旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<10>イスラムの戒律を順守するイラン その教えはサイクリストに親切だった
一言でイスラム圏と言っても戒律の厳しさはまちまちだった。スーパーで普通にお酒が売っていて、タンクトップや短パンで出歩けて旅行者にはほとんどイスラムのマナーを求めないトルコや、イランのように自国民が厳しいイスラムの教え守っており、旅行者にもその戒律を順守するように求める国もあった。そんな戒律の厳しいイランを走る際はいくつか注意が必要だ。
入国日を覚えておく大切さ
それは入国時から始まる。入国審査が厳しいのかと言えばそうではない。ビザをしっかり準備してマナーを守れば、職員は英語も話すのでトラブルなく入国できる。

問題は数字だ。イランでは僕らの使っている西洋数字はほぼ使われておらず、ペルシャ文字でしか表記されないのだ。西暦ではなくイラン歴で表記してあるので、入国した日を覚えていないと後からパスポートの入国スタンプを見たところで、まったく日付が分からないという事態に陥る。
基本、イランのビザは1カ月。しかも、これから走る、取得が不安定な中央アジアビザをイランで取らなくてはならず、国土の広いイランでの走行の兼ね合いで、いつ入国していつまでに出国しなけらばならないのかは非常に重要になってくる。
イランでNGなこと

そして旅行者も服装にも気を付けなければならない。女性は基本的に肌を露出してはならないし、男性はタンクトップや短パンはNGだ。
日本だと真夏に長袖・長ズボンで一日中、自転車に乗っていたら恐らく死ぬが、極度に乾燥しているイランでは肌が隠れているほうが暑さを感じにくい。とはいえ、やはり煩わしい。さらに女性はスカーフなどで髪の毛を隠す必要があり、真夏の走行は本当に大変そうだった。ただ走行中はヘルメットを被っているので、降りた時だけ巻くようにしていた。
飲酒に厳しい罰則があるらしく、お酒はどこにも売っていなかった。仲良くなったイラン人が麻薬でも出すように警戒しながら、密造酒をこっそりと勧めてきたとこが一度あったが、それくらい厳しい罰則があるのだろう。
ラマダンで話題になるのはレストラン
自転車旅で一番の難関は、日の出から日没まで一切、飲食できないラマダンだ。ラマダンに関して旅行者がルールを守らなければ咎められるかと言えば、そうでもない。

僕らがイランでラマダンを過ごしたのは、年の一番暑い時期で、とてもじゃないが水分を取らねばすぐに熱中症で倒れてしまうような暑さだった。もちろんそれでも水さえ飲まない敬虔なイスラム教徒も多いので、人目のつかないタイミングや場所でサッと飲むようにしていたし、自転車の休憩中に補給食を食べていたところで全然問題はなかった。
ただレストランや商店は、日中閉まってしまう。暑い時の街歩きの楽しみであるフレッシュジュースやかき氷、アイスクリーム屋などはことごとく閉まり、暑さでボトルの水がお湯のようなのにそれしか飲むものがないのだ。
シャッターが半開きで電気もつけずひっそりと日中に営業しているレストランはいくつかあったが、初めての町で、猛暑の中、シャッター半開きでひっそりと営業しているレストランを見つけるのは至難の業で、この時期の旅人との情報交換は行って良かった観光地ではなく、空いているレストランの話題になる。
そんなイスラムの戒律の厳しいイランだからこそ、イスラムの教えのひとつに「旅人をもてなす心を持ちなさい」というものがある。自転車旅行はその最たるものに映るらしく、道行く人から応援やご飯などのお誘いの声が掛かり、イランは物凄い親切をいただいた印象深いイスラム教の国だった。

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!」