山口和幸の「ツールに乾杯! 2018」<3>「ブルターニュの壁」の物語 タイヤ差から明暗を分けたエヴァンスとコンタドール

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 「ブルターニュにもラルプデュエズがあるんだぜ」

 地元のサイクリストが自慢げに話している。ミュール=ド=ブルターニュという小さな町は隣のサンジュアンと合わせても住民2560人という規模だ。町から県道をちょっと行ったところに丘陵地がある。標高はたかだか293m。それでも地元の人にとっては心臓破りの激坂として知られている。

ブルターニュの人たちにとって待ちに待ったツール・ド・フランスがやって来た © ASO

 ブルターニュ半島は起伏がちな地形で、一般サイクリストには平坦ステージと呼ぶなんてとんでもないという感じだ。この日のゴールは「ミュール=ド=ブルターニュ」。ミュールとは「壁」という意味があるので、壁のように立ちはだかる激坂ということだろう。

 このブルターニュの激坂がツール・ド・フランスに登場したのは3回目。過去には2011年と2015年に駆け上った。

 初めて足を運んだ2011年。あの日のステージは198選手が雨のレースをスタートしていった。9km地点で今回もバーレーン・メリダで出場しているゴルカ・イサギレら5選手がアタック。24km地点では4分35秒差をつけた。これに対してメイン集団は最後の激坂を得意とするフィリップ・ジルベールに勝たせるためにオメガファルマ勢がペースメーク。

地の果てと呼ばれるブルターニュ半島 © LE-MEN-Nicolas

 ゴール地点が激坂なので当然のように有力選手は色めき立っていた。アルベルト・コンタドール、カデル・エヴァンス、アンディ・シュレク、ジルベールなどが最後の瞬間に備えて神経戦を展開。コンタドールは初日に落車で遅れていて、そのロスを挽回するべく必死だった。

 5選手は次第に差を詰められていくが、残り7.4kmでイサギレが他の1選手とともにアタック。隊列が崩壊したことで、後続集団が一気に襲いかかり、残り3.7kmで全選手を吸収した。

 そして壁のように立ちはだかるミュール=ド=ブルターニュの激坂へ。残り1.3kmでコンタドールがアタック。ジルベールとエヴァンスらがこれに追従。逃げ切れなかったコンタドールはそれでもゴールスプリントに挑み、区間優勝を確信してガッツポーズした。

 しかしその横につけていたエヴァンスがゴールラインまでペダルを踏みきっていて逆転。幾度となく苦汁をなめ続けてきた男のしたたかさが出た。これが勝利へのあくなき執念だと思った。

2011年、コンタドールが右手を挙げたが写真判定でエヴァンス(右)が優勝 © ASO

 エヴァンスは2007、2008年と総合2位になり、2008年にはマイヨジョーヌを5日間、2010年にも1日着用している。ところが区間勝利の表彰台に上るのはこの日が初めてだという。記録上は2007年のタイムトライアルで勝っているが、これは薬物違反による事後の繰り上がり優勝だ。

 「コンタドールが勝利をねらっていたのはわかっていたが、ボクはゴールラインに前輪を届かせることに精一杯だった。誰が勝ったかは成績が出るまでわからなかった。終盤にメカに違和感を感じたとき、経験豊かなヒンカピーがマシンを交換しろとアドバイスしてくれた。そしてチームメートが集団に戻してくれた。この勝利はチーム全員のものだ」とエヴァンス。

そして2018年のミュール=ド=ブルターニュのステージ。この日優勝することになるマーティン(ゼッケン91)は、最後に備えて集団内で体力温存 © ASO

 一方のコンタドールはゴールライン上で勝利を確信し、右手でガッツポーズをしたが、写真判定ではエヴァンスに届かなかった。

 「勝てなかったのはチームに申し訳ないが、やる気が出てきたのが幸いだ。総合優勝を狙うにはいい位置じゃないことは確かだ。でもここは我慢。チャンスは必ずやってくる」とコンタドール。フランスのアンチファンから浴びせられるブーイングに動揺を隠せないでいるのだ。

 最終的にエヴァンスのしたたかさが総合優勝の行方を決めた。ラルプデュエズでアンディ・シュレクがマイヨジョーヌを着用するが、その翌日、言い換えると最終日前日の個人タイムトライアルでエヴァンスが逆転。シュレクにまだマイヨジョーヌは似合わないという論評もあった。コンタドールは5位といいところがなく、さらにドーピング違反でその記録も抹消されている。

石造りの独特の町並みをキャラバン隊が行く © ASO
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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