門田基志の欧州XCマラソン遠征記2018<5>厳しくも壮大な自然を走れる喜び 何度でも走りたくなるドロミテのマラソンレース「HERO」

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 クロスカントリーマラソンのUCIシリーズ戦「HERO」に出場するために、イタリア・ドロミテを訪れた門田基志選手(チームジャイアント)と西山靖晃(チーム山鳥)の師弟コンビ。ドロミテの美しい絶景が「地獄絵図」に見えるときがあるという厳しいコースですが、門田さんにとって「HERO」は「どんなにキツくても来年また参加したくなる大会」なのだそう。美しい写真とともに、現地の臨場感が伝わってくる門田さんのレースリポートをお届けします。

←<4>次なる戦いの地、イタリア・ドロミテへ

イタリア・ドロミテのクロスカントリーマラソンのUCIシリーズ戦「HERO」に参戦した門田基志選手(チームジャイアント)。最初の峠、ガルデーナの頂上付近にて ©sportograf.com

◇         ◇

ショータイムのようなスタート

 マラソンレースの朝は早い。朝5時にホテルで特別に用意してもらった朝食を部屋で食べ、色々と用意をするがマラソンの長距離レースで朝気になるのはトイレ。しっかり出すもの出してないと山奥で林に駆け込む事になる。幸いにも僕はこの経験は無いが、一昨年フィリピンで開催された長距離レースで西山はお腹を壊しトイレに! 幸いにもメイン会場に戻り、2周目に入るところで会場内のトイレに駆け込んだが、大きく順位を落とした。レース前、朝はできるだけ早起きして体のリズムを整える必要があるのだ。

 スタート地点はホテルから3分の街のメインエリアで、気温4℃と愛媛の真冬並の寒さ。ウェアに悩むが日中は30℃近くまで上がる予報なのでスタートは我慢。アップしようにも坂道を上ると下りで冷えるというジレンマと戦いつつ召集エリアに行くと、UCIクラスから一般クラスまで街を埋め尽くすマウンテンバイカーの数に圧倒されながらもボックスに向かう。

 マラソンレースは比較的スタートが緩やかで、位置取りも緩く、気がつくと西山は数列前で僕は結構後ろの方でスタートなった。ヨーロッパのレースでよく感じることだが、漢字が羅列された「チーム山鳥」のゼブラジャージはヨーロピアンにウケる!

「HERO」名物、スタート時の紙ふぶき ©sportograf.com

 「HERO」のスタートは紙吹雪がすごく、前が見えないほど派手なことで有名。今回は後方スタートになったため舞い上がる紙吹雪が一番濃いところで通過となり本当に何も見えない感じだった。こんな感じの演出1つ1つがレースを盛り上げる一因となっていることは事実で、日本のレースにショー的な部分が足りていないことを感じさせられる。

絶景が地獄絵図に変わる瞬間

 スタートの合図とともに一気に街の目抜き通りを大集団で駆け抜ける。西山も真横にいるが、お互いに声をかける余裕は無い。最初の峠は林道メイン。ガレ場の激坂と逆光が超眩しい中でドロミテの山を見ながら、永遠と思える長い登坂をただ前を見て頂上を目指す。絶景が地獄絵図のように感じた一瞬だった。

超高速で走り抜ける林の中は要所要所にテクニカルセクションがあって楽しいコースだ ©sportograf.com

 頂上通過から一気に下るが、少しMTBパークっぽい下りで先にスタートした女子選手をパスしつつ走る事になる。海外の女子選手は日本ほど遠慮はしない。全く避けるそぶりもなく自分のペースで下っていると前を行くイタリア人男子選手が激しく何か言っているが、女子選手はまったく意に介さずで結局は抜けるセクションまで待って強引に抜いて行くしかない。

景色は最高だが、走ってる方はそれどころではない ©sportograf.com
パンク修理から復帰して走り出すも、直りきっておらず、この後も修理を余儀なくされた ©sportograf.com

