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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<256>ツール前哨戦に見る有力選手のコンディション マイヨジョーヌ候補が順調な仕上がり

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス開幕まで1カ月を切り、有力選手たちの勢いが増してきた。“ツール前哨戦”の意味合いが濃くなる6月のビッグレース。多くの選手が脚試しに臨み、ここまでの調整の成果を確認した。この時期のレースの中でも、特に権威と格式を持つクリテリウム・ドゥ・ドーフィネが6月10日に閉幕。同じく高い注目度を誇るツール・ド・スイスが現在進行中である。今回は、これらのレースからツールでの活躍が期待される選手たちに着目し、その仕上がり具合を確認してみる。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネの個人総合上位3選手。左から2位アダム・イェーツ、1位ゲラント・トーマス、3位ロマン・バルデ。ツール・ド・フランスに向けて順調な仕上がりだ =2018年6月10日 Photo: YSP

ツール本番へ多くの収穫を得たトーマス

 ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)が山岳で力強さを見せ、自身でも「キャリア最大の勝利」と自賛したクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。プロローグで思わぬ落車があったものの、タイムロスを最小限にとどめ、大会途中からはチームメートからマイヨジョーヌを託されて勝利への道筋を確かなものにした。

 結果的には、35kmチームタイムトライアル(TT)で争われた第3ステージの比重が高くなったこともあり、そこで得たタイム差がほぼ最終の個人総合成績に反映されている印象だ。例えば、チーム スカイはこの日、アダム・イェーツ(イギリス)擁するミッチェルトン・スコットに対し56秒差で勝利しているが、最終成績では個人総合優勝のトーマスと2位イェーツとの差は1分ちょうど、といった具合に。

山頂フィニッシュのドーフィネ第6ステージで強さを見せたゲラント・トーマス =2018年6月9日 Photo: YSP

 もちろん、チームTTだけですべてが決まったわけではないことは強調しておきたい。チーム スカイは当初からトーマスを総合エースとして臨むことを公言しており、大会中盤から実際にトーマスでの勝負にシフト。山頂フィニッシュの第5、第6ステージでは、優勝こそならなかったもののライバルに対し登坂力を違いを見せて先着している。戦い方としては、ライバルとのタイム差を守ることに徹してもマイヨジョーヌを着ることができていた可能性は高かったが、そこはトーマス自身のプライドが許さなかったのだろう。攻撃的な走りで力を誇示し、ツールで戦う相手にプレッシャーを与えることを自ら選択した。

 ここ数年はステージレースで総合エースを任されることの多かったトーマスだったが、どうしても「バッドデイ」を乗り越えられず、総合争いから遅れてしまうことが多かった。実際、今年3月のティレーノ~アドリアティコでもリーダージャージを着て出走した、山岳の第4ステージで後退。最終的に個人総合3位とまとめたものの、本人は悔しさを隠さなかった。しかし、このドーフィネでは落車やパンクといったトラブルこそあったものの、フィジカルコンディションに起因する苦戦はなく、高いレベルで安定した走りが光った。

ツール・ド・フランス本番での上位進出に向けて順調さを見せるゲラント・トーマス。チームメートのクリストファー・フルームとの共闘に意欲が高まる =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2018第6ステージ、2018年6月9日 Photo: YSP

 来るツールについては、先のジロ・デ・イタリアで劇的な個人総合優勝を挙げたクリストファー・フルーム(イギリス)との共闘が濃厚だ。これまでのグランツールにおける実績やその他バリューを考えると、トーマスは「第2エース」としての見方もなされているが、当の本人は共同戦線でツール制覇を目指すことにやる気満々。何より、チーム内でのエース待遇がいかなるものかによって、来シーズン以降の去就を判断する材料としたいというのがトーマスサイドの考え方。

