誰もが安心して自転車利用ができる施策人々の生活に密接 ベルギー・ブリュッセルの自転車事情に迫る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 EU(欧州連合)の諸機関を筆頭に、ヨーロッパ全域にまたがる国際機関の本部が多く置かれる街、ベルギー・ブリュッセル。連邦国家であるベルギーの首都としてだけでなく、「EUの首都」といわれるほど、ヨーロッパでは存在感の大きな最重要都市となっている。また、ベルギーといえば隣国オランダとならぶ「自転車の国」としてもおなじみ。ロードレースなどサイクルスポーツの強豪国であるが、ブリュッセルは1990年代からの自転車関連施策が実を結び、利便性の向上や誰もが利用できるシェアサービスなど、自転車が生活に密接していることも挙げられる。そこで、実際に自転車とともに過ごしたブリュッセルでの時間から、その実態と筆者が感じたことをお伝えしようと思う。

自転車、自動車、歩行者の共存が図られるベルギー・ブリュッセルの中心部 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

経済格差と地形が自転車利用に反映

ベルギーのシンボルの1つ、ブリュッセルの大広場「グランプラス」 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ベルギーは大まかに、北部のフランデレン地域、ブリュッセル首都圏地域、南部のワロン地域の3つに分けられる。連邦国家であることは前述したが、例えばフランデレン地域であればフラマン語(オランダ語方言)が話され、ブリュッセル首都圏地域やワロン地域の多くはフランス語が話されるといったように、言語や文化が地域によってまったく異なっている。

 これは人々の生活にも顕著に表れており、商工業が発達したフランデレン地域と、石炭・鉄鋼業が年を追うごとに衰退したワロン地域では、地域ごとの経済格差は大きい。

 こうした構図は自転車利用にも表れていて、オランダと同様に平坦な地形が多いフランデレン地域では自転車が日常生活に解け込んでいる一方で、ブリュッセルやワロン地域では丘陵地が多いということと、「自転車はあくまでも自動車を買えない貧しい人が使うもの」といった昔ながらの概念があったという。

1990年代からの自転車施策が奏功

 さて、目を向けるはヨーロッパの中枢都市ブリュッセル。先ほどからたびたび挙がっている「ブリュッセル首都圏地域」というのは、19の自治体で構成されており、その最大の都市がブリュッセル市、ということになる。普段の会話やニュースなどで「ブリュッセル」といわれる際は、「ブリュッセル首都圏地域」そのものを指していることが多い。

 人口は約117万5000人(2016年のデータ)。他国の首都圏地域や都心部と同様に、公共交通機関が発達しているものの、傾向として郊外から中心部への自動車通勤の比率が高いとされている。

 それゆえ、ヨーロッパの中でも特に渋滞が深刻な都市として挙げられる。数年前にはフランスメディアがブリュッセルを「醜さと汚さに満ちた街」と表現し、アメリカ・ウォールストリートジャーナル紙は「交通渋滞や競争力の低さに大きな問題がある」と酷評。実際に中心部での重大事故が年々増加したほか、排気ガスなどによる環境負荷が国内でも問題視されることになる。

 そこで、ブリュッセル首都圏地域政府は1990年代から自転車推進策を本格的に開始。1998年からはインフラ整備をはじめ、2005年からは渋滞状況の削減や自転車利用者の拡大をねらいとした具体的な自転車計画を作成。いまでは、自転車関連インフラ整備のために年間2500万ユーロ(約27億円)の予算が設けられるまでになった。

一方通行路で自転車の逆走可能を示す道路標識。上はフランス語、下はオランダ語。2つの言語で記される Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 たとえば、自転車による一方通行道路の逆走が認められるようになったのは、これらの施策によるもの。ブリュッセル首都圏地域は総距離約1720kmの道路が敷かれるが、うち500kmが一方通行道路。さらにそのうち400kmの道路が自転車の逆走可能となっている。

