ツール取材歴30年の山口和幸さんが寄稿ツール・ド・フランス表彰台での美女のキス廃止? パリ市が主催者に要請

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
  • 一覧

 「美女による祝福キス、ツール・ド・フランスでパリ市が廃止の意向」というニュースが5月7日にフランスのAFP通信社から配信され、大きな話題になっている。細身で美しい女性2人が表彰台に登壇した賞典対象選手を囲んでほおにキスするというのは「性差別を助長」するもので、ツール・ド・フランス最終日のゴールとなるパリ市がこれを廃止するように働きかけているというものだ。

ツール・ド・フランス2013の第6ステージでマイヨ・ベールを着て祝福のキスを受けるペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

ブエルタではポディウムガールを廃止

2017年からポディウムガールを廃止したブエルタ・ア・エスパーニャの個人総合優勝表彰 Photo: Yuzuru SUNADA

 すでにツール・ド・フランスと同様の開催規模で行われているスペインのブエルタ・ア・エスパーニャは、2017年大会から表彰式をアテンドする女性を起用しなくなった。モータースポーツのF1でも2018年、スタート前に登場するグリッドガールを廃止するというニュースが伝えられている。ブエルタ・ア・エスパーニャの運営はツール・ド・フランスの主催組織であるASOなので、ツール・ド・フランスもこれにならう可能性はある。

 当のツール・ド・フランスやASO、パリ市はまだ見解を発表していないので、報道を拾い集めた限りの認識では、最終日のゴール都市であるパリ市が要請しているとのこと。つまり「ポディウム」と呼ばれるステージレースの最終確定的な表彰式のみアテンド女性を廃止しようという意見のようだ。ステージレースにはそれぞれのゴール後に「セレモニープロトコール」という仮表彰式があるのだが、どうやらそれには言及していない。

ツール・ド・フランス2017のパリ最終ステージで、個人総合優勝の表彰を受けるクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

 パリといえば東京五輪・パラリンピックの次、2024年に五輪・パラリンピックが開催される都市である。五輪を考案したフランスの首都である。アンヌ・イダルゴ市長は女性。さらにはフランス政府のスポーツ省大臣はローラ・フレセル。五輪メダルを5つも獲得した実績のあるフェンシングの女性選手である。五輪開催を前に、「祝福のキスは性差別の象徴であるという」という批判を回避するために先を打って策を進めていることは容易に想像できる。

パリのアンヌ・イダルゴ市長。©PRESSPORTS
ツール・ド・フランス2014の第6ステージで祝福のキスを受けるペテル・サガン

 また、表彰式に登壇する男子プロロード選手の中にも、表彰式のキスは性差別と口にしている人もいるという。欧州文化として知り合いや友だちに会えば軽くキスをするという風習とは、表彰式のそれはまったく異なるもののようだ。

3週間、大会の「笑顔」として活躍

 筆者がツール・ド・フランス取材を始めた30年前は完全に男性社会だった。ただしその当時から表彰式のアテンド係と広告キャラバン隊の女性スタッフは存在していた。沿道の観衆や報道用として、おもてなしをする役目として若い女性は適役で、砂漠の中のオアシスのように輝いていた。時代は次第に変わっていき、現在は女性記者も女性カメラマンも珍しくはない。表彰式のアテンド係の存在はいまだにきらびやかだが、「あ、女性がいる!」とそれだけで笑顔になってしまう時代ではなくなっている。

2015ツール・ド・フランスの表彰アテンド係。左から3人目がマリオン・ルス。© ASO

 モデルのようにきらびやかなスタイルだが、真夏のフランスを一周する旅は選手や取材陣らとまったく同じ、厳しい環境に置かれる。彼女たちはゴール後の表彰式だけが出番というわけではなく、スタート地点でもクライアントを相手に笑顔を見せるのも重要な務めだ。それが終われば、高速道路などを使った別コースでゴールの町を目指すわけだが、長距離移動がいつも順調にいくとも限らず、トイレのないような田舎道で大渋滞にハマり、メイクして着替えて、なにごともなかったかのように表彰台の裏に入る。

ツール・ド・フランス2014でマイヨジョーヌに袖を通したトニー・ガロパンとマリオン・ルス Photo: Yuzuru SUNADA

 芸能人やアイドルというよりも、ひたすら肉体労働に近い業務で、それはもう立派なツール・ド・フランスを構成するひとつの歯車であると言い切れる。

 2014年のツール・ド・フランスで敢闘賞のアテンドを務めたのがマリオン・ルスだ。当時22歳で、ロット・ベリソルにいたトニー・ガロパンとつき合っていた。敢闘賞の真っ赤なドレスが似合っていたルス自身もロット・ベリソル女子チームに所属していて、2012年にフランスナショナルチャンピオンとなったプロレーサー。選手やアテンド係の経験を生かして、その後はユーロスポーツを経てフランステレビジョンへ。ツール・ド・フランス期間中はスポーツコメンテーターとしてレース後の番組に欠かせない顔になるほど活躍している。

 時代の潮流が廃止の方向なら、それはそれで不自然な場面にはならないような気もする。ただし憧れの職業としてポディウムガールを目指すフランスの若い女性もいるはずなので、女性の中でも残念に思う人は多いのでは。

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

ツール・ド・フランス2018 ツール2018・その他

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載