世界で最も美しいクラシック「ラ・ドワイエンヌ」春のクラシック最終戦リエージュ~バストーニュ~リエージュ バルベルデは偉業に挑む

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 3月から本格化したサイクルロードレース春のクラシックシーズン。ビッグクラシックに限って言えば、残すところあと1戦となった。最後にして最大の難度と勝者に与えられる栄誉。4月22日開催のリエージュ~バストーニュ~リエージュは、ひときわ美しく、そして威厳ある王者を生み出し続けてきた。104回目を迎える今年は、誰が“春の主役”となるのか。現地・ベルギーからの情報を交えながら展望していこう。

アルデンヌの丘陵地帯を行くリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。緑豊かな中でレースが行われる =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2017、2017年4月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

世界最古のクラシックレース

 リエージュ~バストーニュ~リエージュが初開催されたのは1892年。世界最古のクラシックレースといわれ、またの名を「ラ・ドワイエンヌ」(最古参)とする。ワンデーレースの中でもきわめて格式が高い世界5大クラシック「モニュメント」の1つにも数えられている。

 コースの難易度が高い傾向にある春のクラシックの中でも、特に起伏が厳しく、今大会のレース距離258.5kmには全11カ所の登坂セクションがセッティングされる。リエージュをスタート後南下し、バストーニュを折り返すようにしてリエージュの隣町・アンスへと戻るルートには、常にアップダウンが待ち構える。その獲得標高は約4000m。アルデンヌクラシックは丘陵地帯が舞台でありながらスピードに富んだ展開となることが多いが、リエージュ~バストーニュ~リエージュだけは別格。スピードと登坂力を兼ね備える、オールラウンダーやグランツールレーサーでもレース展開次第ではチャンスが訪れる。

2017年大会の上位3選手。左から2位ダニエル・マーティン、1位アレハンドロ・バルベルデ、3位ミカル・クウィアトコウスキー =2017年4月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

独走か集団スプリントか 優勝争いは果たして!?

 勝負を左右する要素となる、11カ所の登坂セクションを見ていこう。

72km地点 コート・ド・ボンヌル 登坂距離2.4km、平均勾配5.8%
109km地点 コート・ド・サン=ロック 1km、11.2%
152km地点 コート・ド・モン=ル=ソア 4km、6.1km
168km地点 コート・ド・ポン 1km、10.5%
172km地点 コート・ド・ヴェルヴォー 1.1km、6.8%
180km地点 コート・ド・ラ・フェルム・リベール 1.2km、12.1%
198km地点 コル・デュ・ロジエ 4.4km、5.9%
211km地点 コル・デュ・マキザール 2.5km、5%
222.5km地点 コート・ド・ラ・ルドゥット 2km、8.9%
239km地点 コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン 1.3km、11%
253km地点 コート・ド・サンニコラ 1.2km、8.6%

 上記のうち、コート・ド・ラ・ルドゥットは18日のラ・フレーシュ・ワロンヌのレース前半にも登場するなど、共通するルートも存在する。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2018 コースプロフィール ©︎A.S.O.

 おおむねレース後半に凝縮される登坂セクションだが、傾向としてはコート・ド・ラ・ルドゥットやコート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで有力チームの準エースクラスがペースを上げて、プロトンの人数を絞り込むといった流れが多い。そして、精鋭のみとなった集団がフィニッシュへの上りを猛然と突き進み、アンスに設けられるフィニッシュラインめがけて少人数でのスプリント、といったケースが増えてきている。

 いささかマンネリ化しつつあるこのレースの優勝争いだが、これに異を唱えたのがUCI(国際自転車競技連合)会長のダヴィ・ラパルティアン氏。「かつては波乱に満ちたレースであった」と指摘し、「早めに仕掛けて勝負に出る選手が現れることを期待したい」とコメント。

