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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<253>序盤戦を終えたジロ2018 イスラエルでの3日間で見えてきた有力選手たちの戦い方

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 史上初めてヨーロッパを飛び出し、中東・イスラエルでの開幕を成功裏に終えたジロ・デ・イタリア2018。第101回にして新たな局面へと突入した大会は、同国での3日間で有力選手たちの意識と今後の戦い方の方向性が見えつつある。そこで、今回は大会序盤の3日間を振り返りながら、この先のレースを展望していきたい。

ジロ・デ・イタリアは第3ステージまでを終了。ローハン・デニスがマリアローザを着用しイタリアへと移動する Photo: Yuzuru SUNADA

好調デュムランをライバルたちは追撃できるか

 ジロの華であるマリアローザ争いは、3日間のイスラエルステージに限定するならば、大会初日の9.7km個人タイムトライアルに注目すべきポイントが集約されていた。

個人総合2連覇に向けて幸先の良いスタートを切ったトム・デュムラン。第1ステージの個人タイムトライアルでライバルを圧倒した Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは何といっても、ステージ優勝のトム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)だろう。今大会に向けては、3月下旬から約1カ月に及ぶスペイン・シエラネバダ山脈での高地合宿で体を作り込み、5月4日のジロ開幕を迎えた。

 今シーズン序盤はビッグリザルトがなく、一方でバイクトラブルで上位争いから転落するレースがいくつかあるなど、不運も重なっていた。しかし、いざジロが始まってみれば得意のタイムトライアルでステージ優勝。ついにエンジンがトップギアに入ったようだ。

 この勝利は、見方によっては“圧勝”と捉えてもよいかもしれない。翌日にマリアローザを譲ることになるローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)とは2秒と僅差だったが、最大のライバルと目されるクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)とは37秒差。百戦錬磨のフルームとて、デュムランの本来ある登坂力を考えれば、そう簡単には逆転できないタイム差だ。

 デュムランは第2ステージでデニスにマリアローザを譲ったわけだが、デュムラン本人は初日に勝った時点で、いったんはこのジャージを手放すことを考えていたという。リーダーチームとなる以上、その間はレース全体のコントロールを担う必要が出てくる。そこで、一度レースリーダーの座を降りて、アシスト陣を含めたチーム全体の負担の軽減することを優先したのだ。3週間と長い期間の戦いであるグランツールならではの戦術といえよう。

 とはいえ、現状ではライバルに対しアドバンテージを持った状態でレースが進められる。この先注目されるのは、どのステージでマリアローザを取り戻しに動くのか。そして、その頃にはアシストを含め、チームとしてジャージを守る態勢も整えることだろう。

レース前試走での落車の影響か、第1ステージで出遅れた印象のクリストファー・フルーム Photo: Yuzuru SUNADA

 デュムランも含め、総合争いの主役候補たちは第1ステージで明暗がくっきりと分かれた。この日はレース前の試走で落車が相次ぎ、フルームもその中の1人となってしまった。その影響は少なからずレース本番にもあったに違いない。予想以上にデュムランとの水をあけられてしまった。

 イタリア期待のファビオ・アル(UAEチーム・エミレーツ)は50秒差。フルームらと同様に、試走中に落車したミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)は56秒差。アルデンヌクラシックでの活躍から、今大会の走りにも期待が高まっているマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)に至っては1分2秒差。早くも大きな後れを喫している。

タイムトライアルが得意ではないサイモン・イェーツは第1ステージで7位と好走 Photo: Yuzuru SUNADA

 前回王者がトップタイムだっただけに、何秒差までを“成功”とするかは難しい判断だが、それでもタイムトライアルが決して得意とは言えないサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)と、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)の2人は健闘したといえるだろう。

ドメニコ・ポッツォヴィーヴォも第1ステージ10位と健闘 Photo: Yuzuru SUNADA

 イェーツはデュムランから20秒差の7位、ポッツォヴィーヴォは27秒差の10位。2人に共通するのは、上りにおける一瞬の爆発力に長けるという点だ。ともに山岳ではここ一番でのアタックを強みとするが、距離が短く、細かなアップダウンが連続する今回のコースは両者にとって好都合だったことが、その結果からうかがえる。

 いずれにせよ、第4ステージから始まる実質の第1週目から、彼らのターゲットはデュムランとなることだろう。もちろん、現在首位のデニスも侮れないが、これまでの実績や実力を考えるならば、やはりデュムランが最大の目標となってくる。そして、第3週目の第16ステージに2回目の個人タイムトライアルが控えていることも念頭に置いて走る必要もある。その意味では、この大会の早い段階からマリアローザを意識した攻防が活性化する可能性が高まってきた。

