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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<261>ツール第2休息日動向 総合トップ3記者会見、運命の第3週はどう戦う?

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 熱戦が続くツール・ド・フランス2018。いよいよ、雌雄を決する第3週へと突入する。アルプスと中央山塊を進んだ第2週では予想通り、マイヨジョーヌを筆頭に総合争いの形勢がはっきりとした。そして最終週の6ステージで、すべてが決する。今回は、大会2回目の休息日に行われた各チームのプレスカンファレンス(記者会見)のほか、残るステージの展望をお届けしていく。

ツール・ド・フランス2018はいよいよ第3週へ。ゲラント・トーマス(中央)がマイヨジョーヌをキープできるか。トム・デュムラン(中央後ろ)は逆転を狙う =ツール・ド・フランス2018第15ステージ、2018年7月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

トーマスとフルームはフラットな立場

 ツール第2週を終えて、ゲラント・トーマスとクリストファー・フルーム(ともにイギリス)が個人総合でワン・ツーを占めるチーム スカイ。2回目の休息日にあたる7月23日、現地時間の午前中に宿泊するホテルでプレスカンファレンスが行われた。

 ここまでの戦いぶりも相まって、会場には100人を優に超える報道陣が集結。トーマスとフルームは落ち着いた様子で、記者からの質問に答えていった。

 もっとも注目される、両者のうちどちらがエースであるかについては、トーマスが「われわれのどちらか一方が勝ちさえすれば問題ない。このレース(ツール)で勝利を収めることが最重要」と答えると、フルームもそれに同意。「チーム スカイのライダーがパリの表彰台の頂点に立ちさえできれば、私は幸せだ」と続いた。

プレスカンファレンスに臨んだゲラント・トーマス Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 第3週ではピレネー山脈で3ステージを戦うが、どれも厳しいレースになると予想したうえで、マイヨジョーヌ争いで優位に立つためには、個人タイムトライアルでの最終決戦となる第20ステージまでに相応のアドバンテージが必要と口をそろえる。フルームは、ライバルとして個人総合3位につけるトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)と同4位のプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)の名を挙げ、「ともに力のあるタイムトライアルスペシャリストだ。彼らの存在は明らかに危険だ」と気を引き締める。

 5月のジロ・デ・イタリアでもトップを争ったフルームとデュムラン。「今までアルベルト・コンタドール、ナイロ・キンタナ、ヴィンチェンツォ・ニバリといったライバルと戦ってきたが、デュムランは彼らとはまったく異なるタイプのライダーだ」と述べ、山岳とタイムトライアルとのバランスや勝負強さを評した。

プレスカンファレンスで記者からの質問に答えるクリストファー・フルーム Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 トーマスはフルームとの関係が良好であることを強調。その理由として、2008年以降、バルロワールド、そして現チームでともに歩んできたことを挙げ、「これまで同じ地域に住み、ともにトレーニングを積んできた」。ツールの覇権がかかる現在の両者の雰囲気を問われ、「いまはちょっとね…」と言うと会場が笑いに包まれた。毎日のように受ける質問に対して、ジョークでかわせるほどの両者の間柄であり、そしてこの先の戦いへの心の余裕と見ることができた。

 また、この2人の前には、チームのゼネラルマネージャーであるデイヴ・ブレイルスフォード氏が席に着き、個人総合ワン・ツーの現状について「戦術的な選択肢が増える」との見解を示した。さらに、「彼らどちらにも勝つチャンスがあるし、どちらかがツールを制することができればとても喜ばしいこと」と話し、「フルームだけに特権があるわけではない」と、現状ではトーマスとフルームがフラットな立場にあることを明確にした。

デュムラン「ジロの時より調子が良い」

 トーマスとフルームが最大のライバルと名指ししたデュムランも、この日の午後に宿泊先のホテルでプレスカンファレンスを実施。こちらもたくさんの報道陣が足を運んだ。

プレスカンファレンスで第3週の戦いについて語ったトム・デュムラン Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 記者の多くが興味を示したのが、山岳での戦い方。25日に控える第17ステージは65kmの超ショートステージだが、プランを問われると「正直まだ分からない。1つ目の上り(1級山岳ペイラギュード)から誰かが攻撃に出ると思うが、実際の勝負としては(最後の上りとなる超級山岳)コル・ドゥ・ポルテになるのではないか」と予想。

 最大のライバルについては、「トーマス」ときっぱり。「本当に強いと感じている」とその走りを認める。

 個人総合2位となったジロと今回のコンディションについて比較を求められると、「ここまではジロの時より調子が良いと感じている」とし、「ジロでは初日から身体的に厳しさを感じたが、ツールはコースへの対応など緊張感はあるものの、物理的にはイージーな面がある」と分析。とはいえ慎重な姿勢は崩さず、「いずれにしても最後の1週間で答えが分かる」と話す。

 総合上位陣がアルプ・デュエズでしのぎを削った第12ステージ(19日)では、スプリントでミスがあったというが、ここまではおおむね上々の走りができていると自己評価をするデュムラン。プレスカンファレンスでは終始和やかなムードで進行し、リラックスした様子を指摘されると、「いや、緊張しているよ」と即答し会見場がさらに和やかに。よい雰囲気の中だったが、最後に「グランツールの第3週は精神力が問われる。私はそれに対処できると確信している」と自信を見せることも決して忘れなかった。

