旅せよ!『Cyclist』<3>日本人女性で初参戦「オートルートノルウェー」 158km、2700m超のフィヨルドに挑む第1ステージ

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 世界の山岳コースで繰り広げられるアマチュアステージレース「Haute Route」(オートルート)のノルウェー大会に、『Cyclist』の記者が日本人女性として初めて挑戦した。第1ステージはあいにくの雨だったが、それが必ずしも悪条件とはならないようで、「This is the Haute Route!」と笑う選手たちの表情にはむしろ過酷な状況に挑む高揚感がみえた。走行距離約160km。際立った山岳はないものの、繰り返すアップダウンで最終的に獲得標高2700m超となるタフなコース。雨のフィヨルドは選手たちにどんな表情を魅せてくれるのだろうか。出走レポートとともに、後半では女性記者がレースを走るために選んだ機材についても紹介する。

オートルートの第1ステージ。コースから見えるフィヨルドに、しばし脚が止まる(レースだけど…) Photo: Kyoko GOTO

 8月3日午前6時前、舞台となるフィヨルドエリアへの玄関口、スタヴァンゲルのフェリー乗り場には参加者たちが続々と集まっていた。厚い雲に覆われた現地の気温は10℃ほどで、ひんやりと乾いた空気が日本の秋を感じさせる。

集合場所のフェリー乗り場。ここから第1ステージのスタート地点へと向かう Photo: Kyoko GOTO

 選手たちのバイクにはそれぞれの国の国旗が記されたゼッケンがついており、さまざまな国から集まっていることが改めて一目瞭然となった。そしてそれぞれ着ているジャージから、オートルートの他大会に出走したことのある人のほか、1200kmを走破する「パリ~ブレスト~パリ」や1400kmを走る「ロンドン~エディンバラ~ロンドン」の出走者、アイアンマンなど、さまざまな強者が参加していることも判明。場違いなところに来てしまったのではないかと、再び冷や汗をかく。

バイク用のゼッケンにはそれぞれの国旗が記される。2人はフランスからの参加者 Photo: Kyoko GOTO
イギリス、日本、アメリカからの参加者 Photo: Kyoko GOTO
フェリーに乗り込む選手たち Photo: Kyoko GOTO

 しかし、日本からの参加者と知ると珍しがって声をかけられ、知っている日本語を使って挨拶をしてくる選手や、「北海道のニセコクラシックに出たよ!素晴らしいレースだった」と声をかけてくれる人も。移動中のフェリーでは、日本をサイクリングしたときに撮ったという写真を示しながら「椿がたくさん落ちている林道が日本らしく、素敵だった」などと話してくれる人もいて、わずかな時間だったがこれからレースを共にする選手たちとの距離が縮まった。

バイクラック等を使ってバイクを積載 Photo: Kyoko GOTO
スタート地点まで、およそ40分の乗船時間。レース前の束の間のリラックスタイム Photo: Kyoko GOTO

平地のない158km、獲得標高2700m超のステージ

 第1ステージは「演説台」を意味する「プレーケ・ストーレン」という海抜600mの断崖絶壁で知られる町、ジョープランドの港からスタートする。フィヨルドを走るルートやその遠景を眺めるルートなど、あらゆる角度からフィヨルドを堪能できる総距離158kmの絶景コースだ。

険しく切り立ったフィヨルドの崖。岩肌に沿うようにコースが引かれている ©HAUTEROUTE

 最高でも320mという小高い丘が連なるプロファイルだが、コース全体を通して平地の存在を感じさせない地形がルートマップからうかがい知れる。そんなタフなコースを低く立ち込める雲が神秘的に演出し、選手たちのさらなる高揚感をかきたてる。

第1ステージのコースプロファイル。それほど大きな山岳はないが平地もないギザギザアップダウンコース ©HAUTEROUTE

レースを忘れる圧巻のフィヨルド

午前8時半、雨の中一斉にスタートを切った ©HAUTEROUTE

 午前8時半、降りしきる雨のなか230人が一斉にスタートを切った。レースの臨み方はそれぞれなようで、順位を争う先頭集団は序盤から早々と霧の彼方へ消えて行った。

 制限時間は午後5時までの8時間半。それを超えると“足きり”となるが、平均時速20kmをキープすれば8時間で完走できる計算だ。とはいえ、完走を目的としていると思われる集団も序盤はなかなかの速度で、取材で参加した筆者も周囲のペースに巻き込まれるように平均時速30km前後のペースで走り続けた。

アップダウンが絶え間なく続く ©HAUTEROUTE
雨で滑りやすくなった路面にスリップやパンクも相次いでいた ©HAUTEROUTE
コース間近に迫る険しく切り立った岩 ©HAUTEROUTE

