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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<255>ツール前哨戦が本格スタート 注目レースや見どころ、有力選手動向を押さえる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ジロ・デ・イタリア、新感覚ロードレースのハンマーシリーズが第2戦まで終わり、サイクルロードレースの焦点はツール・ド・フランスへと向き始めるこの時期。ツール本番での戦いを占う、前哨戦がいよいよ本格化している。有力選手はもとより、出場のボーダーライン上にいる選手まで、いつにも増してレースは激しくなってくる。そこで今回は、見どころ満載の前哨戦の注目ポイントをピックアップ。有力選手の動向についても押さえていきたい。

ツール前哨戦「クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ」第1ステージを走るプロトン。すべてはツール本番へと続いている =2018年6月4日 Photo: YSP

ツール最短65km山岳ステージで「グリッドスタート」

 ツール前哨戦の話題の前に、1つトピックをお届けしたい。

 今年のツールは第3週でピレネー山脈をめぐるが、そのうちの1つ、第17ステージはサン=ラリ=スランの頂上を目指す、65kmの超ショートステージ。この短距離の間にサン=ラリ=スランを含め3つの上級山岳を走ることになっており、マイヨジョーヌ争いを大きく左右すると予想されている。

ツール・ド・フランス2018第17ステージ コースレイアウト ©︎A.S.O.

 そんな大会最短ステージだが、このほどグリッドスタートが導入される方向で調整が進んでいることが主催者A.S.O.によって明らかにされた。

 モータースポーツではおなじみのグリッドスタートだが、自転車競技においては一部、クリテリウムなどで導入されている。基本は予選での成績順に前方から並んでいく方式で、1位の選手は最前列、予選の順位が低いほど後方のスタートポジションをなる。

 ツール第17ステージでは、前日までの個人総合成績に基づいてスタート位置が決定。マイヨジョーヌが最前列「ポールポジション」となり、トップ20の選手までが前方からレースを開始する権利を得られる。それ以下の選手たちは、スタートラインから70m以内に設けられる4つのグループへ総合成績ごとに配置される見通しだ。

 A.S.O.のテクニカルディレクターを務めるティエリー・グヴェノー氏は、「あくまでもこのステージに限定したもの」と強調しつつも、「緊張感のあるステージとなることを期待している」とグリッドスタート導入の意義を述べる。

ツール2017では100km山岳ステージが設けられ、激しいレースとなった =ツール・ド・フランス2017第13ステージ、2017年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ツール全体で3週間と長き戦いゆえ、出場選手たちがこのステージだけにフォーカスすることはさすがに考えにくいが、グリッドスタートが及ぼす効果や可能性は観る者としても興味深い。スタート前方に並んだ総合上位陣がノーガードの攻撃戦を展開するのか、はたまた後方に並んだ有力チームのアシスト陣がポジションを上げて総合エースのフォローに入るのか、あるいは思いがけない動きが発生するのか…。

 選手や有識者のなかには「2018年大会のクイーンステージにもなり得る」との声が上がる、第17ステージ。新たに取り入れられるスタート方式から、歴史的な1日が始まることになる。

“プレ・ツール”ドーフィネとスイスに有力選手結集

 ツールをターゲットとする選手たちにとって、その走りの指標となるレースが6月にはいくつか存在する。なかでもUCIワールドツアーとして行われるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネとツール・ド・スイスは、レースとしての歴史と格式の高さで群を抜く。すべての道はツールへとつながっており、どちらをチョイスしたかが本番での成績に反映される可能性さえあるほど、この2レースが持つ意味合いは大きい。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第1ステージをマイヨジョーヌで走るミカル・クウィアトコウスキー Photo: YSP

 すでに開幕し、本稿をお読みいただく時点で第2ステージまで終えているドーフィネ。今年のツールでは、平坦や山岳はもちろん、個人・チームそれぞれの個人タイムトライアルも設けられる。ドーフィネでは、それら多くの要素が全8ステージの中に取り入れられており、さながら「ミニ・ツール」の色合いが濃い。強いて違いを挙げるなら、パヴェステージがドーフィネには設けられていないくらいか。

 今年のドーフィネは、第3ステージ以降に大きな動きが起こりそうだ。その第3ステージは35km平坦路でのチームタイムトライアル。チーム力が試されたのち、第4ステージからは4日連続で山岳頂上フィニッシュ。なかでも、超級山岳ヴァルモレルを目指す第5ステージ、5つのカテゴリー山岳を走る最終の第7ステージは注目。ドーフィネといえば、これまで最終日に波乱が多々起きており、マイヨジョーヌ争いがシャッフルすることもしばしば。

 そうした意味合いからも、ドーフィネをどのように戦ってツールにつなげていくか、というところを重要視している選手が多いようにうかがえる。先々を見据えてドーフィネでパワー全開とはいかないまでも、ある程度の手ごたえや成功を収めたうえでツールに駒を進めたいと思うことは、自然なことといえる。

クリテリウム・デュ・ドーフィネのプロローグを走る新城幸也 Photo: YSP

 ツールでの活躍が期待される選手としては、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリア)、アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、ダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチーム・エミレーツ)、ゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)、イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)らが参戦中。新城幸也(バーレーン・メリダ)もツアー・オブ・ジャパンでの落車負傷を乗り越え、元気な姿を見せている。

