九州在住の村石昭彦さんがレポートアラ還サイクリストが「エタップ・デュ・ツール」に挑戦した夏 その参加方法と楽しみ方

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 7月8日にフランスで開催された第28回エタップ・デュ・ツール。ツール・ド・フランスと同じコースを走ることができる、アマチュアサイクリストが一度は出てみたいようなイベントです。「準備は?コースは難しくないの?」という素朴な疑問に応えるような参加レポートをお届けします。この夏、1年越しに計画を練って参加した、九州在住での“アラ還サイクリスト”村石昭彦さんのレポートです。

(購入写真)ゴールでは誰もが喜びで笑顔。写真の他、動画販売もあり、各地点の計15分で2,500円程 Photo: Akihiko MURAISHI

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 筆者は1959年生まれ、近く還暦を迎える平凡な仕事人間。用事がない土曜午後と日曜以外は基本的にライドできず、100kmを超える距離は年に10回も走れていない。10代の頃にエディー・メルクスやベルナール・イノー選手らの活躍に夢中になり、大学時代は10日間ほどの自転車旅行を繰り返していたが、自転車を再開した52歳までの25年間は運動をほとんどせず、坂は超苦手なくせに大好きという典型的「アラ還サイクリスト」。そんな中年が一念発起し、7月8日にフランスで開催された第28回エタップ・デュ・ツール(以下、エタップ)に参加してきた。

第3組でスタート。市庁舎前の盛り上げ方は本場の雰囲気で、嫌でも気持ちが高ぶってくる Ⓒspotograf

 ツール観戦は、レース内容や結果より美しい風景や陽気なフランスの雰囲気が楽しみ。今年で22年目のエタップのことは、昨年の夏まで知らなかった。エタップとはステージを意味するフランス語。ジロなど他の大会にも類似の1日レースがあるが、エタップ・デュ・ツールこそ皆が憧れる特別なアマチュア参加型グランフォンドだと筆者は考える。

参加者1万3000人の前方で優先スタート権を得る。少し緊張しながら談笑する各国からのRCCメンバー達 Photo: Akihiko MURAISHI

170kmを完全交通規制

 エタップ公式スポンサーRaphaのRCC(Rapha Cycling Club)メンバーの私は、昨年5月に南仏で初の海外ライド(RCC Summit)を経験してから、急に海外ライドへの憧れが増し、自分の中での敷居は下がっていた。そのRaphaから8月にエタップを紹介され、興味を持ち色々と調べ始め、ツールで実際に使用される山岳ステージを交通規制して誰でも走れることを知った。ただ予想外に日本人の参加記事は少なく、特に個人参加の参考となる体験談を探すことは難しかった。制限時間が厳しくタフなコースだが、日本では絶対に経験できないライドになると直感し、年齢を考えると「1年でも早く出場すべし」と参加への思いが募った。

 国内イベントは、ツール・ド・東北や軽井沢グランフォンドなどに参加したくらい。公道レースやヒルクライム大会のように交通規制をするグランフォンド大会は非常に少なく、完全交通規制をして170kmを一度も止まる必要のないエタップのようなコースは日本では探せないのではないか。ツール本番の1週間ほど前に走るので、道路は整備され、応援の飾りつけも始まっている。補給エイド内容は豪華とはいかないが、必要にして十分。主役は何といってもルートそのもの、対向車が決して現れないアルプス山岳コースの魅力を言葉で伝えることは容易ではない。

 ツールのコース発表は前年10月中旬。エタップのコースも同時発表され、数日後に募集開始されるが、1万5000人の参加枠はすぐに完売となる。アマチュアにとり超級峠を含むツール山岳コースは相当チャレンジングなコースだが、それこそがエタップ最大の魅力でもある。ルート発表と同時に、参加に向けて色々と動き出した。

 仕事の都合で、日曜の大会を挟み金曜から火曜までの最大5日間しか休めない。幸い今年はジュネーブから自動車で1時間程の美しい湖畔の町アヌシーが舞台で、街やステージの魅力も交通の利便性も申し分なかった。日本から参加ツアーもあり、海外ライドが不安な方には便利かと思う。ツール観戦がプラスされ、大会参加の手続き代行や宿泊や航空券の手配、地上移動、自転車整備、情報収集、通訳、一緒に走れる仲間の存在など、多くの利点がツアーにはあるが、7日間以上の旅程なので私には参加が難しい。