 マップでマーキングされた2つめの峠を越えた65km地点。視界が開けたところでついにフィヨルドが現れた。氷河によって浸食されたU字谷。横を流れるのは一見川に見えるが、もちろん海だ。走るのは断崖と海の間を縫うよう引かれた1本の道。憧れていた地を自分の脚で走っていることに胸が熱くなった。道も想像以上に走りやすく整備されていてとても快適。レースであることを忘れ、サイクリングのスピードで雄大な景色にしばし見入った。

目の前に現れたフィヨルド。音のない静かな海と、迫りくる谷に圧倒される Photo: Kyoko GOTO

 景色だけでなく、ライド中は沿道でのんびり草を食む羊や馬の姿にも癒された。ノルウェーの国旗を振って応援してくれる人々や、地元の子供たちが送ってくれる「Heia!」(ヘイヤ!)という声援、交わすハイタッチに、疲れが少しリセットされた。と、言いたいところだけれど、気持ちとは裏腹に脚には着実に疲労が溜まっていった。

至るところに現れる羊たち。こちらの必死さを横目にのんびり草を食む ©HAUTEROUTE
応援してくれる地元の人たち ©HAUTEROUTE

競争、完走、それぞれの挑戦

 いくつもの峠や坂が選手たちを散り散りにし、全体的にペースが分散していた後半。取材をかねてストップ&ゴーを繰り返す我々も、気付けば所要時間の目安としていた8時間も危うい状況になっていた。120km地点のエイドからゴールまで残り約40km、大きめの峠を含む道のりを2時間余りで走ることに。完走めざしてとにかく踏めるところは踏み、ダウンヒルも攻め、平均時速35kmのペースを取り戻すようにした。

どこまでも行く手を阻む雨と坂 ©HAUTEROUTE

 降ったり止んだりを繰り返していた雨は後半にかけ次第に強さを増し、容赦なく体温と体力を奪い始める。時折り現れる平地に「このままゴールまで続いて!」という思いを嘲笑うかのように、終盤に向けて“エグい”坂が何度も畳み掛けてくる。「こんな坂、マップに載ってないよ~」と心が折れ始める。このマップに載らない標高の‟隠れた坂たち”こそが2700m超の第1ステージを形成していたのだと、しみじみ観念。いまさら腹を立てるでもないが、疲労が精神的に追い打ちをかけてくる。

 1人悶々と残りの距離を走る筆者の行く手に、上半身を大きく揺らして漕ぐ選手の姿があった。よく見ると、ハイソックスに隠れた膝から下が異様に細い。近付いてみると、両脚が義足であることがわかった。

取材でストップ&ゴーを繰り返す我々とほぼ同じペースだった義足のベルギー人選手(写真右)。ペースを落とさず踏み続けていた Photo: Kyoko GOTO

 ベルギーから参加した選手で、手前のエイドで「君は写真を撮りながら走っているのに僕と同じペースだね。すごいね!」と声をかけてきた人だった。そのときは事情がわからず、ただ彼のペースが遅いだけなのかと思っていた。

 遅いペースであっても黙々と走り続ける彼を、複雑な気持ちで追い越す。すれ違いざま、「お互い頑張ろう」といっているような彼の笑顔に、小さなことで感情を乱していた自分が恥ずかしくなった。本当に、このオートルートにはそれぞれが様々な思いをもって参加しているのだ。

優勝者のタイムは4時間台!

 初日はひとまず完走。ゴールタイムは8時間13分。なんとか制限時間内に走り切った。順位は200人中196位。後ろから数えた方が早いのは少し悔しい気もしたが、全ステージ完走を目指す上で、とにかく今日を走り切ったことに満足した気持ちだった。

雨の158kmを走り終え、第1ステージが終了 ©HAUTEROUTE

 スタート時よりも全体数が減っていることからDNFとなった人も少なくないようで、初日からトラブルが多かったことも伺えた。

 一方、優勝者はフランス人男性で4時間42分。女性では地元ノルウェー人が5時間38分で優勝した。全体では67位までが5時間台、そして150位までが6時間台と、皆さんけっこう“ガチ”で臨んでいることがわかった(汗)。

第1ステージで優勝した男女ソロ選手の表彰 Photo: Kyoko GOTO

 いつもなら「今日がんばったから明日は休み!」となるところだが、間髪いれず明日の第2ステージがやってくる。今夜すべきことは出来得る限りの回復だ。早く到着した選手たちはすでにマッサージを受け、疲労回復に努めていた。ここでもさらに強者と弱者の差がつくが、「ずるい」なんて言っていられない。オートルートは全ステージを通しての戦い。それにはトータルな自己管理能力が必要なのだ。

