全日本個人タイムトライアル男子・観戦記全日本TT前王者・西薗良太さんが見た、新王者の誕生と週末の「全日本ロードレース」の展望

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 昨年(2017年)の全日本個人タイムトライアル(TT)ロードレース選手権男子エリートで2連覇を飾り、昨シーズン限りで引退した西薗良太さん(前ブリヂストン・アンカー)が6月16、17日に行われた、2018年大会を観戦。Cyclistに観戦記を寄稿してくれました。引退後の生活、頭脳派らしいTTの分析に、センチメンタルな紀行文的要素も入った観戦記をお届けします。

ほぼ誰が勝っても新王者誕生となった今年の全日本個人TT。熱戦が繰り広げられた Photo: Noriko SASAKI

◇         ◇

雨音で思い出す鹿児島の練習

 引退してから半年が経ちました。大学院に行きながら仕事もしていて、慣れない脳みその部分をフル稼働させながら慌ただしく過ごしています。

2016年のTOJからおなじみのカメのパネルを持って、佐野淳哉と談笑 Photo: Ryota NISHIZONO

 そんな日常の中でも、自転車選手として完全に組み替えられてしまった脳みそはなかなか抜けず、ふとした瞬間に身体的な感覚がぼうっとよみがえってくることがあります。この感覚は季節的なものとも強く結びついていて、例えば今の時期は年間でも最もナーバスになる時期でした。

 今の時期の雨の音を聞いていると、ホームコースだった鹿児島の濡れた路面とか、湿気、どれだけ身体をプッシュできるだろうか、外で思い切って走るか、ホームトレーナーを使うかのトレードオフ、自分一人で走っている時にふと考える全日本後の過ごし方、孤独、そういうものをないまぜにして思い出して落ち着きません。

 そんな中で、新チャンピオンの誕生を目撃して新たな時代を目撃して一区切りつけようと、全日本選手権個人タイムトライアルを観戦すべく、今年の会場である石川県志賀町に行ってきました。

ロードレース観戦は不便さの塊

 今回は金沢に前泊しましたが、ロードレースの観戦のためだけに泊りがけで出かけるというのはほとんど初めての体験で、非常に新鮮。JCFのサイトを見たり、選手のツイートを追いかけたりしながら軽く下調べをしながら前夜に元チームメイトの井上和郎さんと再会して近況を交換したりと、観戦とそれにまつわる旅というものを満喫しました。

飛び入りで実況解説も行ったという西薗さん(左)。大会スタッフとリラックスした表情 Photo: Ryota NISHIZONO 

 選手時代は点から点への移動という感覚だったのですが、観戦なら少しぐらい夜更かししても大丈夫だし、好きなものを食べられるし…とロードレースファンとしての楽しみ方を再確認。ゲームやウェブストリーミングビデオ、VR端末とインドア、近場、短時間で楽しめる娯楽がたくさんある中で、ロードレースの観戦は相変わらず物理的行動セットと不便さの塊で、「ハードコア感」が強いです。

 現地入りすると、交通の制約などから、残念ながらコースを下見することはできませんでした。しかし、各選手から話を聞いてみてといろいろな要素が詰まっている好コースであることがうかがわれました。各々からペース配分のアドバイスを聞かれたりもしました。みんな悩みますよねー。

予想は「佐野選手にBS勢が絡む」

 私が立てた男子エリートの事前予想では、まずは佐野淳哉選手(マトリックスパワータグ)が手堅く優勝に絡んでくる。それから「チーム ブリヂストンサイクリング」を始めとするスピードのあるトラック勢のうち、何人かは50分という彼らにとって異次元の競技時間でなんとかうまく配分しきって佐野選手にチャレンジするのではないか?というもので、飛び入りで参加した競技の解説でもそのようなことをお話ししていました。

近谷涼選手(チーム ブリヂストンサイクリング)は初挑戦の全日本個人TTで力を発揮 Photo: Noriko SASAKI

 今回は第2ウェーブと第3ウェーブに有力選手がやや分散しており、無線から聞くタイムで起きる心理戦もひとつ鍵になるのではないかと思いながら、ラップタイムを追うことになりました。第2ウェーブの近谷涼選手(チーム ブリヂストンサイクリング)のタイムが突出しており、事前に聞いていた基準ラップタイムからいっても間違いなく優勝を争うことになるタイムになると確信しました。

