最大のライバルであるデュムランを完封ゲラント・トーマスのツール勝因を分析 全くミスなく走り抜けた3週間

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 第105回ツール・ド・フランスは、ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)の総合優勝で幕を閉じた。チームメートのクリストファー・フルーム(イギリス)とのダブルエースが取り沙汰されるなかで、終始安定した走りを披露していた。今大会のトーマスの走りを振り返りながら、勝因を分析したいと思う。

ウェールズ出身として初めて総合優勝を飾ったゲラント・トーマス Photo: Yuzuru SUNADA

コツコツ積み上げた1分51秒

 最終的にトーマスは総合2位のトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)に対して1分51秒差をつけた。いかにしてこれだけのリードを生み出したのか、トーマスとデュムラン、2人にタイム差がついたステージを振り返ってみたいと思う。

●第2ステージ

 トーマスがボーナスポイントを3位通過して、1秒獲得。

●第3ステージ

 チームタイムトライアルでチーム スカイは4秒差のステージ2位、チームサンウェブは11秒差のステージ5位で、トーマスが差し引き7秒リード拡大。

●第6ステージ

 トーマスがボーナスポイントを2位通過して2秒獲得。デュムランはメカトラのため、トーマスから50秒遅れてフィニッシュ。さらにチームカーを風よけに使ったとして20秒のペナルティを受けた。トーマスが差し引き1分12秒リード拡大。

●第11ステージ

 1級山岳ラ・ロジエールの山頂フィニッシュで、ラスト1kmでスパートをかけたトーマスがステージ優勝し、ボーナスタイム10秒獲得。デュムランは20秒遅れのステージ2位でボーナスタイム6秒獲得、トーマスが差し引き24秒リード拡大。

アルプ・デュエズの山頂フィニッシュを制したゲラント・トーマス Photo: Yuzuru SUNADA

●第12ステージ

 超級山岳アルプ・デュエズの山頂フィニッシュで、最終コーナーで加速したトーマスがステージ優勝し、ボーナスタイム10秒獲得。デュムランは2秒遅れのステージ2位でボーナスタイム6秒獲得、トーマスが差し引き6秒リード拡大。

●第17ステージ

 超級山岳コル・デュ・ポルテの山頂フィニッシュで、フィニッシュ直前でスパートをかけたトーマスがステージ3位に入り、ボーナスタイム4秒獲得。デュムランは5秒遅れのステージ5位となり、トーマスが差し引き9秒リード拡大。

●第19ステージ

 超級山岳オービスク峠からの長いダウンヒルを経てフィニッシュするステージで、トーマスがステージ2位に入り、ボーナスタイム6秒獲得。デュムランは同タイムのステージ6位でフィニッシュ。

●第20ステージ

 個人タイムトライアルで、デュムランがステージ優勝(ボーナスタイムはなし)。トーマスは14秒遅れのステージ3位だった。

◇         ◇

 トーマスがデュムランに対してタイムを失ったのは、第20ステージの個人タイムトライアルのみだった。落車もなく、メカトラもなく、バッドデーもなく、山岳で遅れることもなく、終始安定した走りを見せていた。

 唯一タイムを失ったタイムトライアルにしても、トーマスは第1・2計測ポイントでトップタイムを出しており、最終区間は監督の指示によりペースを落としていたため、もしかしたらデュムランのタイムを上回る結果を出していた可能性もあった。

 つまり、今大会においてトーマスはデュムランをほとんど完封したといえるレース展開を見せていたのだ。

デュムランを徹底マークする走り

 最終的に総合2位となったデュムランだが、スカイとしても最初から最大の脅威と認識していたわけではない。実質的に初めてジロ・ツールと連戦して総合を狙うデュムランが、どれほどの走りをするかは未知数だったからだ。

クリストファー・フルームと競り合うトム・デュムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 最初の本格的な山頂フィニッシュとなった第11ステージで、デュムランはステージ2位に入る走りを見せて、総合3位に浮上した。フルームは「警戒すべきはデュムラン」とコメントを残すなど、第11ステージを境にデュムランへのマークを強めたものと思われる。

