必要なのは判断力・想像力・人間力愛媛県の「サイクリングガイド講習会」を体験 いま求められる“プロ”の役割と気配り

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 新たな観光スタイルとして近年注目を集めているサイクルツーリズム。ゆっくり広範囲に観光を楽しめる機動力が国内外の観光客から人気を集め、ツアーを導入する自治体も増えている。その一方で重要性が高まっているのがツアーの計画や引率を担うガイドの役割だ。しまなみ海道を有し、全国に先駆けて数多くのサイクリングツアーを展開してきた愛媛県では、そのためのガイドの質を担保する取り組みも逸早く着手してきた。その一環として6月に愛媛県今治市で行われた「サイクリングガイド養成基礎講習会」を『Cyclist』の記者が体験。ガイドとしての自身のポテンシャルを探りつつ、サイクリストとしての走行スキルも確認する機会となった。

実走中、注意点を説明する日本サイクリングガイド協会理事長の渋井亮太郎さん(写真右)の話に熱心に耳を傾ける受講者の皆さん Photo: Kyoko GOTO

インバウンド増で浮彫となった交通問題

 サイクリストの中には自分のおすすめのルートを他人に案内したり、自らイベントを企画して友人を牽引したという経験をもつ人も少なくないだろう。そして「サイクリングツアー」のガイドをその延長と考えている人は多いのではないだろうか。確かに人を連れて案内するという点では同じ行為だが、サイクリストとしての“共通認識”をもった者同士で走ることと、自転車のレベルが不明なツアー客を相手に走るのとでは、まったく異なるスキルが求められる。

初日の講習会には愛媛県内外から集まった14人が受講。午前中の3時間の座学では、ガイドとしての役割、自転車をめぐる交通法規などについて学ぶ Photo: Kyoko GOTO

 その背景には自転車をめぐる日本の交通法規の曖昧さがある。車道走行を義務付けられている自転車だが、自転車が安全に走れる環境は成熟しておらず、場合によっては身を守るために歩道走行に切り替えざるを得ないケースもある。適宜判断が求められ、クルマと歩行者との間で揺れ動いている状態であることは多くのサイクリストが感じている事実だ。それを知っているサイクリストと、車道走行に慣れていない一般人や海外観光客では危険の度合いが大きく異なる。

 「自転車の走行ルールはあるが誰も守っていない、いうなれば“学級崩壊”の状態。その状態が長い間続いてきたが、ここ5年ぐらいで急に目を向けられ、慌てている状態」と指摘するのは、日本サイクリングガイド協会の理事長を務める渋井亮太郎さん。事実、ここ数年の海外旅行客数の伸びに伴ってサイクリングツアーの利用者も増えているが、「ガイドなしに日本の道路を走るのは怖い」と指摘される声も多く、渋井さんも「クルマとの関係は日本が世界で一番厳しい」と言い切る。

「ガイドに必要なのは脊髄反射さながらの判断力、想像力、そして人間力」と語る講師の渋井亮太郎さん Photo: Kyoko GOTO

 愛媛県では、そんな“グレーゾーン”でも安全にゲストを導けるよう、人材育成に取り組んできた。きっかけは2014年、高速道路を封鎖して行う国際大会「サイクリングしまなみ」の初開催だ。国内のみならず国外からの観光客を受け入れる上で、サイクルツーリズムに役立つ人材、すなわちガイドの育成をめぐって県内で気運が高まったことが始まりだった。ガイド講習を手掛ける日本サイクリングガイド協会(JCGA)に委託する形で「愛媛県サイクリングガイド養成講習会」を立ち上げ、県内のサイクリストを対象にガイド育成に乗り出した。

受講者のグループ走行に帯同する愛媛県のサポートカー Photo: Kyoko GOTO

 ここでいう、いわゆる「ガイド」としての資格は日本サイクリング協会(JCA)の公認資格である「サイクリングガイド」(ベーシック)の取得が目標となるが、学課・小論・実技からなる検定試験は、資格取得者も「かなりの難関だった」と口を揃える。実際、学課・実技ともに9割以上の点数獲得が合格ラインとなる。

 「ガイドの数が少ない現段階では、“先生”となって地域でガイド事業やイベントにガイドの概念を持ち込めるような、レベルの高い初期メンバーを育てたい。そのために、基本的なスキルはもとより人間性も重視している」と渋井さんは強調する。

JCAのガイド検定試験は難易度が高く、過去4年間の合格者は計50人(2018年6月末時点)。当日は黄色のジャージをまとったガイド7人が受講者の実走指導にあたった Photo: Kyoko GOTO

 とはいえ受験資格として6~8日間程度の講習会の受講を要するなど時間の制約もあり、企業等に勤める一般人にとっては容易ではない。こうした状況を受け、最近は単独でも「体験」としてガイド講習を受講できる機会を設けた。これまでは愛媛県内のサイクリストを対象としてきたが、全国的にサイクルツーリズムの動きが高まっていることを受け、今年度から県外の受講希望者にも門戸を開いた。

受講者それぞれの参加動機

 当日の講習会に参加した受講者は、2日間で総勢27人。愛媛県内からの参加者が中心だが、初日のメンバーには鹿児島県の南さつま市から来たという加藤彰さんの姿もあった。

実走前、ガイドの重兼さんの指示に従って自分の自転車をチェックする受講者 Photo: Kyoko GOTO

 参加動機をたずねると「サイクルツーリズムが地元の施策の1つとなっており、携わる者としてガイドのポイントを学びにきた」との回答。加藤さんは自転車で世界一周の旅をしてきたという経験豊かなサイクリストで、いまもすでに地元でガイドとして仕事をしているが「人を案内するスキルは不十分と感じている」と話していた。