 また、自転車用に設けられた専用レーンの整備も進んだ。約160km分の自転車用道路(一部バス専用レーンとの共用)のほか、交通量の多い道路については車道の右端に自転車通行を促すマーキングやサインが施される共有道路も増えている。

ブリュッセル中心部の道路に記された自転車レーン Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 隣国オランダなどでは、自動車とは完全に分離した自転車道が設置されている場所も多いが、すでに都市機能が進行しているブリュッセルでは新たな道路の敷設や自転車道設置のための改修は時間・予算ともに難しいのが実情。そこで、早めの対応策として車道へのマーキングやサインを行った、というのが実際のところのようだ。

 そして、ブリュッセル首都圏地域における自転車施策を代表する取り組みが存在する。それは、「Villo」(ヴィロ)と呼ばれる自転車シェアリングサービスである。

ブリュッセルで行われている自転車シェアリングサービス「Villo」 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

ブリュッセル市民の足「Villo」

 2009年に始まった「Villo」は、フランス・パリで行われている「Velib」(ヴェリブ)をモデルとしたサービス。それ以前からブリュッセル中心部では「サイクロシティ」と呼ばれる同様のサービスが行われていたが、それをさらに拡大したのが「Villo」である。

Villoステーションに設置されるベンディングマシーン Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 市街地約450mおきにバイクステーションが設置され、24時間いつでも利用が可能。もちろん乗り捨ても可能で、借りた場所と返す場所とがまったく異なっていても問題ない。だから、目的地近くのステーションにバイクを「返却」して、帰りは別の手段を使うといったこともできる。とにかく、ステーションで貸し借りの手続きを済ませれば利用時間内乗り放題、というわけだ。

 利用者登録も簡単。1日(1.5ユーロ)または7日(7ユーロ)、さらには1年契約(30ユーロ)とがあり、30分以内の利用は無料。これを過ぎると課金されるシステムとなっている(利用登録時に150ユーロの保証金が必要だが、破損や紛失がなければ返金される)。

近くのステーション情報はベンディングマシーンに備え付けのマップで確認 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 この「Villo」、2017年には延べ11万4000人ものユーザーが利用。レンタル台数にして延べ1800万台、推定走行総距離は580万km以上とか。注目すべきは、加入者の約8割がブリュッセル首都圏地域在住者であること。利用頻度や方法の違いこそあれど、この街に住む多くの人たちの足として機能しているといってもよいだろう。なお、公共交通機関として電車、メトロ(地下鉄)、トラム(路面電車)、バスがあるが、それと並ぶ交通手段となっているのだ。

 筆者も実際に利用をしてみた。ブリュッセル中心地の大広場「グラン・プラス」を出発し、凱旋門のある「サンカントネール公園」までを往復。途中寄り道もしたので、走行距離にして約10km。ゆっくりと走って約1時間30分のサイクリングを楽しんだ。

EUの執行機関「欧州委員会」の前で Photo: Syunsuke FUKUMITSU
サンカントネール公園で。20世紀初期に建てられた凱旋門と記念撮影 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 「Villo」に使用される自転車は7段変速。フロントバスケットがつくほか、後輪にはパンツやスカートの巻き込みを防ぐリアケースが装着される。前後のライトや盗難防止のチェーンといった、自転車に乗るうえで最低限の装備は整っている。

Villoの自転車は7段変速 Photo: Syunsuke FUKUMITSU
フロントバスケット、ライト、盗難防止チェーンも完備 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 実際に乗ってみて思ったのは、専用レーンを正しく走っていれば自動車ドライバーの多くが自転車を優先的に通過させてくれたり、信号待ちでは自動車とは別に数メートル先に自転車用停止線が引かれているなど、この街の自転車施策の在り方を体感できる、というもの。もちろん、自動車や歩行者、また自転車同士の接触には注意しなければならないが、「自転車は専用レーンを走るもの」という考え方が人々に浸透しているからこそ、レーンに自動車や歩行者が誤って入ってくることは少ないし、サイクリストも心地よく自転車を走らせることができる。交通量が多い都市部でありながら、自動車やその他交通機関、歩行者との共存がスムーズになされていることを実感する。

