アンディ・シュレク以来のルクセンブルク人王者誕生鮮やか逃げ切り ユンゲルスが20km独走でリエージュ~バストーニュ~リエージュ初優勝

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 春のクラシックシーズンの最後を飾る、第104回リエージュ~バストーニュ~リエージュは4月22日、ベルギー南部のワロン地域を舞台に行われた。優勝争いは残り20km、下りを利用してペースアップを図ったボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ)がそのまま逃げ切り、この大会初優勝。同時にキャリアで初めてとなるクラシックレースのタイトルを手にした。

20km独走でリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ初優勝を決めたボブ・ユンゲルス Photo: Yuzuru SUNADA

世界最古のクラシックレース「ラ・ドワイエンヌ」

 リエージュ~バストーニュ~リエージュが初開催されたのは1892年。世界最古のクラシックレースといわれ、またの名を「ラ・ドワイエンヌ」(最古参)とする。ワンデーレースの中でもきわめて格式が高い世界5大クラシック「モニュメント」の1つにも数えられている。

緑豊かなベルギー・ワロン地域を走る Photo: Yuzuru SUNADA

 ベルギー・オランダの丘陵地帯で行われるアルデンヌクラシックの中でも特に難易度が高く、スタートからフィニッシュまでアップダウンの連続。起伏の激しいレースであることは、獲得標高が約4000mという数字に現れる。

 コースは、ベルギー南部・ワロン地域の主要都市リエージュを出発し、しばし南下したのちバストーニュで折り返し。北へと戻り、リエージュの隣町であるアンスにフィニッシュする。毎年細かなルートの変化はあるが、今回はレース距離258.5kmの中に11カ所の登坂セクションを設定。1km程度の区間から、198km地点に控えるコル・デュ・ロジエのように4.4kmもの長さに及ぶものまで。いずれも勾配は5%以上あり、10%を優に超えるセクションもある。

 勝負を左右するのは、コート・ド・ラ・ルドゥット(222.5km地点、登坂距離2km、8.9%)。コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン(239km地点、1.3km、11%)、コート・ド・サンニコラ(253km地点、1.2km、8.6%)。この3カ所へは、プロトン内での位置取り争いが激しくなるほか、集団の絞り込みも確実に行われる。また、過去にはこれらの区間から飛び出した選手がそのまま逃げ切りを決めるなど、大会の歴史にも多大な影響を与えている。

9人がレースを先導

 他のレースにはない緊張感の中、リエージュ中心部の聖ランベール大聖堂前をスタートしたプロトン。逃げはすぐに決まり、9人がレースを先導した。

リエージュのスタートラインに並んだ選手たち Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 リードしたのは、ロイック・ヴリーヘン(ベルギー、BMCレーシングチーム)、アントニー・ペレス(フランス、コフィディス ソリュシオンクレディ)、マーク・クリスティアン(イギリス、アクアブルースポート)、キャスパー・ペデルセン(デンマーク、アクアブルースポート)、フロリアン・ヴァション(フランス、チーム フォルトゥネオ・サムシック)、ジェローム・バウニーズ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)、ポール・オウスラン(フランス、ディレクトエネルジー)、マティアス・ヴァンゴムペル(ベルギー、スポートフラーンデレン・バロワーズ)、アントワーヌ・ワルニエ(ベルギー、WBアクアプロテクト・ヴェランクラシック)。

 最大で6分10秒までタイム差を広げたが、以降はUAEチーム・エミレーツを中心にメイン集団が本格的にレース全体をコントロール。その後、モビスター チームも加わると、逃げと集団とのタイム差は着実に縮まっていった。

スタート直後からレースをリードした9人の逃げグループ Photo: Yuzuru SUNADA

 中間地点を過ぎ、レースが後半戦へと入ると逃げのメンバーにも脚の差が如実に表れる。4つ目の登坂区間であるコート・ド・ポン(168km地点、1km、10.5%)では、ヴァンゴムペルとワルニエが後退。この頂上手前でペデルセンがペースアップを図り、そのまま独走を開始する。

 だが、ペデルセンの独走は長くは続かない。6つ目の登坂区間コート・ド・ラ・フェルム・リベール(180km地点、1.2km、12.1%)の上りで失速すると、数秒差で続いていた選手たちが労せずパス。そのままヴリーヘン、ペレス、クリスティアン、バウニーズ、オウフランの5人がトップに立った。

重要区間に向かってメイン集団がペースアップ

 フィニッシュまで残り45kmを着ると、メイン集団の雰囲気に変化が表れた。その先に待つコート・ド・ラ・ルドゥットに向かって、スピードが上がっていき、有力チームを中心にポジション争いも本格化した。