 実際のところ、トーマスは今シーズンがチーム スカイとの契約最終年。ドーフィネでの快走や、ツールへの高い意欲は、こうした背景も関係しているようである。

“高地トレーニング組”が好調アピール

 サイクルロードレースシーンでも定着して久しい高地トレーニング。低酸素の環境でのトレーニングを通じて、走りそのものはもとより酸素運搬能力が高まり、持久力向上にも効果があるとされる。サイクルロードレースのような持久系スポーツで多く取り入れられ、ここ数シーズンはトップライダーが各所でトレーニングに励んだとの話題も聞かれることが増えてきた。

 選手によってはこうした取り組みが失敗になり、目標とするレースを前に調子を落とす事例もあるが、どうやら今シーズンに限っては高地トレーニングから順調にレースへと移行している選手が多い様子だ。

3月の落車負傷から復調したアダム・イェーツ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2018第1ステージ、2018年6月4日 Photo: YSP

 5月にスペイン・テネリフェ島でトレーニングを積んだトーマスもその1人。ドーフィネの総合上位組では、イェーツが3月のボルタ・ア・カタルーニャでの落車負傷の回復を待って、アメリカでトレーニングを本格再開。復帰戦の5月のツアー・オブ・カリフォルニアで個人総合4位とし、続くドーフィネでも好結果につなげた。

 ロマン・バルデ(フランス)率いるアージェードゥーゼール ラモンディアル勢は、5月にスペイン北部のシエラネバダ山脈で集中的にトレーニング。興味深いのは、登坂力向上やコンディショニングにとどまらず、低酸素での上りスプリントのトレーニングを多く行っている点。これはツールの頂上フィニッシュでの勝負をかけた争いを見据えたもので、苦しい状況下でもうひと踏ん張りするための訓練に位置付けられたよう。チームスタッフによれば、こうした条件下での瞬発的な動きは体調を整える効果もあるというが、その成果はツール本番でのバルデの走りから知ることができるだろう。

 何より、アージェードゥーゼール ラモンディアルは、ピエール・ラトゥール(フランス)が山岳最終アシストとしてだけでなく、第2エースとして計算できるところまで成長。これまでも総合力やタイムトライアル能力の高さを評価する声があったが、いよいよバルデに続く存在としてその名が轟きそうだ。ドーフィネでは個人総合7位、シエラネバダでも順調にトレーニングを消化していたとのこと。

スペインでの高地トレーニングを順調に消化したロマン・バルデ。チームメートのピエール・ラトゥールとのコンビネーションにも期待が膨らむ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2018第4ステージ、2018年6月7日 Photo: YSP

 一方、ドーフィネ個人総合24位と不安の残る結果となったのが、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)。大会期間中にアレルギーの症状が出たため、好成績にはつながらなかったが、そこは経験豊富なニバリ。ツールへはしっかり仕上げてくると筆者は予想する。ツール前にもう1戦、地元イタリアでアドリアティカ・イオニカ・レース(UCIヨーロッパツアー2.1)に出場することを明らかにしており、そこでの走りや、仕上がり具合をもう一度注視してみる必要がありそうだ。

ツール・ド・スイス前半戦はさながら“マイヨヴェール前哨戦”

 ツールのポイント賞、マイヨヴェール候補たちの競演となっているのが、ツール・ド・スイスの大会前半戦。結果はCyclist内で報じられている通りだが、チームタイムトライアルで争われた第1ステージを終えてからというもの、主役はスプリンターへと移っている。

有力スプリンターの競演となっているツール・ド・スイス。マイヨヴェール前哨戦として見どころが多い =ツール・ド・スイス2018第2ステージ、2018年6月10日 Photo: YSP

 急峻なスイスアルプスを舞台とするコース設定ゆえに、並のスプリンターでは乗り越えることが難しいアップダウンに富んだルートを走っているが、こうした状況で力を発揮するのが「上れるスプリンター」。フィニッシュ前での勝負強さのみならず、ある程度の登坂であればこなしてしまうような選手たちが、スイスでその勘を養っている。

