ツール・ド・フランス特集コラム総合首位のトーマスと、2位のフルーム ダブルエースは成功するのか?内紛の種となるのか?

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」は、大会中盤の難関山岳ステージの最中だが、第11ステージを終えて、チーム スカイが総合1、2位を独占している。グランツール4連勝&ツール4連覇を狙うクリストファー・フルーム(イギリス)が総合2位につけるなか、マイヨジョーヌを着るのはチームメートのゲラント・トーマス(イギリス)だ。ダブルエースが機能した結果なのか、はたまた内紛の種となるのか。過去の事例を振り返りながら、2人の関係性について考察してみたいと思う。

総合首位に立つゲラント・トーマス(右)と総合2位につけるクリストファー・フルーム(左) Photo: Yuzuru SUNADA

禍根を残した”ダブルエース”

 過去にツールをダブルエース体制で戦った3つのケースを振り返ってみたい。

ベルナール・イノーは現役引退後はツールを主催するASOで運営に携わっていた=2010年 Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは当時の強豪チームであるラ・ヴィ・クレールに所属していたベルナール・イノー(フランス)とグレッグ・レモン(アメリカ)の関係だ。1986年ツールで、レモンのアシストをする約束をしていたイノーが、第12ステージでレモンを置き去りにするアタックを決めてしまう。これに激怒したレモンは、後のステージで劣勢を挽回し、逆転して総合優勝を飾ったものの、次世代のホープと当時のスター選手によるあからさまな確執が表面化した後味の悪いレースとなった。

 続いてはアスタナ プロチーム時代のランス・アームストロング(アメリカ)とアルベルト・コンタドール(スペイン)だ。アームストロングは2009年に現役復帰。前年までに3大グランツールで総合優勝しているコンタドールのチームに加入した。当初はアームストロングはジロを狙い、コンタドールがツールを狙う予定だった。しかし、アームストロングはけがの影響でジロでは総合12位と奮わず、ツールに出場することとなり、コンタドールとのダブルエース体制で総合を狙うと公言した。

アスタナ時代のアルベルト・コンタドール(左)とランス・アームストロング(右) Photo: Yuzuru SUNADA

 いざレースが始まってみるとアームストロング中心にレースが進められていた。これに怒ったコンタドールは山岳ステージでアームストロングを置き去りにするアタックを決めてマイヨジョーヌをつかみ取った。大会後にはコンタドールがアームストロングを名指しで批判するなど、両者の確執が明らかになった。

 最後はスカイプロサイクリングのブラッドリー・ウィギンス(イギリス)とフルームだ。2011年ブエルタで総合2位に入り、自信を深めていたフルームは移籍も考えていた。しかし、ツールで総合成績を狙ってもいいという約束のもと、スカイとの契約を延長。迎えた2012年ツールでは、第7ステージで勝利して好調なフルームに対して、チームはウィギンスをアシストしろと命じたのだった。

ツール・ド・フランス2012第17ステージでフィニッシュするクリストファー・フルーム(左)とブラッドリー・ウィギンス(右) Photo : Yuzuru SUNADA

 結果的にウィギンスは総合優勝を果たすものの、フルームは第11ステージで、ウィギンスを置き去りにするアタックを見せ、第17ステージではペースの上がらないウィギンスを激しく鼓舞するアシストらしからぬ言動が物議をかもした。

 これらの出来事を通してみると、「約束を反故されていることへの怒り」「ベテランと新進気鋭の若手の対立」が共通点だといえよう。

 また、今回は選手間の関係にクローズアップしたものの、スポンサーありきのサイクルロードレースにおいては、個々人の意思よりもチーム、スポンサー、世論の意向が優先されることも多い。

 イノーとレモンが所属していたラ・ヴィ・クレールのオーナーはフランス人の富豪。アームストロングとコンタドールが所属したアスタナの監督は、アームストロング7連覇に深く携わったヨハン・ブリュイネール。そして、スカイのGMを務めるデイブ・ブレイルスフォードはトラック競技のイギリス代表監督としてウィギンスを五輪金メダリストへと導いていた。

 ゆえに当人たちは対立したくて対立したわけではない可能性もあることを考慮に入れる必要がある。

 以上の点を踏まえて、トーマスとフルームの関係について整理したいと思う。

トーマスとフルームは10年来のチームメイト

 トーマスは2007年にバルロワールドでプロデビューを飾り、フルームは翌年に同チームに加入した。以来、2人は11年にわたってチームメイトである。年齢はフルームの方が1つ上だ。

