共存共栄を望む地元の動きもフィールドを守るのはサイクリスト自身  マナーアップでヤビツを真の「聖地」に

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 関東のヒルクライマーの聖地として多くのサイクリストが訪れる、神奈川県の丹沢に位置するヤビツ峠。中にはトレーニングのため、繰り返しタイムアタックをするヒルクライマーも多い。しかし、一部の下り区間は住宅街であるにもかかわらず弾丸のように下る自転車が多いという理由から、秦野市の市議会で「自転車を減速させる何らかの啓発が必要」(※)との問題提起がされたこともある。荒川河川敷道路や三浦半島などを中心に自転車のマナー向上と安全意識の啓発活動に取り組んでいる団体「グッド・チャリズム宣言プロジェクト」(通称:グッチャリ)が、今年もヤビツ峠周辺でマナーアップ活動を実施した。
(レポート:グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事 瀬戸圭祐)

自転車渋滞が起きるほどにサイクリストが多いヤビツ峠 Photo: Keisuke SETO

※出典:「秦野市議会平成23年第2回定例会(第4号・一般質問)」

聖地ヤビツでマナー改善の兆し

名古木交差点~蓑毛区間のスピードが出る直線の下りには「事故多発スピード落とせ」ののぼりが立つ Photo: Keisuke SETO

 昨今、ヒルクライマーの激増により周辺住民や道路利用者から、サイクリストに対する苦情が後を絶たないといわれているヤビツ峠。昨年のゴールデンウィークにマナーアップ活動をした際には、ひっきりなしにサイクリストが往来。峠ではほんの20分程の間に100人以上が峠に上り着き、勢いよく下っていった。

 「このままの状態では本当に自転車の通行規制などが実施されるのではないか」と危惧し、マナーアップを呼びかけたが、住民や他の道路利用者からの苦情が多いことを知る人は少なかった。

名古木のセブンイレブンで活動前のブリーフィングを行うグッチャリメンバー Photo: Keisuke SETO

 今回再びマナーアップ活動をしてまず感じたことは、ヤビツに来るサイクリストは、ヤビツ問題を認識している、または理解しようとして下さるというポジティブな方が増えたということである。マナーアップチラシを手渡してヤビツでの問題を説明すれば、ほとんどのサイクリストはしっかりと話を聞き、マナーアップの必要性に理解を示してくれた。

ヤビツ峠で精力的にチラシを配布し、マナーアップを呼びかける Photo: Keisuke SETO
Photo: Keisuke SETO

 前回は「マナーアップ」の意味もわからないようなサイクリストや、我々の活動を煙たがるような態度の人もいたが、そのような人は今年は皆無。少なくとも我々が接触したサイクリストや、ここでトレーニングをしているヒルクライマーの方々からは、マナーアップ意識の向上やヤビツが抱えている問題に理解が進んでいると感じることができた。

同じサイクリストとしての呼びかけ

 我々が手渡すマナーアップチラシは、従来はどこの地域での活動にも使えるようルール遵守やマナー向上を普遍的に呼びかける内容だったが、今回は「ヤビツ専用バージョン」を作成した。見出しに大きく「ヤビツ峠を訪れる自転車のマナーが問われています」と記載し、以下の2つのポイントに絞って訴求する内容にした。

ヤビツ専用バージョンのマナーアップチラシ 画像提供: Yuji Han

下りは減速
名古木交差点~蓑毛区間の住民にとって、玄関先を高速で下る自転車が脅威になっています。安全な速度でマナー良く下山しましょう。

譲り合いの精神で
バスやクルマを煽ったり無理な追い越しをする自転車が秦野市議会でも問題になっています。ルールを守り、譲り合いの精神で道路をマナー良くシェアしましょう。

 「サイクリストとして主体的にヤビツを守ろう」と呼びかける形でマナーアップを求めた結果、活動するメンバーも相手に説明がしやすく、渡されたサイクリストも理解しやすくなったようだ。我々の活動も相手の立場に立ったコミュニケーションの改善が必要だったのかもしれない。

