山口和幸の「ツールに乾杯! 2018」<4>石畳が語る激闘の記憶 連覇の夢を絶たれたフルームと賭けに勝ったニバリ

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 大会史上タイとなる5度目の総合優勝をねらうクリストファー・フルームだが、2014年のツール・ド・フランスに優勝できていないことに気づくだろう。この年、フルームは2年連続2度目の総合優勝を目指してナンバーカード1番で参戦している。ところが、北の地獄で悪夢を見た。

ついにツール・ド・フランスで勝ったジョン・デゲンコルプ © ASO

 2014年の第5ステージはパリ〜ルーベで知られるパヴェ(石畳)がコースに設定されていた。それにさかのぼること4年前の第3ステージでもコースとなり、優勝候補のフランク・シュレクが落車して右腕を骨折している。いわゆるランフェルデュノール、北の地獄と恐れられるゆえんだ。

 2014年はさらなる試練が襲う。悪天候のため、9カ所の石畳区間のうち3番目と5番目の石畳を迂回。石畳区間は15.4kmから13kmとわずかに減り、ステージ距離も当初の155.5kmから152.5kmに修正された。このあたりは隣国ベルギーに近く、スタート前にはベルギー国王とベルギーが生んだ往年の名選手エディ・メルクスが、第一次世界大戦の戦没者を追悼した。

これが北の地獄。満身創痍でゴールする © ASO

 首位のマイヨジョーヌはアスタナのビンチェンツォ・ニバリが着用していて、フルームは前日に落車して手首に大ケガをしていた。絶え間なく雨が降り続く中、まだ舗装路だった29km地点でフルームが落車し、自転車を交換して前方を追わざるを得なくなった。すぐにチームメートが待機してフルームを集団に引き上げたのは42km地点。しかしフルームが再び落車。負傷が悪化してそのままチームカーに乗り込むことになる。まさかのリタイアで連覇の夢が途切れた。

 総合優勝の大本命が一瞬のうちに消えた。ライバル選手の作戦は転換を余儀なくされた。首位のニバリは好調なアシスト陣を利して、ここで勝負に出た。正攻法なら首位は守りに徹する走りをするのが賢明だ。ところがニバリは落車の危険がある石畳でスパートしたのだ。ここで脱落したのがもう1人の有力候補アルベルト・コンタドール。そしてフルームのリタイアで急きょエースに昇格したスカイのリッチー・ポート(オーストラリア)だ。ニバリはアシスト役のヤコブ・フルサング(デンマーク)とともに突っ走り、区間優勝選手からわずか19秒遅れでゴール。2分11秒遅れでポート。2分54秒遅れでコンタドール。

2014年のツール・ド・フランス第5ステージ、石畳でライバルに差を付けたニバリ Photo: Yuzuru SUNADA

 「コンタドールにこれほどの大差をつけられるとは思わなかった。でもボクは油断しない。これからも慎重に戦っていきたい」とニバリ。本格的な山岳ステージはこれからだが、序盤で大きなアドバンテージを取ったのである。

 その一方で連覇を断たれたフルームは地獄を見た。

 「2度目の落車をしたときに、もう走れないと悟った。開幕地である英国の大観衆の中を走れたのがいい思い出だ。絶好調のポートがあとはやってくれると思う」と語った。

交換用のホイールもなかなか届かない © ASO

 ニバリはこの石畳区間でコンタドールに大差をつけたことで、結果的にこれがコンタドールにプレッシャーを与えることになり、第10ステージの右足骨折でコンタドールも消えていった。

 最終的に総合2位とは7分以上の大差。これは1987年にヤン・ウルリッヒが初優勝したときのタイム差を超える圧勝だったが、全区間でニバリにブレーキがなかったこと、そしてアスタナチームの総合力が抜群に高かったことが要因だ。アスタナはすべてのアタックに対して大逃げを容認することがなく、メイン集団の先頭に立ってコントロールした。山岳の上りでもジロ・デ・イタリア優勝経験のあるミケーレ・スカルポーニらがけん引役を務めた。ニバリは最後の山岳で温存したパワーを発揮するだけでよかった。ニバリがアタックしても、総合2位ねらいのティボー・ピノやジャンクリストフ・ペローは追走しなかった。

 こうしてニバリが29歳にしてグランツールを全制覇することになるのだが、2018年のルーベも大荒れだった。優勝候補としてフランスのファンが期待するAG2Rラモンディアルのロマン・バルデは合計3回のパンクで、フルームら他の有力選手から7秒遅れ。BMCのリッチー・ポートは落車によって鎖骨骨折。優勝候補の1人がレースを去ることになった。

リッチー・ポートは鎖骨骨折でまさかのリタイア © ASO
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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