ツール・ド・フランス2018 第20ステージ今大会唯一の個人TTはデュムランが世界王者の貫禄 トーマスは夢のマイヨジョーヌを手中に

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス2018は7月28日、第20ステージが行われ、今大会唯一の個人タイムトライアルステージとなる31kmのコースでトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)がトップタイムをマークし、ステージ優勝を果たした。個人総合首位、マイヨジョーヌで出走したゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)は、デュムランから14秒差のステージ3位とまとめ、トップの座をキープ。残る最終の第21ステージでは総合争いを行わないことが慣例となっているため、ツール第105回大会の王座にはトーマスが就くことが濃厚となった。

ツール・ド・フランス2018第20ステージ。31km個人タイムトライアルは世界王者のトム・デュムランが優勝した Photo: Yuzuru SUNADA

マイヨジョーヌを賭けたハイレベルのTT勝負

 熱い戦いが続くツール2018は残すところ2ステージ。第3週はピレネー山脈が主な舞台だったが、山岳での争いは前日の第19ステージで終了。あとは、この個人タイムトライアルステージと、翌日のパリ・シャンゼリゼへの凱旋ステージのみとなった。

 ツールの華であるマイヨジョーヌ争いは、第2週のアルプス山脈、そして第3週のピレネーでさまざまなドラマが起こった。その争いに終止符を打つことになるのが、この日の個人タイムトライアル。真のオールラウンダーの座をかけた戦いは、山岳・TTのバランスに長けた選手が勝利をつかむことになる。

新人賞のマイヨヴェールで出走したピエール・ラトゥール Photo: Yuzuru SUNADA

 サンペー=シュル=ニヴェールからエスプレットまでを結ぶ31kmのコースは、変化に富んでおり、ただ独走力があれば対応できるかというと、決してそうではない。加えて、アップダウンへの適応力、そして安定したペースで最後まで押し通すことができるかも重要なポイントになる。

 そして、このステージのクライマックスに最大の難所が立ちはだかる。終盤の急坂コル・ド・ピノディタは登坂距離こそ900mだが、勾配が10.2%とあり、限界ギリギリまで攻め続ける選手たちの底力が試される。これを上りきると、残すは3km。一気に下って、エスプレットに設けられるフィニッシュへと急ぐ。

 ステージ優勝はもちろんだが、マイヨジョーヌ争いの行方も焦点となる。特に、前日までの個人総合上位4人はいずれもタイムトライアルスペシャリスト。ここまで、マイヨジョーヌのトーマスから個人総合2位のデュムランまでが2分5秒。そこから19秒差で同3位のプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)。さらに13秒差で同4位のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が続く。マイヨジョーヌを賭けて、ハイレベルのTT勝負が繰り広げられることは間違いない。

 また、31kmというレース距離から考えて、選手間で1分から2分の差がつくことは大いに考えられる。それだけに、土壇場での個人総合順位の大幅なシャッフルが起こっても不思議ではない。

 もっとも、フランス南部は前夜から雨。スタート1時間ほど前に一度天気が回復し、場所によっては路面が乾きつつあったが、レース開始直前に再び霧雨が降り始めた。ロードコンディションはウェットな状態で、競技開始を迎えた。これがステージ優勝争い、そして総合成績にどう影響するかも興味深い。

出発する選手を大観衆が見送る ©︎A.S.O.

クウィアトコウスキーのタイムが長くトップタイムに

 第1走者のローソン・クラドック(アメリカ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が現地時間正午(日本時間午後7時)にスタート。最初の39人は1分30秒おき、40番以降の選手から2分おきにコースへと出発する。

山岳賞のマイヨアポワで出走したジュリアン・アラフィリップと応援する沿道のファン ©︎A.S.O.

 まず好タイムをマークしたのは、24番スタートのマイケル・ヘップバーン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)。42分15秒で走破すると、しばらくこのタイムがトップに位置。後にスタートする選手たちの基準タイムとなった。

 均衡が破られたのは、ヘップバーンのフィニッシュから2時間近く経てのこと。82番スタートのマルク・ソレル(スペイン、モビスター チーム)が100分の5秒差でトップに立つ。22km地点に設けられた第2計測ポイントまでは3番手につけていたが、終盤にペースを上げてヘップバーンを上回った。

 これを機に、数人が立て続けに好タイムをマーク。93番スタートのソーレン・クラークアンデルセン(デンマーク、チーム サンウェブ)が、初めて42分を切る41分44秒でフィニッシュすると、その3人後にコースへ繰り出したミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)がクラークアンデルセンを1秒上回る41分42秒で走り切る。

 今大会はトーマスやフルームの山岳アシストとして堅実な走りを見せてきたポーランド王者が、この後長時間にわたってトップタイムの選手が座るホットシートに就くこととなる。