2009年大会優勝のアンディ・シュレクは早めの仕掛けで独走に持ち込んだ伝説的勝利だった =2009年4月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 確かに、2009年にはアンディ・シュレク(ルクセンブルク、当時サクソバンク)が約20kmを独走する伝説的勝利を挙げ、2012年にはマキシム・イグリンスキー(カザフスタン・当時アスタナ プロチーム)が驚異的な追い上げからの逆転、翌2013年にはダニエル・マーティン(アイルランド、当時ガーミン・シャープ)が終盤の競り合いを制してそれぞれ単独走で勝利を挙げている例もある。一方で、近年は戦術の多様化や、選手間・チーム間の実力差が拮抗していることも忘れてはならない。そうしたことから、捉え方によっては「マンネリ化」となる似たようなレース展開となっていることも理解しておきたい。

 果たして今年はどんなレースが繰り広げられるのか。結果的に独走であろうとも、複数の選手がなだれ込むようなフィニッシュであろうとも、いずれにせよ戦いに色を加えるのは11カ所の登坂セクションであることは間違いない。

偉業かかるバルベルデ

 このクラシックシーズンは、いつにも増して戦力が充実したチームがそろう。その様相はアルデンヌの時期に入っても同様で、今大会も「チーム対チーム」の構図が基本となるだろう。

戦力では群を抜くモビスター チーム。アレハンドロ・バルベルデ(中央)をエースに、アシスト陣も力のある選手がそろう =ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 現地での評判が最も高いのは、やはりモビスター チーム。前回覇者のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)を擁し、アシストにはミケル・ランダ(スペイン)、そしてパリ~ニース個人総合優勝のマルク・ソレル(スペイン)も満を持してアルデンヌ班に合流する。

 先のアムステル・ゴールド・レース、ラ・フレーシュ・ワロンヌと優勝こそ逃したが、バルベルデ個人、そしてチームとその強さは一目瞭然。実力的に優勝を狙うだけの力を有する選手がそろっており、そんな選手たちがバルベルデのアシストに回る贅沢さ。チームは「バルベルデ一択」で意思統一が図られている。

 ポイントは重要な局面までをどのように構築するか。ラ・フレーシュ・ワロンヌでは、ウィネル・アナコナやカルロス・ベタンクール(ともにコロンビア)がレースを作り、終盤からはランダがプロトン牽引を担ったが、彼らの消耗が少し早かった点は否めない。ライバルチームがレースを活性化しようと試みる中でどう対応し、勝負どころでバルベルデに託せるかにかかってくる。

5度目の優勝がかかるアレハンドロ・バルベルデ。エディ・メルクス氏に並ぶ大会史上最多タイ記録に挑む =ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、バルベルデは優勝となればこの大会5度目の制覇。それは、エディ・メルクス氏に並ぶ大会史上最多タイ記録を意味する。大会前のインタビューでは、「フィニッシュ前250mから200mの間にトップに立てれば、誰も前に行かせることはないだろう」と絶対の自信を見せる。すでに来年はツール・デ・フランドル、2年後は東京五輪をターゲットにすることを宣言。この大会への注力が今年で最後になるかもしれないことを匂わせているだけに、5回目の戴冠にかける意気込みは並々ならぬものに違いない。

クイックステップフロアーズはラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝のジュリアン・アラフィリップに勝負を託す =2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 これに続くのは、クラシックシーズン絶好調のクイックステップフロアーズ。ラ・フレーシュ・ワロンヌではジュリアン・アラフィリップ(フランス)が初優勝。かつてのクラシック王者フィリップ・ジルベール(ベルギー)の好アシストもあり、“新旧交代”の意味合いも強い一戦だった。さらにこのレースでは、マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)が約40kmの逃げから最高のアシストに転じる離れ業を演じた。グランツールレーサーのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)や、スピードのあるピーター・セリー(ベルギー)らと合わせ、計算できる選手として数えられるようになったあたりは心強い。

 アラフィリップはこの大会に向けて、「ラ・フレーシュ・ワロンヌとはまったく違うレースだし、自分は優勝候補筆頭だとは思わない」と謙遜する。ただ、バルベルデにして「対応が一瞬でも遅れると勝ち目がない」と言わせた爆発的なスピードは、ここぞという場面で生きてくるに違いない。

