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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<251>春のクラシックシーズンを総括 そして戦いの舞台はグランツールへ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 3レースすべてで新たなチャンピオンが誕生したアルデンヌクラシック。そして、4月22日のリエージュ~バストーニュ~リエージュをもって2018年の、春のクラシックシーズンが終わった。ここで改めて今年のクラシックレースの傾向を振り返ってみたい。そして、戦いの場は、いよいよグランツールへと移る。このほど、暫定の出場選手が発表となったジロ・デ・イタリアに向けた情報もお届けしていきたいと思う。

さまざまなドラマがあった2018年のクラシックシーズン。舞台はグランツールへと移る =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018、2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

充実した戦力が示した戦術の多様性

 リエージュ~バストーニュ~リエージュを4位で終えたジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ)は、フィニッシュ直後にジャーナリストたちに囲まれた。さまざまな質問を受ける中で、チームメートのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)の勝利について「これはチームプレーによる完全なる勝利」とコメント。ユンゲルスの強さを認めるとともに、レース展開に則したチーム戦術が功を奏したと強調した。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018のレース後、ジュリアン・アラフィリップは勝因に「完璧なチームプレー」を挙げた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 確かに今年のクラシックシーズンは、これまで以上に「チーム対チーム」の構図が明確になったレースが多かった。これはリエージュ~バストーニュ~リエージュのレース前展望でも触れたことだが、戦力が充実し、あらゆる展開に対応できるチームがいつにも増して多かったことが要因だと思われる。

 各レース、戦前には好調が伝えられた選手や、評判の高いチームがあり、彼らの戦い方に注目が集まったが、終わってみればチーム戦の様相を呈した中でも「セオリー通り」の戦い方をしたチームに軍配が上がった印象だ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018では残り20kmで仕掛けたボブ・ユンゲルスが独走勝利 =2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その色が顕著だったのが、クイックステップフロアーズとアスタナ プロチームの戦い方だった。例えば、北のクラシックであればペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)やグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、アルデンヌクラシックであればアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)のような“絶対王者”に対し、勝負を最終局面まで持ち越すと分が悪いと見るや、エースクラスの1人が早めに仕掛ける。これが決まれば、あとは集団に残った選手が他チームの動きを徹底監視。クラシックレースにおける、教科書通りの戦い方だった。

 もっといえば、彼らはエースクラスの選手を複数配備し、さらにはレース前半からプロトンをコントロールできるだけの強力なアシストにも恵まれていた。アシスト陣の絶妙なペースメイクはライバルチームの消耗を誘い、アシストが役割を終えると決まってエースクラスの1人が飛び出しを図る。他チームはそれが分かっていても対応に苦しめられた。

ミケル・ヴァルグレンは強力なアシストに支えられてクラシックシーズン2勝を挙げた =アムステル・ゴールド・レース2018、2018年4月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 クイックステップフロアーズであれば、ニキ・テルプストラ(オランダ)が制したレコードバンク・E3ハーレルベーケやツール・デ・フランドル、ユンゲルスが制したリエージュ~バストーニュ~リエージュがまさにその例。アスタナ プロチームも、ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)が勝利したオムループ・ヘット・ニュースブラッドやアムステル・ゴールド・レースが挙げられる。

 仮にライバルが集団からのアタックで前方へのブリッジを決めたとしても、チームメートがチェックに入ってさえいれば、その後も数的優位な状況を作り出せる。また、集団が協調して前を目指したとしても、先頭交代のローテーションを崩したり、ペースを乱すなどの動きによって、追いつくことを阻止する役割を担うことができる。北のクラシックでのクイックステップフロアーズはフィリップ・ジルベール(ベルギー)が、リエージュではジュリアン・アラフィリップ(フランス)がその任務を完璧にこなした。アスタナ プロチームであれば、ヤコブ・フルサング(デンマーク)ら。

随一のチーム力を誇ったモビスター チームは頼みのアレハンドロ・バルベルデがいまひとつ波に乗り切れなかった =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018、2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 アルデンヌクラシックでは、絶対王者バルベルデの牙城が崩れた。モビスター チームはミケル・ランダやマルク・ソレル(ともともにスペイン)をアシストに配備。その戦力は、出場チーム中ナンバーワンの呼び声も現地ベルギーでは聞かれた。しかし、ふたを開けてみれば、多彩な戦術を有するチームに屈した形となった。

 バルベルデ自身の調子が昨年ほどではなかったことも要因の1つではある。ラ・フレーシュ~ワロンヌとリエージュの2冠となった昨年のアルデンヌだが、その後ツール・ド・フランスで落車負傷。今年に入り、復活を印象付ける力強い走りがたびたび見られていたが、今シーズン序盤に向けて急ピッチで調整した影響からか、クラシックシーズンに入ってその勢いが潜んでしまった印象はぬぐえない。実際に、リエージュのレース後には「思ったようにペダルに力を込められなかった」との談話も残している。

