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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<254>ジロ・デ・イタリアは第2週へ マリアローザ争いのテーマは「攻撃の継続性」

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 第101回目のジロ・デ・イタリアは第9ステージまでが終了し、イスラエルでの開幕3ステージも含めて、実質第1週の戦いを終えたことになる。この9日間で、早くもマリアローザ争いの形勢がはっきりし、総合上位陣の思惑も見えてきた。そこから導き出された第2週目のテーマは、「攻撃の継続性」。マリアローザを着ながらもこの先への緊張感を抱くサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)と、“最大の武器”である個人タイムトライアルを視野にトータルでの走りを考えるトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)。そして安定した戦いを続けるティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)ら…。決して守りに入らない彼らの走りは、この大会の象徴となりそうだ。

熱戦続くジロ・デ・イタリア。第9ステージまでを終えてサイモン・イェーツがマリアローザを堅守している Photo: Yuzuru SUNADA

ダブルエースの共闘で大会随一の戦力に

 ミッチェルトン・スコットの勢いが目覚ましい。開幕以降個人総合で上位につけ、第6ステージでマリアローザを獲得したイェーツはもちろんだが、そのステージで逃げ勝ったエステバン・チャベス(コロンビア)も、第1週を終えてみれば個人総合2位に浮上。現時点で、ダブルエースが個人総合ワン・ツーを固めている。近年の活躍から彼らの実力は多くの人が知るところだが、今大会におけるこの出足は誰が予想できただろうか。

エステバン・チャベス(左)とサイモン・イェーツがワン・ツーフィニッシュを飾ったジロ・デ・イタリア2018第6ステージ。これでミッチェルトン・スコットは完全に波に乗った Photo: Yuzuru SUNADA

 かつてのスプリンターチームから、いまやすっかりグランツールの総合を狙うスタンスへと変化したチームは、チャベスに続き、サイモンとアダムのイェーツ兄弟をリーダーに擁立。その彼らがエースとしての立場に満足し、チームオーダー次第でダブルエース体制を組むこともいとわない姿勢が、好結果へと結びついている点は見逃せない。

 ダブルエース体制はともすると、どちらに勝負の優先権があるかなどで軋轢を生んだり、戦術があいまいになり共倒れに終わったりと、失敗に終わるケースが多い。だが、そんな心配はミッチェルトン・スコットには無用。とにかく勝負できる方でいく。おそらく、レース中にイェーツとチャベスは相当なコミュニケーションを図りながら、互いのコンディションを把握し、展開に応じた走りに終始していると推察できる。

ジロ・デ・イタリア2018第9ステージ。上りスプリントで圧倒したのはサイモン・イェーツだった Photo: Yuzuru SUNADA

 強いて優先権がどちらにあるのかを挙げるならば、現状ではやはりイェーツだろう。第6ステージで見せた、メイン集団から単独で逃げていたチャベスまでの圧巻のブリッジや、上りスプリント状態での勝負となった第9ステージで見せたパンチ力は、いまのところ総合上位陣の中では群を抜いている。勝負どころの見極めという点でも冴えわたっている。チャベスもイェーツと同等の立場で勝負を託されていると見られるが、マリアローザにフォーカスして考えるならば、いまはBプランのピースといったところ。

ミッチェルトン・スコットの山岳最終アシストであるジャック・ヘイグ。進境著しい24歳が機能している点はチームとって大きい Photo: Bici Sport / Yuzuru SUNADA

 そして何より、アシスト陣の役割が明確になっていることもチームに勢いを与えている要因だ。山岳においては、ミケル・ニエベ(スペイン)とロマン・クロイツィゲル(チェコ)の両ベテランがレースを組み立てる。そして、山岳最終アシストに抜擢された24歳のジャック・ヘイグ(オーストラリア)が、ライバルを消耗させる決定的な働きを見せていることも大きい。その走りは、第1週の殊勲者に挙げられるほどの内容。平地では、サム・ビューリー(ニュージーランド)、クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)、スヴェイン・タフト(カナダ)と、計算できる選手がそろっており、隙は見られない。

 とはいえ、今大会の最終目的地であるローマまでの道のりは長い。イェーツは第3週の初日である第16ステージ(5月22日)までに、「分単位のリードが欲しい」と述べる。リードしたい相手は、王者デュムラン。下りと平坦とで構成される34.2kmの個人タイムトライアルは、クライマーのイェーツには分が悪い。第1ステージ(9.7km)でTT走力の向上が見られたとはいえ、この種目世界王者のデュムランを上回る走りは現実的に考えて難しい。ちなみに、39.8kmで争われた昨年の第10ステージでデュムランは、総合争いのライバルに2分以上のタイム差をつける圧勝劇を演じている。

 その意味では、最低でも2分から3分のリードは欲しいところ。それを得るのは、第2週での攻撃あるのみ、となる。ポイントは上級山岳の第14ステージと第15ステージ(ステージ詳細は後述)。ここでどれだけライバルに差をつけられるかが焦点となる。