好調アスタナ プロチームの原動力はミケル・ヴァルグレンの強さにある =アムステル・ゴールド・レース2018、2018年4月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同じくクラシックシーズン好調のアスタナ プロチーム。この躍進を支えるのは、26歳のミケル・ヴァルグレン(デンマーク)だ。15日のアムステル・ゴールド・レースでの初優勝は記憶に新しいが、今シーズンは2月24日の石畳系レース、オムループ・ヘット・ニュースブラッドでも優勝。パヴェ・丘陵どちらでも戦えるマルチぶりは、いよいよ本物となってきた。

 そのヴァルグレン、リエージュには自信を見せる。2012年と2013年には23歳未満対象のリエージュ~バストーニュ~リエージュ・エスポワールで2連覇。以来、アルデンヌクラシックでの活躍を約束される立場にあるのだ。ラ・フレーシュ・ワロンヌではヤコブ・フルサング(デンマーク)のアシストに回ったため順位こそ50位だったが、「レース内容はよかった」と満足。アシストには貢献著しいオマール・フライレ(スペイン)やタネル・カンゲルト(エストニア)らが控え、ヴァルグレンを要所で解き放つ構えだ。

ダークホースとして注目のロット・スーダル。ティム・ウェレンスがエースとなる公算だ =ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ここにダークホースとして加わりそうなのが、ロット・スーダル。ラ・フレーシュ・ワロンヌではイエール・ヴァネンデル(ベルギー)が3位に入り注目を集めたが、今度は脚質的にティム・ウェレンスやティシュ・ベノート(ともにベルギー)の出番となりそうだ。

 ウェレンスは得意とする短い上りでのハイペース巡航でライバルに脅威を与える。理想は独走勝利。早めの仕掛けで後続を振り切ることができれば、数秒差での逃げ切りといったシナリオが成り立つ。ラ・フレーシュ・ワロンヌでは不発に終わり、感情をあらわにしていたベノートも、タイプ的にはリエージュ向き。まずはウェレンスを前方へと送り出すことがチームオーダーになると見られるが、プラン変更によってベノート勝負となる戦術も大いに考えられる。

“マンネリ打破”の急先鋒候補も続々

 もちろん、他の選手たちも戦力の整うチームの動きをただ黙って見ているだけ、なんてことはないだろう。どのようにしてレースを動かすか、有力チームの牙城を崩すかを練りに練ってコースへと繰り出す。

“脱マンネリ”の一番手として名が挙がるヴィンチェンツォ・ニバリ。ラ・フレーシュ・ワロンヌでも見せ場を作った =2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 マンネリとの指摘を打ち破る大いなる可能性を持つのが、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)。ラ・フレーシュ・ワロンヌではレース後半のアタックで、有力チームの焦りを呼んだ。今年3月のミラノ~サンレモでも独走での逃げ切り勝利。スプリントになれば分が悪いが、それを補えるだけのパンチ力と独走力、そして勝負勘を持つ。

 このレースを制することができれば、実に6年越しの優勝となる。2012年大会では残り1kmまで逃げ続け、王座の椅子が見えていながらイグリンスキーの猛追に屈してしまった。このときはコート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで飛び出してのものだった。

 クラシックレースにおいてはニバリの代名詞となりつつある「早めのアタック」。リエージュでも試みることだろう。前回5位のヨン・イサギレ(スペイン)がラ・フレーシュ・ワロンヌでは不調と、少々心配な点もあるが、ジョヴァンニ・ヴィスコンティやエンリーコ・ガスパロット(ともにイタリア)、ゴルカ・イサギレ(スペイン)といったタレントが加わる布陣はモビスター チームにも匹敵する。もしニバリを早めに逃がしてしまうようだと、彼らが集団の抑えに回ることから、ライバルチームは苦戦を強いられることになるだろう。

ワウト・プールスは優勝した2016年の再現なるか =2016年4月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2年前のチャンピオン、ワウト・プールス(オランダ)率いるチーム スカイは、前回3位のミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)とセルジオルイス・エナオ(コロンビア)が好調。プールスはラ・フレーシュ・ワロンヌでは早々と遅れてしまったが、得意のレースに向けて修正したいところ。さらには、ゲラント・トーマス(イギリス)がメンバー入り。意外にもこの大会初出場だが、どこまでコースに適応するか見もの。