 そして何より、バルベルデに傾倒したチームオーダーだったことが、かえって戦いの幅を狭めてしまったようだ。過去に、トム・ボーネン(ベルギー)での勝利にこだわりすぎるあまり、他選手の動きまで縛る格好になってしまったクイックステップ(現クイックステップフロアーズ)の例があるが、1人に頼る戦い方は、戦術が多様化するとともに選手・チームの力の差が拮抗している今年のクラシックシーズンにはマッチしていなかったと言えそうだ。

パリ〜ルーベでのペテル・サガン(左)のように驚異的な走りから生まれた勝利もこのクラシックシーズンには多く見られた =2018年4月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もちろん、すべてのレースがこうした戦い方のもとで運ばれたとは筆者も思ってはいない。3月のストラーデ・ビアンケでのティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル)や、ミラノ~サンレモでのヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、4月8日のパリ~ルーベでのサガンのように、自らの力をもってライバルを引き離して勝利を手繰り寄せた“驚異的な”レースも今年は生まれた。そして、そのいずれもが未舗装や長距離、パヴェと、並のレースとは大きくかけ離れているところで起こったことも、1つの傾向だ。

 トップシーンにおけるレースの在り方は年々進化している。今年のクラシックシーズンは、それぞれのレースに適した戦い方と、エース・アシストの人員配備が効果的になされたチーム、そして選手へと王者の称号が渡ったということだろう。

アルデンヌの勢いをジロへつなげられるか

 アルデンヌクラシック最終戦だったリエージュ~バストーニュ~リエージュは、獲得標高が約4000mと起伏の激しいレースであったことも関係し、多くのグランツールレーサーが出走した。「アルデンヌはリエージュのみ出走」とする選手も例年多い点で、このレースの格式の高さと、クライマーやオールラウンダーにも適したレースであるかがうかがえる。

 クラシックシーズンの傾向を前述したばかりが、今年のリエージュ~バストーニュ~リエージュに限って言えば「ジロ組」の調整の順調さが感じられるレースでもあった。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位のマイケル・ウッズはジロ・デ・イタリアで総合成績を狙う =2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 すでにジロ出場を公言している選手の中で最上位となったのが、2位のマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)。29歳でプロチーム入りを果たし一見遅咲きに思えるが、レースを本格的に始めたのが26歳だった2012年とあり、選手としてのキャリアはまだまだ浅い。リエージュのレース後にはその点にも触れ、「これから自分がどこまでのレベルに達することができるか楽しみ」と述べた。迎えるジロでは、キャリア初となる総合エースとなることが予想されている。次々と驚きの結果を見せてきた男が、いよいよグランツールレーサーとしての扉を開ける。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ5位のドメニコ・ポッツォヴィーヴォも順調な調整ぶり =2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 5位のドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(バーレーン・メリダ)、7位のダヴィデ・フォルモロ(ボーラ・ハンスグローエ)のイタリア勢も上々な仕上がりだ。ポッツォヴィーヴォはリエージュの2日前までツアー・オブ・アルプス(イタリア、UCIヨーロッパツアー2.HC)に参戦し、そこでも個人総合2位で終えた。「ジロ前哨戦」の意味合いも強い山岳系ステージレースで調子を上げ、リエージュでの走りでさらに確信へと変わったに違いない。

 フォルモロはクラシックシーズンはリエージュのみの出走だったが、しっかりと結果を残した。今年は出場したステージレース3つのうち2回で総合トップ10フィニッシュと安定。昨年のジロで初めて個人総合トップ10入りを果たしたが、今年はさらなる上位進出を狙う。実力的に見れば、総合トップ5は視野に入ってくるだろう。

 クラシックシーズンのタイトル獲得はならなかったティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)だが、こちらもジロ参戦を表明済み。これまでワンデーレースや1週間程度のステージレースに注力してきたが、名実ともに申し分ない立場となったいま、どのようなスタンスでグランツールに挑むのかは注目すべきポイント。2年前の第6ステージでは独走勝利を飾るなど、相性のよいジロで新たな一面を見せることはあるか。

高地トレーニングを経て調子を上げているトム・デュムラン =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018、2018年4月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、トム・デュムランとサム・オーメン(ともにオランダ)のチーム サンウェブ勢もここへきて調子を上げてきた。リエージュではオーメンが12位、デュムランが15位。終盤の勝負どころで遅れたが、ともに目標をこのレースに定めていたわけではない。狙うはあくまでもジロ。

 個人総合2連覇がかかるデュムランは、直前までスペイン・シエラネバダ山脈で高地トレーニングを行い、そのままの足でリエージュに参戦。その意味で、15位とまとめたあたりはさすがと言えるだろう。2枚看板で臨む見込みのジロだが、展開次第ではオーメンが山岳最終アシストとなりデュムランを引き立てることになりそう。今シーズンはまだ目立った順位のなかった2人だが、ついに“その気”になってきたムードだ。

