山口和幸の「ツールに乾杯! 2018」<7>数多の名勝負が繰り広げられたサンラリースラン 意地を見せた「万年2位」の男

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 今年のツール・ド・フランス第17ステージのフィニッシュ地点、サンラリースランはピレネーの奥深くにある、人口900人という小さな集落だ。ここからスキー場のプラダデや、2018年のゴールとなったポルテ峠にアクセスする。ポルテ峠そのものはスキー場ではなく、ハイキングやさらにその奥にあるダム湖に向かう道だ。どちらもサンラリースランからのアプローチを使用するが、そのルートはいきなりの急坂で、ツール・ド・フランスでは過去10回、激闘の舞台となっている。

第17ステージは残り9kmから許可された車両のみが進入を許された。他の関係者はゴンドラでゴールを目指す © PRESSPORTS

怪物に挑み続けたフランスの英雄

 ある程度の年齢がいったフランス人にとって最も印象深いのは、1974年のサンラリースランでの名場面だろう。万年2位というありがたくないあだ名をいただきながら、怪物ジャック・アンクティルや人食い鬼エディ・メルクスに真っ向から戦いを挑み、フランスで圧倒的な人気を誇っていたレイモン・プリドールが38歳にして見事なステージ優勝を遂げたのである。

 この年のメルクスは絶好調でツール・ド・フランスに臨んでいた。その前年はアワーレコード世界新記録を達成していたし、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャも制していたメルクス。だが、20区間のうち10区間が山岳ステージとなった1973年のツール・ド・フランスを回避。その時点で前人未踏の大会5連覇は消滅した。

第17ステージのペラグード峠の奥にある美しいオー湖 © OT Luchon

 その1973年のツール・ド・フランス、メルクス不在の大会で悲願の初優勝が期待されたプリドールだったが、予期せぬアクシデントが襲いかかった。ピレネー山中のリュションに向かうコースで路面に浮いた小石にタイヤを取られて落車。リタイアを余儀なくされ、救急車に収容されてリュションの病院へと運ばれた。

 その病院は奇しくも2年前、マイヨジョーヌを着たまま鎖骨を骨折したスペインのルイス・オカーニャが連れてこられたところだった。このオカーニャもプリドールにとってはツール・ド・フランス初優勝を争うライバルだった。総合優勝を逃した2人が運び込まれた部屋も、失意とともに横たわったベッドも同じものだったという。そしてメルクス不在の1973年はそのオカーニャが総合優勝した。

山岳ステージでメルクスに一矢

 迎えた1974年のツール・ド・フランス。勝負どころであるアルプスを待たずに、平たんステージで集団を千切って独走状態を固めたメルクスは、続く2ステージでもほぼ同様に他を圧倒して勝利を重ねていった。そんなメルクスの独壇場に意地を見せたのがプリドールだ。サンラリースランにゴールする山岳ステージでプリドールは集団を突き放して独走。後続にタイム差をつけてゴールすると、最終日前日には定位置である総合2位のポジションまで浮上した。「万年2位」と見出しをつける新聞記者に対する反骨の表れだったのかもしれない。総合優勝はもちろんメルクスで、5度目の優勝だった。

2018年のサンラリースランを制したのは、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)。過去2度のツール・ド・フランス総合2位の経験を持つが、彼もまだ総合優勝を手にしていない Photo: Yuzuru SUNADA

 プリドールはパリでマイヨジョーヌを着ることなく、1976年のツール・ド・フランスを最後にレース生活に終止符を打った。出場14回にして総合2位は3回、3位5回。ツール・ド・フランス5勝のアンクティルとメルクスと時を同じくしなければ、どれだけ勝ったことかと語り継がれているという。現在もマイヨジョーヌのスポンサーであるLCL銀行のアイドルとして毎年ツール・ド・フランスに同行。地元フランスのファンからサイン攻めの日々を過ごす。

82歳になったプリドール。今年もツール・ド・フランスに同行 Photo: Yuzuru SUNADA
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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