2008年バルロワールド時代のゲラント・トーマス Photo: Yuzuru SUNADA

 トーマスのキャリア初期は、スカイGMのブレイルスフォードの薫陶を受けながらトラックレーサーとして活躍。2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得した。以降は、ロードレースへ集中し、2016年パリ〜ニース総合優勝など上りにも強いオールラウンダーとして進化していった。

 フルームは当初からロードレースに集中しており、先述のとおり2011年ブエルタを契機に、グランツールレーサーの仲間入り。2013年に初の総合優勝を飾ることになるツールには、トーマスと2人揃って出場した。2015、2016年ツールでフルームは総合優勝。トーマスは、フルームの貴重な山岳アシストとして獅子奮迅の活躍を見せた。

 順風満帆に見えたが、2016年9月に端を発したTUE問題により、ブレイルスフォードがイギリス議会に参考人招致を受けるなど紛糾。トーマスはブレイルスフォードの支持を表明したが、フルームは態度を保留していた(※後に支持を表明)。

2016年ツール・ド・フランス第20ステージにて、総合優勝が決定的となったフルームを称えるトーマス Photo: Yuzuru SUNADA

 2017年ジロに、トーマスはミケル・ランダとのダブルエースという形で、自身初となる総合優勝を狙って出場。しかし、第9ステージの落車負傷の影響で途中リタイアとなった。フルームは2017年ツールも総合優勝を飾り、さらにブエルタも制してダブルツールを達成。

 トーマスは2018年ジロ・デ・イタリアで再び総合優勝を狙って走るはずだった。しかし、フルームが急遽ジロへの出場を決めたことで、トーマスはエースとして走る機会を失う。

 同年シーズン初頭のインタビューでは、「今年がスカイ最後の年になるだろう」と語り、移籍を示唆するなか、ツールでは総合を狙って走る約束をした。しかし、それはサルブタモール問題に揺れるフルームがツール欠場となった場合のBプランとしての起用法だった。

 晴れてフルームのサルブタモール問題も解決し、フルームがエース、トーマスがセカンドエースという体制でツールに挑んだのだった。

レース後の様子を見る限り、2人の関係は良好

 第11ステージの詳しいレース展開はこちらのレースレポートを参照していただきたい。

記者会見でレースについて振り返るゲラント・トーマス Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 レース後にトーマスは「明らかにフルームがチームリーダーだ。6度のグランツール制覇を経験し、3週間の戦い方を知り尽くしている。一方で私はそこまで届いていない」と謙遜しつつ、「もしフルームのために自分を犠牲にするようチームから求められたら、それに従うよ。チームはいま理想的な状態にある」と話している。

 フルームは「トーマスのアタックは完璧なタイミングだった。残った選手がトーマスを追いかけ、自分がチェックする理想的な展開だった」と語っており、チームの作戦が見事にハマったことを伺わせていた。

 また、同日夜のディナーでは、マイヨジョーヌを着るトーマスをフルームは笑顔で祝福している姿が撮された写真がチーム公式SNSにて公開されていた。

◇         ◇

 最後にダブルエースが招いた悲惨なケースだけでなく、ダブルエースが見事に機能したケースも紹介したい。

 2009・2011年のアンディとフランクのシュレク兄弟だ。フランクは2008年ツールで総合5位に入ったが、2009年ツールでは弟のアンディのために走った。総合優勝するコンタドールに対して、兄弟で波状攻撃を仕掛けるなど、素晴らしい連携を見せた。アンディは総合2位、フランクは総合4位となった。

2011年ツール・ド・フランスの総合表彰式にて Photo: Yuzuru SUNADA

 2011年は総合優勝するカデル・エヴァンスに及ばなかったものの、アンディが総合2位、フランクが総合3位となり史上初兄弟で表彰台を獲得してみせた。

 トーマスはブレイルスフォードと強い絆で結ばれているが、トーマスとフルームも10年来のチームメイトであり、2人も固い絆で結ばれていることだろう。チームの雰囲気も非常に良くて、2人のインタビューでのコメント内容も、違和感のない自然なものである。

 歴史を振り返るとほとんどが失敗、または後味の悪い結果となるダブルエースであるが、トーマスとフルームは果たして成功例となるのか、失敗例となるか。今後の走りに注目していきたい。

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