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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<250>サガンの冴えわたった勝負勘 パリ~ルーベ勝敗のポイントを探る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 「幼いころからパリ~ルーベ、世界選手権、ツール・デ・フランドルで勝つことを夢見ていた」。4月8日に行われたパリ~ルーベを制し、その夢を成就させたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)。この大会で悲願の初優勝を挙げた背景には、今年の北のクラシックにおける傾向から導き出した冷静な判断があった。卓越した勝負勘と持ち前のフィジカルを生かしてライバルの動きを封じ込めたその走り。今回は優勝を懸けて争った選手たちのレース後コメントとともに、勝敗のポイントを探ってみる。

パリ〜ルーベ初優勝に喜びを爆発させたペテル・サガン。勝負勘が冴え渡った Photo: Yuzuru SUNADA

過去数年のビッグネームと同じロングスパートで勝利

 サガン擁するボーラ・ハンスグローエは、ここまでの石畳系クラシックと同様にレース序盤からアシスト陣がメイン集団のコントロールに加わり、レースを構築した。

ペテル・サガンの優勝に賭けてアシストに徹した選手たち。マルクス・ブルグハートの後ろにダニエル・オスが見える Photo: Yuzuru SUNADA

 4月1日のツール・デ・フランドルではこうしたスタイルが影響してか、勝負どころまでにアシストがその役割を終えてしまっていた。それゆえ、残り28kmでのニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップフロアーズ)らのアタック時にサガンのサポートができたのは、すでに消耗していたダニエル・オス(イタリア)のみ。レースが動く局面でのアシストの手薄さが浮き彫りとなっていた。

 また、1度ライバルのアタックを許してしまうと、メイン集団に残された多くの選手がサガンの動きをチェックする一方となり、集団に残された選手同士で協調しての追撃態勢を整えられない状況に陥りがちになっていた。

 それでも、これまでと戦術の大幅変更を施さずにパリ~ルーベへと臨んだボーラ・ハンスグローエ。サガンがどのように勝利までのシナリオを組み立てるか注目されたが、結果的にここ数戦での傾向を踏まえ、それを逆手にとったものとなった。

残り54kmを残してメイン集団を飛び出したペテル・サガン(左)。逃げグループ合流後はシルヴァン・ディリエと協調体制を組んだ Photo : Yuzuru SUNADA

 レース後のコメントでサガンは、「独走に持ち込みたいと考えていたので、その瞬間を見定めて実行した。コースの大部分が追い風だったこともプラスに働いた」と述べている。また、「(後続が)5~6人のグループに絞られるようなら、協調体制を整えることはできないだろうと思った」とも。実際にサガンが飛び出してからは、メイン集団ではアタックが散発し、上手く先頭交代がなされない悪循環となった。サガンにとっては、ライバルの動きに苦しめられたフランドルとは逆の展開に持ち込むことができたことになる。

 また、サガンが逃げグループに合流後、最終的に優勝を争うことになるシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)と協調できたことも展開に大きく左右した。レース後半になり、グイグイ前へと進むサガンに対し、懸命に粘るディリエの構図が顕著になっていったが、それでも強引に単独走には持っていかず、長時間逃げ続けたディリエの動きを見ながら、確実に勝てる状況を作り出した点もポイントに挙げられるだろう。

フィニッシュ直後、マッチアップしたペテル・サガン(右)とシルヴァン・ディリエが健闘を称え合う Photo: Yuzuru SUNADA

 ディリエとのマッチアップの末に勝利を収めたサガンだが、フィニッシュまで50km以上残したタイミングでのロングスパートを決めた点でいえば、2010年のファビアン・カンチェラーラ(スイス)や2012年のトム・ボーネン(ベルギー)の勝ち方を彷彿とさせるものがある。また、昨年のフランドルではフィリップ・ジルベール(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が55kmを独走したケースもある。ここ数年でビッグネームが見せた「驚異の逃げ」に、サガンも肩を並べた。

 フランドル後には協調しなかったライバルへの不満を口にし、過去に同様の経験をしたボーネン氏が苦言を呈するなど、発言が少しばかり物議を醸したサガンだったが、最後は自らの力をもってきっちりと勝利を収めたあたりはさすが。走りで表現することこそ、ペテル・サガンの真骨頂なのである。