デニスのマリアローザ獲得でチーム状況好転なるか

 第4ステージからジロは本来の舞台、イタリアに戻る。マリアローザをイタリアへと持ち帰る大役を務めるのが、個人総合首位に立つデニスだ。

マリアローザを着用するローハン・デニス。不透明なチームの将来を好転させられるか Photo: Yuzuru SUNADA

 優勝を狙った第1ステージは惜しくも2位に終わったが、続く第2ステージで中間スプリントポイントで動きが奏功してマリアローザを奪取した。これで、2015年ツール・ド・フランス、2017年ブエルタ・ア・エスパーニャに続く、全グランツールリーダージャージ着用者となった。

 同時に、BMCレーシングチームにとっても大きな価値のあるジャージ獲得といえるだろう。

 去る4月19日、BMCブランドのオーナーであるアンディ・リース氏が死去。スイスの大富豪でもあるリース氏は、2001年にBMCを買収して以来、急速に同社を成長させた。それは、直属のプロチームであるBMCレーシングチームの戦力にも反映され、トップシーン随一のチーム力を誇るまでになった。

 だが現在、チームは2019年シーズンのメインスポンサーがいまだ決まっていない状況にある。BMCはスポンサード延長に関する契約を交わしておらず、このまま撤退する可能性が高いと言われている。首脳陣は現在、新スポンサー獲得に向けて奔走を続けているが、選手の中にはデッドラインを5月下旬に定めるなど、その情勢は芳しくない。

 そんなマイナスのオーラが漂うなかで訪れた、デニスのマリアローザ獲得。リース氏への供養にするとともに、チームイメージの向上につなげたい。これをきっかけにチームは好転するのか。

 デニスはこの先の戦いについて、ひとまずはステージ優勝を狙う構えだ。中級山岳ステージで自らのスピードを生かしたいとしており、第4ステージ以降はそのチャンスをうかがいながら走ることになる。総合についても「デュムランの走りから学びたい」と述べるなど、展開次第で上位進出を目指す可能性があるが、まずは勝利することを第一に走る。実際にステージを制することとなれば、それこそチーム存続へのさらなるイメージアップとなることは間違いない。

チームプレゼンテーションに臨んだBMCレーシングチームの選手たち。このジロはチーム存続をかけての戦いでもある Photo: Yuzuru SUNADA

ヴィヴィアーニはマリアチクラミーノとローマ制覇に本気

 イスラエルでの3日間で主役となったのは、第2、第3ステージを連勝したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)だった。シーズン序盤で6勝を挙げるなど、今大会出場のスプリンターの中ではナンバーワンの呼び声の高いなかで迎えたジロ開幕だったが、それに応える好走ぶりだ。

ステージ2連勝しポイント賞争いで独走するエリア・ヴィヴィアーニ。マリアチクラミーノ獲得を視野に入れる Photo: Yuzuru SUNADA

 今後のステージは山岳の比重が高まるため、しばしヴィヴィアーニの出番は減るが、それでもポイント賞のマリアチクラミーノと、ローマでの最終ステージ制覇に本気でトライする。

 大会序盤を見る限り、決してライバルは少なくない。サーシャ・モドロ(イタリア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)、ヤクブ・マレツェコ(イタリア、ウィリエールトリエスティーナ・セッレイタリア)、サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)など、モチベーションの高いスプリンターがひしめく。

 第3ステージまでを終えて、マリアチクラミーノ争いでは後続を大きく引き離す。しかし、山岳ステージで総合系ライダーがポイントを占める可能性が高いことから、ヴィヴィアーニにとっては数少ないスプリントステージはもちろん、その他のステージでも中間スプリントでの取りこぼしは避けたいところ。「ここから3週間は勝つことだけに集中する」とはヴィヴィアーニ談。その真価が問われる戦いが本格化する。

ジロ・デ・イタリア 第4~9ステージ展望

●5月8日(火) 第4ステージ カターニア~カルタジローネ 198km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第4ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 いよいよイタリアでのレースがスタート。一行が足を踏み入れるのは、南部のシチリア島。カターニアをスタート後は、カテゴリー山岳こそ2カ所の4級だけだが、終始アップダウンの連続。ラスト1kmを切ってからは、フィニッシュに向かって最大13%の上り。クラシックハンターを中心にパンチ力のある選手にチャンスがある。