徐々にペースアップしていったメイン集団 Photo: Yuzuru SUNADA

 勢いそのままにコート・ド・ラ・ルドゥットの上りに入る。牽引するのはクイックステップ、モビスター チーム、チーム スカイといっ充実した戦力を有するチーム。だが、チーム スカイは2年前の覇者であるワウト・プールス(オランダ)がこの上りで脱落。これにより、違う選手での勝負が確実となった。

 一方の逃げも、この頃にはバウニーズ1人となっていた。しばらくは粘ったが、残り22kmでメイン集団がキャッチ。200km以上にわたりレースを先行したが、ここで力尽きた。

 いよいよ優勝争いを意識しての動きが始まったメイン集団。コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンに向けてスピードを上げたのはバーレーン・メリダだ。集団を縦長にして、10カ所目の登坂区間へと突入した。

コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンでトップに立ったボブ・ユンゲルスにマイケル・ウッズが続く Photo: Yuzuru SUNADA

 各チームが様子を見合う中、そのムードをかいくぐってフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が飛び出した。集団全体の反応が遅れたが、セルジオルイス・エナオ(コロンビア、チーム スカイ)が力ずくでジルベールに合流。これにより先頭2人のペースが緩み、集団がいったんは1つに戻った。

 続いて、ジルベールのためにエナオのチェックに入っていたユンゲルスが先頭に立ち、そのままスピードアップ。今度はマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が対応。他選手も追随したが、こうした動きによって先頭集団の人数は大幅に減ることとなる。

残り20km 下りを利用して独走に

 コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンの頂上を過ぎ、残り距離20kmになろうかというタイミングだった。集団のペースが緩んだのを機に、ユンゲルスが下りを利用してペースアップした。これを見送る形にしてしまった集団は牽制気味に。先頭で逃げるユンゲルスに対し、約20人が追う構図となったが、タイム差は広がる一方となった。

 集団はライバルの動きを見ては、単独でユンゲルスへのブリッジを狙う選手が続出する。ダニエル・マーティン(アイルランド、UAEチーム・エミレーツ)や、ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)が強力なアタックを繰り出すが、そのたびにチェックに入ったのがユンゲルスのチームメートであるジュリアン・アラフィリップ(フランス)。ライバルを抑えるだけでなく、ユンゲルスに追いついた場合でも数的有利な状況を作り出せるよう、チーム戦術で展開していく。集団が出入りを繰り返す間、スピードに乗ったユンゲルスはタイム差を38秒として残り10km地点を通過した。

 そして、迎えた最後の登坂区間コート・ド・サンニコラ。ユンゲルスは幾分スピードに陰りが見え始めるが、懸命に脚を回す。集団では、イエール・ヴァネンデル(ベルギー、ロット・スーダル)がアタック。集団は反応に遅れ、またも牽制状態に。しばらくして、緩斜面でアラフィリップがヴァネンデルめがけて飛び出すと、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)も続く。しかし勢いに乏しく、集団へと引き戻される。代わってロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)が猛然とスピードを上げ、これに乗ったウッズと協調して追撃態勢を築いた。

最後の登坂区間コート・ド・サンニコラを独走で上るボブ・ユンゲルス Photo: Yuzuru SUNADA

史上3人目のルクセンブルク人覇者に

 一時はヴァネンデルにタイム差19秒まで迫られたユンゲルスだったが、フィニッシュへ向かう上りで息を吹き返した。逆に後続とのタイム差を広げ、最終の左コーナーを抜けた。

逃げ切りを決めたボブ・ユンゲルスは力強くガッツポーズ Photo: Yuzuru SUNADA

 フィニッシュまでの直線で優勝を確信したユンゲルス。力強く右腕を掲げ、優勝のポーズを決めた。

 25歳のユンゲルスにとって、クラシックレースでの優勝は初めて。近年はグランツールでの進境が著しいが、ワンデーレースでの強さも証明した。クイックステップフロアーズ全体で見ても今シーズンは早くも27勝目。うち11勝がワンデーレースで得たものだが、また1人、ビッグレースのタイトルホルダーとして上位戦線に自信をもって送り出せる選手が誕生した。

 ちなみに、ルクセンブルク人選手では1954年のマルセル・エルンツァー、2009年のアンディ・シュレクに続くラ・ドワイエンヌ覇者に。奇しくも、シュレクとは約20kmを独走する勝利である点でも共通した。

ユンゲルス「王座を受け継ぐことができ感激している」

 先に控えるグランツールを意識してか、今シーズンはここまでビッグリザルトがなかったユンゲルス。アルデンヌクラシックの時期に入ってからもアシストに終始していた。レース後の記者会見でも、「チームキャプテンはアラフィリップだった」と戦前のチームオーダーについて説明した。