 第2ステージは、いきなり大きな上りから始まることがプロファイルに示されている。寒さと疲れにさらされた体は一体どこまで回復するのだろうか…。翌日の最初の上りが、大きく立ちはだかる壁のように感じた。

女性をサポートする「ランマ」の性能バランス

 今回のオートルートを走るにあたって筆者が選んだバイクは、リブのオールラウンドロード「LANGMA」(ランマ)の「ADVANCED PRO 0」。軽量かつ女性用に最適化した剛性バランス、そして優れたエアロ性能を特徴とするモデルで、登坂のみならず高速巡航までの全領域での走りをカバーするクライミングバイクだ。アップダウンの多い今回のコースでこそ真価を発揮する機材で、これまでストップ&ゴーを繰り返す数々の大会取材においてスムーズな走りを可能にしてくれた実績から、“パートナー”としてチョイスした。

パートナーに選んだリブの「ランマ ADVANCED PRO 0」。過酷な状況で発揮するオールラウンドなレースパフォーマンス Photo: Kyoko GOTO

 選んだ最大の決め手は女性用に特化した剛性だ。「軽量=快適」なのかというと、決してそうではないカーボンフレーム。脚力に合わない固さのフレームでは軽量であっても脚にかかる負担は大きく、力を浪費していることにもなる。その点ランマは超軽量で高い剛性をもつプロ用グレードのカスタムブレンド樹脂を使用し、さらに女性の脚力を最大限に引き出す絶妙なチューニングがなされている。

峠を上りきったところ。独特のしなりでダンシングもしやすい ©HAUTEROUTE

 そのアウトプットは“しなり”として現れ、登坂時などには踏み込んだ力が逃げずにしっかりと跳ね返り、次の踏む力を生むような反動のサイクルを生み出す。この柔らかさは実は平地の加速時にも重要で、蓄積する負荷の少なさが後々の疲労に差をつけることになる。バイクが「相棒」となるのか、それともただ脚を削る「鉋」となるのか。女性の場合、それはとくに剛性によって大きく左右されるのだ。

細部に至る標準搭載パーツの心強さ

 また、ランマは標準搭載されているパーツも心強い。とくに今回のような雨のレースで活躍したのが、ジャイアントオリジナルのフルカーボンホイール「SLR0 WHEELSYSTEM」とオールトレッド仕様のチューブレスレディタイヤ「GAVIA AC 0 TIRE」の組み合わせだ。

オンロードチューブレスレディタイヤ「GAVIA AC 0 TIRE」 ©Liv

 レース中、ダウンヒル時に濡れた路面で相次ぐスリップ事故を横目に、序盤は慎重に坂を下っていた。しかし何度もダウンヒルを繰り返すうちに、コントロール性に優れたカーボンホイールとタイヤの組み合わせが生み出す確かなグリップ力を実感。ハンドルの操作性の高さが発揮され、濡れた路面でも安定したコーナリングができたことは大きな安心につながった。また雨天時にはパンクの危険性が増えるが、その点についても優れた耐パンク性能で余計な心配をせずに走行することができた。いざというときに乗り手を護るパーツが標準搭載されている、配慮の行き届いた設計はメカに強くない女性が使うバイクだからこそ必要なのだ。

ワンタッチで操作できるDi2は、手が小さく握力の弱い女性にとって大きなメリット Photo: Kyoko GOTO

 また、シマノの電動コンポーネント「ULTEGRA Di2」も女性にとっては大きな強みだった。冷たい雨に濡れ、握力が奪われた手元でも軽いタッチで思い通りに操作できるシフトチェンジは実にストレスフリー。こちらも、手が小さく、握力の弱い女性のためのバイクだからこそ標準搭載されるべきパーツであると実感した。

 しなやかなフレームと搭載パーツの高次元な性能バランスを実現したランマ。ロングライドやレースに挑戦してみたい、いまの走りを変えてみたいと考えている女性にぜひ試してほしいモデルだ。

同じ「Liv」ブランドのバイクに乗るイギリス人の女性と Photo: Kyoko GOTO
女性の参加者は全体の1割程度だが、女性サイクリストのリブ率高し Photo: Kyoko GOTO

■LANGMA ADVANCED PRO 0
サイズ:385mm(XXS)、410mm(XS)、445mm(S)
重量:7.0kg(410mm)
ドライブトレイン:シマノアルテグラDi2
クランクセット:シマノ アルテグラコンパクト
ブレーキ:シマノ アルテグラ
ホイール:ジャイアントSLR1 カーボン
タイヤ:ジャイアントGAVIA AC 0 700x25C チューブレスレディ
変速:22速
税抜価格:500,000円

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