多くの報道関係者が集まったトム・デュムランのプレスカンファレンス Photo: Syunsuke FUKUMITSU

マイヨジョーヌをかけた第3週への期待

 ここまでのレースを見る限り、トーマスとフルームを擁するチーム スカイの戦力の充実が顕著だ。アシストのジャンニ・モズコン(イタリア)が第15ステージで大会を去ることになり、デュムランにして「チーム スカイの人数が減ることで何か変化があるかもしれない」とのことだが、チーム スカイとしてはアシストが前半から集団のペーシングを担い、勝負どころでは山岳アシストが状況を整えるスタイルは、第3週も変えることはないだろう。

リーダーチームとしてプロトンをコントロールするチーム スカイ Photo: Yuzuru SUNADA

 フルームが「ライバルが攻撃に出たときに対処する」と話すように、個人総合トップ2のスカイ勢が先陣を切って攻撃的姿勢を見せることはなさそうだ。それはリーダーチームの戦い方のセオリーでもあり、ごく自然なことである。

 そんなスカイ勢の牙城を崩すために、ライバルチームはアシスト陣も含めての総攻撃が必要になるだろう。さすがに総合エース1人で立ち向かっていくのは厳しい。たとえ、トーマスとフルームだけを相手にしたとしても、数的不利な情勢となる。

ミケル・ランダ(前列中央)とアレハンドロ・バルベルデ(前列右)を擁するモビスター チーム。複数のエースクラスを配してチャンスをうかがう Photo: Yuzuru SUNADA

 首位のトーマスから3分42秒差の個人総合6位につけるミケル・ランダ(スペイン、モビスター チーム)は、エースクラス3人をそろえるチーム編成を生かしたいと意気込む。チームはランダのほか、ナイロ・キンタナ(コロンビア)がトップと4分23秒差の8位、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が9分36秒差の11位につける。急峻な山岳をいくつも越えるステージで定番となっている戦術「前待ち」が、第3週では多く見られると予想される。なかでもモビスター チームは、前述した3人のうち最低でも1人が先行を図ることで、ライバルに脅威を与えたい。

個人総合4位につけるプリモシュ・ログリッチェ(左)。チームメートのステフェン・クライスヴァイクとの共闘に注目が集まる =ツール・ド・フランス2018第12ステージ、2018年7月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その点では、4位のログリッチェと6位のステフェン・クライスヴァイク(オランダ)を擁するロットNL・ユンボの動きも注目される。第12ステージではクライスヴァイクが先行し、あわやステージ優勝かの好走。結果的に、ログリッチェとともに上位フィニッシュを果たし、いまに至っている。クライスヴァイクは総合タイム差3分57秒。展開次第で、大きく形勢を変えられる位置につける。

個人総合5位につけるロマン・バルデ。アシストを多く失ったが、最後まで諦めないと誓った =ツール・ド・フランス2018第14ステージ、2018年7月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 かたや、相次ぐチームメートのリタイアにより、アシストが4人となっているロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)も、開催国を代表するグランツールレーサーとして最後まで戦い抜くことを宣言。プレスカンファレンスでは「最後まで諦めない」と話し、ピレネーでの巻き返しを誓った。

 1つ忘れてはならないのが、第2週を終えた時点で個人総合のトップ4は、いずれもタイムトライアルスペシャリストであること。トーマス、フルーム、デュムラン、ログリッチェと、第20ステージに限っても優勝候補に挙げられる実力者。この4人でさえ、タイムトライアルステージを視野に互いを意識しているほど。彼らに続く選手たちが総合でジャンプアップを図るためには、第20ステージまでに大きなアドバンテージを持っておく必要がある。

 そんなツール第3週は、より攻撃的なレースとなるはずだ。

ツール現場で目にする引退選手のセカンドキャリア

 プレスという立場ではあるが、“ツールの一員”になると、数えきれないほどの人たちと出会うことになる。友人になったり、助け合うような関係になったり、はたまた目が合ったくらいなもので挨拶すらしない相手だって山ほどいる。それでも、われわれはツール・ド・フランスを構成するごくごく小さなワンピースなのである。

 そうしたなかで、筆者が気になったのが「最近まで活躍していた元選手たちのその後」である。そこで、ある程度把握できた範囲でまとめてみたいと思う。ここに記す基準は、あくまでも最近まで活躍していた、ということで。

地元テレビ局のコメンテーターとしてモトバイクから戦況を見つめるトマ・ヴォクレール Photo: Yuzuru SUNADA

 まず代表的な人物から挙げると、昨年のツールをもって引退したトマ・ヴォクレール。今年はフランステレビ局のコメンテーターとして、毎日モーターバイクに乗ってプロトンの脇からレースレポートを行っている。それだけならまだしも、レースが終わるとワイシャツに着替えて、フィニッシュラインエリアに設けられる放送ブースで戦評を語るのも彼の仕事。バイクを降りて、着替えて、笑顔で放送ブースに現れるまで、ほんの数分のこと。そのアクティブさには驚かされる。ほかにも、朝にはラジオ局のブースでもマイクを取っている日があるので、ツール期間中は大忙しである。