 チームを率いるマット・ホワイト氏は、第1週の戦いを終えて「いよいよ夢へのスタートを切る時が来た」とチーム状況について表現した。それはいわば、マリアローザに対して“その気”になったことを意味する。残り2週間は、定まったターゲットだけにこだわって走り続けることになる。

安定感は随一のピノ 区間優勝と総合表彰台へ視界良好

 ビッグリザルトこそ得られていないものの、重要ステージではきっちり上位を押さえているのがピノ。一部の有力選手が総合争いから後退していく中で、総合タイム差45秒で4位につけるあたりに、ここまでの安定感がうかがえる。

ステージ優勝と総合表彰台を目標に掲げるティボー・ピノ。第9ステージまでを終えて視界は良好だ Photo: Yuzuru SUNADA

 大きな目標として掲げるのは、ローマでの総合表彰台。また、開幕前からステージ優勝を目指して走ることも公言しており、第1週から積極的に勝利を狙って走った印象だ。2位となった第9ステージはイェーツが立ちはだかり、当座の目標達成には至らなかったが、本人は「この先もチャンスは十分にある」と楽観視。ステージ優勝はもとより、トップ3でフィニッシュできればボーナスタイムが獲得できることもあり、いまのスタンスが最終的に総合表彰台へとリンクしていく可能性は大いにある。

 山岳が厳しくなればなるほど勝負強さが光る選手だけに、第2週から本格化する急峻な山々での走りにも期待が膨らむ。こちらも、第14ステージと第15ステージがヤマ場となりそうだ。ここでクオリティの高い走りができれば、総合表彰台はもちろん、マリアローザも視界に入ってくることだってあり得る。

「可もなく不可もなく」のデュムラン

 デュムランの絶対的な強さであるタイムトライアルは、マリアローザを争う選手たちにとっては脅威だ。第16ステージは34.2kmに設定されているが、この距離で実力通りに走ればライバルに2分から3分のタイム差は計算できる。

第2週以降の走りに注目が集まるトム・デュムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 イェーツらが第2週もタイム差拡大を狙って攻撃を仕掛けると見られるが、デュムランはその逆で、遅れないことが第一の条件となる。この週を終えた段階でのトップとの総合タイム差は、今大会の覇者を占ううえでの大きな指標となるに違いない。

 第1週は「可もなく不可もなく」といった感覚だったというデュムラン。まだ絶好調とはいえないようだが、「徐々に調子は上がっていくだろう」と悲観する様子はない。イェーツに12秒差をつけられた第9ステージの走りを「よくなかった」と自己分析したが、大きな取りこぼしとはならず、上手くまとめたと言ってもよいだろう。

 強烈なアタックでライバルを引き離すというよりは、TT同様一定ペースで上りきるスタイル。攻撃を繰り返すライバルを視界にとらえながら、淡々と追い上げるその走りは、他選手にとってはプレッシャーであり、焦りを呼ぶ。“予定通り”に第2週以降に調子を上げてくるようであれば、総合2連覇の可能性はグッと高まる。

 第9ステージまでを終えてのイェーツとの総合タイム差は38秒。数字のうえでは、まだデュムランが最終的なマリアローザに近い位置を走っているといえるだろう。

第9ステージレース後インタビューに応じるトム・デュムラン。どこか余裕を感じさせる表情 Photo: Yuzuru SUNADA

わずかな可能性に賭けるフルームと現実を受け入れるアル

 戦前は総合優勝候補として名が挙がっていたクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)とファビオ・アル(イタリア、UAEチーム・エミレーツ)が苦しんでいる。

第9ステージまでを終えて個人総合11位と苦戦をしているクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

 ともに第9ステージが「バッド・デイ」になってしまった。総合上位陣の争いで生き残ることができず、それぞれステージ23位と24位。優勝したイェーツとのタイム差は1分7秒と1分14秒。この日を終えての個人総合は、フルームがイェーツから2分27秒差の11位、アルは2分36秒差の15位と沈んでいる。

 フルームは第1ステージ前の試走を含めて、今大会で複数回落車に見舞われている。本人はそのダメージがあることを認めているが、スカイのスポーツディレクター、ニコラ・ポルタル氏は「それは言い訳にはならない」との見解を示し、「単純に勝負できるだけの脚がなかった」と続ける。それでも、ともに「まだ2週間残っている」と述べ、上位進出へのチャレンジを継続する姿勢だ。

大会後半の浮上を誓うファビオ・アル Photo: Yuzuru SUNADA

 アルも第6ステージ以降は総合10位付近で踏みとどまっていたが、第9ステージで崩れてしまった。不調の原因については触れていないが、「第3週に向かって調子を上げていきたい」と前向きなコメントを残す。総合順位を一気にジャンプアップさせることは容易ではないが、ここからどこまで浮上していけるか。百戦錬磨のグランツールレーサーとしての意地を見せたいところである。