RCC専用受付で、RCCリストバンドを付けてもらい、各種サービスや優先スタート方法の説明をうけて一安心 Photo: Akihiko MURAISHI
ヴィレッジ内には国別に全参加者名がビッシリ書かれた垂れ幕があり記念写真。白い個所は全て名前 Photo: Akihiko MURAISHI

 個人参加でも、様々な手配や大会HPとのやり取り、現地での自由時間の過ごし方など、思いのほか難しくなく、日本のイベントとは桁違いに豊富な情報が行き交う大会HPと悪戦苦闘しつつ10月から7月まで過ごせたことは逆に楽しく、欧州のサイクリング文化にも触れつつ英語の勉強にもなり、日々気持ちが高まっていった。

 大会は7月8日(日)、前日に現地受付が必須。ツアー参加の申込みは1月以降も可能のようだが、個人参加の場合には前年10月中に大会HPにアクセスし、申込み手続きを完了したい。総登録数は1万5800人だったが、受付開始後まもなく完売になるらしい。参加費は1万5000円程度だが、2泊のホテル代、完走後にゴールから出発地点までのバス移送費などが含まれた便利なパック料金も3~5星ホテルランクにより選択可能。個人参加では完走後にゴール地点からホテルに戻る方法が悩ましいが、今回は下り基調の30km、英仏独のRCCメンバーと一緒に自走して戻った。

夜到着の翌朝8時から早速、RCCの朝錬に参加。南仏サミットで一緒だったスタッフやメンバーとも再会 Photo: Akihiko MURAISHI
アヌシー湖畔の整備された自転車道と丘を巡る2時間の朝錬は、時差ボケ解消とバイクチェックに有効だった Photo: Akihiko MURAISHI

 制限時間が実は悩ましい。申込時に予想完走時間を自己申告するのだが、これが出走順に影響する。最初の組は午前6時30分出走、最後の組は8時22分出走と相当の開きがあり、ゴール最終タイムアウトは全員が午後8時2分。持ち時間は13時間32分~11時間40分となる。最も警戒すべきは最初の関門。標高差160mの40.5km地点に午前10時35分の第一関門がある。もし最終組で落車やパンクをしたら40km地点で終了かもしれず、くれぐれも機材の整備は慎重に。特に今年は2kmのグラベルも含まれ、長い下り坂も考慮して直前にタイヤとチューブ、ブレーキシューも新調した。

 どうも日本人は真面目に謙遜して予想時間を遅めに11時間などと記載するが、それだと確実に最終組に回され完走チャンスが減ってしまう。明らかにインチキだが、慣れた参加者は数時間速めに申告し若いゼッケン番号をもらうとか。完走時間は11時間44分だったので、私が最終組で普通に出発していれば完走できなかった可能性もあったが、幸い制限時間を90分残し、午後6時30分にはゴール出来た。

最後の1級峠からの絶景を見ながら豪快な15kmの下り。終わらずに走り続けたかったほど Ⓒspotograf

 公式スポンサー各社には優先出走枠があり、RCCメンバー全員に早目のスタート権利が付与され、午前6時45分にスタートできたからだ。おかげで余裕を持って写真や動画を撮りつつ走れ、1級ロム峠やコロンビエール峠では完走を確信したので、ゆっくりと素晴らしい景色を堪能しつつ走ることができ、完走後の自走30kmにつながった。もし必死に走ったら、1時間程早く完走したか足が痙攣してリタイアしたかどちらかだっただろう。

最初の1級ラ・クロワ・フリ峠へ。次々に追い抜かれるが、完走優先で景色を楽しみながらマイペースで Photo: Akihiko MURAISHI
1級ロム峠開始地点の標識。前半の坂は想像以上に急で、暑くて水場や日陰での休息者が続出 Photo: Akihiko MURAISHI

 脚力に関し、私の場合は半分の距離85km、獲得標高2000mのコースを練習用に設定し、約5時間半で走っていた。その時間で走れる人は、もし最終組であってもトラブルがなければ制限時間内に十分完走できるだろう。要するに、普通のサイクリストなら完走は不可能ではないので安心して挑戦して欲しい。

 今回の申込総数は1万5800人、実際の出走者は1万2993人で、多くの人が欠席された。日本人の申込みも30人弱だが半数は欠席されたようで、10月の申込みから色々な事情があり、ホテル探しも大変で出走にこぎ着ける苦労も理解できる。完走者は1万1734人と完走率は高く、その半数は10時間以内とパワーの違いを痛感した。内訳は、男性94%、全体の91%は欧州から。完走者の34%は50歳以上、最多層は45~49歳で、65歳以上の完走者が370人もいて、私より遅い人はほとんどいなかった(笑)。