デュムランがトップタイム トーマスは安全策

 145選手が出走したこの日の個人タイムトライアル。クラドックのスタートから約4時間後、いよいよ個人総合上位陣の出番がやってきた。

苦戦を強いられたナイロ・キンタナ Photo: Yuzuru SUNADA

 その走り次第では順位のジャンプアップも期待できるものだったが、クウィアトコウスキーのトップタイムに迫る選手は現れない。2日前の第18ステージの途中で落車したナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)に至っては、負傷の影響か大苦戦。表情を歪めながらフィニッシュへとやってきたが、その時点でトップタイムから3分以上の遅れ。総合順位のキープにも黄色信号が灯ってしまった。

 第2計測では、個人総合11位のボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)、同10位のイルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)が立て続けにトップタイムをマーク。終盤の走りに期待が膨らんだが、ペースを上げきれず、クウィアトコウスキーからそれぞれ2秒、12秒の遅れ。

クリストファー・フルームの走り Photo: Yuzuru SUNADA

 クウィアトコウスキーがトップタイムのまま、いよいよ総合上位4選手がスタートする時間がやってきた。まず登場したのは、個人総合4位のフルーム。現地時間午後4時23分、大歓声とブーイングとが入り混じった異様な雰囲気の中、スタート台から飛び出していった。

 この頃には部分的に路面が乾き、わずかながらもロードコンディションに変化が起きていた。それも関係してか、フルームはスタートからハイスピードで攻める。

 フルームから2分後、前日のステージ覇者のログリッチェが、翌日の総合表彰台をかけてスタート。さらに2分後、この種目の世界王者であるデュムランがマイヨアルカンシエルでコースへ。大歓声を受けて出発した。

プリモシュ・ログリッチェの個人タイムトライアルの走り Photo: Yuzuru SUNADA

 そして真打ち登場。全身イエロー、マイヨジョーヌのトーマスがスタート台へ。現地時間午後4時29分、いつも以上に集中した表情でコースへと繰り出した。

 タイムトライアルの実力的に、ステージ優勝争いとマイヨジョーヌの行方が直結すると予想された4人の走り。その見立て通り、13km地点に設定された第1計測からハイレベル。フルームがそれまでのトップタイムを5秒上回る。ログリッチェはフルームから30秒遅れ、デュムランは2秒遅れ。最後にやってきたトーマスは、直前のコーナーで後輪を滑らせたものの立て直し、フルームを14秒上回ってみせる。

 ハードな上りにもしっかりと対処し、テクニカルな下りもこなしていく4人の選手たち。迎えた第2計測では、フルームがトップタイムを27秒更新。かたや、中盤の走りで苦しんだのがログリッチェ。第1計測での遅れを少しでも取り戻したいところだったが、さらに離されてしまい49秒差。大きなギアを回し続けるデュムランはフルームから2秒差と変わらず。その3人をよそに、ここでも好調さを示したのがトーマス。フルームのタイムを12秒上回った。

好調をキープするトーマスが第2計測までトップタイムで走る Photo: Yuzuru SUNADA

 大観衆が待つ急坂コル・ド・ピノディタをハイケイデンスで上るフルーム。そのペダリングには力強さがうかがえる。一方、ログリッチェはダンシングを多用し、落ち込みを何とかとどめようと試みる。ここまで安定したペースを刻むデュムランは、ビッグギアでグイグイと上っていく。そこにはマイヨアルカンシエルの意地が垣間見えた。

 「頂上決戦」に挑んだ4選手がフィニッシュへ。終盤の下りも攻めたフルームは、クウィアトコウスキーのタイムを49秒上回る40分53秒。圧倒的かつ王者の走りに、チームメートのクウィアトコウスキーも納得の様子。フルームに拍手を送って、ホットシートを後にした。

 実質、フルームとの総合表彰台争いになったログリッチェは、最後までスピードに乗れず、直前にフィニッシュしたフルームから1分11秒遅れ。スタート前まではフルームを13秒差で上回っていたログリッチェだったが、この結果によって総合での逆転を許すこととなった。

終盤のペースアップをステージ優勝につなげたトム・デュムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 ログリッチェのフィニッシュから間髪入れずにデュムランがフィニッシュ地点へとやってきた。猛然と追い込んだ走りは、数分前にマークされたフルームのタイムを1秒更新する40分52秒。

 そしてついに今大会の覇権争いに終止符が打たれるときが訪れる。第2計測までトップだったトーマスは、最後の9kmでは「セーフティー」を選択。コル・ド・ピノディタからの下りではリスクを負わず、確実にフィニッシュラインを越える判断をした。結果的にデュムランから14秒の遅れとなったが、スタート前までの総合タイム差から見ても十分に安全圏。フィニッシュラインを越えると同時に、マイヨジョーヌを誇示して自らがツールの頂点に立つことを力強くアピールした。