勝てない間はライバルへの不満を口にすることもあったペテル・サガンだが、パリ〜ルーベは自らの力を持ってしてライバルをねじ伏せた Photo: Yuzuru SUNADA

殊勲のディリエ 得意の逃げでサプライズ起こす

 今大会最大のサプライズは、ディリエの好走で決まりだろう。約210kmにわたり逃げ続け、粘りに粘った結果2位。最後こそサガンのスプリントに屈したが、誰もがサガン優勢を予想した中でも臆することなく、フェアにレースを進めたあたりは大きく評価される。

得意の逃げからチャンスを作り出したシルヴァン・ディリエ。プロトン屈指の逃げ屋が本領を発揮した Photo: Yuzuru SUNADA

 プロトン屈指の“逃げ屋”でもあるディリエ。これまでのキャリアで得た勝ち星のほとんどが逃げによるもので、今回も得意の展開から優勝まであと一歩に迫った。

 アージェードゥーゼール ラモンディアルは、石畳スペシャリストのオリバー・ナーセン(ベルギー)を中心にこの時期のレースに挑んだ。しかし、ナーセンは3月下旬のドワーズ・ドール・フラーンデレン(ベルギー)で落車し膝を負傷。不安を抱えてこの大会に臨んでいた。

 ナーセン以外の選手を生かすオプションが用意されていたのかどうかは分からないが、ディリエの逃げによって戦術に広がりは生まれたことは確か。ナーセンがサガンのアタックに反応できなかった時点で、チームとしての狙いはディリエがサガンに食らいつく、というものに変化したと見ることもできる。

記者に囲まれるシルヴァン・ディリエ。優勝を争ったペテル・サガンを「天使と悪魔」と表現した Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 スピードには定評のあるディリエだが、スプリント力では一枚も二枚も上をゆくサガンが相手となっただけに、ベロドロームまでに引き離せないとなれば厳しいマッチアップとなることは明白だった。「協調している間は“天使”だったが、マッチスプリントでは“悪魔”だった」とサガンをユニークに表現したあたりに、難しい勝負であったことをうかがわせる。

 とはいえ、4年ぶりのパリ~ルーベ出場で大きな飛躍と可能性を示したことは事実。3月のストラーデ・ビアンケ(イタリア)での落車負傷で戦線を離脱していながら、直前のレースで優勝しこの大会へのメンバー入りを決めるなど、ここ一番での強さも光っている。来年の北のクラシックでは、パヴェ巧者の1人として注目される存在になることだろう。

充足感と悔しさとが入り混じったルーベのベロドローム

レースを走り終えた直後、芝生に倒れこむエドワード・トゥーンス Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 257kmの“北の地獄”を走り終えた選手たちは、一様にトラック内側のフィールドに座り込んだ。特に、上位でフィニッシュした選手たちは、サガンが飛び出して以降の54kmを追いかけ続けたことになる。みな精根尽き果てた中で、絞り出すようにレースの感想を述べた。

 今年の北のクラシックでは最も充実した戦力を有していたクイックステップフロアーズ。これまでのレースと同様に、フィリップ・ジルベール(ベルギー)とゼネク・スティバル(チェコ)が盛んに集団を活性化させながら、最後はニキ・テルプストラ(オランダ)に勝負を託すこととなった。

パヴェを走るニキ・テルプストラ。快勝したツール・デ・フランドルの再現とはならなかった Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、テルプストラが制したフランドルの再現とはならず。先手攻撃に出たサガンを追う展開となり、次第にジルベールとスティバルが消耗。テルプストラ自身が動き出す頃には、勢いに乗ったサガンとディリエを捕まえるのは困難な情勢となってしまった。ルーベのベロドローム直前でアタックを決めて表彰台の一角を確実としたあたりは、最強チームのせめてもの意地だ。

