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猪野学の“坂バカ”奮闘記<23>“坂バカ”俳優はつらいよ 2つの顔でレースも芝居も全力投球

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ときには俳優・猪野学。ドラマ『Missデビル』に出演中です! 写真提供: オフィスコバック

 「坂バカ俳優」というからには私の本業は俳優だ。俳優をしながら坂バカを続けるのは難しいことではない。しかしレースで結果を残さなければならないとなると、これがなかなか難しい。なぜなら俳優業は全くもって先が読めない不規則な生活。いったんドラマの撮影などがスタートすると、トレーニングのルーティンが組み辛くなるのだ。

ロケ先のレンタサイクルでトレーニング

 昨年は比較的スケジュールが安定し(まぁ言ってしまえば暇だったので)、走行距離を稼ぐことができた。おかげで心肺機能は高まり、好調のままシーズンに入ることができた。“マイ坂”の和田峠(距離3.5km 平均勾配10.4%)でも念願16分台を出すことができて、いよいよ表彰台か?!と思われた。

和田峠で念願の16分台に!(本人自撮り) Photo: Manabu INO

 しかしその幻想はマネージャーからの1本の電話で脆くも崩れさる。

 「来月はドラマで2週間宮崎に行ってもらいます」

 2週間だ…2週間も自転車に乗れない。これが何を意味するかお分かりになるだろう。コンディションというものは上げるのは大変だが、失うのは一瞬なのだ。私は宮崎のホテルのレンタサイクルで狂ったように毎日疾走したが、帰京した時には好調時の心拍機能は何処かへ消え失せていた。

宮崎のホテルで借りていたレンタサイクル Photo: Manabu INO

 筋力はわりとすぐに元に戻るのだが、一度落ちた心肺機能やスタミナというものはなかなか元に戻らない。元に戻そうと焦って追い込むと疲労がたまり、ある日突然心拍を上げられなくなる。負のスパイラルだ。耐え難いことだが、仕事なのだから仕方ない。坂バカ俳優の運命だ。

乗鞍2日前に芝居論で号泣

 そしてあまり知られていないが、ドラマの撮影というのはかなりのハードワークだ。スケジュールやセットの都合で1日に朝から晩まで何シーンも撮影することが多い。

 普通のドラマの撮影ならまだしも、私が共演することが多い事務所の先輩、西田敏行氏はアドリブが多いことで有名。覚えたセリフを言えば良いというわけには行かない。本番で突然とんでもない事を言うときもある。もちろん上手く返さないといけない。普通の撮影より何倍もの集中力とセンスが必要になり、仕事のTSS (※トレーニング・ストレス・スコア)は急上昇する。
※TSS:トレーニングでどれだけ体に負担がかかったかを数値化した指標

事務所の大先輩、西田敏行さん。『Missデビル』では西田さんの秘書役を演じています 写真提供: オフィスコバック

 そして撮影が終わるとステージを居酒屋へと移し、その日の撮影を振り返る。あれは忘れもしない2015年、初めての乗鞍ヒルクライム挑戦の前々日のことだった。いつものようにドラマの撮影を終えて先輩から飲みのお誘いをいただいた。乗鞍の2日前だが先輩のお誘いは絶対だ。これも坂バカ俳優の運命だ。

 だいぶお酒も進んだ頃にその日の芝居の話になった。大先輩からの有り難い御言葉、普段なら有り難く拝聴するのだが、その夜の私は乗鞍2日前のプレッシャーからか悪酔いしたらしく、なぜか大先輩に対して口答えをしてしまった。

 先輩は少し驚いた様子だったが、芝居のディスカッションが大好きな方だ。芝居論はかなり白熱。最終的に私は見事に論破され、先輩に口答えした不甲斐なさから居酒屋で号泣するという大失態を演じてしまった。乗鞍2日前に俺は何をやっているのだ。自分が酷く小さくちっぽけな存在に思えた。

坂バカを救うのは坂バカ

 しかし乗鞍は待ってはくれない! 翌朝、ボロボロのメンタルと二日酔いのまま特急あずさに飛び乗った。気持ちを切り替えてレース前日の会場ロケに臨むが、昨夜の失態が甦り、涙でメガネが曇る。こんな状態で明日のレースはどうなるのだろうか?

ボロボロの筆者。眼鏡も涙で曇る 写真提供:NHK/テレコムスタッフ

 この年の目標は上位10%に入ること…。到底成し遂げられる心持ちではないと絶望していると一人の坂バカさんが「猪野さん一緒に写真撮って下さい」と言って来た。断る理由なんてなく、一緒に撮っていると、次から次へと写真撮影を求められるではないか! 気が付くと写真撮影の長蛇の列ができていた。乗鞍ガールより長い長蛇の列だ!

 そして皆さん口々に「猪野さん応援してます!」「猪野さんにいつもパワーもらってます」「猪野さんいつも明るくていいですね!」と励ましの言葉をくれるではないか。

会場ロケ中、声をかけてくれる参加者の皆さん(写真は2017年) Photo: Kyoko GOTO
皆さんの応援が力に変わります(写真は2017年) Photo: Kyoko GOTO
写真提供:NHK/テレコムスタッフ

 そのとき、まさにパワーをもらっているのは私の方だった。ドン底にあった私の心はむくむくと起き上がり、何だかわけの分からない熱いものが込み上げて来て、いつもの“バカさ加減”が戻って来た! 坂バカは坂バカを救うのだ。

 そして乗鞍に来ていた坂バカの皆様の暖かい御言葉のおかげで、私は翌日のレースで上位10%に入るというその年の目標を見事に達成することができた。

目指すは上位10%!声援を力に走る 写真提供:NHK/テレコムスタッフ
乗鞍ガールともご一緒できてご機嫌の筆者 写真提供:NHK/テレコムスタッフ

ドラマ『Missデビル』に出演中

 乗鞍が終わり、再びドラマの撮影で先輩と再会した時に恐る恐る先日の非礼を詫びた。すると先輩は「芝居には、あぁいうディスカッションは必要だよな」と暖かく微笑んでくれた。涙が出るほど嬉しかった。

 何の因果か、偉大な先輩の近くで演じさせて頂けるのも俳優としての私の運命なのだろうか? いつかその意味が解る日が来るのだろうか? 坂バカ俳優の旅は続く。

 そんな先輩と私が出演するドラマ!『Missデビル』(日テレ)が毎週土曜夜10時に絶賛放送中です。土曜の夕方はNHKBS『チャリダー★』、夜は『Missデビル』で、皆様ひとつ宜しくお願い申し上げます。

(写真提供:NHK/テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00〜18:25)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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