ジロ・デ・イタリア 第10~15ステージ展望

●5月15日(火) 第10ステージ ペンネ~グアルド・タディーノ 239km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第10ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 今大会の最長ステージ。スタートから20km過ぎまで上りが続く。最大勾配は12%。その後はさして難しい区間はないが、フィニッシュに向かって残り2kmからテクニカルなコーナーが連続する。もし大きな集団で勝負することとなれば、ポジション争いが激しくなりそうだ。

●5月16日(水) 第11ステージ アッシジ~オージモ 156km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第11ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 2カ所の3級山岳を通過後に迎えるフィロットラーノへと向かう上りは、登坂距離1.8kmで最大勾配16%。それでありながら山岳ポイントが付かないというイレギュラー設定。フィニッシュ地オージモへは、残り5kmで16%の石畳の上りが控えるほか、残り約1.5km地点も16%区間。テクニカルなコーナーも連続するとあり、中級山岳ステージながらも総合争いにも関係しそうな1日だ。

●5月17日(木) 第12ステージ オージモ~イモラ 214km 難易度★★

ジロ・デ・イタリア2018第12ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 しばしアドリア海沿いを進行し、モータースポーツで有名なイモラサーキットを目指す。残り約15kmでいったんフィニッシュラインを通過後、最大勾配10%の4級山岳をクリア。最後の7.6kmはフィニッシュへと一気に駆け下っていく。久々にスプリンターの出番となりそうだ。

●5月18日(金) 第13ステージ フェラーラ~ネルヴェーザ・デッラ・バッターリア 180km 難易度★★

ジロ・デ・イタリア2018第13ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 前日に続き、スプリンターのための1日。残り30.8kmで一度フィニッシュラインを通過し、再び戻ってくるときにはステージ優勝をかけたスプリントとなっているはずだ。途中で4級山岳が控えるが、勝負にはそう大きく影響しないものとみられる。スプリンターにとっては、実質第2週で勝負できるステージが終わることになる。

●5月19日(土) 第14ステージ サン・ヴィート・アル・タリアメント~モンテ・ゾンコラン 186km 難易度★★★★★

ジロ・デ・イタリア2018第14ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 ついに名峰ゾンコランを目指す日がやってくる。登坂距離10.1km、平均勾配11.9%、最大勾配は残り約7kmで迎える22%。ほかにも20%の区間があるほか、フィニッシュ前500mは勾配16%と、総合争いに大きな影響を与えることは確実。ここでの遅れは致命的となる可能性が高い。また、ゾンコランまでに4つのカテゴリー山岳を通過することもあり、こうしたレースレイアウトを生かした奇襲作戦に出るチームが現れても不思議ではない。

●5月20日(日) 第15ステージ トルメッツォ~サッパーダ 176km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2018第15ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 ジロではおなじみのドロミテ山脈をめぐるステージがここに設けられた。4つのカテゴリー山岳は2級と3級だが、いずれも最大勾配が12~15%と、決してやさしい上りではない。フィニッシュに向かっては、残り4kmを切ったところで10%区間が登場。総合争いにおいては取りこぼしが許されないステージ。この日にタイム差をつけられるようだと、今後のステージも苦しい状況となる。そして、翌日は3回目の休息日となる。

今週の爆走ライダー−ベン・オコーナー(オーストラリア、ディメンションデータ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 総合上位候補と目されたルイス・メインチェス(南アフリカ)が不調のディメンションデータ。ここへきてチーム状況は変わってきている。

将来有望なクライマーのベン・オコーナー。活躍で注目を集めたツアー・オブ・アルプスでのひとこま Photo: Yuzuru SUNADA

 メインチェスに代わり、22歳のオコーナーが総合エースを託されることになった。プロ2年目、グランツールデビューがこのジロである。

 ただの若手と思うなかれ。山岳が厳しいことで知られるツアー・オブ・オーストリアでは昨年第5ステージで優勝。今年はジロ前哨戦のツアー・オブ・アルプスの第3ステージを制覇。特にツアー・オブ・アルプスでは、ピノやフルームが調整段階だったとはいえ、ここぞというタイミングで彼らを振り切って独走。この勝利で波に乗り、最終的に個人総合7位。ジロで活躍していても不思議ではないレベルにあるといえるようだ。

 ジロ第9ステージまでを終えて個人総合14位。とはいえ、上位はまだまだ僅差。ちょっとしたきっかけで順位をジャンプアップさせることもできるタイム差だ。プロ入り以来見せてきた“意外性”が、思いがけないビッグな結果をもたらすかもしれない。

 本人はこれをただの経験で済ませるつもりは毛頭ないようだ。チームリーダーを引き受けることになり、その責任とアシスト陣の働きぶりに応えるのに必死の毎日。さらには、これからの2週間は総合系ライダーとしての資質が試される期間。このジロの結果次第で、未来への扉が大きく開かれることになる。

 マリアローザ争いが熾烈となっているが、他方では選手としてのキャリアをかけたストーリーが展開されていることも、われわれは忘れてはならないのである。ベン・オコーナーの名前を覚えておいて、きっと損はないはずだ。

ディメンションデータの総合エースを任されるベン・オコーナー。グランツール初出場ながら総合トップ10が見えるポジションで戦いを続けている Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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