“今大会はリタイアが多い”は本当?ポート、キッテル、ガビリアが相次いでリタイア ツール2018・有力選手の棄権状況まとめ

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 ツール・ド・フランスは2度目の休息日を迎え、いよいよ勝負の最終週へと突入する。大会序盤は落車が頻発、中盤は山岳ステージでリタイア・タイムアウトとなる選手が続出。エース級の選手も多く含まれており、例年よりリタイア者が多い印象を受ける。そこで、これまでのリタイア状況についてのまとめと、過去10年のリタイア者数を調べて比較・考察したいと思う。

有力選手を含めた多くの選手のリタイアが目立つ今大会。総合優勝候補にあげられていたリッチー・ポートもその一人だ Photo : Yuzuru SUNADA

有力選手のリタイアが相次ぐ今大会

 今大会は第15ステージ終了時点で、27人の選手がリタイア、または失格となっている。176人で出走したため、リタイア率は15.3%だ。

第9ステージで発生した集団落車。リッチー・ポートが巻き込まれ、2年連続のリタイアに追い込まれた Photo : Yuzuru SUNADA

 計20km以上にわたって石畳区間が登場する第9ステージでは落車が続出。石畳対策に通常より空気圧を下げた影響のためか、舗装路区間でも落車が頻発した。総合優勝候補のリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)とホセ・ロハス(スペイン、モビスターチーム)がリタイア。この日は完走したものの、第10ステージ前にアレクシー・ヴィエルモーズ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)、イェンス・クークレール(ベルギー、ロット・スーダル)が、第12ステージ前に総合上位が期待されていたリゴベルト・ウラン(コロンビア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が石畳ステージでの落車負傷の影響でリタイアを決めた。

トップから42分以上遅れてフィニッシュしたマルセル・キッテル Photo : Yuzuru SUNADA

 第11ステージは全長108.5kmと短距離にもかかわらず、獲得標高3900mに達する難関山岳ステージだった。ここではマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、マルセル・キッテル(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)といったトップスプリンターが制限時間内にフィニッシュにたどり着くことができず、失格となってしまった。

 翌第12ステージも序盤から超級山岳マドレーヌ峠が登場し、さらに超級山岳クロワドフェール峠を経て、とどめの超級山岳アルプ・デュエズにフィニッシュする獲得標高は5000mを越える超難関ステージだった。この日もスプリンター勢が苦しみ、ステージ2勝を飾っていたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)、同じく2勝のディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNL・ユンボ)、さらにアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・スーダル)とツールでのステージ優勝経験のあるスプリンターが次々とバイクを降りてしまった。結局この日は、タイムアウトも含めて8人が完走できず。

骨折しながらも、ニーバリはトップから13秒遅れに留めた。それだけにリタイアがあまりにも惜しい結果だ Photo : Yuzuru SUNADA

 また、ラルプデュエズの終盤、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)は発煙筒に視界が塞がれるなか、沿道の観客と接触して落車。この日は完走したものの、椎骨を骨折してリタイアとなった。

 また、第15ステージ終了後には、ジャンニ・モスコン(イタリア、チーム スカイ)が失格処分となった。理由は第15ステージのレース中に、エリー・ジェスベール(フランス、フォルトゥネオ・サムシック)を殴ったことが映像で確認できたためだ。

 集団落車、大会中盤の難関山岳ステージに起因するリタイアが大半を占めている。また、エース級の選手のリタイアが目立ち、エースを失ったチームはレース戦略の大幅な見直しを余儀なくされていた。

2012年は42人がリタイア

 今年のリタイア数は過去の大会に比べて本当に多いのかどうか、過去10年間にさかのぼって第15ステージ終了時点のリタイア人数、最終的なリタイア人数とそれぞれのリタイア率を調べてみた。

 2008年:180人中27人(15.0%)、35人(19.4%)
 2009年:180人中18人(10.0%)、24人(13.3%)
 2010年:198人中23人(11.6%)、27人(13.6%)
 2011年:198人中28人(14.1%)、30人(15.1%)
 2012年:198人中42人(21.2%)、46人(23.2%)
 2013年:198人中17人(8.6%)、29人(14.6%)
 2014年:198人中27人(13.6%)、34人(17.2%)
 2015年:198人中26人(13.1%)、37人(18.7%)
 2016年:198人中15人(7.5%)、24人(12.1%)
 2017年:198人中22人(11.1%)、30人(15.1%)
 2018年:176人中27人(15.3%)
(※左から出走人数、第15ステージ終了時点でのリタイア者数・リタイア率、最終的なリタイア者数・リタイア率)

年度別のリタイア率をグラフに。濃い赤い部分が第15ステージ終了時点、薄い赤も含めた部分が最終的なリタイア率 Photo: Yuu AKISANE

 最もリタイア率が高かったのは2012年であり、今大会のリタイア率は2012年に次いで2番めに高い水準にあることがわかった。直近2年間が比較的少ないリタイア率だったことから、今大会のリタイア数が多いという印象は正しいといえよう。