 海外ライドの難しい点はウェア選択。気候変化が出国前に予想しにくく、雨や寒さ対策の予備が必要だ。過去のエタップでも荒天時にはリタイア続出らしい。補給食も出来るだけ持参したが、各エイド地点の大混雑を見たら、可能な限りの補給食を背中に詰め込んで走りたいと思う。

スタート直後から時速40km超で30kmほどアヌシー湖畔の平坦地を進む。前日の下見が役立った Photo: Akihiko MURAISHI
中間補給地点。楽器演奏での応援もあり。中央右は男子トイレ4人用で丸見え。女性用は日本同様 Photo: Akihiko MURAISHI

 そして迎えた当日。天候にも恵まれ午前6時45分スタート。完全交通規制というのは想像以上に素晴らしい体験だった。平坦で高速集団走行していても、テクニカルな長い下りを急いでいても、169kmも続けて決して対向車が来ないという不思議な至福の時間は忘れないだろう。沿道の声援は心地よく、景色の良さ、道路事情の良さに不思議と苦しさを感じることはなく、厳しさを味わいながらも完走を目標に淡々とマイペースで走れた。

 ただ、肩が触れ合うような大集団で前輪が浮くほどの超級峠の狭い急斜面をゆっくり上る時には接触や落車の危機を何度も感じた。歩くような速度で超級峠を真っ直ぐ上り続けるのは非常に難しい。

今回はジュネーブから程近い街アヌシー発のルート。日本からも参加しやすい魅力的なアルプスが舞台

 最後の1級コロンビエール峠から美しい景色の中を下る長い道のりの後、大勢の歓声に迎えられたゴールで完走メダルをかけてもらった。トッププロが5時間ほどで走り抜けるルートを倍の10時間以上かかろうが、参加者全員の表情は大きな達成感で輝いていた。ゼッケンには参加者の国旗も印刷してあるので、沿道や多くの参加者から「日本人よく来たな、頑張れよ」みたいな声援をもらえたのも嬉しかった。

最後の1級コロンビエール峠の中盤。完走を確信したので、素晴らしい絶景を楽しみながら慎重に登る Photo: Akihiko MURAISHI

 エタップに連続挑戦中のRaphaの創設者、サイモン・モットラム氏と同じ青色RCCジャージを身につけて走ったが、各国から集まったRCCのメンバーたちに “Go RCC Go” などと背中を押すように声をかけてもらえたのも嬉しかった。個人参加とはいえ、前日にアヌシー湖畔の練習ライドを一緒に楽しみ、完走後に軽食やマッサージサービスを受けるなど、顔見知りのRCCの仲間と共にいる安心感も完走への大きな励みとなった。

 帰国後に第10ステージをテレビの放送で観たが、ツールは実際に走ってテレビ観戦すると格段に面白い。他のステージも実際に走っている気になるから不思議だ。

ゴール地点のRCCメンバー用サービス拠点。軽食提供やマッサージなど。国境を越え互いの健闘を称えあう Photo: Akihiko MURAISHI

 170km完走後の30kmは、体力や天候次第ではバスが必須と思えるが、予約したバスは利用しなかった。最寄り空港と出発地点の往復バス輸送も予約可能なので個人参加も困らないが、レンタカー利用で行動範囲は広がるだろう。申込みと同時に急ぐべきは宿泊予約だ。バカンスシーズンのホテルは混んでいて、大会参加者の1万5000人が加わるため、適当なホテルが予約できない可能性があり、早朝スタートに困るのでくれぐれも注意を。日本を金曜朝に出国し火曜夕方に帰国すれば、現地で金曜夜から月曜午後まで滞在可能となる。

 まだエタップは日本での知名度が低く参加者も少ないが、実は個人参加も比較的容易で、思い切って参加すれば生涯の想い出となるだけでなく、これから先の自転車生活が大きく変わるほどの素晴らしい体験となるだろう。ツールのファンはもちろん、実際の舞台で足試しをしたい方や、なんとなく完走に不安を感じて躊躇しておられる女性や中年以降の普通のサイクリストの方々も、来年以降のエタップに参加されてみてはいかがだろうか?

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