山口和幸の「ツールに乾杯! 2018」<2>ショレの地で思い出す20年前の喧噪 涙ながらにツールを去ったヴィランクの意地

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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シャポー、シルブプレ! © ASO

 いまから20年前、1998年のツール・ド・フランスは日本が初出場を果たしたサッカーW杯フランス大会があったこともあり、話題性喚起のためにアイルランドで7月12日に開幕した。優勝候補は、前年にドイツのヤン・ウルリッヒに続いて総合2位になったフランスのリシャール・ヴィランク。1985年のベルナール・イノー以来となるフランス勢の総合優勝への道は整えられていた。

 ところが開幕前からきな臭くなる。アイルランドに航路で渡るためベルギーの港に向かっていたフェスティナチームの関係車両が、フランスとベルギー間の国境検問所で停車を命じられた。チーム専属のマッサーが運転するクルマから大量の禁止薬物や注射器などの医療用器具が発見されたのだ。すぐさま「チームぐるみのドーピングか」といううわさが駆けめぐる。それでもツール・ド・フランスは平静を装ってダブリンで開幕した。

チームタイムトライアルにミッチェルトン・スコットは迷彩色ヘルメットで登場 © ASO

 ツール・ド・フランスは4日目に移動日なしでサッカーW杯優勝に沸くフランスに入国するのだが、第4ステージ終了後に予想外の事態に進展する。フェスティナチームの監督が逮捕されたのだ。それを受けてヴィランクらが悲痛な記者会見を行ったのがショレ。2018年の第3ステージでチームタイムトライアルが行われた美しい街だ。

1998年のツール、報道陣に取り囲まれて会見するヴィランクらフェスティナチームの選手 Photo: Yuzuru SUNADA

 さらに第6ステージ終了後に、フェスティナの全選手が薬物違反を理由に大会から排除された。これがいわゆる「フェスティナ事件」だ。このとき涙を流しながら続行を訴えるヴィランクの姿は、悲劇のヒーローとして新聞やテレビで大きく報じられた。

 あのとき、フランス期待のヴィランクは大会側からの排除宣告を受け、「せめて出走だけでも認めてほしい」と懇願したが聞き入れてもらえず、会場から立ち去った。それを見る限りは被害者だった。その一方でチームメートはドーピングの事実を事後に自白した。「チームぐるみのドーピング」という前代未聞のフェスティナ事件は大会の権威を傷つけることになる。

 その後も深夜における警察の捜査やドーピング検査、加熱する報道が収束することはなかった。宿泊ホテルのゴミ箱をテレビ局がさらって注射器が廃棄されていたのを発見したというニュースもあった。不正行為とみた警察が介入し、選手たちを深夜に連行するなどで一睡たりともできないチームもあり、さすがにその翌日は全選手がゼッケンを外してストライキ。スタートを促された後も超スロー走行で抗議して、その日のステージは記録なしとなる。

最速タイムを記録したBMCレーシングチーム © ASO

 最終日までに6チームが大会をボイコットしていった。3週間前にダブリンをスタートした189選手は、最終日のパリで96人まで減った。スケールの大きなシャンゼリゼ大通りを駆け抜ける集団がいつもより貧弱に見えたのはボクだけではなかったはずだ。

 一貫して不正薬物の使用を認めなかったヴィランクは、フェスティナが騒動の果てに解散したために1999年からの2年間をイタリアのポルティで走る。1999年には5度目の山岳賞を獲得した。しかしその後の長い裁判の末に、2000年10月にドーピングをした事実を認め、9カ月の出場停止処分を受けた。2001年はツール・ド・フランスに出場できず、この時点でヴィランクの選手生活は終わったとだれもが感じたことだろう。

チーム スカイは4秒遅れとまずまずのタイム © ASO
2年ぶりにマイヨジョーヌを獲得したBMCのグレッグ・ヴァンアーヴェルマート © ASO

 しかし彼のあくなき魂は山岳ポイントを荒稼ぎすることで汚名を返上したいという考えだった。

 2001年は山岳賞こそ獲得できなかったが、モンバントゥーでステージ勝利。2003年はランス・アームストロングに真っ向から戦いを挑み、一時は首位に立つなどして見せたが、ラルプデュエズで大きく遅れてアームストロングに逆転された。しかし山岳ポイントは着実に稼ぎまくり、ついにバーモンテスとバンインプに並ぶ6回目の最多受賞。さらに2004年には山岳賞だけをターゲットにして最後となるツール・ド・フランスに参加。史上初の7回目のタイトルを獲得した。それは、アームストロングというおきて破りの相手に総合優勝の夢を果たせなかったヴィランクの意地でもあった。

この日は日差しが強烈だったが、木陰はとても快適 © PRESSPORTS
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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