落車で一躍有名人に骨折しながらツールを最下位完走、ローソン・クラドックが残したもの

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 ツール・ド・フランス2018が始まるまで、よほどのロードレースファンでなければ知らなかったのではないか。EFエデュケーションファースト・ドラパックのローソン・クラドック(26)のことだ。今年のツールで話題となった選手の一人である。

第1ステージで落車、左瞼の裂傷と肩甲骨骨折のダメージを受けたEFエデュケーションファースト・ドラパックのローソン・クラドック Photo: Yuzuru SUNADA

ツールでの落車がキャリア最大の出来事に

 クラドックは、2014年にチーム ジャイアント・シマノに所属、ワールドチーム入りを果たしたアメリカ人選手だ。同年、当時UCI2.HCクラスだったツアー・オブ・カリフォルニアで総合3位に入賞。2016年にはキャノンデール・ドラパックに移籍し、同レースで総合5位に入るなどの成績を収めた。

 2017年はオーバートレーニングに陥り、目立った成績はないが、2018年のアムステル・ゴールド・レースでは9位に入っている。広く知られていないながらも、将来有望な選手の一人であるのは間違いなさそうだ。

 そんなクラドックが、より広く注目されたのは、今年のツール第1ステージで起きた落車事故からではないだろうか。

欧米で忌み数となる「13」ゼッケンのクラドック。ゲン担ぎでゼッケンは片側を逆につけるのが習わし  Photo: Yuzuru SUNADA

 クラドックは、レース中盤、落車に巻き込まれた。額から血を流し、ダメージを受けた左肩を大きく落とし、明らかに不自然な不自然なフォームで走り続けていた。欧米では不吉とされる「13」がクラドックのゼッケンナンバーであったことも、何か人知の及ばぬ運命的なものを感じさせた。

 事実、落車によりクラドックが受けたダメージは甚大だった。レース後の医師による診断は、肩甲骨骨折。普通に考えれば、走り続けることは無理だが、クラドックは走り続けることを選んだ。

クラドックによるツール“裏番組”がスタート

 EFエデュケーションファースト・ドラパックのウェブサイトによれば、身体面でのサポートは整っていたが、精神面でネガティブな状況をポジティブにする方法が必要だったという。そこで考案されたのが、クラドックがツールで1ステージをこなすたび、「アルケック・ヴェロドローム」に100ドルを寄附するというアイデアだった。

 アルケック・ヴェロドロームは、米国テキサス州ヒューストンにあるトラック競技場のこと。2017年9月のハリケーン・ハービーの襲来でダメージを受けたこの競技場は、クラドックと深く関わりがある。ヒューストン生まれの彼の競技人生はここから始まっており、彼の名を冠したセミナーもここで開催されているのだ。

 このアイデアの実行をクラドックはTwitterを介して宣言。ツールの表番組がマイヨジョーヌ争奪戦だとすれば、クラドックの企画はまさに裏番組的存在。「クラドック、いつまで走り続けられるかな?」という企画に、世界中が注目したというわけだ。

不屈の精神が見せた光

 クラドックの苦痛は想像を絶するものがある。アスファルトを走るだけならまだしも、多数の石畳区間を含んだ第9ステージなどは想像するだけで地獄だ。それでも、クラドックは走り続けた。最終的に、完走者145人中、最下位となる個人総合145位でゴールのパリ・シャンゼリゼを迎えた。

 完走だけでも信じられないが、それ以上に驚くべきは、クラドックの宣言が一大プロジェクトに成長したことである。Twitterでの宣言以後、寄附への賛同の声が高まり、クラウドファウンディングサイトの「gofundme」で支援募集がスタート。多額の支援を集めた。その数は、日本時間8月1日午後7時の時点で、支援者3231人、支援総額24万7001ドル(日本円で約2700万円)。ツールが終わった今なお、支援者数、支援額ともに増え続けている。

 思い返せば、チームとして見ても、クラドックが一番の立役者だったのではないか。昨年の個人総合2位でエースのリゴベルト・ウラン(コロンビア)が第12ステージでレースを去っており、チームとしてステージ優勝はなく、4賞ジャージ争いにも絡まなかった。チーム成績も全22チーム中20位である。となると、チームのなかで最も目立った功績を残したのは、落車負傷して最下位でゴールしたクラドックだ。どん底から這い上がろうとするクラドックの姿は、ドラマチックであり、チームの存在も十分にアピールできたはずだ。

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