大規模落車、厳しい山岳ステージでの脱落

 主なリタイアに繋がる原因についても調べてみた。

 まず2008年大会では、第12ステージ開始前にサウニエルデュバルのリカルド・リッコ(イタリア)のドーピング陽性が発覚したため、チーム丸ごと9人が大会から撤退するという事件が発生した。

 2011年の第9ステージでは落車が続出し、7人の選手がリタイアとなった。アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)は濡れたダウンヒルでコース外に転落し、骨盤を骨折した。

大怪我を負いながらも完走し、マイヨアポワルージュの表彰を受けるジョニー・フーガーランド Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、メディアカーに激突されたジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユDCM)は有刺鉄線に突っ込み、身体中に切り傷を負うも完走。同様に車にふっ飛ばされたファンアントニオ・フレチャ(スペイン、スカイプロサイクリング)もパリまで完走する鉄人ぶりを見せていた。

 最もリタイア率の高かった2012年は第6ステージで終盤に100人以上の選手が足止めを余儀なくされる大規模な集団落車が発生。4人の選手が途中リタイアとなり、翌日は落車の影響で8人の選手がDNS(未出走)となり、計12人がリタイアする大事故だった。

 さらに第11ステージはスタート直後からマドレーヌ峠を越え、獲得標高は5000mを越えるステージで、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)、マーク・レンショー(オーストラリア、ラボバンク)、前年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合4位だったバウケ・モレマ(オランダ、ラボバンク)を含む7人が途中でバイクを降りた。

フィニッシュまで残り25km地点で発生した大落車は、12人のリタイア者を生むことになった Photo : Yuzuru SUNADA

 2015年第11ステージでも、1級山岳アスパン峠、超級山岳ツールマレー峠などが立て続けに登場する難関山岳ステージで6人の選手がリタイアとなった。

 比較的リタイア者が少なかった2016年は、リオデジャネイロ五輪に備えて、ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)、ステージ4勝を飾ったカヴェンディッシュらが大会途中で去った。にもかかわらず、ここ10年で最も少ないリタイア率となっており、落車や難関ステージに起因するリタイア者がとても少なかった大会だったといえよう。

同年限りでの引退を決めていたファビアン・カンチェラーラは、リオ五輪個人TTで金メダルを獲得。有終の美を飾った Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年は第9ステージで、大量12人のリタイア者が発生。落車したラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)に突っ込んでしまったゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)は鎖骨を折ってリタイア。マイカは何とか完走するも、翌ステージはDNS。そしてリッチー・ポートはダウンヒルで石壁に激突し、鎖骨と骨盤を骨折しリタイアとなった。

 この日は獲得標高4600mに達する難関ステージであり、体調不良のアルノー・デマール(エフデジ)はアシスト3人を巻き込んでタイムアウト。計8人の選手が制限時間内にフィニッシュにたどり着くことができなかった。

ルール改正など抜本的な対策が必要

 今年から1チーム9人から8人編成となった。その理由の一つが「集団内の安全確保」とのことだったが、過去の数字・事例と比較しても「安全確保」に効果的であるとは言い難い。

 集団の人数が多かろうと少なかろうと、スプリントに向けて好位置を確保するために、スプリンターチーム・総合チーム問わず集団は混戦となることには変わりないといえそうだ。

 そして、難関山岳ステージで多くの選手がリタイアすることも、ある意味ではツールの風物詩といえる出来事といえそうだ。特に第9〜12ステージあたりに、獲得標高が4000〜5000mに達するような難関ステージが組み込まれると、コンディションが上がりきっていない選手にとっては厳しすぎる1日となり、スプリンター、クライマー問わずフィニッシュにたどり着けないケースが多い。今年はあまりにも多くの有力スプリンターがリタイアしたが、厳しいコース設定は今年に限ったことではない。

選手との並走、フェンスから身を乗り出しての観戦、そして視界を塞ぐ発煙筒。ある意味ではレースの風物詩といえども、今は観客のモラルが問われるケースが非常に多い Photo: Yuzuru SUNADA

 とはいえ、ファンにとっては有力選手がリタイアすることで、観戦の楽しみが減ってしまうため、できればリタイアは少なくしてほしいところ。 かといって、コースの難易度を下げると見応えが損なわれる恐れもある。

 少なくとも、観客と接触してリタイアに追い込まれたニバリのような事故は、再発防止策が必要不可欠だ。レース主催者はコースへの発煙筒持ち込みの禁止を発表した。

 今大会は最終週にわずか65kmのショート山岳ステージも控えており、まだまだリタイア者は増加する可能性が高い。佳境を迎えた総合争いに水を差すような展開にならないことを祈りつつ、来年以降に向けてレース主催者が、ルール改正も含めた対策をどのように施していくのか注目していきたい。

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