2連覇を狙ったグレッグ・ヴァンアーヴェルマートはライバルの戦略を読み切れず4位に終わった Photo: Yuzuru SUNADA

 2連覇を狙いながら4位に終わったグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)は、この北のクラシックにおいて昨年の同時期ほどの好調さを見せることができなかった。どのレースでも再三アタックを繰り出したが、厳しいマークも関係してか抜け出すまでには至らず。ライバルのアタックに反応するも、直後に別の選手が仕掛けたカウンターアタックが決定打となる「読み違い」もたびたび見られた。実際に、レース後には「戦略を読むのは容易ではない」とコメント。悔しさを噛みしめながら、サガンらの走りに白旗を挙げた。同時に、4月15日のアムステル・ゴールド・レースへの参戦を明言。北のクラシックで失ったものを取り戻す戦いに臨むと決めた。

2014年に負った大けがからの完全復活の手応えをつかんだテイラー・フィニー Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 かたや、トップ10フィニッシュに驚きを隠さなかったのが8位のテイラー・フィニー(アメリカ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)。スーパーエースのセップ・ヴァンマルク(ベルギー)を前方へと送り出す重役を務めていたこともあり、今年の北のクラシックはここまで順位的には目立ったものがなかった。だが、パリ~ルーベでは持ち前のスピードとパワーを生かせる平坦基調のレイアウトだったこともあり、ヴァンマルクとの共闘で好位置をキープ。チームとしてはヴァンマルクを優勝に導くことができなかったが、フィニー自身はミッションを果たしながらも、自らのリザルトにもこだわった。

 開口一番、「フィニッシュラインを過ぎてから、実際に何が起こっているのか分からなかった」とフィニー。「生存と攻撃との不思議なバランス」とレースを表現したが、完走するために守りに入るのではなく、アグレッシブに走ることに執着した結果が、この大会の自己最高位につながったといえそうだ。

 2014年にレース中の事故で大けがを負って以来、復活を期して走り続けるフィニーだが、かつてはパリ~ルーベ・エスポワール(23歳未満対象)で2連覇するなど、パヴェでの走りを約束された1人。今後のキャリアへ、手ごたえ十分のレースだったようだ。

今週の爆走ライダー−ニルス・ポリッツ(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 101人が完走を果たした2018年のパリ~ルーベ。出場選手それぞれにドラマがあり、1人ひとり違った戦いがそこにはあった。

パヴェを走るニルス・ポリッツ。中切れからの追い上げで7位に入った Photo: Yuzuru SUNADA

 優勝したサガンがフィニッシュラインを通過してから約2分、フィニッシュ地ルーベのベロドロームでは、上位争いのスプリントが繰り広げられていた。トラックゆえに、フィニッシュを目指す選手たちで走路がいっぱいになる中で、わずかな隙間を見つけて加速する選手たち。そんな中、第3集団の先頭となる7位でフィニッシュを果たしたのがポリッツだった。

 トップシーンではまだ無名の部類に入る24歳は、重要局面で中切れにあい、後方からの追い上げを余儀なくされていた。歴戦のパヴェ巧者たちと集団を形成し、フィニッシュへと急いだ。ベロドロームに入ってから冴えたスプリントは、トラック経験者のなせる業。何より、どんなことがあってもベロドロームでは最善を尽くすよう首脳陣から言われていたといい、充実に実行した末に得た順位が7位だった。

 ジュニア時代からタイムトライアルを得意としてきたが、2016年のプロ入り以降はスプリントトレインの一翼を担うまでに成長。スプリンターからの信頼も厚く、今年加入した自国の先輩であるマルセル・キッテルのリードアウトも任される。自信も生まれ、今年はパリ~ニース第5ステージで逃げ切りを決めて2位。ツール・デ・フランドルでも17位と健闘。自らも勝負できる力があることを示していた。

 「パリ~ルーベのトップ10フィニッシュは夢の実現だ」と興奮したその走りは今後、より大きな責任をともなうことになる。192cmという大きな体躯で、パワーを武器に走るとあれば、まさに北のクラシック向き。来シーズン以降は、チームリーダーの座も視野に入ることだろう。

 未知なる領域へと足を踏み入れたシーズン序盤を終え、これからは“本職”である個人タイムトライアルでの上位進出や、リードアウトマンとしての仕事に充実することになる。ポテンシャル十分の走りは勝利に欠かせないピースとなるに違いない。未来ある彼のストーリーは、まだまだ序章に過ぎないのである。

2018年シーズン序盤は好走が光ったニルス・ポリッツ。北のクラシックだけでなく、タイムトライアルやスプリントトレインでの活躍も期待される Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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