パヴェに残る激闘の痕跡もう1つのパリ~ルーベ 終盤五つ星石畳でペタンク興じる応援者たち~激戦後のパヴェを歩く

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)の初優勝に沸いたパリ~ルーベ2018。そのフィニッシュから約1時間後、多くの勇敢なライダーたちが力の限り走ったパヴェ(石畳)には、時間の許す限り余韻を楽しもうとする人たちの姿があった。また、パヴェを日常に戻すべく、懸命に撤収作業に励む人たちの姿もあった。そして、最難関の5つ星パヴェには、選手がしるしたと思われるタイヤの轍が残されたままだった。年に一度の“祭り”の後のコースには、いくつもの激闘の跡があった。

レースを終えて人影のなくなった5つ星パヴェ、セクター11のモン・サン・ぺヴェル。ほんの数時間前までは熱戦が繰り広げられてた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

日常と非日常とが交差する

 選手たちのフィニッシュを見届け、まさに主役となったサガンらの表彰式もそこそこに、筆者はフィニッシュ地・ルーベのベロドロームを後にした。どこに向かうかは特に決めず、ひとまずは交通規制が解除されたレースコースをクルマで逆走することにしたのだった。

 今年のパリ~ルーベのパヴェセクションは29カ所。この大会の慣例として、大きな番号からカウントダウンしていく形で通過順を表す。つまり、第29セクターが一番最初に通過するパヴェであり、最後は第1セクター・ルーベのパヴェということになる。

ベルギーから訪れたというBMCレーシングチームの応援団。レースを終えて応援の打ち上げムード Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 第3セクター・グルソン(3つ星、1.1km)の出口付近で出会ったのは、ベルギーから駆け付けたというBMCレーシングチームの応援団。ビールと肉で、さながら応援後の打ち上げといったムード。BMCレーシングチームは、2連覇を狙ったグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)が4位に終わったが、ここのファンはそんな悔しさを酒で流してしまったといったところか。カメラを向けるとサービス満点。愛嬌たっぷりに、日本人の筆者に「コンニチハ」と挨拶してくれた。

着々と撤収作業を進める大会関係者と行き交う車両。日常と非日常が交差する空間 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 グルソンの入口付近まで車を走らせていくと、ちょうど大会関係者がコース脇のバリアやスポンサーバナーを撤去しているところだった。その横では先ほど同様に酒宴を楽しむグループの姿や、レースの興奮冷めやらないファンが大声でチャントを響かせながら通り過ぎていく。かたや、撤収作業に励む彼らはそれに目もくれずに黙々と仕事を進める。そこには、一刻も早くその場を「日常」に戻そうとする人たちの姿があった。

 ちなみに、このセクターは幹線道路と住宅街とを結ぶルートとなっていて、交通量が多い印象を受けた。このように、生活道路としての役割が大きいパヴェは、パリ~ルーベのコース上至るところにあるという。

5つ星パヴェでペタンクの試合

 グルソンとほぼ隣り合うようにして敷かれているのが、第4セクターのカルフール・ド・ラルブル(5つ星、2.1km)。いわずと知れたレース終盤の勝負どころ。今回は、逃げ切りに賭けて攻めに攻めるサガンと、必死に粘るシルヴァン・ディリエ(スイス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)の構図が浮き彫りとなった区間。レースではこのセクターを終えると、すぐにグルソンへと入った。

 一通り撤収作業を終え、落ち着きを取り戻しつつあったこの場所では、思いがけずフランスならではの光景を目にすることとなる。同国発祥の球技・ペタンクの試合が行われていたのだ。

第4セクターのカルフール・ド・ラルブルでは路肩を使ってペタンクの試合が行われていた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 コート上の目標球に金属製のボールを投げ、その距離に応じて相手との勝負が決まるというこの競技。さすがに金属のボールを石畳に向かって投げる、なんてことはせず、路肩を利用して試合が行われていた。

 ただ、ときにコントロールを失ったボールがゴロゴロとパヴェ上を転がっていってしまう。そのたびに、コートからはドッと笑いが起きる。

カルフール・ド・ラルブル脇に立つレンガ造りの建物。その名も「ラルブル」。普段はレストランとして営業する Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 とはいえ、試合に臨む人たちの表情は真剣そのもの。何か声をかけたかったのだけれど、ボールに集中する本気のまなざしに水を差すべきではないと、挨拶だけして退散することにした。

 まるで自転車のレースが行われていたことが嘘のように、違った時間が流れていた5つ星パヴェ。ペタンクの審判を務めていた男性の着ていたTシャツがエフデジ(現グルパマ・エフデジ)だったところが、数時間前までレースが行われていたことをうかがわせるわずかばかりの手立てであった。

かすかに残されていた戦いの痕跡

 サガンが早めの勝負に出たのが残り54km地点。その直後に通過したのは、第11セクターのモン・サン・ペヴェル(5つ星、3km)。

第11セクターのモン・サン・ぺヴェル。出口にはパリ〜ルーベで使われるルートであることを示すマーカーが立てられている Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 このセクターの出口には、パリ~ルーベで登場するパヴェであることを示すマーカーが立てられている。また、過去に路面に埋め込まれていたものなのか、パヴェで使われているものと同等サイズの石がいくつも置かれている。

 セクター距離が3番目に長い3kmで、全29セクションの中でもとりわけパヴェの荒れ具合が激しいことで知られるポイントだが、実際に足を運んでみて再認識させられる。鋭利な石が多いばかりでなく、経年によって磨かれた表面が滑りやすく、歩くだけでも足を取られるほど。

 日没が近くなっていたこともあり、すでに人影はなくなっていたが、戦いの痕跡を見つけたくて、向こうへと歩いてみる。しばらくして、パヴェからほんの数センチ脇のぬかるみにタイヤの跡を見つけた。

 少しでもパヴェを走る負担を減らしたかったのか、はたまた必死に前へと進む最中に脱輪してしまったのか、タイヤの跡だけでは図り知ることはできない。それでも、レース距離257km、パヴェ総距離54.5kmの“北の地獄”へ勇気と強い意志で挑んだことは想像できる。

パヴェから外れたわずかなスペースにタイヤ跡が見られる Photo: Syunsuke FUKUMITSU
タイヤ跡からレースの激しさ、選手たちの必死さが伝わってくる。またパヴェには修復された形跡があるが荒れた路面には変わりない Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 すでに車両や人々の通過によって「戦いの跡」が消えつつある中で、かすかに残されていたタイヤの跡。このぬかるみに轍を付けた選手がペダルひと踏みに力を込め、苦しみの果てに届いた場所がルーベのベロドロームであることを信じながら、筆者はモン・サン・ペヴェルを後にした。

選手たちがフィニッシュした後のルーベのベロドローム。レース前、レース中、レース後それぞれにドラマが至るところで起こっているはずだ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 この後、日没を迎えたことからコース逆走を切り上げることとなったが、きっとどのパヴェセクションにも、いや舗装路・石畳問わず、至るところでレース前やレース中とはひと味違ったドラマが起こっていたことだろう。戦いに熱くなるのはもちろんだが、少しずつ元へと戻ってゆく様を見ながら、レースに別れを告げてゆくことも趣のあることではないだろうか。

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