●5月9日(水) 第5ステージ アグリジェント~サンタ・ニンファ 153km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第5ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 シチリア島南部の海岸線をゆく1日。後半に入ってから3カ所の4級山岳が控える。最終局面は、残り2kmから最大勾配12%の上りが待ち受ける。その後は上り基調ながらも、フィニッシュに向かって緩斜面が続く。急坂で集団の人数が絞られ、残った選手たちでのスプリントとなるかもしれない。

●5月10日(木) 第6ステージ カルタニッセッタ~エトナ 164km 難易度★★★★

ジロ・デ・イタリア2018第6ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 今大会最初の上級山岳ステージ。目指すは名峰エトナ火山の頂だ。ただ、これまでとは違い、初めて採用されるオッゼルヴァトリオ・アストロフィジーコの登山ルート(登坂距離15km、平均勾配6.5%、最大勾配15%)を選手たちが上ることになる。アタックを成功させた選手が逃げ切るのか、有力選手たちがなだれ込むようにフィニッシュするのか。ラスト1.5kmが平均勾配4.4%と緩むこともポイントとなるか。

●5月11日(金) 第7ステージ ピッツォ~プラーイア・ア・マーレ 159km 難易度★

ジロ・デ・イタリア2018第7ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 ようやく2018年のジロはイタリア本土へと上陸する。ティレニア海沿いを北上する1日は、ひたすら海岸線を走行。終盤に小さな上りがあるものの、集団が崩壊するようなものではない。また、終盤もジロならではのテクニカルなレイアウトは潜め、残り2kmを切った直後の左コーナーを最後にフィニッシュまで一直線。スプリンター本領発揮となるだろう。

●5月12日(土) 第8ステージ プラーイア・ア・マーレ~モンテヴェルジーネ・ディ・メルコリアーノ 209km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第8ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 終盤まではティレニア海沿いを北上。そして、このステージのハイライトは2級山岳モンテヴェルジーネ・ディ・メルコリアーノの頂上フィニッシュとなる。登坂距離は17.1kmあるが、平均勾配は5%と上級山岳と比較すると緩め。ポイントは、18カ所のヘアピンカーブが連続するつづら折り。コースの特性を活用して勝負に出る選手が現れても不思議ではない。

●5月13日(日) 第9ステージ ペスコ・サンニータ~グランサッソ・ディタリア(カンポ・インペラトーレ) 225km 難易度★★★

ジロ・デ・イタリア2018第9ステージ コースプロフィール ©︎RCS

 イタリア半島の中央を走るアペニン山脈を駆ける1日。中盤の2級山岳ロッカラーゾを越えて一度下ったのち、最後の約37kmで2つのカテゴリー山岳を立て続けに上る。しばらくは淡々と上るイメージだが、ラスト4kmで急勾配が登場。最後の1kmで最大勾配である13%の区間が現れ、上り続けて消耗した選手たちをさらに苦しめる。大会前半のヤマ場となるであろうステージで、マリアローザ争いの形勢が見えてくるか。

今週の爆走ライダー−ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー、ロット・フィックスオール)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 デュムランの快勝に沸いたジロ第1ステージだったが、この日は多くのタイムトライアルスペシャリストが開幕戦勝利をかけて競演した。この種目昨年のヨーロッパチャンピオンであるカンペナールツも、テクニカルなエルサレムのコースを力走。優勝まではあと一歩及ばず、結果は3位だった。

ジロ・デ・イタリア第2ステージフィニッシュ直後のヴィクトール・カンペナールツ。次なる目標は個人タイムトライアルの第16ステージでの勝利だ Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、スペシャルジャージで走る者としての責任は果たした。それも1年越しに。というのも、同じくタイムトライアルで争われた昨年のジロ第10ステージ。彼は胸に恋人へのデートお誘いのメッセージを記して出走。トップから約11分遅れてフィニッシュしたばかりか、レースにふさわしくない行為として罰金処分。もっとも、このときはベルギーチャンピオンジャージで出走していただけに、チームからも王者としての風格を問われる事態に。メッセージの返答は「Yes」だったそうだが、その代償は大きかった。

 チームが変わり、昨年のことはもう関係はないだろうが、今回は実力通りに走ってみせた。本人はレース後、「マリアローザに近づいただけにこの結果は悔しい。それでも、この日のために1カ月間準備をしてきたことは誇らしい」と胸を張った。次のチャンスは第16ステージ、34.2kmの個人タイムトライアルで勝利を狙う。

 ちなみに、バックボーンはトライアスロン。ジュニア時代にはベルギー代表としてヨーロッパ選手権に3年連続出場。当時からバイクの実力は群を抜いていたが、ランがからっきしだったのだとか。

ジロ・デ・イタリア第1ステージ、勝利を狙うも惜しくも3位。それでもヨーロッパチャンピオンとしての責任は果たした Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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