4月に日本初開催、アーバンスポーツの祭典世界レベルのBMXライダーが競演「FISE広島大会」 女性フォトグラファーが振り返る熱狂の4日間
5月9日から13日まで、フランス・モンペリエにてアーバンスポーツの世界大会「FISE World Series2018 Montpellier」(UCI BMXフリースタイルワールドカップ 第2戦)が開催された。5月11日に行われたBMXフリースタイルパークの女子の決勝では、大池水杜(おおいけ・みなと)が、日本人では史上初となる、世界大会での「優勝」を勝ち取った。また、男子でも16歳の中村輪夢(なかむら・りむ)が強豪ひしめく世界のトッププロたちの中で決勝に残る大健闘をし、これからのシリーズにも期待がかかる。日本ではまだ馴染みのないこの「FISE」(フィセ)という大会は、今年4月に広島で世界大会が開催された。一気に注目を浴びることになったこの大会を女性フォトグラファーとして追いかけた我満直紀さんがBMXライディングの写真と共に熱狂の4日間を振り返る。
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原爆ドームを望める特設会場
FISEは、フランス語「Festival International des Extremes」(エクストリーム・スポーツ国際フェスティバル)の略語。20年以上前にフランスで生まれ、数年前からUCI BMXフリースタイルワールドカップとして世界各地でのシリーズ戦となり、今年4月に日本に初上陸した。日本での初開催地に選ばれたのは広島・旧市民球場跡地。原爆ドームを望める特設会場に世界中のプロライダーが集まり、その姿を目に焼き付けようと4日間で8万6千人が来場した。
4月5日、朝一番の飛行機で羽田から広島へ。思いがけず同じ飛行機にFISE本国スタッフが乗り合わせ、FISEの日本上陸を実感し感慨にふけりながらのフライトだった。筆者が「FISE」の存在を知ったのは6年前。スノースクートというウインタースポーツの世界選出場のためフランスに滞在中、友人に連れられて準備中の会場を見学させてもらった。スノースクートはフランス生まれのSnowBMXとも呼ばれるもので、BMXライダーとの関わりも深い。


FISEの会場では、大きなホールを貸し切って何十人ものスタッフが木材や土を使いセクション(競技用のジャンプ台など)作っている。あちこちに無造作に放置されているBMXやスケートボードを見ただけで、プレイヤーが主体となって創り上げている素晴らしい大会だということがわかる。日本ではほとんど見られない光景に目を奪われ、そこで長い時間を過ごした。
その時はまだフランス国内だけで開催されていたこの大会が、年々成長を遂げ、ワールドシリーズになり、日本に上陸することになるとは…。10年以上BMXライディングに魅了され続けている筆者にとって、言葉に表しきれない嬉しさが込み上げた。
広島空港から会場までのバスでは、モニターに大会のCMが映る。フランス本国のプロモーションチームによるものだろうか、原爆ドームや宮島などの美しい映像と共にアーバンスポーツの世界観がアーティスティックに表現されていた。車窓から見える街の中にも、路面電車の全面ラッピング広告などそこかしこに大会のプロモーションがちりばめられている。街をあげての盛り上がりは、X GAMESなど海外の著名な大会にも負けておらず、これから始まる最高の数日間を予感させるものだった。

会場に到着した時には既に女子のプラクティスが始まっていたが、撮影パスが無いことにはどうにもならない。筆者はフリーのフォトグラファーということでパスの取得は難しかったが、世界的に有名なスノースクートブランドのメーカーでもある日本のBMX輸入代理店の推薦を通し、特別に手配してもらっていた。受付の場所がわからず、あちこちたらい回しにされながらも、メディアパスを受け取ることができ、広い会場を猛ダッシュで横切ってBMXパークへ向かった。




「Good Morning〜!!」とパークに入ると、世界の女性ライダー達が笑顔とハグで迎えてくれた。女性BMXライダーは男性に比べて数が少なく、その世界を盛り上げようと海外の女性ライダー達の結束は堅い。筆者も同じ「女性」フォトグラファーとして、ありがたいことに皆に仲良くしてもらっており、大切な友人との数ヶ月ぶりの再会を喜び合いながら、シャッターを切る。
遠くに見える原爆ドーム、各国から集まったライダー達。平和という言葉だけでは表現しきれないくらいの素晴らしい空間がそこにはあり、この場所が初開催場所に選ばれたことを嬉しく思った。
女子のプラクティスの後は、男子オープンのプラクティスと、ライディングは続いていく。男子オープンは、100人近くのライダーが参戦したため長丁場となり、朝から夕方までひたすらにシャッターを切りながら、時には馴染みのライダーや海外メディアのフォトグラファーとふざけあったりと、皆に日本で会えることの幸せを噛み締めた。


