富士山麓と三国峠が勝負どころに獲得標高4865mの難関コースはどんな選手向き? 東京五輪ロードのコースと有力選手をプレビュー

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 2020年東京オリンピックの自転車ロードレースのコースが発表された。男子はレース距離234km・獲得標高4865mの超難関コースとなっている。今回は本コースのポイントや勝負どころについてプレビューしたいと思う。

獲得標高4865mの難関コース

 スタート地点は東京都調布市、味の素スタジアムの北側に広がる「武蔵野の森公園」だ。10kmほどパレード走行して、多摩川にかかる是政橋を越えるとアクチュアルスタートとなる。

2020年東京オリンピック 男子ロードレース コースマップ ©UCI

 多摩近辺のサイクリストにとっては馴染み深い「尾根幹」こと南多摩尾根幹線道路の一部を通って、山梨方面の山岳地帯を目指していく。40km以上続く緩やかな上り坂の「道志みち」をクリアすると、山中湖畔の道路を経由して、「籠坂峠」を越えたあとは、いったん御殿場方面へ下る。

 10km以上続く長い上り坂の富士スカイライン、南富士エバーグリーンライン(※普段は自転車走行不可)の山頂は標高1450m。今大会の最高標高地点だ。

 再び御殿場まで下り、細かなアップダウンの多いフィニッシュ地点の富士スピードウェイ周辺を走行し、2回フィニッシュ地点を通過する。

 レース距離が200kmに近づくなか、今大会最大の勝負どころである「三国峠」を目指す。峠を越えると、再び山中湖の南側に沿って進み、籠坂峠を越え、最後のダウンヒルへと突入。

 下りきるとフィニッシュまでは残り10kmもない。細かいアップダウンを越えながら、富士スピードウェイへとフィニッシュする。

3つの山岳が勝負の鍵をにぎる

2020年東京オリンピック 男子ロードレース コースプロフィール ©UCI

 前半の尾根幹はアルデンヌクラシックを彷彿とさせるような細かなアップダウンを含むコースではあるものの、レース序盤では逃げ集団とのタイム差を調整するために流す区間となるだろう。「道志みち」は頂上付近の勾配はかなり厳しいものの、全体としては難易度の高い上りではない。

 最初の勝負どころはフィニッシュまで111km地点から始まる、富士スカイラン・南富士エバーラインを通る富士山麓へと至る上りだ。登坂距離14.4km・平均勾配6%となっており、グランツールでは超級山岳にカテゴライズされてもおかしくない長く厳しい上りである。

 2017年ツール・ド・フランス第11ステージのフィニッシュ地点に登場した1級山岳ラ・ロジエールは登坂距離17.6km・平均勾配5.8%。2016年ツール第9ステージの序盤に登場した1級山岳ポール・ド・ラ・ボネギュアは登坂距離13.7km・平均勾配6.1%。同第20ステージに登場した1級山岳コロンビエール峠は登坂距離11.7km・平均勾配5.8%。富士山麓への上りはツールの1級山岳と同じクラスの難易度だといえよう。

 そして、フィニッシュまで残り42km地点から始まる三国峠の上りが最大の勝負どころとなる。登坂距離6.8km・平均勾配10.2%となっており、最大勾配は20%を越える。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2011 第15ステージ、アングリル峠を走るダニエル・マーティン Photo : Yuzuru SUNADA

 ちなみに2018年ジロ・デ・イタリア第14ステージのフィニッシュ地点に登場したモンテ・ゾンコランは、登坂距離10.1km、平均勾配11.9%、最大勾配22%。2017年ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージのフィニッシュ地点に登場したアングリル峠は、登坂距離12.5km・平均勾配9.8%・最大勾配23.5%となっている。三国峠は距離が短いだけで上りの強烈さはゾンコランとアングリルに匹敵する。

 三国峠の山頂からわずかに下って、湖畔の平坦路を通って残り27km地点から登坂距離2.2km・平均勾配4.5%の籠坂峠が登場。三国峠で疲労した脚を休める間もなく現れる上に、ここまで200km以上を走り、獲得標高も4000mをゆうに越えてきているであろう選手たちにとって籠坂峠は数字以上に厳しい上りになるだろう。