蓑毛の集落を貫く直線の下りは、最もスピードの出る要注意ポイント。ここでの苦情が最も多く寄せられる Photo: Keisuke SETO

 しかし、決してマナー意識の高い人ばかりではない。実際にメンバーが急坂を押し歩いて上っているときに、後ろから追突しかけたヒルクライマーがいた。前をしっかり目視できないほどに追い込んでトレーニングをしていたのかもしれないが、マナーアップ以前に、安全意識を欠いていると指摘せざるを得ない人がいるのも事実だ。

期待されるから注目される

 秦野市の行政の動きはどうだろう。秦野市のウェブサイトからヤビツ峠と自転車の課題について情報を検索してみると、2017年6月に発行された「第10次秦野市交通安全計画(案)」に次のような記載があった。(以下抜粋)

○まえがき
生活道路における安全確保や自転車利用者に対する交通安全意識の向上など高齢者や自転車対策を重点的に取り組んでいく必要があります。
 
○第1章2項
近年、自転車利用者が増加し、自転車の交通ルールに関する理解が不十分であったり、交通安全意識の欠如した走行も増えていたりする(中略)交通事故の6件に1件は自転車が関係しています。
 
○第4章2項(3)イ
また、ヤビツ峠を訪れる自転車利用者が多いことから、関係機関・団体等と連携して自転車と歩行者・自動車の共存を目指し、自転車の安全走行の遵守やマナーアップ活動を推進します。

 具体的にヤビツ峠の名前をあげて対策を行う旨が記載してある。しかし、一方でこのような記載もある。

・第4章1項(5)
自転車通行空間の整備を効果的、効率的に推進するため、「秦野サイクルシティ計画」(仮称)を策定します。

自転車マナーアップを啓蒙するのぼりが随所に見られるようになった Photo: Keisuke SETO

 実際にこの構想を土台に、青年会議所が「はだのサイクルフェスタ」といった自転車イベントを開催したり、ヤビツだけでなく市内随所に自転車置き場の整備も進んでいるという。また、ゴールデンウィークには「ヒルクライムの聖地ヤビツ峠で、自転車のマナーアップキャンペーン」というイベントが毎年開催されており、今年も5月2日に実施された。

 このように、ヤビツから自転車を締め出そうとする動きではなく、共存共栄を目指し自転車のマナー向上を図ろう、そしてそれによる秦野市の活性化につなげようとの動きが推察できる。

他の道路利用者と譲り合う精神を

ヤビツ峠はクルマの通行も多い。ドライバーにしてみれば自転車がとても多く大変だ Photo: Keisuke SETO

 秦野市役所に直接問い合わせてみたところ、やはり周辺住民の苦情が絶えないようで「自転車利用者のマナーアップと交通ルール遵守の啓発が最優先」とのことだった。しかし一方でヤビツが「ヒルクライムの聖地」と言われている“ブランド力”を生かし、自転車利用の推進につなげていくべきとの声が多いのも事実であり、「国からの指導もあるので、自転車利用環境の整備には力を入れていく」との見解も示した。

サイクリストだけでなくランナーの練習場所としても人気が高まっているヤビツ峠 Photo: Keisuke SETO

 いずれにせよヤビツを守るのは行政ではなく、我々サイクリストのマナーアップと交通ルールの遵守が絶対条件である。そしてそれはヤビツだけでなく、どんな道路でも同じことである。全ての自転車利用者がマナーとルールを守り、常識としてクルマや歩行者など他の道路利用者と、互いに相手を思いやる譲り合いの精神を持つことが最も大切なのだ。

瀬戸 圭祐瀬戸圭祐(せと・けいすけ)

中学高校時代にランドナーで日本全国を走り、その後北米大陸ロッキー山脈、北極圏スカンジナビア山脈、欧州アルプス山脈、西ヒマラヤ/カラコルム山脈、ヒンズークシュ山脈などを単独縦断走破。著書は「ジテツウ完全マニュアル」「爽快!自転車バイブル」「自転車ツーリング ビギナーズ」「自転車生活スタートガイド」など多数。現在は自動車会社に勤務しつつ、NPO自転車活用推進研究会理事や(社)グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事などを務め、より良い自転車社会に向けた活動をライフワークとしている。

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