地元フランスでは、さらにお祭り要素
広島大会では、BMXパークの他、BMXフラットランド、スケートボード、インラインスケート、ボルダリング、パルクール、ブレイクダンスの全7種目が開催された。旧市民球場跡地のあちこちにちりばめられた各種目の特設会場、スポンサー企業のブース。まだプラクティスなのにも関わらす多くの観客がそれぞれの会場を囲んでいる。日本ではまだマイナーなスポーツと言われるこれらの種目。アーバンスポーツという言葉を聞くようになってまだ間もないが、その可能性を感じずにはいられない。
ちなみに、本拠地のモンペリエ大会ではウェイクボードやMTB、スクーターなどの種目や、日が落ちてから、まるでパーティーのように行われる「BMXスパインコンテスト」など、他の国に比べてお祭り要素も多いようだ。アーバンスポーツの魅力を存分に詰め込んだ、まさに「祭典」のモンペリエ。いつかその空気感を味わいたい。
危険と隣り合わせの撮影
翌6日は朝から雨が降りしきり、夕方遅くにいくつかの種目のプラクティスが行われただけで予定が大きく変更されたが、7日、寒空の下ではあったが無事に予選が開催された。取得していたメディアパスは会場前のメディア席から撮影できるものであったが、BMXの魅力が詰まった写真を撮るにはコース内での撮影がベターだ。ライダーの邪魔をしないように撮影をするには経験が必要で、危険も伴うためそこにはFISEオフィシャルと限られたBMXトップメディアしかアクセスできないが、アメリカ人女性BMXライダーらの助けで、特別にアクセスを許可してもらった。日本は現在BMXメディアが存在しないため、筆者は毎回このような流れでパスを取得しており、ライダー達には感謝の気持ちしかない。
一日中続いた予選では、各国のライダー達が渾身のライディングを見せる。日本人ライダーは女子の大池水杜が4位で通過、男子は中村輪夢が強豪ひしめく中10位で通過した。残念ながら前日の雨の影響でアマチュアクラスとジュニアクラスの予選はキャンセルとなり、プラクティスの時間もほとんど取れないままに一発決勝となってしまったが、ライダー達は緊張と期待が入り混じった表情の中に笑顔も見せながら、日本という日常の中の、世界大会という非日常を楽しんでいた。


最終日8日、クライマックスの決勝は、ようやく顔を出してくれた太陽と青空の下、ジュニア、女子、アマチュア、オープン、ベストトリックの順に行われた。朝一番のジュニア決勝は、開催地日本のキッズライダーが多く参戦。プロライダーの中村輪夢、髙木聖雄らがアドバイスをしながらそばで見守る。これからの世代を大切にしっかりサポートする姿が印象的だった。


キッズ達のレベルは高く、世界中のライダーか集まる大会でライディングするという貴重な経験は彼らをさらに成長させただろう。彼らもまた、これからのBMXパークシーンを盛り上げるライダーに成長してくれるに違いない。これまでは海外遠征をしないとできなかった「世界大会出場」。そんな機会に若くして日本で出会えた事は本当に幸せなことだ。
会場が埋まった女子決勝

続いて行われた女子決勝は、ほぼ負けなしを貫き続けているハンナ・ロバーツ(アメリカ)が繰り出すフレア(縦に後方1回転しながら横に180度回転)という3Dのハイレベルなトリックや、高さと速さ、スムースさでは右に出るもののいないアンジー・マリーノ(アメリカ)の気持ち良いハイエアー(高さのあるジャンプ)、どんなところでもトリックをして見るものを飽きさせないララ・レスマン(ドイツ)のトリックの嵐など、見どころが満載。観客も徐々に増え、会場内の隙間が無くなっていく。
日本の大池水杜もバックフリップ(後方1回転ジャンプ)など大技を見せつけ、笑顔でライディングを終えた。自国で開催された世界大会での経験は、彼女に取ってかけがえのないものだろう。