 最後のセレクションを経て、10km以上にわたる長いダウンヒルへと突入。下りきってからは細かいアップダウンと連続するコーナーが登場する、かなりテクニカルなレイアウトになっている。

予想されるレース展開

 コースレイアウトを見ていると、中盤から終盤にかけてクライマーでないとこなせないクラスの上りが登場することと、最後は下って平坦フィニッシュという点において、イル・ロンバルディアに似ていると思う。なお、2017年のイル・ロンバルディアはレース距離247km・獲得標高3600mだったが、年によっては獲得標高4000mを超えることもある。

 そこで、イル・ロンバルディアの過去10年の勝者とレース展開を振り返ってみたい。

 ●2017年:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)
 →ラストから2つ目の山岳の下りで独走に持ち込み単独逃げ切り

ディエゴ・ローザ、リゴベルト・ウランとのスプリント勝負を制したエステバン・チャベス Photo : Yuzuru SUNADA

 ●2016年:エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
 →最後の上りで絞り込まれた4人によるスプリント勝負

 ●2015年:ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナプロチーム)
 →最後から2番め、残り17km地点の山岳の下りで独走に持ち込み単独逃げ切り

 ●2014年:ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)
 →フィニッシュ直前の激坂区間で9人に絞り込まれたグループから、ラスト500mで飛び出して勝利

独走勝利で、大会2連覇を決めたホアキン・ロドリゲス Photo : Yuzuru SUNADA

 ●2013年:ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム・カチューシャ)
 →最後の上りで集団から抜け出し、残り9kmを独走して勝利

 ●2012年:ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム・カチューシャ)
 →最後の上りで集団から抜け出し、残り9kmを独走して勝利

 ●2011年:オリバー・ツァウグ(スイス、レオパード・トレック)
 →最後の上りで集団から抜け出し、残り9kmを独走して勝利

雨のなか独走で大会2連覇を果たしたフィリップ・ジルベール Photo : Yuzuru SUNADA

 ●2010年:フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファルマ・ロット)
 →残り25km地点の山岳の下りで2人で飛び出し、残り5kmの上りでもう1人を振り切って独走勝利

 ●2009年:フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)
 →残り6km地点の上りで飛び出した2人によるマッチスプリントを制して勝利

 ●2008年:ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)
 →残り7km地点の上りで飛び出し、最後は独走逃げ切り

 10回中6回がグランツールで総合3位以内に入ったことのある選手による勝利だ。ダニエル・マーティンも2017年ツール総合6位となっている。やはり、東京五輪もグランツールで総合成績を狙えるようなクライマーに有利なコース設定だといえそうだ。

 また、独走勝利は7回。2位とタイム差がつかなかったケースは2009年と2016年の2回のみだ。ほとんどが、勝負どころでアタックを決めた選手による独走勝利という結末を迎えている。

 東京五輪も同じようなレース展開が予想できる。特に三国峠を越えてからの2回目の籠坂峠は独走に持ち込むには絶好のアタックポイントとなるだろう。終盤の三国峠、籠坂峠に向けてどのように集団の人数を減らしていく、また有力選手の脚にダメージを与えていくかがチーム戦略の見どころとなる。

 一例をあげると、中盤の富士山麓の上り区間で、クライマー中心のチームが激しいペースアップを見せ、ライバルチームの平坦系選手を集団から脱落させていく。

 続いて、セカンドエース級の選手がアタックを仕掛け、あわよくば少人数の精鋭集団を形成し、逃げ切りを狙う姿勢を見せる。集団に取り残されたチームは平坦系選手が脱落した上に、残ったクライマー系の選手を中心に逃げを追いかけねばならない。このようにライバルチームの力を削いでいくような狙いは考えられる。

 そうして三国峠からは、エース級の選手たちによるアタックの打ち合いになるだろう。数人に絞られた先頭集団から籠坂峠でタイミング良く独走に持ち込んだ選手が、限りなく金メダルに近い存在になりそうだ。