 以降はマイヨジョーヌのトーマスが、デュムランを徹底マークしながらレースを展開していた。他の総合勢が動いてもトーマスはほとんど動かず、デュムランのアタックはすべてチェックする徹底ぶりだ。

 山岳アシストがほとんどいないデュムランにとって、トーマスのマークを外してアタックを成功させることは至難の業だった。そのため、デュムランはトーマスから全くタイムを挽回することができなかったのだ。

タイムトライアルで挽回不可能なタイム差を築く

 そのデュムランにとって、唯一反撃のチャンスが第20ステージのタイムトライアルだった。世界チャンピオンでもあるデュムランは前評判も高く、トーマスに対して1分稼ぐことも可能ではないかと見られているほどだった。

 デュムランは第6ステージのメカトラの影響で、すでに1分以上のビハインドを背負っている状況だったが、もしメカトラがなかったとしても、トーマスはデュムランに対して合計55秒のタイムを稼ぎ出していた。単純計算ではあるが、どのみち1分近いリードを持って、トーマスはタイムトライアルに臨むことができただろう。

第11ステージのロングスパートは圧巻だった。わずか700mほどでデュムランに対して20秒差をつける走りだった Photo : Yuzuru SUNADA

 その55秒のうち、45秒はトーマスがデュムランを徹底マークした後に、フィニッシュ間際でスパートをかけて稼ぎ出したタイムである。

 元々トーマスはトラックレーサーだったこともあり、短時間高出力でロングスプリントを仕掛けるような走りは得意としていた。そのロングスプリントの威力を維持しながら、上り区間でのペース走行を強化するのに、長い月日を要したものと思われる。

 長い上り区間ではディフェンシブな走りに徹し、体力を温存した上で、ラスト1kmを切った勝負どころでスパートをかけるトーマスの脚質は、ペース走行を中心とするデュムランにとっては最悪の相性といえる組み合わせだった。

ライバルの攻撃を未然に防ぐ山岳アシスト陣

 トーマスの総合を脅かす選手は、もちろんデュムランだけではなかった。

 トリプルエースが話題だったモビスターチームのナイロ・キンタナ(コロンビア)とミケル・ランダ(スペイン)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)といったピュアクライマーたちは、ペース走行中心のトーマスを振り切って先行する力を持っている。

 ピュアクライマーの武器は、ダンシングを多用して厳しい上り区間で一気に後続を突き放す爆発力である。しかし、爆発力は永遠に持続するものではないため、ある程度後続を引き離したらシッティングも多用しながらペース走行に切り替えることが多い。そうして、置き去りにしたライバルたち同士がお見合いになればしめたもの。築いたリードをさらに拡大しながら山頂を目指すことができる。

 ピュアクライマーがアタックを仕掛け、エースが取り残されるような展開は避けねばならなかった。

 そこで、スカイはシンプルに上りに強い選手を多く起用した。今回の出場メンバーでいうと、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)、ワウト・プールス(オランダ)、エガン・ベルナル(コロンビア)だ。スカイは、いわゆる山岳アシストの戦力が非常に充実しているチームなのだ。

今年もスカイの山岳トレインは盤石の体制だった Photo: Yuzuru SUNADA

 そのため、仮にピュアクライマーがアタックして先行したとしても、それを追うためのアシストを残すことができていた。さらに、スカイの山岳アシストの引きが速すぎるために、そもそもピュアクライマーが簡単にアタックを仕掛けることができない状況をつくり出していた。

 山岳トレインと呼ばれるこの戦略は、ブラッドリー・ウィギンス(イギリス)、フルームといったペース走行を得意とする歴代のツール王者を支えてきたスカイの定番戦略だ。

◇         ◇

 「ここ数年の間、グランツールで総合争いができるように、トレーニングしてきた」とトーマスが語ったように、元々スカイがフルームを総合優勝させるための戦略に、トーマス自身がハマるような身体に仕上げてきたことが、勝利の根本的な要因だといえよう。

 その上で最強のライバルといえるデュムランに差をつけるための、フィニッシュ前のロングスパートというトーマスが持つ唯一無二の武器を生かした戦略が見事にハマった大会だった。

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