アマチュア日本人ライダーも奮闘
アマチュアクラスは日本人ライダーが多く、世界規模のパークと今までにない観客数に戸惑いながらもそれぞれのライディングを魅せた。プラクティスや予選がキャンセルになってしまい残念だったが、楽しかった!と語りながら表彰台に上がった3人の日本人ライダーの笑顔が印象的だった。来年はさらに多くの日本人が参加してくれることを願う。



そして迎えた男子決勝。世界の大きなイベントで必ず顔を見かけるようなトップ中のトッププロ達がBMXにまたがり横一列に並び、MCがひとりずつ名前を読み上げる。その中に日本の中村輪夢の姿も。隣のライダーと談笑をしながら、その貴重な瞬間を思い切り楽しんでいた。
男子決勝ともなるとトリックの難易度も相当アップし、すっかり隙間が無くなった観客席からも自然に声があがる。日本人は大人しいとよく言われるが、世界トップクラスのライディングを目の当たりにした日本人は、両手を上げ、大声で叫び、最高潮に盛り上がっていた。
最後はセッションタイムで「タコス」誕生
男子決勝の後はベストトリック。自由参加の「一番すごい技」を決めるセッションタイムだ。中には「飛び道具」のようなクレイジーなトリックに挑戦するライダーもいるので大いに盛り上がる。挑戦しすぎてクラッシュし、車輪が折れてしまうライダーもいて皆の注目を浴びた。それが後日「タコス」と呼ばれSNS上を賑わせたのは、遊び心を忘れないBMXライダー達だからこそなのかもしれない。

ベストトリックでは、ケビン・ペラザのビッグトランスファー(長距離を飛び移ること)と、ダニエル・ウェドメイヤーのジャッジ席前へのフファニュー(柵などに飛び乗り、後輪だけで停止し、戻る技)が印象的だった。
こうして、夢のような4日間は幕を閉じた。ひと月以上経った今でも、パークの上から見た、ライダー達の最高の笑顔と素晴らしいライディング、そして会場を隙間なく埋め尽くした観客の盛り上がりをはっきりと思い出すことができる。
初めてBMXを見る人も多かっただろう。少しでも印象に残り、またこういった大会に足を運んでくれれば、日本のライダー達を応援してくれれば、そしてあわよくば、BMXを始めたいと思ってくれれば…これ以上ない幸せだ。


日本のBMXシーンの現在とは
日本のBMXシーンはアメリカなどの「本場」に比べてまだまだ小さく、プロがプロとして生活できない、練習に力を入れたくても資金が確保できない、海外に匹敵するレベルの練習場所が無い、などという問題が山積みだ。ライダーだけではなくそれに関わる人たちも、好きだからという理由で身銭を切って活動している様々な世界のプロが本当に多く、続けることができなくなる人やイベント、ショップ、メディアが後を絶たない。
昨日より今日、今日より明日、一人ずつでも、興味を持ってくれる人が増えれば、ファンが増えれば、ライダーが増えれば。その力はどんどん大きなものになり、状況は少しずつ変わって行くだろう。BMXにはそれだけの魅力が、力があると筆者は思っている。
フランスで生まれ、世界に羽ばたいた「FISE」の日本上陸が、そのきっかけのひとつになってくれていることを切に願う。来年もまた、日本のどこかで皆と笑顔で叫びたい。

我満直紀 Naoki Gaman
自身もライディングするBMXの写真を中心に、スケートボードやSnowスポーツでも多数の作品を残している青森市在住の女性Photographer。2016年に友人の女性BMXライダーがX GAMESに招待されたのをきっかけにノリと勢いで初渡米し、帰国後自身初となるフォトブック「GIRLS BMX AUSTIN」を制作。その後、アメリカX GAMES、VANS BMX ProCup(US OPEN)、中国成都でのFISE(UCI World Cup)、エストニアSimpleSession、FISE広島などでの撮影を経験し活動の幅を広げている。好きなフィールドはストリート。フォトブック「GIRLS BMX AUSTIN」はwebサイトのオンラインストアや自転車店などで販売中。
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