有力選手を紹介

 その金メダル候補となる有力選手の特徴イル・ロンバルディアに勝てるような脚質を持ち、もしくはグランツールで総合表彰台を狙えるような山岳に強いクライマー系の選手だといえそうだ。もしくは全盛期のジルベールのような上れるパンチャー系の選手にも十分勝機はあるだろう。

 また、一つ懸念点としては2020年のツール・ド・フランスは7月19日に閉幕する。そこから中5日で、10時間近く時差のある日本でレースをすることは一筋縄ではいかないだろう。2020年ツールを完走して、なおかつ東京五輪を狙う選手は時差への対応も重要な要素となるだろう。

 気は早いが、有力選手候補を数人ピックアップしたい。

 ◆ジュリアン・アラフィリップ(フランス)

 10km以内の短い上り、特に勾配がキツくなればなるほどにアラフィリップの爆発力が生きてくる。ダウンヒル技術も天下一品で、グランツールではたびたびダウンヒルで最速スピードをマークするなど、異次元のスピードで後続を振り切る力も持ち合わせている。さらにスプリント力も非常に高く、集団スプリントに持ち込んでも十分勝機があるだろう。

激坂への適性、ダウンヒル能力、スプリント力と東京五輪のコースに必要な要素をすべて高いレベルで持つジュリアン・アラフィリップ Photo : Yuzuru SUNADA

 ◆サイモン・イェーツ(イギリス)

 今年のジロ・デ・イタリアで見せたように、登坂力のポテンシャルは世界随一。さらに独走力も高い選手で、上り坂の飛び出しから逃げ切って勝利することは、サイモンの得意パターンである。それなりにスプリント力も高いため、小集団のスプリントに持ち込まれても十分勝負できるだろう。

 ◆アダム・イェーツ(イギリス)

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017を走るアダム・イェーツとサイモン・イェーツ Photo : Yuzuru SUNADA

 サイモンとほぼ同じである。ただ、今年のコンディションを見る限りではサイモンの方が期待できるが、2年後はどちらも同じようにさらに強く進化していることが期待できるだろう。むしろサイモン(orアダム)が2人いるようなイギリスチームは相当に手強い。

 ◆ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)

 イル・ロンバルディアで2勝をあげているように、上りが厳しくタフなコースで、最後はダウンヒルを経てフィニッシュするようなコースは抜群の相性を誇る。唯一の懸念点は2020年に35歳となる年齢だろうか。

 ◆アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)

 激坂登坂力、クライマーとは思えないスプリント力は完全にワンデーレース向きの脚質だ。数々のワンデークラシックを制してきたバルベルデだが、ロンバルディアと世界選手権では優勝経験がない。2020年に40歳となる年齢よりも、そちらのほうが懸念点に思える。

 ◆ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)

 上りの強さ、ダウンヒル技術の高さもさることながら、ツールでは延々と集団先頭で引き続けることができるタフネスさが東京五輪のコース向きといえるだろう。ゆくゆくはグランツールレーサーになる計画もあるため、2年後には今よりもさらに登坂力が向上している期待が持てる。

 ◆新城幸也(日本)

 新城は2011年のロンバルディアで逃げ集団に乗り、メイン集団に追いつかれてからも粘りの走りを見せ、終盤まで先頭集団に生き残った経験を持つ。逃げ切りの可能性も決してゼロではないと思う。

ヨーロッパカー時代の2011年、ジロ・ディ・ロンバルディアで逃げに乗った新城幸也 Photo : Yuzuru SUNADA

◇         ◇

 各方面から指摘がある通り、現状の日本人選手にとっては厳しいコース設定といわざるを得ない。それでも世界トップクラスの選手が集結して、オリンピック金メダルの名誉をかけた真剣勝負が、日本で繰り広げられることが貴重な機会だといえよう。

 憧れの名選手たちが馴染みのある風景の中を走る姿を見られることが、日本でオリンピックが開催されるメリットの一つではないだろうか。

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