このアルデンヌクラシック好調のロマン・クロイツィゲルも優勝候補の1人 =アムステル・ゴールド・レース2018、2018年4月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 このアルデンヌクラシックではたびたび見せ場を作るロマン・クロイツィゲル(チェコ、ミッチェルトン・スコット)も優勝争いに名乗りを挙げる。ラ・フレーシュ・ワロンヌで見せ場を作ったジャック・ヘイグ(オーストラリア)やこの時期にめっぽう強いミヒャエル・アルバジーニ(スイス)らが盛り立てる。クロイツィゲルも勝ちパターンとしては早めの仕掛けが重要となる。

ロマン・バルデのようなグランツールレーサーにもリエージュのコースは適している =ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツールを主戦場とする選手たちも、オールラウンドに力を発揮できる能力を持つだけにリエージュのコースには適している。バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)とロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)は、ラ・フレーシュ・ワロンヌでそれぞれ6位と9位にまとめた。さらには、イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)も現地で好調が伝えられている1人。ラ・フレーシュ・ワロンヌでは早々に脱落したマーティンは、本来“リエージュ男”。2013年の優勝、昨年の2位にとどまらず、たびたび上位戦線をにぎわせてきた。このレースにピークを持ってきていても何ら不思議ではない。

スプリンターのマイケル・マーシュズ。そのスピードでアルデンヌクラシックの概念を大きく覆せるか =ラ・フレーシュ・ワロンヌ2018、2018年4月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、このリエージュ~バストーニュ~リエージュ、いやアルデンヌクラシックの概念を根底から覆す可能性を秘めた男がもう1人存在する。その名は、マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ)。スプリンターでありながらアルデンヌクラシックに身をささげる彼は、昨年のこの大会で4位。先日のラ・フレーシュ・ワロンヌでも5位と、激坂「ユイの壁」をクライマーと肩を並べて上ってしまったのだ。最終局面に絶対の自信を見せる王者バルベルデといえど、もしマシューズを引き連れてしまうようだと、スプリント力からして勝ち目はなくなる。「上れるスプリンターここにあり」を実証して、リエージュ~バストーニュ~リエージュに新たな歴史を作ることだって、マシューズなら可能なのだ。

◇         ◇

 レースが行われる4月22日のリエージュの天気は曇りところにより雷雨で、予想最高気温は25度との予報。ここしばらくの好天で、この時期にしては珍しく気温25度を超える夏日が続いたが、天候次第では荒れたレース展開になることも考えられる。そうなれば、サバイバル化した中で強さを発揮する選手に勝利の女神は微笑むことだろう。

 また、併催の女子レース「リエージュ~バストーニュ~リエージュ・フェミニン」には、與那嶺恵理(ウィグル・ハイファイブ)、萩原麻由子(アレ・チポッリーニ)がエントリー。こちらもUCIウィメンズワールドツアーとして行われる、格式の高いレースとなっている。

 なお、リエージュ~バストーニュ~リエージュのフィニッシュラインがアンスに敷かれるのは、ひとまず今回が最後。つまり、数々のドラマを生んだ最後の上りからの左コーナーは終わりのときを迎える。来年からはリエージュがフィニッシュ地点として、1991年以来の復活となることが決定している。

数々の名勝負を見守ったアンスのフィニッシュラインは今年で見納め。2019年からは28年ぶりにリエージュへと帰還する =リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2017、2017年4月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 世界で最も美しいといわれるクラシックレース、リエージュ~バストーニュ~リエージュは、現地時間午前10時10分(日本時間午後5時10分)スタート。フィニッシュは現地時間午後4時30分(日本時間午後11時30分)過ぎと見込まれている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

関連記事

この記事のタグ

UCIワールドツアー

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

ショップナビ

スペシャル

自転車協会バナー
CyclistポケットTシャツ

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載