事生き残れたことにまずは安堵した。

さんざん選手たちを苦しめた雨もあがり、2日目が終了 ©HAUTEROUTE
第2ステージのフィニッシュゲートをくぐり、安堵の表情 Photo: Kyoko GOTO

最終ステージで出し切るために

 2つの大きなステージを終え、残すところ最終ステージのタイムトライアルのみとなった。コースは大会拠点となるスタヴァンゲルの街中を走る17km。これで目標としていた「完走」はほぼ確実となった。

ゴール直後に摂取した「アミノバイタル GOLD」。BCAAに加え、リカバーに必要な糖質も入っている Photo: Kyoko GOTO

 ただ一方で、これまでのレースを見ているとどんなコースになるのか、参加者たちはどんな走りをするのか、17kmとはいえ観光気分ではいられない。明日は写真撮影をしている余裕はない。それならば全力で走り切り、海外の女性サイクリストたちを相手にどこまで食い込めるのか、試してみたくなった。

 そのために重要なのは、何はさておきリカバーだ。レースを終えた直後にアミノ酸とセルフマッサージでケア。早めに眠りについた。

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Cyclist for Woman オートルート・ノルウェー2018

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