 ツール本番では、フィニッシュの順位によって付与されるポイントに加えて、コース内1カ所に控える中間スプリントでの通過順位も重要になってくる。状況次第では、上級山岳ステージでもマイヨヴェールを争う選手たちが逃げに入り、中間スプリントでの上位通過を狙うシーンが見られることだろう。せっせとポイント稼ぎに努めていたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の一昨年までの走りは、マイヨヴェールの現行システムにもっともマッチしたものでもある。

 そんなマイヨヴェール予備軍が躍動するスイス。第2ステージはサガンが、第3ステージはソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)がそれぞれ勝利。ここに、今年ツール初出場が内定しているフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)、昨年のマイヨヴェールのマイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)が追随している。この記事をお読みいただく頃には、第4ステージの結果も出ていることだろう。

 彼らのツールに向けた仕上がりも見ものだが、加えてアシスト陣の働きぶりにも注目してほしい。エーススプリンターの特性を熟知し、厳しいコースにあってもしっかりと集団前方をキープする献身的かつ屈強な走り。各チームのエーススプリンターがアシスト陣を強く信頼する理由が、見ていて納得できるほどにその働きぶりは見事なものである。順位だけにとどまらない、この競技の奥深さを再認識できるレースでもあるのだ。

ツール・ド・スイス第3ステージ、ソンニ・コルブレッリの勝利を喜ぶチームメートのエンリーコ・ガスパロット。アシスト陣の働きぶりにも注目したい =2018年6月11日 Photo: YSP

今週の爆走ライダー−ペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 クラシックシーズンから始まった、アスタナ勢の躍進がいまだとどまらない。10日に閉幕したドーフィネでは、総合上位進出こそならなかったが、第6ステージでチームの新エースであるビルバオが山頂フィニッシュを制して勝利。総合上位陣が彼の動きを容認したことも幸いしたが、とにかく勝ちは勝ち。フィニッシュでは喜びを爆発させた。

ジロ・デ・イタリア2018第19ステージ、未舗装区間を攻めるペリョ・ビルバオ。好走が実り個人総合6位で大会を終えた =2018年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 というのも、前日のステージで遅れを喫してしまい、期待されていた総合上位進出の芽がなくなってしまっていたのだ。大会に臨むにあたり、総合エースである自覚を持っていたというが、常に思い通りに走ることができるわけではない。それからは、ステージ優勝狙いに切り替えた。

 走りのテーマは「9割の力で安定させること」。シーズン当初は山岳アシストとの見立てだったが、あれよあれよとエースに昇格。はじまりは、4月のツアー・オブ・アルプス第1ステージでの勝利。続くジロでも複数エースを敷くチーム信頼を勝ち取り、個人総合6位と自分でも驚く結果を残した。

 28歳になり、機が熟した印象だが、その道のりは決して平たんではなかった。2013年に地元バスクの誇りであったエウスカルテル・エウスカディが解散となり、行き場はUCIプロコンチネンタルチームしかなかった。カハルラル・セグロスRGAで3年間走ったが、環境には決して満足できなかったという。だから、いまのチームに入った2017年からは、どんな役割でも率先して引き受けると決めた。自身の性格を理解し、プレッシャーを排除してくれるチーム姿勢にも心から感謝しているという。

 ドーフィネが閉幕し、慌ただしかったシーズン前半のプログラムが終わった。このステージ優勝時に次の望みを問われ、思わず「ツールのメンバーに招集されないこと」と冗談を言って笑わせたが、休みたいというのが偽らざる思いなのだろう。バカンスはビーチで過ごす予定なのだとか。休暇後の目標はブエルタ・ア・エスパーニャ。心身が充実する今、ブエルタの上位進出だって夢ではない話になってきた。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージで優勝し喜ぶぺリョ・ビルバオ。シーズン前半戦を終え、今後はブエルタ・ア・エスパーニャにターゲットを定める =2018年6月9日 Photo: YSP
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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