 ヴォクレールと同じフランス人だと、アージェードゥーゼール ラモンディアールやモビスター チームで走り、2015年に現役を退いたジョン・ガドレは現在、ツールを主催するA.S.O.のスタッフ。関係車両やVIPカーの運転を任されている。現役時代はコワモテだった彼だけれど、いまは会場で笑顔を振りまいている。

 2015年のロード世界選手権個人タイムトライアルで銅メダルを獲得したジェローム・コッペル。現役最後の2年間はイアム サイクリングで走った彼は、ラジオ局のコメンテーターとして活躍する。

かつてのヒーロー、アンディ・シュレクもツール帯同中 Photo: Yuzuru SUNADA

 大会のカーサプライヤーであるシュコダ社の関係者としてツールに臨んでいるのが、2010年大会の覇者アンディ・シュレク。3年前に実業家に転身。地元ルクセンブルクで「アンディ・シュレク・サイクリング」と冠したバイクショップを運営するほか、ツールの主催者A.S.O.のアンバサダー、毎年6月に開催されるツール・ド・ルクセンブルクのチーフオーガナイザーなど、その活動は多岐にわたる。大会に入ってから、フランスメディアの記者から単刀直入に「太ったね」と言われたそうで、思わず苦笑い…というのが現地で話題になっている。

 そのシュレクとチーム サクソバンクやレオパード・ドレックでチームメートだったスチュアート・オグレディも自らの事業の関係者とともに会場に姿を現している。

 日本のスポーツ界では、引退後の人生である「セカンドキャリア」が話題に上ることが多くなったが、サイクルロードレースの世界も同様で、プロとしてのキャリアを終えた後にもレース現場で働くことができるのはほんの一握りだ。

 レース界への貢献度、人間性、縁、めぐり合わせ…現場に身を置くまでの経緯や要因はさまざまだろうが、彼らに1つ共通していることを挙げるならば、「知性」であるように思う。バイタリティにあふれ、小さなことでも自らの経験や知識、そして体力を惜しまない姿。感情に左右されずに、置かれた環境に則して取り組む様子は、数年前までプロトンの一員だったことを忘れてしまうくらいである。

山岳ステージを沸かせたミカエル・ラスムッセンは現在、地元デンマークのテレビ局スタッフとしてツールに携わっている Photo: Yuzuru SUNADA

 ちなみに、かつて山岳での圧倒的な登坂力で2度のツール山岳賞を獲ったミカエル・ラスムッセンは、デンマークのテレビ局スタッフとして大会に帯同中。2013年にドーピングの事実を認めて競技を引退したが、いまは報じる側となって奮闘している。たまにコメンテーター的な仕事もしているらしく、片手にマイク、もう一方の手にセルカ棒を持って、セルフ中継をしているところを見かける。特に彼に対して何かを期待しているわけではないけれど、セルフ中継に励んでいる姿を見ると、「地道にやっているのだな」と感じる次第である。

今週の爆走ライダー−ジェローム・クザン(フランス、ディレクトエネルジー)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 熱を帯びるツールの戦い。総合争い、ステージ優勝争いにどうしても目が行ってしまうが、あまり知られていないデータを引っ張り出してみると、意外なことに気が付く。

このツール期間中、逃げでの総距離が600kmを超えているジェローム・クザン。パヴェを走った第9ステージでも逃げを打った =2018年7月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第2週までを終えて、逃げた距離の合計でランキングを組むと、上位3人はいずれもディレクトエネルジーの選手たち。その中でも、トップに立つのが29歳のクザンである。

 プロトンはここまで2528.5kmを走ってきたが、そのうち約25%にあたる638kmで先頭を走っている。第4ステージでは敢闘賞を獲得。逃げを決める勘と勇気はトップシーンの中でも一流といえそうだ。

 バックボーンにあるのはトラックでの経験。ジュニア時代は個人・チーム各パシュート種目でヨーロッパの上位を経験。当時はカテゴリー別のフランス記録を更新するなど、早くからスピードには定評があった。“逃げ屋”として鳴らす背景には、若い頃に培った実績と自信が存在する。

 今年は3月のパリ~ニース第5ステージでUCIワールドツアー初優勝。この時も逃げからチャンスを作ったのだった。このツールでも、チームとして逃げから勝つチャンスを得たいと画策しているとあり、残るステージでクザン自身もパリ~ニースの再現を狙っていくことになる。

 昨年のツールではトマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)の逃げっぷりが話題になったが、今年は果たして大仕事をやってのける逃げのスペシャリストは現れるだろうか。今年はいつにも増して、「逃げて、逃げて、逃げて」のスタンスが光るディレクトエネルジー勢。第3週で何か強烈なインパクトを残すことができるだろうか。いま、その最前線に立つクザンに、チームの成功がかかってきている。

ツール2018第4ステージでは敢闘賞を獲得。逃げから勝利につなげたいディレクトエネルジーの命運を握るジェローム・クザン =2018年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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