ジロ2018暫定ロースター発表

 ジロ・デ・イタリアを主催するRCSスポルトは24日、5月4日にイスラエル・エルサレムで開幕する2018年大会の暫定ロースター(出場選手リスト)を発表した。現状ではエントリーまたは出場予定選手の発表で、出場選手の確定は開幕前日の5月3日となる。なお、ナンバー1は昨年の覇者であるデュムランがつける予定だ。

 以下に、RCSスポルトが発表した各チーム2人の出場予定選手を紹介しよう。

アージェードゥーゼール ラモンディアル:アレクサンドル・ジェニエス(フランス)、マッテーオ・モンタグーティ(イタリア)
アスタナ プロチーム:ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
バーレーン・メリダ:ポッツォヴィーヴォ、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア)
BMCレーシングチーム:ローハン・デニス(オーストラリア)、ニコラス・ロッシュ(アイルランド)
ボーラ・ハンスグローエ:フォルモロ、サム・ベネット(アイルランド)
グルパマ・エフデジ:ティボー・ピノ(フランス)、スティーヴ・モラビト(スイス)
ロット・スーダル:ウェレンス、アダム・ハンセン(オーストラリア)
ミッチェルトン・スコット:エステバン・チャベス(コロンビア)、サイモン・イェーツ(イギリス)
モビスター チーム:カルロス・ベタンクール(コロンビア)、ハイメ・ロソン(スペイン)
クイックステップフロアーズ:ゼネク・スティバル(チェコ)、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)
ディメンションデータ:ルイス・メインチェス(南アフリカ)、ベン・オコーナー(オーストラリア)
EFエデュケーションファースト・ドラパック:ウッズ、ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ)
カチューシャ・アルペシン:トニー・マルティン(ドイツ)、アレックス・ドーセット(イギリス)
ロットNL・ユンボ:ジョージ・ベネット(ニュージーランド)、エンリーコ・バッタリーン(イタリア)
チーム スカイ:クリストファー・フルーム(イギリス)、ワウト・プールス(オランダ)
チーム サンウェブ:デュムラン、オーメン
トレック・セガフレード:ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)
UAEチーム・エミレーツ:ファビオ・アル(イタリア)、ディエゴ・ウリッシ(イタリア)
アンドローニジョカットリ・シデルメク:フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア)、マルコ・フラッポルティ(イタリア)
バルディアーニCSF:ジュリオ・チッコーネ(イタリア)、アンドレア・グアルディーニ(イタリア)
イスラエルサイクリングアカデミー:ベン・ヘルマンス(ベルギー)、クリスツ・ニーランズ(ラトビア)
ウィリエールトリエスティーナ・セッレイタリア:フィリッポ・ポッツァート(イタリア)、ヤコブ・マレツコ(イタリア)

今週の爆走ライダー−マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、クイックステップフロアーズ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 4月18日のラ・フレーシュ・ワロンヌでは、最後のユイの壁に入っても懸命に逃げ続けた1人のライダーの姿が印象に残っている、というファンも多いことだろう。フィニッシュ手前、残り300mまで逃げたのだから、優勝まであと一歩だったと言ってもよいかもしれない。いや、あれがユイの壁じゃなければ逃げ切っていたかも。

ボルタ・ア・カタルーニャ第6ステージでプロ初勝利。着々と力をつけているマキシミリアン・シャフマン © Quick-Step Floors Cycling Team / Getty Images

 プロ2年目の24歳、マキシミリアン・シャフマンはあのレースで今後のキャリアを約束されたと言っても過言ではなさそうだ。突如として出入りの激しくなった残り40kmで動きに乗り、しばしレースをリード。エースのアラフィリップらを後方に待機させ、ライバルチームの焦りを呼んだ走りは、アシストとしては満点。ユイの壁で集団に捕まってからは、アラフィリップに勝負をバトンタッチしたが、自らも粘って8位入賞。コースの難易度とあの働きがあってからの最終順位は、まさに離れ業だ。

 ジュニア、アンダー23と個人タイムトライアルで世界選手権のメダルを獲得。この種目の伝統国ドイツの未来を背負う1人と予想されたが、プロ入り以降は上りも強化。ステージレースの総合成績を狙えるライダーに進化中だ。昨年はツール・ド・ポローニュでの落車負傷により8月でシーズン終了となってしまったが、けがが癒えて迎えた今シーズン、プロ初勝利を挙げるなど好調。そこで舞い込んだラ・フレーシュ・ワロンヌでの大役。今シーズンすでに27勝を挙げる絶好調チームでビッグレースのレギュラーを務めるほどの選手なのだから、やはりその能力は伊達ではないということのようだ。

 この先どんな選手になるのか、未知なる可能性を秘めるが、まずはジロでグランツールデビューを果たすことが決まっている。そういえば第1ステージは起伏に富んだ9.7kmの個人タイムトライアル。本職のTTで、なおかつアップダウンとあれば、いまの彼にピッタリ。ひょっとして大仕事をやってのけるかもしれない。ジロの初日は、この男の動向に注視しておいてもよさそうだ。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018では残り300mまで逃げ続けた。このレースからマキシミリアン・シャフマンの未来は大きく切り開かれることになる =2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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