ボブ・ユンゲルスはレース後の記者会見で「タイムトライアルの走り方が生かされた」と勝因を語った Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 そんな中でやってきた千載一遇のチャンス。独走となってからは、「ペース配分が重要なのは理解していた。そこで生かされたのはタイムトライアルの走り方。(最後の登坂区間である)コート・ド・サンニコラでは無理に攻めるべきではないと思っていたし、後続に追いつかれないよう注意も必要だった」と、タイムトライアルスペシャリストならではの独走術がレース結果に反映されたことに胸を張った。

 また、前夜にはアラフィリップとともに、2009年のシュレクと2011年のジルベールの優勝レースをチェックし、戦術に幅を持たせようと確認し合っていたことを打ち明けた。そして、「アンディと同じ方法で勝ってしまった。この2人(シュレクとジルベール)が獲得した王座を受け継ぐことができて心から感激している」と心情をあらわにした。

 ユンゲルスに届かずも、2位争いも熾烈だった。単独で追っていたヴァネンデルが最終コーナー目前で失速。代わって表彰台のポジションを争ったのがウッズとバルデ。マッチスプリントはウッズに軍配が上がり、2位を獲得した。

2位争いを制したのはマイケル・ウッズ(左)。ロマン・バルデが3位に続いた Photo: Yuzuru SUNADA

 そのウッズ、記者会見では開口一番「最高の気分だよ」と笑顔満点。コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで動いたのは予定通りだったというが、「調子のよさを確信したので、少人数でのスプリント勝負に切り替えることにした」と戦術を変更。最終盤でバルデのアタックに反応したことを問われ、「いずれ彼が仕掛けるだろうと思っていた」との読みが当たったことを説明。そして、2位という順位については「自分自身に勝った結果。まだまだ強くなれると感じているし、今後どのレベルまで達することができるか楽しみで仕方がない」と語った。

 3位に続いたバルデも「年々優勝に近い順位を得られて満足している」と充実の表情。さらに「コート・ド・サンニコラでどのポジションを走っているかが順位に反映されると考えていた。今日一番強かったユンゲルスとの差は、そこで明確になった」とその走りを賞賛。「今日のレースはとても楽しかった」との一言で会見を締めくくった。

女子はファンデルブレッヘンが2連覇

女子はアンナ・ファンデルブレッヘンが2連覇 Photo: ASO/Thomas MAHEUX

 昨年から開催されている女子レースは、バストーニュからリエージュまでの136kmで争われた。優勝したのはアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ、ブールス・ドルマンスサイクリングチーム)。最後はアマンダ・スプラット(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット)を引き離して、単独でフィニッシュラインを通過。2連覇を達成した。

 日本人選手も2名出場し、與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)がチーム最上位となる35位、萩原麻由子(アレ・チポッリーニ)は73位でそれぞれフィニッシュしている。

◇         ◇

 サイクルロードレースシーズンは、これからステージレース中心のレーススケジュールへと移る。UCIワールドツアーでは、24日からツール・ド・ロマンディ(スイス)が始まるほか、5月4日からは今年最初のグランツールであるジロ・デ・イタリアが幕を開ける。クラシックシーズンとは違った醍醐味のレースが繰り広げられることだろう。今後のレースも楽しみは満載だ。

上位3選手の表彰。左から2位マイケル・ウッズ、1位ボブ・ユンゲルス、3位ロマン・バルデ Photo: Yuzuru SUNADA

リエージュ~バストーニュ~リエージュ結果
男子(258.5km)

1 ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、クイックステップフロアーズ) 6時間24分44秒
2 マイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック) +37秒
3 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)
4 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、クイックステップフロアーズ) +39秒
5 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)
6 エンリーコ・バスパロット(イタリア、バーレーン・メリダ)
7 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)
8 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ミッチェルトン・スコット)
9 セルジオルイス・エナオ(コロンビア、チーム スカイ)
10 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)

女子(136km)
1 アンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ、ブールス・ドルマンスサイクリングチーム) 3時間34分23秒
2 アマンダ・スプラット(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット) +6秒
3 アンネミーク・ファンフルーテン(オランダ、ミッチェルトン・スコット) +58秒
4 アシュリー・ムールマン(南アフリカ、サーヴェロ・ビグラプロサイクリングチーム) +1分0秒
5 エレン・ファンダイク(オランダ、チーム サンウェブ) +1分13秒
6 サブリナ・ストゥルティエンス(オランダ、ワオウディールスプロサイクリング)
7 ポーリン・フェランプレヴォ(フランス、キャニオン・スラムレーシング)
8 ミーガン・ガルニエ(アメリカ、ブールス・ドルマンスサイクリングチーム)
9 シャラ・ジロー(オーストラリア、エフデジ・ヌーヴェルアキテーヌ・フチュロスコープ)
10 ロゼッタ・ラット(イタリア、サイランスプロサイクリング)
35 與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ) +2分38秒
73 萩原麻由子(アレ・チポッリーニ) +6分24秒

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