 今治市から参加した竹松伸二さんは「自転車をめぐる環境が大きく変わっている。イベントが数多く開催され、私自身もツアースタッフとして同行する機会が増えている。これまでは自己流でやっていたが、周りに配慮して走ることは自分1人で走ることと違い、スキルが必要だと感じている。今後も手伝う機会が増えているので、一度しっかり学びたいと思った」と参加動機を語った。

鹿児島県の南さつま市から参加した加藤彰さん Photo: Kyoko GOTO
前回検定試験で不合格となった上野りかさん。リベンジを目指す真剣な表情 Photo: Kyoko GOTO

 愛媛県の自転車好き女子ユニット「ノッてる!ガールズEHIME」のメンバーであり、女性初の「四国一周」完走者でもある上野りかさんは「もっとたくさんの人に四国の魅力を伝えるためにガイドを受けようと思った」という。実は一度資格取得試験を受けたものの、残念ながら実技のパンク修理を制限時間(15分)内で行えなかったりと合格には至らなかった。今年11月に行われる試験にリベンジすべく、今回の講習会を受講したと話していた。

サイクリングガイドは「バスの運転士」

 講習会は、午前中に交通法規やガイドの技術に関する座学、午後にガイドの先導によるグループ実走という2部編成で行われた。実走では参加者5・5・4人の3つのグループに分かれ、ガイドによる走行管理を体験。実際に検定試験のコースとなっている市内10kmのルートを走行した。

走行時の注意点について丁寧に説明するガイドの重兼みゆきさん。「ウォームアップは“ハートウォーム”の時間でもある」 Photo: Kyoko GOTO
ガイドの山本秀明さんの指示に従い、ハンドサインの出し方をメンバー全員で確認する Photo: Kyoko GOTO
車道走行が原則でも、身を守るために歩道を選択する判断も必要となる。その場合の走り方の指示もしっかりと Photo: Kyoko GOTO

 渋井さん曰く、「走行管理」とは自分(ガイド)+4~6人を引率して1日中走ることができる技術のこと。「自分1人で守っている範囲は5mほど。うしろ5人が連なるとその長さは30mにも及ぶ。観光バスを運転しているのと同じくらいの認識で後ろに注意するように」と走行中も常に注意を促す。

 また、ルールとして守らなければならないことであっても、それに従うことによって危険に晒されるケースもある。その場合、「ガイドとして優先するのはゲストの安全」だと強調する。「大事なことは法規を理解していること。その上で何度もロケハンし、コース上の危険地帯を把握して回避の仕方を考えておくことが重要」だと強調する。

この先、交通量が増え、車道も狭くなると判断したガイドが車道から歩道へと誘導 Photo: Kyoko GOTO
停止のハンドサインは後者全員に見えるように腕を高く上げる Photo: Kyoko GOTO
信号のない交差点。グループ全体への配慮に緊張が走る Photo: Kyoko GOTO
検定試験で実施する、坂道での「振り返り」のテストも体験。先頭のガイドが最後尾の人が立てる指の数を当てることで、後部をしっかり頻繁に確認する訓練になる Photo: Kyoko GOTO

実走で理解するガイドの感覚

 受講を終えた加藤さんは「濃い10kmだった。ガイドの目の配り方やサインを出すタイミングなどは、実際に一緒に走ったことで非常によく理解できた。地域によって交通のパターンも異なると思うので、自分の地元をより深く何度も走り、確認して今後のガイドにつなげていきたいと感じた」と感想を語った。

ガイド資格を取得して4年目という重兼みゆきさん。インバウンド向けのイベントなどでガイドを務めるベテラン Photo: Kyoko GOTO

 グループ走行の指導側として参加したガイド歴4年の重兼みゆきさんは、「毎回スタッフとして参加しているが、私も初心に戻って学び続けられる場でもあると感じている。実践でも学ぶことが多く、同じことをしているだけでは対応できないのがガイド。初心者の方の疑問点を通してお客さんの感じ方や声も聞けるのは貴重な場です」と語った。

実技試験の1項目となっているチューブ交換を受講者とともに実演する渋井さん(右)。速さや正確さだけでなく、交換中の自転車の扱い方などについてもこまかい気配りを促していた Photo: Kyoko GOTO

 渋井さんは、「10年前、一般のサイクリストがガイドをするなんて考えられなかった。参加者のレベルも自転車歴が長い人からスポーツバイク未経験者までさまざまで、想像していた以上にガイド講習に対する期待や要求が高いことが理解できた。我々も当初はスポーツサイクルを主体としていたが、幅を広げる必要性を感じている」

 次回の開催は9月8日(土)、9日(日)を予定しており、さらに11月にはJCAの資格検定試験を予定している。今回同様、愛媛県のみならず県外の受講者も受け付けるが、応募多数の場合は申し込み時に記入する「走行スキル」を考慮して選考するとしている。

「サイクリングガイド養成基礎講習会」募集要項

日時:2018年9月8日(土)または9日(日)9時~17時まで(昼休憩1時間)
会場:愛媛県今治市役所 波方支所(波方公民館)
所在地:愛媛県今治市波方町樋口甲253
定員:20人程度(申込先着順。応募者多数の場合、申し込み時の走行スキルを考慮し選考)
(※1)両日とも同じ内容の講習会
(※2)天候や会場の都合等により日程を変更する可能性あり
本講習会のほか、11月に日本サイクリング協会認定「サイクリングガイド検定」を実施予定(後日、改めて募集)
申し込み方法:愛媛県庁のHPより参加申込書及び誓約書をダウンロードし、必要事項を記入のうえメールにて申し込む
申し込み用メールアドレス:jitenshashinbunka@pref.ehime.lg.jp

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