交差点には直進自転車用のレーンが敷かれる Photo: Syunsuke FUKUMITSU
交差点の構造を示す道路標識。自転車は自動車より前に停止線が設けられている Photo: Syunsuke FUKUMITSU
Villoで石畳の道を走る。ブリュッセル市内の至るところでパヴェに出会うこととなる Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 これは余談だが、サイクルロードレースで知られるベルギーの石畳、ブリュッセルも同様でどこかしらには必ず“パヴェ気分”を嫌でも味わえる区間が存在する。また、この地域ももともと起伏の大きい土地柄であるゆえ、それなりの急坂があることも覚えておきたい。「Villo」で使われる自転車に変速可能なギアがあるとはいえ、スポーツバイクとは違って重量感があるゆえ、慣れるまでは思いのほか“苦戦”を強いられることは肝に銘じておこう。

Villoの利用方法

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

1.「Buy a ticket」を選択(ボタンはモニター下に設置されている)。なお、言語はフランス語・オランダ語・英語からチョイス可能

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

2.「1 Day」か「7 Days」で契約期間を選択

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

3.利用規約を確認

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

4.暗証番号を決める(「0000」や「1234」のような簡単な組み合わせは認められない)

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

5.保証金150ユーロを支払う。支払いはクレジットカードのみでカード裏面に記載されるセキュリティコードの入力を求められる

6.アカウントナンバーが記されたカードがベンディングマシーンから出てくる。すると契約完了だ

7. 1の画面に戻り、「Access the service」を選択

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

8. 6で手に入れたアカウントナンバーを入力

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

9.「take out a bike」を選択

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

10.注意書きを確認。返却時にトラブルがあると150ユーロを支払うことになる

11.モニターにレンタル可能なホルダーナンバーがならぶ。借りたい自転車をこの中から選ぼう。選ぶ前に自転車のコンディション確認を忘れずに!

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

12.手続き完了!

Photo: Syunsuke FUKUMITSU

13.ホルダー備え付けのボタンを押し、自転車が外れたら乗車可能だ

Photo: Syunsuke FUKUMITSU
Photo: Syunsuke FUKUMITSU

返却はホルダーに装着し、グリーンのランプが灯ったら完了。9の画面の「consult your account」を選ぶと利用証明書が発行される

問題点は万国共通?

 そんなブリュッセルだが、サイクリスト誰もがマナーを守り、正しい自転車利用をしているかといえば、決してそうとは言い切れない。

ブリュッセル中央駅の駐輪場。駅利用者が多いにも関わらず、駐輪場のキャパシティは少なめとなっている Photo: Syunsuke FUKUMITSU
駐輪場を利用せず街灯や道路標識柱に立て掛けて駐輪される自転車もブリュッセルには多い Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 あくまでも筆者視点ではあるが、人ごみの中を猛然と走る人はいるし、自動車同様右側通行が基本にもかかわらず“逆走”する人もいる。もっといえば、街の各所にある駐輪場の利用に至っては目も当てられないくらいひどい有様。

 実のところ、元来自転車の利用率が高くなかったところから急ピッチで自転車施策を進めたため、問題点への対応は遅れがちのようだ。放置自転車も増加傾向にありながら、撤去されるのは年間で数百台にとどまっているなど、生活と自転車との結びつきが強くなる中でも考えねばならない事案はまだまだあるのだ。

 自転車の国・ベルギーでも、掘り下げていくと自転車に対する地域差や、国や街ぐるみで進行中の取り組みが数々あるのだ。それらに気づき、感じる手段は、やはり現地で自転車に乗ってみること。何かの折、ベルギー、そしてブリュッセルを観光する機会があれば、ぜひ自転車でみなさんの“世界”を広げてみてほしいと願っている。

平日午後のブリュッセル中心部・グランプラス近くのVilloステーション。多くの自転車がレンタル済みとなっている状況に、街の人々の足として活用されている様子がうかがえた Photo: Syunsuke FUKUMITSU
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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