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猪野学の“坂バカ”奮闘記<24>「老い」ニモマケズ「VO2MAX」ニモマケズ… 表彰台を夢見る40代男の青春

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 数字は現実だ…時にそれは人を地獄へと叩き落とし、時に歓喜へと導く。我々サイクリストはサイコンが示すパワーや心拍数といった数字に翻弄され縛られる生き物だ。中でも自分の今の実力の指標となるのが、「FTP」(1時間の最大平均出力)や「VO2MAX」(最大酸素摂取量)。「FTP」は手軽にローラーでも計測できる。しかしVO2MAXとなるとそうはいかない。VO2MAXとは吸い込んだ酸素をどれだけ体内に取り込めるかを示す数値。この値が高いと持久力がありヒルクライムが速いという証になる!坂バカにとってはどうしても知りたい数値なのだ。

表彰台を夢みて、今日もコツコツ奮闘中(VO2MAX測定中)

夢と現実と無酸素が渦巻く場所

 坂バカの願いを叶えてくれる番組!それは『チャリダー!』。自転車界の虎ノ穴、競輪学校への潜入取材の許可がおりたのだ。競輪学校にはVO2MAXやペダリング効率を計測できる装置がある。「坂バカとして自分の能力を知ることができる!」私は意気揚々と競輪学校がある伊豆・修善寺へと赴いた。

伊豆・修善寺にある日本競輪学校にやってきた

 選ばれた者しか入れない禁断の地に足を踏み入れる。当日は雨のせいか静かで閑散としていた。しかしある小屋に近付くと中から「ハァハァ」という声が聞こえて来る。恐る恐るのぞいてみると、20人くらいの女子が3本ローラーでいっせいにもがいているではないか!何という光景だ!

 小屋の中には夢と現実と無酸素状態が混沌としている。まさに彼女たちは今、夢の途中なのだ。青春…甘酸っぱい響き、私にもかつてそんな時代があった。ノスタルジックに浸っている場合ではない、目的はVO2MAXだ。

 校内をさらに進むと、何やら実験室の様な場所が現れた。ここが泣く子も黙る「運動機能総合測定室」だ。そこには白衣を着た博士のような方の姿があった。生徒たちを日々鍛え上げている田畑昭秀先生だ。穏やかで物静かな方だが、この測定室で涙する生徒も少なくないという。

「測定王」こと田畑昭秀先生(写真右)&おなじみ筧五郎さん(同左)と

測定中に菜の花畑にトリップ

 この時、私のデータと比較するために「VO2MAXが高い」とされる人に来て頂いた。泣く子も黙る第1回富士ヒルチャンプ、筧五郎氏だ。思えばこの時が初共演だった。

競輪学校を走り尽くす筆者と五郎さん

 まずは2人の身体測定からスタート。なんと背筋や握力や肺活量では私の方が上回っていた。これはどういうことだ? そしていよいよ自転車での計測。まずはペダリング効率から計る。

 1回目は63.5%。ここで田端先生から助言を頂いた。

 「猪野さんは踏みつけが強いので、下視点に来た時に靴の底のガムを剥がすイメージで漕ぐとペダリングがスムーズになる」とのこと。試しにやってみると2回目は67.8%と向上した。少しの意識で大きく変化するのも自転車競技の醍醐味だ。

 そしていよいよVO2MAXの計測。とにかく苦しいと聞いていたので覚悟を決める。10分間、徐々にスピードを上げていき、計測する。36〜38〜40〜42〜44km/hと2分ごとに上げていく。口には戦闘機のパイロットのようなマスクを装着!(これがまた苦しい)

40台男の肉体が丸裸にされる恐怖の装置

 そしていざ計測スタート!最初は穏やかに始まった…しかし38km/hを越えたあたりから徐々に苦しくなる。40km/hを過ぎると呼吸は乱れ始め、42km/hになるとフォームやペダリングは乱れに乱れ、どんちゃん騒ぎだ! とにかく猛烈に苦しい。

 そして最後の2分!44km/hに入った途端に酸素が足りなくなり、意識が遠退いていく…。ふと気付くと私はきれいな菜の花畑に居た……。

 「おかしい。私は今、VO2MAXを計測しているはずだ…。遠くで鐘の音が鳴っていて誰か叫んでいる、『ラスト1分!』と…。え?ラスト1分??」

 …と同時に私の意識は測定室に舞い戻った。危ない!“彼方の世界”に逝くところだった! 最後の1分は少し落として計測終了。結果はなんと58.7ml!これは競輪学校の生徒さんとほぼ同じ数値らしい。40代の男性平均値が35mlだから満足の行く結果だ。

さすがの数値を叩きだした五郎さん

 そしてお次は五郎さんの計測がスタート! 私と違い、淡々と余裕そうだ。しかし最後の2分はさすがに苦しそう! しかしフォームもペダリングもきれいなのはさすがだ。私はトップ選手の“きれいなまま追い込む”姿を目の当たりにし、感動した。結果は何とか69.0ml!プロレベルの数値だった。

夢を諦めなければ青春は続く

 私のVO2MAXはまだ上がるものなのか、先生に聞いてみた。すると先生は遠くを見るような眼差しで「上がります…しかし時間はかかると思います」とおっしゃってくれた。何とも的確な表現だ。

VO2MAX測定直後の筆者

 あまり時間をかけ過ぎても「老い」という奴がやって来る。しかしどんなに老いても表彰台を目指し、夢を追い掛けたいものだ。

 いくつになっても夢を諦めなければ、それは青春と云えるのかも知れない…。そう、私は今夢の途中…青春真っ只中なのだ。

(写真提供:NHK/テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00〜18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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