 そして第3ウェーブでは早い段階から窪木一茂選手(チームブリヂストンサイクリング)が圧倒的なタイムを刻んでいくのを、ドキドキしながら見守ります。佐野選手や増田成幸選手、小野寺玲選手(ともに宇都宮ブリッツェン)といったロード中心のTTが得意な選手に比べると、窪木選手のようなトラックのバックグラウンドのあるスピードマン系は、いったんクラック(リズムを崩すこと)してしまうと、かなり派手にクラックする印象がありました。

1周のタイムを唯一16分台でまとめた窪木一茂選手(チーム ブリヂストンサイクリング) Photo: Noriko SASAKI

 最初の貯金をうまく取り崩しながらペースを軟着陸させられるだろうか…と見守っていましたが、最後周回には猛ペースアップまでしっかり成功させて、私の心配は全くの杞憂でした。圧倒的でした。

黄金世代も流れを崩せず

 逆に佐野選手は途中チェーン落ちのトラブルにも見舞われ、厳しい展開に。さらにU23の黄金世代といわれた今年エリート1年目の岡篤志選手、小野寺玲選手は今一歩のタイムで「窪木選手vs近谷選手」の流れを覆すことはなりませんでした。

宇都宮ブリッツェンの岡篤志選手 Photo: Noriko SASAKI
宇都宮ブリッツェンの小野寺玲選手 Photo: Noriko SASAKI

 現チャンピオンが新チャンピオンの誕生を実況解説として迎えるというなかなか得難い経験をさせてもらい、窪木選手の眩しい全日本ジャージ姿をみて帰宅の途につきました。

 というわけで、まとめです。

①チーム ブリヂストンサイクリングを中心とするトラック出身選手の躍進

 もともとタイムトライアルはトラック系の選手との相性が良いといわれ、イギリス連邦圏を中心としてトラック中距離出身選手がロードでもタイムトライアルのスペシャリストとして活躍しています。窪木選手、近谷選手も以前からロングTTでも強いはずといわれ続けてきましたが、ついに今回その実力を示すことになりました。

 これは東京オリンピックに向けたトラック中距離の大幅な強化活動も関係していると思われ、特に近谷選手は春のヨーロッパでのロードレース転戦から帰ってきてトラックのオンシーズンに向けてしっかりと長距離のベースができていたとも聞きました。一方で2人とも機材の準備や空気抵抗の削減の仕方、ペースの最適化には多くの余地があるとみられ、まだまだ伸びしろがあるところもうかがわせます。

古巣の「チーム ブリヂストンサイクリング」のテントを訪れ、近谷らを激励 Photo: Shusaku MATSUO

 これまでTTに特化したスペシャリストのスタッフから最高レベルのアドバイスを受けることができたのは、ワールドツアーに所属する別府史之・新城幸也両選手に限られてきたといってもよく、トラック中距離チームパシュートの強化の一環でそのようなブラッシュアップをこれから受けていくであろう2人がこれからぐんぐんと力を伸ばしていくことは、日本のタイムトライアルの実力の底上げに大きく貢献すると考えられます

②週末の「全日本ロードレース」の予想
「ツアー・オブ・ジャパン」、「ツール・ド・熊野」の厳しいステージでも最後まで生き残り、全日本TTを制した窪木選手の好調は誰の目にも明らかですが、全日本ロードではマークがキツくなることが予想されます。今回厳しい結果になった他チームは、積極的に前半から攻める展開を選択するなど、窪木選手と個々の力でぶつからないように展開を組み立てようとするでしょう。直近では2011年に別府選手がTT、ロードの両方で力強い勝ち方を見せましたが、窪木選手を擁するBS勢がどのようにロードで立ち回るのかは注目したいところです。

【音声】西薗さんが振り返る「全日本個人TTロードレース選手権」

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