ペテル・サガンはツール・ド・スイスに参戦する =ツアー・オブ・カリフォルニア2018第1ステージ、2018年5月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 一方のツール・ド・スイスは、6月9日に開幕し全9ステージで争われる。スイスアルプスの山がちな地形をめぐるとあって、その難易度はドーフィネをもしのぐといわれる。今年は特に上りの難易度が高く、スプリンターなど平地系のスピードマンの多くがこの大会を避けている。

 となると、注目されるのは総合系の選手たち。ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)、バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)、ステファン・クライスヴァイク(オランダ、ロットNL・ユンボ)らが参戦を表明している。

 かたや、数少ないスプリント機会にチャンスを求める選手としては、ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・スーダル)、フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)、アルノー・デマール(フランス、グルパマ・エフデジ)といったところ。いずれも短い上りならクリアできるだけの登坂力があり、あらゆるコースレイアウトに対応できる点で見ても、ツールのポイント賞「マイヨヴェール」争いの前哨戦として押さえておいてもよさそうだ。

トップチームや選手を集め人気レースへ ツール・ド・スロベニア

 この時期に開催されるレースとして、ここ数年名を挙げているのがツール・ド・スロベニア(UCIヨーロッパツアー2.1)。2009年にはフルサングが、2010年にはニバリが個人総合優勝を飾っているが、以来トップチームや選手を招待し、人気レースになっている。

 それにともない、ツール前哨戦の1つとして数えられつつある。昨年はラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)が制したが、今年はスプリンターを中心に有力選手が集まりそうなムードだ。

新たなツール前哨戦となりつつあるツール・ド・スロベニアにマーク・カヴェンディッシュが出場する =ドバイ・ツアー2018第3ステージ、2018年2月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 すでに出場を表明しているのが、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、マルセル・キッテル(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)、カレブ・ユアン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)。ドーフィネやスイスの厳しいコースを避けたピュアスプリンターが、信頼するアシストを引き連れてスロベニアに集まりそうだ。

 決して簡単なレースではないが、ドーフィネやスイスほどシリアスにならず、自身のコンディションと向き合いながら走ることができるメリットをこの大会へ見出している印象だ。

ツール・ド・スロベニアの総合優勝候補に挙げられるプリモシュ・ログリッチェ =ツール・ド・ロマンディ2018第3ステージ、2018年4月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今回は大会前半にスプリント向きのステージが用意されており、開幕からしばらくの間、主役の座はスプリンターが争うことになりそう。なお、第3ステージ以降は山岳と個人タイムトライアルステージが設けられており、総合2連覇を目指すマイカや、地元期待のプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ロットNL・ユンボ)らがしのぎを削る。

 いずれのレースにも言えるのは、ツールで期待される選手たちの現状のコンディションや調整が進んでいるかをうかがえること。4月下旬にクラシックレースが終わり、その後ツールに向けて高地トレーニングに励んだ選手が多く、その仕上がり具合を見るにはドーフィネやスイス、スロベニアといったレースが最適となってきている。

 近年の傾向から、6月時点で調整が進んでいないと、ツール本番にトップコンディションにもっていくのは厳しいのが実情。前哨戦での勝利とまではいかずとも、ある程度戦える状態にしておくことがトップライダーには求められているのだ。

今週の爆走ライダー−ブリース・フェイユ(フランス、フォルトゥネオ・サムシック)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 クリテリウム・デュ・ドーフィネ第1ステージ。序盤に設けられた3つのカテゴリー山岳を狙い通りいずれも1位通過。スポンサー変更にともない、今年から新たに生まれ変わった青地に白の水玉模様があしらわれた山岳賞「ポルカドットジャージ」最初の着用者となった。

 これによって、今大会の目標が定まった。狙うは山岳賞獲得。大会後半は険しい山岳が待ち受けるが、得意の山岳逃げでチャンスをつかもうと意気込む。

ツール・ド・フランス2009第7ステージを制し、鮮烈なプロデビューを飾ったときのブリース・フェイユ =2009年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 思い返せばデビューは鮮烈だった。ツール2009第7ステージ。アンドラの山をめぐった1日で、会心のアタック。無名のプロ1年目から、一躍トップチームが一目置くクライマーとなった瞬間だった。以来、実際にトップチームに籍を置いたこともあったが、やはり自分に合っているのは、自国の小規模なチームでツールを目指すこと。山岳逃げが得意と書いたものの、総合力も侮るなかれ。過去2度、ツールで個人総合16位で終えており、さらなる上位進出も狙えるだけの走力を持つ。

 ただ、今年のツールは絶対エースのワレン・バルギル(フランス)の山岳アシストを務めることが濃厚。自らの成績は二の次となりそうだ。だからこそ、せめてものアピール…いや、自身の好調さとチームの存在を示す術として、ドーフィネでは山岳賞を目指すのだ。

 いまやツール常連となったチームだが、そろそろひと波乱起こしたいところ。ドーフィネの山岳賞獲得がその足掛かりとなるかもしれない。そして、いまあるすべてがツールへとつながっていることも、32歳となったフェイユにはすべて分かっているのである。

クリテリウム・デュ・ドーフィネ第1ステージで逃げを決めて山岳賞を獲得したブリース・フェイユ。ジャージのキープが今大会の目標となる ©︎ASO
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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