個人タイムトライアルを走りきったゲラント・トーマスはフィニッシュの瞬間ガッツポーズ Photo: Yuzuru SUNADA

トーマス「まったく実感がわかない」

 好天に恵まれることの多かった今大会にあって、大会終盤にやってきた雨中のレース。それでも、ステージ上位を占めたのはタイムトライアルを得意とする選手たちだった。

 ステージ優勝のデュムランは、2年前の第13ステージ以来となるツール通算3勝目。フィニッシュ直後はタイム計測システムの不具合もあり、最終結果が出るまでフルームとともにホットシートに並んで待ったが、晴れてトップタイムと確認して大喜び。

ポディウムにはかつてのツール王者ミゲル・インドゥライン氏が登場。ステージ優勝のトム・デュムランとがっちり握手 Photo: Yuzuru SUNADA

 マイヨアルカンシエルの貫録を見せた勝利にあたって、「今日の勝利は特別」と記者会見に臨んだデュムラン。質問の多くは個人総合2位が濃厚になった点に終始したが、笑顔を絶やさず「2位という結果には心から満足している。(同じく個人総合2位だった)ジロ・デ・イタリアの後すぐに、ツールでも2位になれるよと誰かに言われていたなら、迷うことなく出場すると決めていた」と回答。トーマスの走りについては、「3週間を通してとても強かった。山岳で彼を苦しめることができなかった。彼を祝福したい」と賞賛した。

 終盤のトラブルによってトーマスらから50秒遅れた第6ステージが、最終結果に影響を及ぼしたのではないかとの問いには、「確かにトーマスを楽にしたかもしれないが、私がタイムを失っていなかったとしても、トーマスは山岳で攻撃に転じていただろう」とし、今大会のトーマスがいかに特別な存在だったかを強調。今後も、今年のようにジロとツール両グランツールでの制覇を狙っていくのかとの質問には、「来年はツールに集中したい」と宣言した。

 そして、ツール2018のマイヨジョーヌをほぼ手中に収めたトーマス。フィニッシュ直後は妻や関係者と喜び、ともにエースとして日々を送ってきたフルームとも健闘を称え合った。ポディウムでは感激の面持ちでマイヨジョーヌに袖を通し、その後はメディア各社のインタビューや取材に追われた。

ツール制覇を濃厚にしたゲラント・トーマス。サプライズで現れた妻と喜びの抱擁 Photo: Yuzuru SUNADA

 レース終了から1時間以上経って始まった記者会見では、「まったく実感がわかない」と切り出したトーマス。「ずっと集中していて、フィニッシュラインを越えた瞬間に感情的になった。実は妻が来ているなんて知らなかったんだ」と思わぬサプライズを明かして、会場は笑いに包まれた。

 大会を通してフルームとの関係性に興味が集まったが、「基本的にサイクリングの報道は見ていなかった。(好きなスポーツの)ラグビーの記事しか読んでいなかったからね」とジョークを繰り出しつつも、「彼には助けられた。本当に良い友人だ」と感謝を口にする。この3週間を振り返って、「マイヨジョーヌでアルプ・デュエズ(第12ステージ)を勝てたことが本当にうれしかった。ピレネーのステージは苦しかったが、デュムランをマークしなければいけなかった」と述べた。

 マイヨジョーヌで臨む最終の第21ステージ。パリ・シャンゼリゼまでトラブルなく走り切れば、ツール新王者となる。

最終日は恒例のパリ・シャンゼリゼへ

 そのほか個人総合では、フルームとログリッチェ以外に、同6位と7位につけていたミケル・ランダ(スペイン、モビスター チーム)とロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)、同じく9位と10位だったキンタナとザカリンの順位がそれぞれ入れ替わっている。

 翌29日、ツール2018はついに最終日を迎える。最後を飾るのはもちろん、フランスの首都パリ・シャンゼリゼ通りへの凱旋だ。

 選手たちは午前中に空路パリへと飛び、夕方からのレースに備える。パリ郊外のウイユを現地時間午後4時15分(日本時間午後11時15分)にスタートし、ツール恒例のパレード走行。完走間近の選手たちが、戦いの労をねぎらいながら、最後のライドを楽しむ。

 反時計回りに進んで、いよいよパリ・シャンゼリゼへと入っていく。リーダーチームを先頭に、大観衆の前をプロトンが“行進”していく。そして、シャンゼリゼの周回コースに入ると、少しばかりのレースが展開される。エトワール凱旋門やテュイルリー公園などを含むサーキット8周回。例年、スプリントで勝者が決まる。コンコルド広場からの200mのストレートは、スプリンターの威信をかけた勝負となる。

 全21ステージ・総走行距離3351kmを走り切った瞬間、第105回ツール・ド・フランスの総合成績が確定。個人総合時間賞のマイヨジョーヌを筆頭に、ポイント賞のマイヨヴェール、山岳賞のマイヨアポワ、新人賞のマイヨブラン、チーム総合時間賞、スーパー敢闘賞といった各賞の表彰がシャンゼリゼ通りに設けられるポディウムで行われる。

ツール制覇まであと少し。ポディウムで感情をあらわにしたゲラント・トーマス Photo: Yuzuru SUNADA

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