 下り後半、登坂を先にクリアしていたゼブラジャージに追いついた! 「西山、ここにいたか!」と思い、テクニカルセクションに差し掛かるとライン的に入ってはいけない岩のラインに西山が入ってしまった。減速して横を抜けて行くと西山が「sorry」と一言(笑)。さらにテクニカルセクションをかっ飛ばして下った先で、さらに激坂をクリアすると、山の尾根のアップダウンを走るハイペースセクションとなる。

 ここで体の違和感を感じ始める。力が全く入らない。最初の峠でも思うように動かないと感じていたが、一気に全身に力が入らない状況になった。酸素の取り込み量が足りないのか、この先の標高を考えながら走る。集中できない状況で冷静に判断するよう心がけた。

稜線沿いの道は小刻みにアップダウンする。この連続するアップダウンが体力を奪う ©sportograf.com

 まずUCIポイント40位圏内からは大きく遅れていることを認識し、今できることを最大限やって次戦に備えるように目標を切り替える。体の違和感はポジション的な面もあり、いったんバイクを下りて工具を使って直していると「門田さん!」と後ろから西山が現れた。が、西山もパンクしていた。聞くとパンクを修理し切れず、何度も修理を繰り返しているとのことだった。

 マラソンレースは修理してでも帰らなければならない過酷さがある。チーム体制がきちんと組めているヨーロッパチームは補給地点でメカ的な補給も受けることができるが、我々のような個人で参戦している選手は、基本補給食やドリンク以外は持っている物でゴールまで走り切らないといけない! これもヨーロッパで体制を作れないハンデでもある。

キツくとも再び参加したくなる大会

 ここからは日本人同士で抜きつ抜かれつの攻防となった。ヨーロッパまで来て正直これは意味のない展開となったが、高地での高負荷トレーニングと切り替えて、体の使い方を意識したり外国人選手とのローテーションなど意味を持たせながら走った。

時速70kmにもなる高速の下りは一瞬の気の緩みがコースアウトに直結する。きれいな景色に目を奪われそうになるが、そこは我慢! ©sportograf.com

 中盤に現れる会最高地点の2400mまで一気に上る坂は、毎年脚つきを余儀なくされる「超激坂」。前を見ると得意セクションに入った西山はスルスルとペースを上げて行くが、もうマイペースでしか踏めないこの1日、ゴールまでなんとしても辿り着き、次に繋げるために走る。

 限界に迫る体に、高まる標高がさらに追い討ちをかけてくる。どんなに苦しくても広がる雄大なドロミテは全選手に対して平等に美しく、過酷だ。ゆえにどんなにキツくても来年また参加したくなる大会なのだろう。

苦しくも、壮大な自然を走る喜びを感じられる、それが「HERO」の醍醐味 ©sportograf.com

 この調子で淡々と走り、ただただ完走しただけのレースとなってしまったが、これもレースとして得た経験として役立てよう。今回のドロミテは2人ともノーポイントに終わってしまったが、ゴールしたら次のレースに向けて切り替える。時間は待ってはくれないのだ。

ゴールでは色々なクラスのライダーと入り乱れるが、このレースではゴールしたみんなが「HERO」! ©sportograf.com

 レース後、会場にあるマッサージのテントで体のケアを受けた。ちょいちょい変な日本語を混ぜてくるマッサージャーだったが、さすがは自転車が盛んな国の自転車レースに来ているマッサージ! 最高に心地よく、やってほしい所を的確に適度な圧力で押してくれた。

 マッサージ後に話を聞くと日本が好きだということ、そして空手を習っていることを教えてくれた。段を持っている本物の空手家イタリア人はマッサージも達人だった。そしてメイン会場のレストランでレースの雰囲気を楽しみながら昼食をとり、レースを完走した「HERO」たちを見て余韻に浸った。

 1日休んで、2日後には9月に開催される世界選手権のコース試走で100kmほど離れたイタリア、ヴェネト州の街、アウロンツォ・ディ・カドーレへと向かう。

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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